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ごちそうさまに生きる人。 フードスタイリスト 「Dress the Food」主宰 薫

The interview of FOOD People

ごちそうさまに生きる人。 フードスタイリスト 「Dress the Food」主宰 薫

世界でも有数の食の国、日本。人びとの関心は常に高く、新しいお店が続々と誕生しています。では、どんなひとたちがいまフード業界を支えているのか? そのなかでもフイナムではスタイルをもったひとたちに注目しました。たしかにおいしい食事はただ味わえればいいという考えもありますが、映画や音楽と同じく、その食事に込められた想いやつくるひとのストーリーを知ることは、その一品をより輝かせてくれます。今回は、フードスタイリストとして、食をテーマにさまざまな媒体でビジュアル制作を手がける薫さんに、料理に目覚めた原体験やフードスタイリストになったあるきっかけを伺いました。聞けば聞くほど、この仕事が天職なのではと思えてしまうその出来事とは?

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薫(かおる)/フードスタイリスト、「Dress the Food」主宰

1985年生まれ。CMや広告、雑誌などで幅広く活躍するフードスタイリスト。モノクロの人物写真の上に野菜などの食材を乗せて撮影する作品「Food On A Photograph」が注目を集め、4月24日(水)~4月28日(日)で、「Container Graphic Gallery」(渋谷区南平台)にて、エキシビジョン「Food On A Model」を開催予定。
www.dressthefood.com

調理を一つの遊びのように捉えたのがはじまり。

食べ物を作った最初の記憶は、小学校に上がる前。母がピアノの先生をやっていて、ときどき預けられていた幼馴染の家で、いつもマドレーヌやシフォンケーキを焼くお手伝いをさせてもらってたんです。泡立つ卵白のフワフワな感じ、焼けたバターの香り、カルピスバターという言葉の響きまでくっきりとお覚えてます。料理を一つの遊びのように捉えていましたね。

その頃、『こまったさん』という料理を題材にした絵本シリーズが大好きで、料理が楽しいという気持ちも芽生え、小学校に入学後、初めて包丁を持たせてもらえました。家でサラダ担当に任命され、葉物をちぎったりトマトを切ったりして、母のお手伝いを通して料理を好きになっていきました。

中高時代はお菓子作りにハマり、大学卒業後、社会人になってからは、会社帰りにスーパーへ寄って色とりどりの食材を眺めるのが、平日の夜の一番の楽しみに。お弁当を作ったりしていたのも、仕事とは別に『好きなことをひとつはできている』という、満足感を得られたから。

闘病中、前向きなチカラをくれたフード写真。

その後、20代後半で大病にかかってしまい、長期の入院生活に突然入ることになったんです。同じ病気で亡くなられた方もいる中、幸運にも私は多くの方のお力添えによって助けていただき、もう一度人生を生き直すチャンスをもらったような経験でした。このとき、気晴らしのため、病室の壁じゅうぐるっと360度、撮りだめていたニューヨークのファーマーズマーケットの野菜の写真をはじめ、思い出の場所の写真を切り抜いてコラージュしていました。行きたい場所や食べたいもの。毎日眺めては、恋い焦がれる様にいつかまたそこへ行かれる日を希望にして過ごしてました。

入院中、大抵は加熱したものしか食べられなかったのですが、そうなると食事はクタクタの茶色い料理ばかり。壁のカラフルな野菜の写真に明るい気持ちになれたし、ニューヨークを訪れた元気な頃を思い出したりして、力が湧いてきたんです。「退院したらこれを作ろう!」「出たらこれを食べたい!」という食に対する欲も強くなってきました。

消化しきれない気持ちを、料理で発散。

退院後は自宅療養で家からなかなか出られませんでしたが、お見舞いに来てくれるひとをおもてなししたいとお菓子を作ったり、料理をしたり…。家で行えることのうち、自分では消化しきれない複雑な思いを発散できたのが、料理だった気がします。

そういった料理を写真で残していくうちに、お見舞いに来てくれるひとのそのイメージや、好きな絵本や映画の世界を、食卓の上で表現するようになっていったんです。たとえば歌をやっている友人に、赤ちゃんが生まれたばかりだった時には、その親子のイメージに合わせてお料理してテーブルコーディネートしたり、お料理とともに絵本の中の世界観でクレヨンを置いたり、天井からカラフルなテープを吊るしたり…。単純に「こんなの見たことない!」と言われたいという願望もあったし、もしかしたら、家から出られなかった自分にとっての夢のような世界を創っていたのかもしれません。当時、Facebookにあげていたその写真たちを、雑誌編集者の方が見ていてくれて、フードスタイリングのお話をいただいたのが、最初のお仕事です。

世界一のフードスタイリストが、自分の作品をリポスト!

実際の食材を写真に合わせてその上でコラージュするプロジェクト「Food On A Photograph」をはじめたのはこの頃。フードスタイリストとして仕事をする機会が増え、単純に食べ物を美味しそうに綺麗に見せることに、自分自身で少し違和感を感じ始めました。そんなある時、アボカドトーストをお昼ご飯に作ったのですが、写真におさめておこうとした時、何か面白い撮り方はできないものかと考えました。たまたま横に大好きなオードリー・ヘプバーンの写真集があったので、オードリーの頭にトーストを乗せてみたんです。そしたら、『えっ!帽子みたいで可愛い!』とトリコに。その後他の写真にもグルグルの渦巻き状に削った人参を乗せてみたら、パーマみたいにオシャレになって(笑)。SNSで投稿していたら、周りの友人たちから『あれ面白いね!』と反響もあって、オードリー以外にアデルやTLC、アリアナ・グランデなど、私が尊敬する女性をモデルに、作品作りを続けていました。

すると、ニューヨークに住んでいる、私が世界一のフードスタイリストとして尊敬する女性が、インスタで、私のオードリーの作品をたまたま見つけてくれたみたいで、SNSでリポストしてくれたんです! あまりにうれしくて『ニューヨークへ行ってみよう!』と決心し、とりあえず「Food On A Photograph」のZINEを作り、無料で配って回ろうと思ってニューヨークへ行きました。

ニューヨークで一番の老舗と言われている料理本の専門店に行ってみたら、「こんなしっかり作ったジンなら、きちんと売ったほうがいい」と言われ、「え? 売っていいんですか?」みたいな(笑)。そこからニューヨークとロサンゼルスの書店を1軒1軒回って手売りしましたが、断られたお店は結果、一軒もありませんでした。

2019年4月24日(水)から、開催するエキシビジョン「Food On A Model」は、昨年のニューヨーク滞在で出会ったモデルの子から「書店でカオルのジンを見つけてすごくインスパイアされたので、何か一緒にやりたい」と連絡を受けて、実現したコラボレーションです。彼女の周りの20歳前後のモデルの子たちもすごく面白くて、彼女たちのキャラクターやカルチャーを表現できる作品作りを意識しました。オードリーとはちがう角度で、写真と食べ物と向き合った挑戦的な作品シリーズです。

Dress the Food

Food On A Photogrpah

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