音楽だけ、誰が決めたのか分からない基準の値段がある。 そこに違和感を感じた。
今回のアルバムの値段設定は、どういう切っ掛けで考え始めたことなんですか?
ANARCHY 前から考えていたことではあるんですが、一番の切っ掛けは、2015年にビルボードライブで行われたローリン・ヒルの来日ライブですね。チケットが4万円だったんです。正直、行くまでは高いなーと思ってたんですよ。でも、ライブを見終わったら、全然高くないと思えたんです。それって、そういうことやなって思えて。俺も自分で自分のやることに値段をつけてみたいなって。iTunes Storeだと、どんな曲でも全て250円出せば買えるし、2,500円出したらアルバムが買える。1曲につけられる価格とかアルバムの価格が決められているんですよ。原価は500円の価値しかないCDでも、2500円で売ってる訳じゃないですか。でも、それは俺の捉え方だし、他の人からしたら、それが13,000円の価値があるかもしれない。俺らが作る作品は、トラックを作る人がいたり、ジャケットをデザインする人がいたりする訳で。そこに一回価値をつけてみたいって思ってたんですよね。だから値段なんていくらでも良くて。ただ、4,000円とか5,000円じゃ面白くないなと思って。ホンマは13万円にしたかったんです(笑)。最終的に、今回のアルバムは“13”をテーマに、自分含めて13人のラッパーとセッションした作品だったんで13,000円にしました。でも、流石にレコード会社がOKしてくれないって思って(笑)。これでもゴリゴリ交渉してもらって、通してもらいました。その代わり配信やサブスクは通常通りにやるっていう条件でした。
確かに、音楽作品の一般的なアルバムの価格としては異例中の異例ですね。
ANARCHY 画家やったら、その人が1億って言ったら、その作品は1億円じゃないですか。音楽だけ、誰が決めたのか分からない基準の値段があるじゃないですか。そこに凄い違和感があって。CDが売れない時代ってよく言うじゃないですか。色々不思議やなって思って。ラッパーたちはそれなりに皆身を削って、自分らの人生をかけてやっている訳で。そういうラッパーたちの価値を少しでも上げれたらなって思いました。皆が身を削って作っているんで、それは若い子であっても、俺より先輩であっても、安くないと思うんです。
好きなことを好きな皆と好きなように遊べたアルバム。
今作には12人のラッパーがフィーチャーされている訳ですが、曲ごとに相手とセッションしているように感じます。
ANARCHY そうなんですよ。今回は色んな人と一緒に、俺だけじゃ出来ないものを作れるなって思う人とやったし、向こうのフィールドでも俺はやりたかった。いつも、負けたくない! と思ってフィーチャリングしてたけど、その気持ちはこのアルバムにはなくて。全然俺より相手が格好良いバースを歌っている曲もあると思う。今までだったら、俺の方がヤバいバース! っていうのにこだわってたけど、相手の方がかっこよくてもいいんですよ。Jin Doggの曲とかそうですね。真ん中のバースでJin Doggが歌うんですけど、そこ滅茶格好いいんですよ。それが活きるように作ってるし。そういう風に、一曲として成立させたいなっていう気持ちの方がデカかったですね。
そういう気持ちでアルバムを作ろうと思った切っ掛けって何だったんですか?
