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PORTRAIT IN NEW YORK 番外編 VOL3. KID FRESINO ラッパー

ニューヨークに住まう若者の肖像

PORTRAIT IN NEW YORK 番外編 VOL3. KID FRESINO ラッパー

EU離脱に揺れる2016年の英国。その時々の情勢によって多少の違いはあれど、いつの時代にも首都ロンドンにはあらゆる人種が集まり、様々な文化がうごめいています。これより激動の時代に入るだろう英国において、いまロンドンにはどんな人々が住まい、何を思い、どんなことをしているのか? 今回は番外編として、ロンドンを飛び出してニューヨーク編をお届けする。

  • Photo & Interview & Text_Yuichiro Noda
  • Edit_Ryo Komuta
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—自己紹介をお願いします。

佐々木:佐々木(KID FRESINO)です。93年生まれの22歳、射手座です。出身は埼玉県所沢市です。2年前にNYに来ました。ラッパーです。

—NYに来た理由はなんですか?

佐々木:半使命的な感じです(笑)。日本にいても、あまり面白いことが起きそうな雰囲気がなかったので来てみました。こっちに来てラップをするつもりはなかったんです、最初は。パッキリ辞めて、ミキシングの勉強でもして、1、2年もしたらヒップホップも聞いてないんじゃないかくらいの。こっちのいわゆるポップミュージックと呼ばれるものが作られるスタジオに入ってやってみたいなって思ってました。

—日本はつまらなかったですか?

佐々木:つまらなくなりそうな感じがしました。終わりに向かってる感じがしたというか。湖に入っていってる感じがずっとあったんです。湖の真ん中に向かってどんどん入っていって、今、膝下くらいまできてるなっていうのを毎日感じてて。このまま行ったら溺れてしまうなって。じゃあ出ようかなっていう感じですね。もともと高校生のときからL Aに行こうと思ってたんです。進学校ではあったんで、大学にみんな行く感じだったんですけど。勉強ができてたら、また違ったかもしれないんですけど、成績も良くなかったので大学ははなから頭になくって。じゃあ、外国に行ってみたいかもなって漠然と思ってました。それがLAだったんですけど。

—その後、NYを選んだ理由はなぜですか?

佐々木:なんか他の場所から見た東京って、六本木あたりを空撮したイメージをみんな持ってると思うんですよね。俺のNYのイメージもそういう感じだったというか。つまりきらびやかなイメージだったんですけど、こんな殺伐としてるとは思わなかったです(笑)。やっぱり上から見ちゃダメですね。俺が見ていたNYも、エンパイア・ステート・ビルディングを抜けて、セントラルパークに行く空撮みたいなイメージだったんです。それが東京でいう六本木、東京タワーあたりをヘリコプターから撮る感じというか。みんなが持ってる東京のイメージってそれだと思うんですよ。俺もそういう感じだったすね。やっぱり地について見ると、全然違いますね。それこそハーレムとかに住んでると、特に。

—実際に来て住んでみて、結構イメージと違いましたか?

佐々木:別に大したイメージはしてなかったんですけど、日本で『LEON』を観たんですよ。まだ小さい頃で、あれがNYって知らなくて観ていて。こっち来て住み始めて、もう一回観て、これがNYだなって思ったっす。ああいう事件とかは別として、DELI、LITTLE ITALYとか、多種多様な人間が住んでるアパートメントとか。シェアとか。これじゃん!みたいな。でも、そういうところに住んでる奴らが、結構大きい事情を抱えてる、みたいな。そういう感じでした。

—2年経って、今はどんな風に見えますか?

佐々木:余裕がある黒人とかと話すタイミングがあると、すごい楽しいですね。そういうタイミングが一番こっちに来てよかったと思います。店員さん然り。基本的には余裕がない奴らが多いと思うんですけど、まぁ、半分半分くらいで楽しくやってるやつらがいて。ハチミツのハニーをくれって言ったら、「ハニーはここにいるじゃない!」みたいなことを言ってくるような人と会うタイミングが、一番テンションは上がります(笑)。「ハニーをto goでしょ?」みたいな(笑)。そういう感じが、絶対に日本ではありえないから、嬉しかったりしますね。

基本的にずっと家にいることが多くて、コミュニケーション取ることが少ないから、そういうハプニング的なことが面白いです。道を歩いてても、黒人のおじさんなんて、街の女の子を小さいときから見ていて知ってたりするので、すれ違うときに「今日も美しいね!」「おじさんありがとう!」みたいなやりとりがあって。そんな場面を見ると、「いいっすねー」とか思います(笑)。それが一番わくわくするタイミングではあります。それがいる理由にもなってます、そういう場面に遭遇することが。もっと街がいけてる印象だったんですけどね。でも、それで言うとロンドンは街は最強だったっすね。あれは歩いてるだけでも、すごく面白いと思う、俺は。建物がカーブに沿って作られたりしてて、ああいうのとか、ディズニーランドとか、こういう感じかなって。行ったことないんですけど(笑)。マンハッタンは全部四角だし。あんまり興味惹かれる建物とかもないですからね。ブルックリンとかクイーンズとかは、ほとんど行かないので、そっちの話はわからないですけど。

—普段は何をしてますか?

