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アワー レガシーの快進撃。その中心人物が語る挑戦。

“OUR LEGACY” Founder Jockum Hallin on the DOVER STREET MARKET GINZA

アワー レガシーの快進撃。その中心人物が語る挑戦。

10月下旬、〈アワー レガシー(OUR LEGACY)〉のクリエイティブディレクター、ヨックム・ハリンが来日した。目的は「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」で日本初展開となる「ワークショップ」プロジェクトのインスタレーションを行うためだ。そんな彼に時間をもらい、アンダーグラウンドなカルチャーから育まれた独自のクリエーションを始め、ファッションのサステナビリティを実現する、今回のユニークな試みについて詳しく話を聞いた。

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ヨックム・ハリン

クリエイティブディレクター。2005年、以前から友人だったクリストファー・ニインとスウェーデン・ストックホルムにメンズブランド〈アワー レガシー〉を設立。2007年、リカルドス・クラレンをデザイナー兼共同経営者として迎える。同年、ブランド初となるフルコレクションが若者たちの心をつかみ、翌年、ストックホルムにショップをオープン。男性の定番的な服をベースに独自のファブリックと技術を使ってつくられる、他にありそうでないモダンなアイテムが支持を集めている。Instagram:jockum_ourlegacy

アンダーグラウンドなカルチャーシーンで鍛えられたメンタリティ。

〈アワーレガシー〉のデザインは、あくまでさり気ない。まるで、大げさに吠え立てるような主張はクールじゃないとでもいうように、どこか控えめで繊細、そして品良く軽やかに、普段のワードローブにいつの間にか溶け込んでいるような佇まいだ。けれど、その誰にでも好かれるようなデザインの裏側に目を凝らすと、細やかなデザインやスマートな素材使い、そして知的なコンセプトが徐々に姿を現してくる。何というか、エリック・グンナール・アスプルンドやフィン・ユール、あるいはアルヴァ・アアルトのような北欧の巨匠デザイナーたちの作品にも通じるような、普遍性と実用性とオーセンティシティを遊び心で味付けしたようなデザイン、とでも言っておこうか。

2005年にスウェーデンのストックホルムに設立された〈アワー レガシー〉の3人のクリエーターたち──クリストファー・ニイン、ヨックム・ハリン、そして後に加わったリカルドス・クラレン──は、誰も、いわゆるファッションデザイナーとしての教育も訓練も受けたことがない。そしてそれこそが、もしかすると独特のデザインのあり方に影響しているのかもしれない。3人の唯一の共通点は、音楽やグラフィックデザイン、あるいはスケートボードといった、ストリートカルチャーの洗礼を受けて育ったということだけ。

「ぼくらは皆、アンダーグラウンドなカルチャーシーンでDIY的なメンタリティを鍛えられた。どうすれば自分たちがやりたいことを実現できて、ものごとが成立するのかということを、若い頃から体験を通して学んできた。そういったシーンでは、何を着るかというよりも、どう着こなすかがもっとも重要で、それによって、自分が何者であるのかを表現することが求められているんだ」

「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」でのイベントのために来日していた、ブランドのスポークスマンを務めるヨックムは、シャイな口調でそう語る。「1980年生まれの元ミュージシャン」である彼の周囲には、何事にも流されない凛とした空気と謙虚さがそこはかとなく漂っている。あなたたちのロールモデルは? と聞くと、しばらく口を閉ざしたあと、こちらの意図を見透かしたようなサービス精神とともに、こう答えてくれた。

「多くのデザイナーは、多分、あんなブランドになりたいという目標があるのだと思うけれど、ぼくらはそんなふうに考えたことがないんだ。これが自分たちにとっての最善だと思えばやる、その繰り返し。だけど強いていうなら、同じストックホルム発の先輩という意味で、〈アクネ ストゥディオズ〉には少なからず影響を受けているよ。彼らも、いわゆるファッションブランドとしてではなくクリエーティブエージェンシーから始まったブランドだし、ファッション業界の慣例に翻弄されることなく、常に新しい挑戦をしているから」

デニムからスタートした〈アクネ ストゥディオズ〉に対し、〈アワー レガシー〉はグラフィックTシャツからスタートした。そして、ブランド設立からたった2年でフルコレクションを発表するファッションブランドへと成長を遂げ、2008年には、ストックホルムに最初の旗艦店をオープンするに至った。この躍進劇について、ヨックムはやはりとても控えめな口調でこう説明する。

「旗艦店というと大げさに聞こえるけど、それが当時のぼくたちにとって、最もプラグマティック=現実的な決断だったんだ。新しいことを実験する場所が欲しかったし、ランウェイで発表しないぼくたちにとって、〈アワー レガシー〉のユニバースを表現する装置が必要だと思ったんだ。ショップというよりは、調理実習室みたいな存在として始まったんだ」

