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アンダーグラウンドには根を、オーバーグラウンドには花を。QUCONが目指すもの。

アンダーグラウンドには根を、オーバーグラウンドには花を。QUCONが目指すもの。

開発著しい虎ノ門というビジネス街に、突如として現れた特異なスペース。金網で覆われたスケートパークに、中を覗くとバーカウンター、その奥にはウィールのスライド痕が残る大きなモニターが見える。東京を代表するスケーターたちがSNSで一斉に情報を発信したことで明らかになったこの施設は「QUCON」と呼ばれる、スケーターのニューエラを象徴するプロジェクトだ。「Evisen Skateboards」の南勝巳、上野伸平といった今の東京の顔とされる面々が虎ノ門というカルチャー不毛の地に植えるものとは一体。

  • Photo_Taro Hirano
  • Text_Ryosuke Numano
  • Edit_Jun Nakada
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二人の出会いと、ビジョン。

 スケートボードの特集において、序文に東京オリンピックの八文字を添えるのはそろそろ書き手側も読み手側も飽きてきた頃だと思うが、いよいよ開催が来年に迫り、オリンピックが今のスケートボードシーンにスポットライトを当てる役割はますます大きくなる。スノーボード銀メダリストのスケートボード進出を大手企業がサポートしたり、夕方のワイドショーではプロアマ問わず多くのスケーターが登場するようになった。端的に見てもシーンは確実に盛り上がっている。ストリート派:パーク派、オリンピック賛成派:反対派といった論争も、スケートボードに興味がある者なら目にしてきたトピックだろう。

 そんな中で、虎ノ門ヒルズから徒歩1〜2分の距離に「キューコン(QUCON)」と呼ばれるスケートパークとラウンジスペースを有する施設がオープンした。手掛けたのは同じく「キューコン」の名を冠すメンバーで、「Evisen Skateboards」の代表である南勝巳(写真右)、「TIGHTBOOTH PRODUCTION」を主宰する上野伸平(写真右中)、スケートメディアを運営する岡田英明(写真左中)、ブランド「NAOKI-R」の横川直樹(写真左)といった面々だ。アンダーグラウンドに属してきたスケーターたちが虎ノ門という都内屈指のビジネス街にスケートカルチャーをベースにしたスポットを作ったという話題は、シーンにまた一石も二石も投じるような出来事だ。

Evisen Skateboards代表・南勝巳

TIGHTBOOTH PRODUCTION主宰・上野伸平

 本プロジェクトのキーパーソンである南と上野は、スケーターであると同時に、他のスケーターたちを撮影し映像作品に残すフィルマーとしても有名だ。南は『Night Prowler』、上野は『LENZ』と呼ばれる作品をどちらも2009年に発表し、これを機に二人は親交を深めるようになる。

上野当時かっちゃん(南)が俺を撮りたいって言ってくれて、じゃあ撮影しに行こうって神戸のメリケンパークっていうスポットで初めてセッションしたのが最初だったと思う。だけど昔から仲良かったようなフィーリングがあった。かっちゃんはスケボーするだけじゃなくて、スケートビデオを製作するっていう自分と同じことをやってきたからお互い一連の流れを知っているというか、通ってきた道が一緒だった。

2006年だったね。あの日に『Night Prowler』と『LENZ』の映像を交互に撮り合ったんだよね。

勝巳くんが東京出身で、伸平くんは大阪出身で、東側と西側でお互いに変な意識はなかったんですか?

上野俺はなかった気がする。

いやいやいや、大阪バイブスの負けへんでみたいなのはあったと思うよ。若い頃だったし(笑)

上野俺の記憶から削除されてるわ、それ(笑)。マルくん(丸山晋太郎/Evisenのオリジナルメンバー)にはスケーターとして負けたくないっていうのはあったけど、かっちゃんにはそこまでなかった気がする。かっちゃんはどっちかっていうと製作側のイメージが強かったから張り合うのとはちょっと違う。

マルも伸平も同じものを持ってるんだよね。二人ともバカで面白くて、スケボーにすごい真面目。バイブスだけじゃなくスケボー愛が本当に近いものがあった。こいつらと一緒に何かできたら最高だなって思って『Evisen』を一緒にやろうって声をかけたんだよね。

上野かっちゃんは前からデッキカンパニーをやりたいって言ってて、俺もやれよやれよって感じだったんだけど、本当に始めるとは思わなかった。みんな自分でスケートブランドをやりたいっていうのは持ってるけどなかなかできない。そのまま話が消えていくことの方が大半で。だけどかっちゃんはマジでやるからマルと伸平でいきたいんだよねって言ってくれた。俺もそれに応えたかったからこれまで付いていたデッキスポンサーを辞めて、一緒に『Evisen』をやることに決めた。もともと日本から日本人のスケーティングを発信して世界のやつらをあっと言わせてやりたかったから、俺らだったらそれが出来ると思ったんだよね。

それで2011年に『Evisen』は本格的に動き出して、一緒にツアーに回って映像を撮るようになった。伸平が『LENZ Ⅱ』を作り出してたから、その撮影も並行してやって、みんなで『LENZ Ⅱ』にも注力したよね。

上野の言葉の通り、2013年に発表された『LENZ Ⅱ』、2017年に発表された『EVISEN VIDEO』は日本から発信されたマスターピースのひとつとして世界中から認められている。彼らの武器は海外のスケーターたちが見せる階段15段からのビッグトリック、テクニカルなトリックの応酬といったスケートボードのメインストリームとされるところではない。各々が自身のスタイルというものをひたすらに追求し続けてようやく見出したシグネチャートリック、クリエイティブなスポットシークとアイデア、一連のフッテージから顔を出すオンリーワンの哲学にある。

