うちでは「壊れない頑丈なもの」が正解ではないんです。
まず〈谷口眼鏡〉と〈荒岡眼鏡〉の組み合わせで思い出されるのは、フイナムでも取材させていただいた「Elder_ARAOKAGANKYO」ですよね。
荒岡あのときは企画の段階から〈谷口眼鏡〉さんにお願いすることを前提に進めていました。
中村一緒になにかつくりたいということは、それまでもずっと、ふたりで話してはいたんです。
左:〈ターニング〉の開発担当・中村光一さん、右:〈荒岡眼鏡〉のプロデューサー・荒岡俊行さん。
荒岡かなり苦労してつくりましたよね(笑)。図面も20回以上書き換えなければならなかったほど複雑で…。〈谷口眼鏡〉さんにしかお願いできない仕事でした。
荒岡やはり上下のギャップです。ブロウ部分はエッジィなのに、そこからつながるボトム部分は曲面になっている。単純に材料を金型に流し込むなら簡単ですが、削ってつくるにはかなりの技術が必要なんです。できあがった製品は、国内外のどんなデザイナーに見せても「一体どうやってつくってるんだ」って心底驚かれます。
中村もちろん掛け心地も犠牲にできないので、その兼ね合いも、かなり気を遣いました。
一方で、オリジナルブランド〈ターニング〉の評判もよく耳にします。なんといっても、今年リリースされた子ども用メガネがすごいと。
中村実は〈ターニング〉って、眼科がやっている小売店さんが取引先に多いんです。その取引先から、購入後のことも考えて安心して掛けられるメガネをつくってほしいと要望がありまして。そこから3年の開発期間をかけ、やっとうちらしいものができたわけです。
〈ターニング〉の新作「TPK3301」「TPK3302」「TPK3303」。
これまでの〈ターニング〉の製品とは、どんな違いがあるのでしょうか?
中村子どもが使用するものなので、掛け方が荒かったり、ぶつけてしまったりすることを想定してつくっているんです。なので修理にも対応しやすく、頭部の成長に合わせて調整しやすいよう設計しています。
荒岡いいメガネをつくろうとしたときって、デザインや掛け心地にこだわるのが常だと思います。でも〈ターニング〉は壊れ方にもこだわる。うまく壊れるにはどうしたらいいかを考えるなんて、業界でもかなり珍しいです。
中村メガネが壊れたときに、一番大事なのは目を傷つけないこと。次に顔で、レンズ、フレームという順なんです。なので、今作はフレームが衝撃を受けてくれるように設計しています。強度はもちろん大切ですが、壊れたとしても安全であるというのは、お客様も安心できますよね。
納得がいかなければ、完成した製品もすべて廃棄するほどのこだわり。
では具体的に、どういった点が“うまく壊れる”ことにつながっているのでしょうか?
中村たとえば、衝撃を受けたときに曲がってくれるよう、テンプルの継ぎ目を少しだけ細く設計しています。一般的なメガネは衝撃の逃げ場がないので、部品全体が破損してしまう。安全面もそうですが、その分修理も大変になってしまうんです。でもこれなら、継ぎ目部分の首が曲がってくれるので、簡単に修理ができる。
中村また、テンプルのアセテートも簡単に抜けるようにつくっています。というのも、テンプルの芯金が曲がってしまっても、アセテート側は交換しなくていい。その分、修理費用を格段に抑えられます。
テンプルのアセテートは、簡単に取り外すことができる。
荒岡芯金には、ベータチタンという材質を使っているんですけど、最初は純チタンでつくっていたそうです。でも、それだと想定より軟らかかった。そこから、一度部品として完成したものすべてを廃棄して、芯金をベータチタンに変えつくり直したと聞きました。
粘りのある材質を使い、テンプルを外側に倒しても耐えられる設計に。
中村子どもが掛けるには問題があると判断したんです。発売時期が遅れてしまって、お客さまにはご迷惑をかけてしまったんですが、その分、自信をもっておすすめできる状態で、販売することができました。
中村「後方重心バランス」という考え方があって、掛けているときにメガネが下にズレないよう設計しています。頭部に当たる部分は、点ではなく面で支えられるよう平らに。摩擦係数なんかも計算しています。
荒岡そうそう、重量バランスとか摩擦系数とか、そういったことを小売店にも共有できるよう、独自に教材までつくっているんですよ。そんなことをしているメーカーはほかにありません。
子どものためのメガネは、そのまま大人用にしてもいいメガネ。
子ども用の反響を受けて、この度大人用の「TP332」「TP333」という2モデルをリリースすることになったんですよね。
中村それも荒岡さんの言葉があってのことでした。子どものことを考えてできたメガネは、そのまま大人用にしてもいいメガネなんじゃないですか?って。
荒岡子ども用に高い基準でつくられたものを大人用にしたらどうなのか、単純に見てみたかったんです。
設計やデザイン面でマイナーチェンジした部分はありますか?
中村一部デザインを変えてはいますが、ほぼ同じものです。
カラーバリエーションも豊富ですね。そのまま大人用になってもまったく違和感がない。そもそも、この大人びたカラーリングが子ども用というのも驚いたのですが。
中村いま、子どものファッションもどんどん変わってきていて、そこに従来の子ども用メガネを合わせると、どうしても違和感があるんです。だから、あえて大人っぽいカラーリングでつくっています。
〈荒岡眼鏡〉の別注カラーも発売するそうで。カラーリングは荒岡さんの提案ですか?
荒岡そうですね。なんとなく70年代や80年代っぽい、オーセンティックな雰囲気にしたくって。
中村これくらい明るめの、オレンジっぽい抜け感のあるトートイスシェル柄(べっ甲色)はなかなか珍しいですよね。
荒岡ほかにも、内側に印刷された「荒岡眼鏡」という文字。これ、実はうちのスタッフにお願いして書いてもらったものなんです。
それでは最後に、今後の展望について聞かせてください。
中村2017年の創業60周年を迎えたときに“よりそう”というメッセージを掲げました。なので今後もこの言葉を大切にして、メガネづくりに励んでいきたいと思っています。秋にはメタルフレームを使用したモデルも発売予定です。そちらにも是非、注目していただければと思います。