しかし、彼らの快進撃は続く。2012年にはストックホルムにもう一つの旗艦店を、さらにスウェーデンの県庁所在地であるヨーテボリにショップをオープン。そして2014年には、初の国外旗艦店となるロンドン店、さらに今年10月にベルリン店が完成した。設立から10年も経たないうちに5店舗をオープンと聞くと、さぞかし大きな資本がバックについているに違いない、と思わずにいられないが、彼らは自己資金だけでここまで来たというから驚きだ。

「ぼくたちは、実はすごく保守的なんだ。一つひとつのステップは、細心の注意を払いながら3人で決めているんだ。例えば、今シーズンはすごく成績が良かったから、来年は新しい実験をしてみようか、というふうに。すべて自己資金でやっているから、慎重に歩を進めないと」

10月下旬、「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」で行われた〈アワー レガシー〉のインスタレーションの模様。日本初展開となる「ワークショップ」プロジェクトを紹介するもので、同ブランドのイラストレーターでグラフィックデザイナーのハンク・グルーナーがその場でイラストを描き、ベストをカスタマイズしていた。その模様をSNSでライブ配信するヨックムの姿がキュート。

ファッションのサステナビリティを実験する新しい試み。

トレンチコートやボタンダウンシャツといった、誰が着ようとクールに見える定番、つまり、次の世代に受け継いでいけるものを「自分たちなりにアップデートしよう」という思想から、〈アワー レガシー〉という名がつけられたことを考えると、納得がいく。80年代というバブルの時代に生を受け、それが弾け散り、価値観の見直しを迫られた90年代に青春時代を過ごした彼らにとって、それが一番自然だからだ。

「だけど、ノスタルジーには浸りたくない。あくまで更新されたプログレッシブな思想を纏うというのが、今日的だと思うから」

確かに、彼らは保守的かつ進歩的だ。それが如実に表れているのが、循環型社会の実現に向けて突き進む北欧のブランドらしいコンセプトを掲げた「ワークショップ」プロジェクト。〈アワー レガシー〉のアーカイブにハンドペイントやパッチワークを施すなどして新しく生まれ変わらせた「クラフト」、割引価格で販売される過去のコレクション「デッドストック」、展示会や撮影のためにつくられた「サンプル」、「デッドストック」にさらに手を加えた「リサイクル」、余った生地をパズルのように組み合わせてつくられた「アップサイクル」、そして「アップサイクル」と同じコンセプトでつくられた子ども服の「キッズ」、〈アワー レガシー〉や顧客の古着を再販する「レガシー」、最後に、コレクションの着想源となったヴィンテージウェアなどからなる「リファレンス」という9つのテーマからなる、ファッションのサステナビリティを実験する新しい試みだ。

「自分たちが理想とするデザインと地球環境に良いものづくりを常に両立していたいけれど、それが叶わない時もある。デザインに合うサステナブルな生地が見つからないとか、ものづくりの過程で、どうしても無駄が出てしまうとか、売れ残ってしまう商品とか。でも、こうした状況を “クリエイティビティの犠牲” として見て見ぬ振りはしたくないという思いから、『ワークショップ』のコンセプトは生まれたんだ。“サステナビリティ” と “ファッション” という言葉は矛盾し合うように見えるけれど、ぼくらはその両立が可能だと信じている。サステナブル、かつ、クールでインスピレーショナルなものを提供することが、ぼくらの目指す場所なんだ」

一週間で廃れてしまうようなトレンドではなく、過去から現在、そして未来へと受け継がれる “レガシー” に向き合うこと。独立したブランドだからこそ、大きなメゾンが実験できないようなアイデアで、人々を刺激することができる──彼らはそう考えている。

膝上丈のシックなレザーコート。一見ヘビーに見えるが、シンプルなデザインだから幅広い格好に合わせやすい。¥110,000+TAX

ディアスキンのジャケットにハンク・グルーナーが描いた遊び心溢れるイラストが印象的。アーカイブのものを大胆にリメイクしている。¥111,000+TAX

アーカイブだったスウェットパーカにユーズド風の加工を施した一品。胸元には「ワークショップ」のロゴをプリントしている。¥15,000+TAX

古着のような風合いに仕上がったニット。絶妙なニュアスの色味が何ともいえない。¥20,000+TAX〜¥26,000+TAX

〈コンバース〉の「オールスター」をリメイクした一足。ブランドのキーカラーであるオレンジに染めて、靴のサイドに「ワークショップ」のマークを施している。¥14,000+TAX

「ワークショップ」の文字がプリントされたレコードシート。ブランドのアイコンカラーが印象的だ。¥3,000+TAX

エドストローム オフィス

電話:03-6427-5901
www.ourlegacy.se

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