日本でのスケートボードに対する理解。そしてそれを深めていくためのやり方。

黙々と撮影をこなし、作品としてアウトプットすることでスケーターとしての地位を確立してきた彼らだからこそ、「キューコン」オープンの話は衝撃的だった。虎ノ門と新橋に挟まれ、スーツを着たおじさんたちが往来するエリアにスケートスポットを作るというのは誰が予想できただろうか。さらには、オープニングを飾るファーストプロジェクトとして藤原ヒロシ氏の「FRAGMENT DESIGN」とのコラボも関心を呼んだ。これまでのスケーターだったらそこにたどり着くことはまずないアイデアだ。

上野一番最初にこのプロジェクトを進めていた岡田くんから声をかけてもらった時に、原宿や渋谷以外で何かやったら面白いんじゃないかと思った。それが虎ノ門だったというだけで。異色なメンバーだからこそ新しいことをやりたかった。もう一人『キューコン』メンバーの児玉太郎さんが世界中を旅する中で、いいと思った都市にはかならずスケートパークがあってスケーターがいる、出会う人の中でスケーターがかっこいいということに気づいた。MACBAと呼ばれるスペインのバルセロナにある現代美術館では、目の前の綺麗な大理石の広場で警備員に怒られることなく自由にスケボーができる。世界中からスケーターが集まってきて毎日のようにセッションがある。そういうことをここ日本でもやりたいって話になったんだよね。

そうだね。俺と伸平は末端から今に至るまでずっと日本のスケートマーケットを見てきていて、コアのあり方を知っている。従来のスケーターのやり方の限界を知っているというか。そもそも『Evisen』と『TIGHTBOOTH』で自分たちがやりたいことはできているから、この『キューコン』では違うアプローチを取る必要があるなと思ったんだよね。

上野それで話がどんどん進む中で、藤原ヒロシさんの『FRAGMENT DESIGN』とコラボする話が出てきた。藤原さんは6年くらい前から俺の事をチェックしてくれてて、すごく気に入ってもらえてたから、いつか一緒に何かできたらいいなって思ってた。特に信用できたというか嬉しかったのは、俺自身のスケートや作る作品の何がいいかっていうのをそこらへんのスケーターよりも明確に言葉にできる人だった。競技としてのスケボーとストリートスケートの違いもちゃんとわかっていた。だからこそコラボできたんだと思う。ピュアなスケートボーディングで登り詰めていくのは世界レベルで見てもアメリカを中心にした話で。アメリカは基本的にスケボーに対する考え方がスケートカンパニーだけじゃなく一般の人たちも違う。明らかにスケートボードに対して理解が深い。だけど日本はスケートボードに理解がある人が圧倒的に少なすぎる。でもそれは現実として受け入れないといけないから日本で良い状況を作るには日本独自のやり方を考える必要があった。

スケボーだけじゃなくて色々な分野の人が注目してくれるクリエイションをする、そしてそれをスケボーに返していく。それを第一に考えているんだよね。やっていることがマス向きなことかもしれないけど、こうしてパークをひとつ作ったっていう実績は残る。違うところでまたパークを増やせるかもしれない。結果としてスケーターにとっていい環境を整備するっていうのが俺らの目的だから。

とはいえ二人は過酷な道を選んだようにも思える。他のスケーターからヘイトを買う可能性もあれば、これまで以上にローカルや行政と向かい合っていかないといけない。多くの人から理解と賛同を得るためには明文化されてきていないカルチャーの歴史的な側面を説明していく必要がある。

一番近い友達からも大丈夫なの? って言われることもあった。日本は本当に難しいんだよ。スケーターもそうでない人も、みんなすごい真面目だし、周りと同じように生きるっていうのがどこかにある。

上野でもそういう人たちを納得させないと上にいけないし、日本でスケーターが自由に滑れなくなっていくのが目に見ている。

だったら俺らが先頭切ってやっていこうっていう道を選んだんだよね。迷った時にスケボーの神様”通称・スケ神様”にこれは正しいことですか? って問うんだよ。そしたらどんどんやりなさいって返ってきたし(笑)

上野今回はひとつのきっかけであってゴールじゃない。『キューコン』のメンバーが揃えば本当にいろいろなことができるから、新しいことをどんどん仕掛けていく予定です。

南勝巳

1980年生まれ、東京都出身。2009年に国内のスケーターを撮影した作品『Night Prowler』を発表。2011年にEvisen Skateboardsを設立し、2017年には『EVISEN VIDEO』を発表。上野とともに「QUCON」を立ち上げ、日本のスケートボードシーンをさらに盛り上げるべく奔走中。

上野伸平

1983年生まれ、大阪府出身。TIGHTBOOTH PRODUCTIONを運営しながらEvisen Skateboardsのプロライダーとして活動。映像作品『LENZ』、『LENZ Ⅱ』を発表し、特に『LENZ Ⅱ』は海外からも高い評価を受ける。MONCLER GENIUSの映像も製作するなど、多岐にわたって活躍の場を広げている。

QUCON

住所:東京都港区西新橋2-19-5
時間:11:00〜20:00
定休日:水・木
※スケートパークの運営規定はオフィシャルサイトやSNSをご確認ください。
Official Website:qucon.tokyo
Instagram:@qucon_tokyo

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