小林新 / スタイリスト
1978年生まれ、神奈川県出身。2006年に独立。雑誌、ミュージシャン、広告のスタイリングを中心に手がける。服や靴をはじめとするアメリカものに造詣が深く、男女問わず多くの人からの支持を得る。
ものを買うというよりも、物語を買っている。
小林10本ほどです。時計を身につけないという人も中にはいるかもしれないけど、ぼくは好きなので毎日なにかしら腕に巻いています。
メンズファッションにおいて、腕まわりってその人の個性が出ますよね。
小林スタイルにもよると思うんですが、男性はそこまで華美な装飾ってあまりしないですよね。とはいえ、手元ってよく見られることが多いし、大切だと思うんです。とくにスタイリストの仕事をしていると着せつけをするときなんかに腕回りがよく出るし、アクセサリーにしても、時計にしても、やりすぎないように注意しながらなにかしら身につけるようにしています。
とくに時計はその人のステータスを表す指標として見られることもあります。
小林とくに海外ではそうした見方をする人が多い印象です。時計ってそういう意味では自分の個性を表現するツールでもありますよね。もしかしたらクルマと似ているかもしれない。利便性だけを追求するのか、はたまたデザインを求めるのか、ステータスなのか。
小林さんはどんなことを意識して時計を選んでいますか?
小林ぼくは現行品を買うこともあれば、アンティークを選ぶこともあります。なんでもいいというわけではなくて、モノにあるストーリーを大事にしているんです。なんとなくつくられたものではなくて、歴史的な背景だったりとか、そういったことのほうが重要。ものを買うとうよりは、物語を買っているのかもしれないですね(笑)。
完成されたデザインというのは合わせやすいもの。
ご自身のコレクションの中には「ベンチュラ」があると聞きました。この腕時計を購入した理由を教えて下さい。
小林スタイリストとして独立して、はじめて買った時計が「ベンチュラ」でした。ほかの時計ブランドと比べるのはよくないのかもしれないけど、誰でもつけられる時計ではないと思うんです。やっぱり独特の形状をしているし、センスのいい人が選ぶ時計というか。当時、自分の周りにこれをつけている人がいて、それに影響をされましたね。もちろん歴史的背景にも惹かれましたし。
「ベンチュラ」が誕生したのは1957年。腕時計といえば左右対称のデザインが主流の時代に、この独特の盾型フォルムが生まれました。
小林デザイナーはリチャード・アービブ。キャデラックのデザインが有名ですね。あのクルマを見ると、やっぱりこの時計と似たような流線形のデザインをしていて、すごく目を惹く形だと思います。50年代は工業製品や建築も含めて、革新的なデザインがたくさんつくられた時代だし、いい年代のアメリカの造形がここに落とし込まれていますよね。
それと、時計としてではなく、アクセを身につけるような感覚で腕に巻けるところも気に入ってます。こんなこと言ったら元も子もないけど、仮に動いてなくても成立するというか。うちの奥さんがたまにつけたりしてますね。女性用の小さなモデルもあるんだけど、あえて大きなのをつけるのが格好いいんです。
逆に独特の形だからこそ、つけてて飽きることはありませんか?
小林逆にすごく重宝してますよ。ぼくは派手な服装をしないので、時計やアクセサリーで遊びを加えることが多いんです。時計とアクセの両方をつけることもありますが、「ベンチュラ」だったらこれ一本で十分コーディネートが成り立ちますね。
1957年に誕生した〈ハミルトン〉の「ベンチュラ」。ミッドセンチュリーのデザインが色濃く反映された盾型のフォルムは、現在でもオリジナルな輝きを放つ。左は、クロコダイルの型押しが施されたカーフレザーストラップのモデル。右は、着脱が簡単なフレックスベルトタイプのモデル。まるでアクセサリーのような「ベンチュラ」のデザイン性を強く押し出している。あのエルヴィス・プレスリーが愛用していたのもこのタイプだ。各¥91,000+TAX
デザインもそうですが、「ベンチュラ」は世界ではじめての電池式時計というポイントも、この時計が持つ歴史のひとつです。
小林単純に電池式時計はラクなんです(笑)。自動巻きや手巻きに比べてメンテナンスに気を使わなくていいですし。年齢を重ねてラクな服を選ぶようになるのと同じ感覚です。
ムーブメントに対するこだわりはあまりないほうですか?
小林若いときは自動巻きや手巻き時計に憧れたりもするし、もちろんいまでも好きなんですが、昔に比べるとそこまでこだわりは強くなくなりました。むしろ電池式が生まれたことによって、また新たな歴史が生まれたわけだし、いまはそういったストーリーに対してポジティブな気持ちを抱いてます。
「ベンチュラ」はエルヴィス・プレスリーが公私に渡って愛用していた時計としても知られています。映画『ブルー・ハワイ』ではアロハシャツに合わせる姿が印象的でしたが、普段小林さんはどんなスタイルのときにこの時計をつけていますか?
小林もう本当に日常的に合わせていたので、とくに「こういうファッションのときにつける」といったことは意識していませんね。服がシンプルだったらなんでも合わせやすいし、もちろんスーツにもフィットします。個性的な形をしているけれど、合わせ難いってことはなかったです。
何にでも合うというと少し語弊があるかもしれませんが、限りなくそれに近いと。
小林完成されたデザインというのは往々にしてそういうものですよね。
「ベンチュラ」が生まれた50年代と違い、現代はとても便利になって、腕時計をしなくても簡単に時間がわかるようになりました。そんな時代において、小林さんが時計を腕に巻く理由はどんなところにあるのでしょうか?
小林もちろんスマホを見れば簡単に時間を確認できます。でも、みんな横並びじゃつまらない。そんな時代だからからこそ時計をつけるというのもあります。それに、年齢を重ねて時間の大切さをより深く理解できるようになったというのもあります。
腕時計をつけることによって、時間的感覚を意識的に身につけることは大切かもしれません。
小林あとは最初に話した通り、自分のキャラクターを表現するためでもあります。時計って個性と結びつくし、「あの人っていつもあの時計してるよね」みたいな感じで記憶とリンクすると思うんです。自分のオリジナリティを表す記号的な役割を持っている。だからこそ、自分に合うものを丁寧に選びたいですよね。
発売から半世紀以上経った、いまなお変わることない「ベンチュラ」をセレブレートする一夜限りのスペシャルライブ「#ベンチュラ_イズ_ユアーズ」を6月28日(金)に開催。期間中、対象店舗で「ベンチュラ」を購入した方、先着で50組100名様を招待。詳しくはこちら。
ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン
電話:03-6254-7371
hamiltonwatch.jp