佐々木:制作ですね。楽曲制作か、漫画読んでるか、本読んでるか、という感じです。平日はずっと語学学校です。ちゃんと行けてるかどうかわかんないですけど、元々生活がめちゃくちゃなんで、せっかく一人暮らししてるんで自分を律するタイミングではあるのかなって。日本にいたときは、毎日15時間とか寝てました。だから、昼前に起きて学校行ってっていうのは、いいんじゃないかなと思ってます。あとは、たまにライブに行ってます。誘ってくれる人もいるし。レコードは買わないんで、レコ屋には行かないですね。

—NYに来て、自分自身で変わったと思うところはありますか?

佐々木:特に変わってないです。人に会ってないから、あんまり感じることはできないですね。ただ、本を読むことが本当に増えて、変化としては、日本語の方にむしろ興味が湧きました。英語もろくにしゃべれないのに漢字の勉強してるみたいな(笑)。どんどん日本語が抜けていっちゃうというのもあるし、書けてた漢字が書けなくなったりするので。あと、本を読んでても、わかんない言葉は前は飛ばしてたんですけど、でも、英語勉強してるときにわかんない単語を飛ばすことはしないじゃないですか。なのに日本にいたときは、日本語を全部飛ばしてたなって思って。だからそういうことに気づけたのはすごい大きいです。日本語をおろそかにしていたことに気づいたっすね、英語を勉強して。漢字を見たらどういうニュアンスなのかとかはわかるけど、でもそういうのをちゃんと勉強してノートに書いて、書けるようにしといて。まぁ意味ないかもしれないですけどね。

— NYの好きなところはどこですか?

佐々木:花粉症がないところ。あと、全然具合が悪くならないんですよね。日本にいるときずっと具合が悪くて、四六時中。アトピー持ってるんですけど、そういうのもすごい出て。でも、NYにいる間は全くないんですよ。本当に具合がよくて。とにかく調子がいいんですよ、ずっと。日本にいるときは外に出ないといけないタイミングが多くてそういうのがないからかもしれないですけど、それがいいですね。日本帰るとずっとですね。風邪、胃腸炎、熱、アトピー、花粉症、アレルギーが1ヶ月、ツアー中もずっとつきまとってるみたいな感じで。それが辛くて。でも、NYに帰ってくるとすぐ治っちゃって。何でですかねー、空気じゃないですかね。単純に関東じゃなくて、青森あたりにいけばいいんでしょうけど(笑)。体が弱いので、東京は具合悪くなっちゃいますね。でも、いるなら東京じゃないかなとは思ってます、日本なら。東京以外あんまり意味ないとか言うと怒られちゃうけど、全然興味ないです。

—NYの嫌いなところはどこですか?

佐々木:臭い。それです。

—日本の好きなところはどこですか?

佐々木:仲良い友達が数人いることくらいですかね。街の話はないです、何も。俺は日本のことを知らなすぎるから、こんなことを言ってるのかもしれないですけどね。

—東京の嫌いなところはどこですか?

佐々木:若者がダサいところ。望みない。俺ぐらいの年齢から下は、全部望みないです。

ーなぜそう思いますか?

佐々木:なんでしょうね、何がいけないんですかね。これじゃダメだって見てて思います、ただただ。別に全員見たわけじゃないですけど、若者ダメっしょって思います。同世代でかっこいい奴を、俺は見たことがないです。多分、今の奇妙な流れを作ったおっさん達のせいだとは思いますけど、その方々以上の影響力が俺らにないのがいけないんでしょうね、残念ですが。雑誌からテレビから、全部若者がやればいいのになーと思いますけどね。おっさんは農業とかやればいいんじゃないですかね(笑)。これは言い過ぎですね(笑)。つまり俺が言いたいのは、切磋琢磨したいということです。

—一緒にやる仲間が日本にもいますが、そこは違いますか?

佐々木:とりあえず、俺らよりかっこよくなるのは不可能だと思います。今は100%不可能だと思いますね。あと、何十年か経てば変わるのかもしれないけど、今のヒップホップの流れを考えたら、無理だろうなって思います。プライドは別にないですけど。実際、大した音楽の才能じゃないので。単純にレコーディングのスキルとかにしても、大した才能じゃないです。でも、ヒップホップはそこがあんまり関係ないところだから。そういう点において抜くことは不可能だろうなって。俺が書いた歌詞を、俺より上手く歌えるやつは、いくらでもいるだろうけど、そういう音楽じゃないので。そういう意味で超えることはできないだろうと思います。

—音楽を制作することは、自分自身にとってどんなことですか?

佐々木:自然なことですね。やることにワクワクはするので。全然、もうダメだとは思わないです。もうダメかもとか、これ以上はダメかもとは全然思わないです。ラッパー問わず、音楽やってる人は、それとの戦いだと思うんです。もうダメかも、これ以上はちょっとむずいのかもっていうのは、全然考えてないです。単純に自分の中の限界は更新し続けられるんじゃないかと思ってるので、本当に老いるまではやれそうな気はします。

—制作の原動力は何ですか?

