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FEATURE
奇跡の復刻。ネクサスセブンが現代に蘇らせたブラウンツイルのL-2。
NEXUSⅦ. × BUZZ RICKSON’S L-2 BROWN SPECIAL.

奇跡の復刻。ネクサスセブンが現代に蘇らせたブラウンツイルのL-2。

ヴィンテージウェアに造詣が深い〈ネクサスセブン(NEXUSⅦ.)〉の今野智弘氏が、フライトジャケット向けのブラウンツイルを奇跡的にデッドストックで発掘。おそらく今後2度と発掘されることはない希少な生地を使い、幻のアイテムと称されるブラウンツイルのL-2を復刻させることに成功しました。このプロジェクトに深く関わった東洋エンタープライズの福富雄一氏、ベルベルジンの藤原裕氏を招いて制作秘話を語ってもらうとともに、細かなディテールのこだわりに迫ります。今や1990年代〜2000年代のモードやストリートでも高く評価されるヴィンテージ市場。当時の生地をつかった「L-2 BROWN SPECIAL」は、10年、20年後に伝説と語り継がれる予感がします。

  • Photo_Norihito Suzuki
  • Text_Shuhei Sato
  • Edit_Yosuke Ishii

PROFILE

今野智弘
NEXUSⅦ. デザイナー

2001年ニューヨークより〈ネクサスセブン〉を始動。2014年には直営店「V.E.L.」を東京・千駄ケ谷にオープン。MULTIPLE MANIAXX & TECHNIXXをコンセプトに掲げ、こだわりの服を提供し続けている。また現在、台風15号で被害にあった地元・千葉県を救うべく、支援プロジェクト「THE 15」PROJECTを発足。詳しくはインスタグラムのアカウントまで。@nexus7konno

PROFILE

藤原 裕
BerBerJin ディレクター

日本を代表する古着店「ベルベルジン」と、今年6月に同じく原宿とんちゃん通りにオープンした「アンド ベルベルジン」のディレクターを務める。また最近ではヴィンテージウエアの知見を活かし、様々なブランドとコラボレーションを行っている。自身がホストを務めるユーチューブチャンネルも古着好きの間で話題に。

PROFILE

福富雄一
東洋エンタープライズ 企画

いまや世界的に評価されているリプロダクトの名門、東洋エンタープライズで企画を務める。ミリタリーやワークをはじめとするヴィンテージウエアの研究を長年にわたり行ってきただけあり、その知識は相当なもの。生地や縫製といった細かなディテールにも詳しい。今回の「L-2 BROWN SPECIAL」の企画にも参画し、的確なアドバイスを送る。

これまでに1着しか見たことがない、ブラウンツイルのプロトサンプルを復刻。

60年代当時のブラウンツイルの生地を用い、〈バズリクソンズ〉に生産を依頼してつくり上げた「L-2 BROWN SPECIAL」。異様な雰囲気と完成度の高さは、この写真からもお分かりいただけるだろう。

ー まずは今回の「L-2 BROWN SPECIAL」をつくろうと思ったきっかけを教えてください。

今野:以前から裕くんがブラウンのL-2を持っていたので、その存在自体は知っていました。みんなもよく知る、米国陸軍航空隊に支給されていたミルスペックのL-2はオリーブ・ドラブなので、おそらくテストサンプルの試作段階でつくられるプロトサンプルのものだと思います。これ以外では見たことがないですね。今回、アメリカでデッドストックのフライトジャケット用のブラウンツイルが奇跡的に見つかったので、裕くんのオリジナルをサンプルに、東洋エンタープライズさんの力を借りてつくることになりました。

手前がヴィンテージのL-2。奥が藤原氏所有のL-2プロトサンプル。表の色こそ違えど、インナーライニングは同色同素材のものがあしらわれている。

ー ブラウンのL-2が存在していたことに、まず驚きです。

藤原:自分もこれ(私物のヴィンテージピース)を見るまでは、L-2にブラウンがあるとは知りませんでした。たまたま古着屋で見つけたんですけど、ディテールは簡素だし、テストサンプルのタグもありませんでしたが、裏地を見てこれは間違いないと確信して購入しました。

ー やはり珍しいものなんですね。

福富:弊社は〈バズリクソンズ(BUZZ RICKSON’S)〉をやっているので、様々なヴィンテージフライトジャケットを資料としてストックしていますが、このL-2ははじめて見ましたね。今回のデッドストックと同じブラウンの生地を使っているテストサンプルは非常に珍しいです。

やや色がフェイドしたブラウンの表地。従来のL-2に使われる生地に比べて、手持ち感はやや薄いように感じる。ショルダーにエポレットがない。

ー ここにある御社のアーカイブを見ると変色しているナイロンもありますね。オリーブ・ドラブが変色してブラウンになったという可能性は?