ANARCHY 俺、普段はフィーチャリングしないタイプなんですよ。ひとつのアルバムに、2、3人フィーチャリングが入るみたいなのがあまり好きじゃないんです。なんかバラバラになる気がして。コンセプトアルバムみたいなのが昔から好きなんです。だけど、今回はセッションして楽しんで、自分に出来ることを、その人らの持ってる力を借りて作りたかったんですよね。
コンセプトアルバムにせず、セッションしながら作ったアルバムであっても、アナーキーというラッパーの色をきちんと表現出来るという、アナーキーさんの自信も感じました。
ANARCHY そうなんですかね。それしか出来ひんていう感覚の方がデカくて。皆に力を借りたんですよね。フィーチャリングするっていうときはいつもそういう気持ちなんです。面白い奴が出て来た! って思ったら、そのやり方教えて、みたいな気持ちでやる。今回もウィリー・ウォンカ、ヤング・ココ、レオンみたいな若い子ともやってるけど、そのフロウでちょっと歌ってみて良い? みたいな気持ち。まだ成長もしたいし、いろんなラップしたいし楽しみたいっていう気持ちが昔より強かった。好きなことを好きな皆と好きなように遊べたアルバムが作れましたね。でも、それはこのアルバムがそうだっただけで、次は1stアルバムを超えるものを作りたい。1stアルバムって、自分にとっての25年間の経験が全部詰まってたんですよ。そこから2年周期でずっと作品を出して来たけど、この次のアルバムでは、これまでの30何年分のものを詰め込みたい。俺は言葉師なんで。ミュージシャンていう感覚って自分のなかでそんなになくて。ちゃんと届けられる言葉を作れたらなって思います。
買ってくれた人にとって大事なものになって欲しい。
アナーキーさんの考える、キングの条件てなんですか?
ANARCHY 俺の意識的には、ラッパーそれぞれ皆自分がキングだと思えって思ってるんですよね。俺が一番やろって全員思ってるだろうし。俺が王様やって言ったら、他の奴が、いや、俺が王様や! って言うシーンの方が面白くない? 俺は、声を大にして、俺が王様やって言うけど、それを聞いて、いやいや俺が王様でしょって思う奴がいっぱいてほしいんですよ。
ヒップホップはそういう側面のあるカルチャーですしね。
最後の曲「Lucky 13」からは、世の中で当たり前とされていることに疑問を持てというようなメッセージを感じました。ファッションの世界でも〈ルイ・ヴィトン〉のヴァージル・アブローや〈ディオール〉のキム・ジョーンズのように、今までのメゾンで当たり前とされていたことが覆されたり。ファッションがストリート的な要素やヒップホップを必要とするシーンが増えています。そのような点について思うところはありますか?
ANARCHY ファッションに関しては、ただの流行りって思ってます。目の前の流行りって常にあるものじゃないですか。それを無視するのも、受け入れるのも全部自分やし、ちゃんとスタイルがあれば目の前のものを自分のものに出来る。全部取り入れるようなダサいやつにはなりたくない。いつもちゃんと選択してたいですね。いいもんは取り入れたい。もちろん服も好きやし。でも、ファッションに関しては流行りっていう部分も大きいじゃないですか。ヒップホップとリンクしてるのも今じゃないですか。でも、ヒップホップはファッションとリンクしなくても終わらない。ヒップホップは常に最先端のものやと俺は思ってます。今はリンクし過ぎてる部分があるのかなと思いますね。
確かに、元々ヒップホップとファッションはリンクしてますけど、ここ最近はかなり大々的に、猫も杓子も状態ですよね。
ANARCHY 俺が1stアルバムを出した頃は、日本ではヒップホップが停滞していた時期だったから。なかなか大きいディールが取れるような時代でもなかった。今はどんどん良くなって来ていますよね。
過去のインタビューでも、自分の昔の曲を聴くことは全然無いとおっしゃっていましたが、それは今も変わりませんか?
ANARCHY 実は、最近聴くようになったんですよ。1stとか2ndとか。あーいいこと言ってるわー、そりゃ売れるわーって(笑)。当時は粗いとこばっかり耳についたけど、そのときにしか言えないことを言ってるし、今になって響く曲、好きになる曲もあったんですよね。それって結構自分にとっても嬉しいことなんですよ。今回の『The KING』は普通よりも盤は高いけど、買った人が喜んでくれたら嬉しいんですね。自分にとって高価なものを買ったときって、洋服でもなんでも大事にするじゃないですか。このアルバムが、買ってくれた人にとってそういうものになってくれたらいいなと思ってます。