マリエ
モデル、タレント、ファッションデザイナー。ファッション誌『ViVi』の専属モデルを経て、テレビ番組『笑っていいとも!』など数々のバラエティ番組に出演、一躍時の人に。2011年、世界三大ファッションスクールとして名高いニューヨークのパーソンズ美術大学に留学。帰国後、〈パスカル マリエ デマレ〉を立ち上げる。
Instagram:@pascalmariedesmarais_pmd
根岸洋明
デンハム・ジャパン取締役社長。大学卒業後、ファッション企業でさまざまな業種に携わる。立ち上げメンバーとしてグラムール セールスのCOOを務めた後、2011年にデンハム ザ ジーンメーカー ジャパン代表取締役社長に就任。14年からオランダ本国のブランドディレクターとしても活躍。
Instagram:@denham_japan_by_aki_negishi
すてき、かわいいと思えるものを揃えることが大事。
お店を訪れたマリエさんは、店の見どころを根岸さんに一つひとつ案内してもらった。ガラスで仕切られた〈デンハム〉おなじみの洗い場はもちろん、根岸さんが自らクルマを飛ばして栃木の農家から譲り受けたトタンや静岡の瓦でつくった什器、ティピーが試着室になっているキッズルームなどなどを目の当たりにしてボルテージは上昇の一途。すっかりご満悦のマリエさんが対談のソファに腰を下ろしたのは入店してからゆうに30分は経っていた──。
マリエテーマパークみたいにワクワクする売り場ですね。
根岸ディスプレイのおもちゃから何から全部自分で揃えました。
マリエほんとう、楽しい。時間が経つのも忘れそう…。そして肝心のデニムがまたすごい。ここまでリアリティのある加工は久しぶりでした。どちらでつくられているんですか。
根岸生地はもちろん、縫製から加工まですべて日本ですよ。日本のデニムはいってみればデニム業界のロールスロイスですから。
根岸一本のデニムをつくるためだけにつくられた仕様書です。
マリエ(あまりの分厚さに目を瞠って)それだけ手間暇をかけているのに、思ったほど高くないんですね。
マリエうちも約20万円のロングコートがあって、約6,000円のTシャツもある。すてき、かわいいと思えるものを揃えるのが大事ですよね。
根岸(やさしく頷きつつ)マリエちゃんもデニムをつくっているんだよね。どこでつくっているの?
〈パスカル マリエ デマレ〉の2019年春夏コレクションのリバーシブルデニム。
マリエ生地はトルコで縫製は児島にお願いしています。ノンウォッシュ、ノンストレッチの第一弾に続き、ストレッチをリリースしました。ポイントは、セルビッジでおそらく初めてとなる縦に伸びるストレッチです。私、足にコンプレックスがあったんです。モデルの時代も足をみせる仕事はすべて断っていたくらい。そのころもストレッチ・デニムってあったんですけど、横に伸びるんです。あれって、隠したい太い太ももがあらわになる。意味ないじゃんって(笑)。縦に伸びるということは、すらりとみせつつ、足の運動量を確保してくれるということなんです。
マリエはい。ネタ元はかつてのニューヨークのラッパーです。彼らの間で後ろ前反対に穿くのが90年代に流行ったんです。後ろ前反対がいいんなら、裏表反対ってのもありじゃないかと閃いた(笑)。
地方でしか売らなかった理由。
根岸マリエちゃんはそもそもなんでデザイナーになろうと思ったの。
マリエ本当に好きなことを見つめ直した結果です。服は子どものころから好きだった。それとファンに恩返しがしたいって思いもありました。私の服でファンが救われたりしたらすてきだなって。
根岸〈パスカル マリエ デマレ(PASCAL MARIE DESMARAIS)〉はどんなブランドですか。
マリエモノじゃなくて、マインドのサスティナビリティを願っています。例えば…。ニットはペルーのアルパカを使っています。ペルーは政府のライフラインネットワークが弱いから、紡績工場が学校や道といった市民のためのライフラインをつくっているんです。私が取引させていただいているのは、その紡績工場。
マリエいまの時代はスマホひとつでなんでも買える。ブランドとして考えたときには味気ないというか…。そこでローンチ当初は地方でしか買えない、ってルールを決めました。例えば、何年も実家に帰っていない子が、地元の店に私の服が入荷しているのを知って久しぶりに帰るかってなったらこんなに幸せなことはない。
根岸いいね。ぼくも道の駅のようなことができないかって思案しているところだったんです。
根岸うん。地元の人が地元で採れた野菜を並べるように、京都の店なら京友禅の服を並べる。で、ゲストアーティストとして職人さんにも店に立ってもらう。
根岸さんも脱帽するビジネス・クリエイター。
根岸ローンチ当初は地方で、という話でしたが、いまは違うの?