佐々木:暇だからですよ。時間あったらやるでしょ? 俺がサラリーマンだったらやってないですよ。時間を縫ってまでやろうとは思わないです。単純に余裕があるんでしょうね、精神に。その余裕を使って、音楽とかやってます。怒ることとかも全くないし、単純に余裕があるんですよ。仕事してないし、寝まくってるし。笑いながら、めっちゃ最低って言いながらラップ書いてるし(笑)。そういうところがラップは面白いところでもあります。

—制作のスピードが早いなと思うんですが?

佐々木:早く見えてるだけでしょうね。俺が早いんだったら、みんな遅すぎです。ラッパーだったら納得してくれると思います。だってラップって簡単ですもん。

—ダサい若者と自分の違いはなんだと思いますか?

佐々木:実現性が高いことですね、言ったことの。俺はほぼ100%やってると思います、言ったことは。単純にマインドが切り替わって、やるべきじゃないって思ったら、言ったことでもやらないですけど。9割7分は、言ったことはやってますね。それも速攻で。それはもう他とは全然違うと思います。

—日本に戻ることは考えてますか?

佐々木:別にいつのタイミングで帰ってもいいと思ってます。NYでミキシングの勉強をしたいけど、インターンとかとれなくて、スタジオに箸にも棒にもかからないという感じだったら、サクッと帰ります。それはもしかしたら、東京じゃなくって別の場所かもしれないですけど。場所はどこでもいいくらいの勢いです。またロンドンは行きたいですね。住みたいかはわからないですけど。

—東京戻ったら、どう思うんでしょうね。

佐々木:単純に何にも興味ないです。何一つ興味ないです、東京にあるもの。戻ってみてやだなって思ったらすぐ出て行きますよ。

—俺が変えてやるぜ!みたいなことは思いますか?

佐々木:全然思わないです(笑)。なるようになるんだろうけど。まぁ、無責任ですよね。俺一人でどうにもなることじゃないし。そんな器ではないし。適当やっててくれよって。

—まだしばらくはNYにいる予定ですよね?

佐々木:予定では。わかんないすけど。もうミキシングの学校が始まるので、それにしっかり行けるのかどうかって感じですね。いま色々手続き中で、ちゃんと通れば、ここに来た目的が始まるっていう感じですね、2年経ってやっと。学校は1年で、卒業と同時にインターンというのが理想です。全然、それが叶うのが見えないですけどね(笑)。もし学校に入れなかったら、来月とかには日本に帰る可能性もあります。調べてたけど、他に行きたい学校もないので。

—ミキシングをやるということは、将来はラッパーではなくなるというのを考えてるということですか?

佐々木:そりゃそうですよ。おじさんになってもずっとやる、生涯ラッパーっていう人は、周りにいるんで、そういう人にお任せして。そういう人をサポートできるんならしたいですし。ミキサーとして、ミキシングやマスタリングで。あと、とにかくハチャメチャに音がいい音を自分で作ってみたいです。ハチャメチャ音いいな、っていうのを聴きたい(笑)。やっぱ、音が悪いって悪なんですよね。だから、音がいいものを聴きたい。それを自ら編み出してみたいです。

—留学したいと思ってる子へ何かあれば。

佐々木:みんなよくわからないんでしょうね。こっちに来てバイトとかできるのか?とかも、よくわかってないでしょうし。実際は、来た次の日からバイトなんてできるし、生活することは実に簡単だと思います。バイトで暮らすの簡単だから。本当に来たいと思ったら、文無しでも来れるようなところですよね。俺も来るまで知らなかったですけど。親の補助とかがないと、どうにもならないところなのかなって思ってたけど、全然そんなことなかったから。働き口はいくらでもあるから、全然無理な話じゃないっていうか、何も考えずに来ることもできる。ビザのこともシカトして。そんな人も周りにいくらでもいるし、ノリで来ちゃってもいいと思いますね。 本当に恐れるほどのことでも何でもないですね。そういう人たちの話を聞いて、へー凄いなって思うほどのことでもないですね。実に簡単なこと。ぶっちぎっちゃって、アメリカに10年いて、いれなくなったら、ロンドン行けばいいじゃないですか(笑)。それだけの話だと思います。NYとかL Aは、日本人が生活するのは、めちゃめちゃ簡単だと思います。まぁ、バイトしに来るわけじゃないだろうし、そこで何するかによるんだろうけども。沖縄に行くのとあんまり変わらないと思います。

—未来に希望はありますか?

佐々木:ありますよ。結婚とか含め、楽しくやれそうな予感はします。東京には別に絶望もないけど、期待は何もないです。ゼロ。あっという間に老けるだろうし、今できることはラップです。別に流行ってもないけど、いつの間にか誰にも相手にされなくなるんだろうし、それはそれかなという感じです。きっとその頃には、それだけの俺じゃないし。多分、守るべきものもあるだろうし、何でもやりますよ。

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