マリエはい。東京で売っている服が欲しいって取引先さんからの声が想像以上に大きかったんです。そうか、地方の人にとってはそれも大切なことなんだって。9月には銀座三越でポップアップを開催しました。
根岸いや大したものです。そういうスタンスでモノがみられるなんて。正直言うと、どうせタレント・ビジネスの延長だろうという先入観があった。本当、ごめんなさい。マリエちゃんは立派なビジネス・クリエイターだ。
マリエタレント・ブランドって言われるのは仕方のないことだけれど、根っこがあることは分かってもらいたいんです。
マリエ先日、バスツアーをやりました。スタッフやら仲間やら乗り込んで、2ヵ月かけて青森から鹿児島まで。お店や工場を巡る旅です。どんな人間がデザインしているのか、つくっているのか、売っているのか。その交流ができたら面白いんじゃないかって。大変だったけど、結束力は高まりましたね。
マリエいま、ワードローブの服は全部売っちゃって、自分のブランドだけ着ようかなって思っています。何か、あえて自分の服を着ないのが格好いいって風潮があったけれど、着ない理由が分からない。だって、着たい服をつくっているんだから。〈オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー™〉のヴァージルとか〈マスターマインド・ジャパン〉の本間さんとか、素直に格好いいと感じられるブランドのつくり手はみんな自分の服を着ています。
マリエ決して片手間じゃない。本気でやっているのに心ないことも言われます。志は分かるけれど、こんなの売れないよって。静かに聞いていますが、心のなかではこの5分、返してよって毒づいている(笑)。ライバルを決めろとも言われました。冗談じゃありません。昔ながらのビジネスなら必要かも知れないけれど、私が目指しているのはまったく新しいことだから。
根岸ぼくもそうでしたよ。取引先からもえらい言われようだった。いまにみてろと歯ぎしりしたものです(笑)。だから、その狭間で揺れ動いているのはよく分かる。マリエちゃんね、ドームを照らすライトをつくろうなんて肩に力を入れる必要はないんだよ。ぼくらが目指すべきは、デスクスタンド。自分の周りのファンを照らすライトです。そういうのをひとつ、ふたつと増やしていけばいいんです。何ならスタッフもファンから引っ張って来ちゃえばいい。うちもそうだし。
マリエ実はもういるんです。神戸で講演会をしたときにアシスタントを探しているんだよねといったら、やりたいって手を挙げた女の子がいて。じゃ、研修するから東京においで、ホテルはとってあげるからって。で、自分で生活のベースをつくったら一緒に仕事をしようって。今月から正社員です。
マリエでも人を育てるのって大変。叱ったときは自己嫌悪しか残りません。とことん凹みます。
マリエ両親に電話します。経営者だったんで、気持ちを分かってくれる。いろいろあって距離を置いたこともあるんだけれど、それって私のエゴかも知れないって思い直して。
根岸すばらしい。いまの若い世代の方に教えて欲しいですね。
マリエこのブランドとブランドを支えてくれる人はもはや人生そのもの。経営者の私は銀行いくたびに泣いています(笑)。
根岸話を戻すとね、ブランドとしての知名度を上げるってのはお客さんのためにも必要なこと。だからマリエちゃんも店を持ったほうがいいよ。
根岸目黒川沿いにしなよ。何よりいま、いろんなブランドが店を出し始めているんです。
マリエそうなんですね。帰ったら不動産屋さんに電話しよう(笑)。(思い出したように)そういえば〈デンハム〉ってヨーロッパや日本にはお店があるけれど、アメリカには出店しないんですか。
根岸オーナーのジェイソン(=ジェイソン・デンハム)は川上から川下まで全部全力で自らやりたい人間なんです。日本に来てもずっと店にこもりっきりで、久兵衛で寿司を食べたいなんて間違っても言わない(笑)。生半可なことではやれないんでしょう。
マリエがレコメンド! この冬に着たいデンハムの服。
“エンドレスサマー” をテーマにイビザ島にインスピレーションを得たコーチジャケット。「ジャポニスムを感じさせる色柄がツボ。これはお世辞抜きに欲しい」とマリエさん。¥29,000+TAX
ブランドを代表するスリムフィット「RAZOR」。生地はイタリア・カンディアーニ社のストレッチデニム。「ここまできれいに色落ちをさせたデニムはそうはないのでは。柔らかく、伸縮性に富んだ生地もいい」とマリエさん。¥36,000+TAX
カントリージェントルマンへのオマージュを形にしたウールチェスターコート。計算し尽くされたフロントダーツや切り替えのデザインがモダン。「肉厚で重みのあるアウターが好き。この値段は驚きの一言ですね」とマリエさん。¥81,000+TAX
創立10周年を記念したブランド初のシグネチャーコレクション「ジェイソン・デンハム・コレクション」の一着。「上質なカシミヤなのにカジュアルに仕上げるさじ加減。このバランス感覚が気分です」とマリエさん。¥43,000+TAX
カイハラ製デニムに5年間着用したエイジングをプラス。ややゆったりとしたレギュラーフィット「GRADE SLIM」の復刻。「ブランドの地力を物語るダメージ加工に圧倒されます。シルエットも美しいですね」とマリエさん。¥65,000+TAX
デンハム GINZA SIX
住所:東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 5F
営業:10:30〜20:30
電話:03-6228-5815
デンハム・ジャパン