福富:ナイロンは、1939年にデュポン社が商品化しました。このジャケットがつくられていた1940年代頃は最先端の素材だったので、まだ完成度が低く、変色しやすいのですが、このブラウンは色が変わったわけではないですよね。

藤原:しかもこれは、本来は付くはずのエポレットやオキシジェンタブ、左袖のシガレットポケットもないんですよ。

今野:今回の「L2 BROWN SPECIAL」をつくるにあたって、様々な識者やコレクターの方にヒアリングしたのですが、テストサンプルをつくる段階の前のプロトサンプルと呼ばれるものなのではないかという意見が大半でした。テストサンプルだとそれを意味する大きなタグが付くのですが、その跡もないですからね。偶然の産物でしょうが、この未完成さが美しいですよね。だからこそ、今回はこのサンプルを基につくりたいという思いがありました。

アメリカの倉庫で発掘したフライトジャケット向けのブラウンツイルを使って「L-2 BROWN SPECIAL」を制作。濃いめのブラウンが特徴だ。

ー 今回の「L2 BROWN SPECIAL」の最大のポイントは、デッドストックのフライトツイルだと思うのですが、これはどのように見つかったのですか?

今野:アメリカのディーラーからオファーされたのがはじまりです。アメリカ某所の昔のミリタリー工場から古い資材や生地が見つかったというメールが来たんです。それで資材をいくつか買わせてもらったのですが、メールにエンジ色のフライトツイルという記載があったんです。後年にファッションとしてエンジをつくっているメーカーはありますが、年代的におかしいと思い、写真を送ってくれとお願いしたんですよ。

ー それがこのブラウンの生地だったというわけですね。

今野:はい、その写真を見たときに、どう見ても濃いブラウンだったので、次にアメリカへ行くタイミングですべて買うからキープしてくれと頼んで。

藤原:こんな希少なフライトツイルがデッドストックで見つかったという話は聞いたことがないですね。本当にスペシャルな生地だと思いますよ。自分が持っているL-2プロトサンプルとは少し生地の厚みやトーンが違いますよね。

福富: 藤原さんのL-2とは色味や生地感が異なりますが、うちで生地解析をしたところ、間違いなくフライトジャケット用に作られたツイルだということが分かりました。

ー 実際にこの生地を使ったミリタリーアイテムはあるんですか?

今野:ありますよ。ブラウンなのでN-3AかN-3Bかは判断できませんが、この生地を使った同型のテストサンプルを所有しています。あとなぜかN-2のフードだけ同生地を使ったものを見たことがありますね。

藤原:「ベルベルジン」でも過去に販売したことがあります。

ー なるほど、どれだけ希少な生地か、よくわかりました。

今野:それで裕くんのL-2をベースにして、フライトジャケットのリプロダクトにおいては右に出るものがいない東洋エンタープライズさんにお願いをしようと思ったんですよ。

ー いままでネクサスセブンと東洋エンタープライズはコラボレーションをしたことはあるんですか?

今野:「ギャラリー1950」の北修三さんにコラボレーションの際に繋いで頂き、アーティストのKAWSと一緒にやっていた〈オリジナルフェイク〉で2度だけ生産してもらったことがありますが、〈ネクサスセブン〉でははじめてですね。

ジッパーはオリジナルと同じく、クラウンのスプリングカムロック式ジッパーが採用されている。東洋エンタープライズでは当時のものを忠実に復刻している。

藤原:「L-2 BROWN SPECIAL」では、自分が所有しているブラウンのL-2と同じバネクラジッパーを使っているのがいいですね。

ー バネクラジッパーとはなんでしょう?

今野:40〜50年代にかけてL-2などに使われていたクラウン社のスプリング・カムロック式ジッパーのことですね。生産時期が短く、ヴィンテージでも人気のジッパーなのですが、これを製法から素材まで完璧に復刻したものを東洋エンタープライズさんがつくっているんですよね。

福富:クラウン社のジッパーは、独自のつくりをしているんですよ。通常のジッパーは、ティース部分をプレス方式でつくるのが一般的ですが、クラウン社は一貫して高圧鋳造方式を取り入れていたんです。

藤原:ヴィンテージと見比べても遜色のないクオリティですよね。その高圧鋳造方式は、どのようなメリットがあるんですか?

福富:この製法を用いることで、ティースの各パーツを丸くすることができるので、噛み合わせがよく開閉も滑らかなんです。ただ600度に熱した亜鉛を流し込んでつくるなど、通常のジッパーに比べると製造コストや効率が極めて悪いんですよ。だから1960年代には他社にジッパーのシェアを奪われて消えてしまったんです。

途中で編み目が変わる二段リブ。袖リブは二重になっており、程よいテンションでフィット感も抜群。

今野:ジッパーだけでなく、ヘリンボーンテープの雰囲気も完璧なんですよ。あとはなんと言っても二段リブですね。これって日本だとつくれる会社がほとんどないですよね?

福富:そうですね。このリブをつくっている会社は、東洋エンタープライズの前身である、港商という会社の頃からのお付き合いなんです。当時はスカジャンなどの製造を行い、実際に米軍のPXに卸していたんですよ。その時からリブの生産を依頼している、信頼できる会社です。

ー サイズに関しては、藤原さんのヴィンテージがベースになっているんですか?

今野:いえ、裕くんのオリジナルL-2をサンプリングしていますが、サイズに関しては東洋エンタープライズさんのサイズスペックで生産をお願いしました。細かな部分までミルスペックに準じた縫製などを行っていて、本当に勉強になりましたね。38、42、46のサイズ展開です。

藤原:展示会にお伺いした際に、42か46でかなり迷いました。ヴィンテージだと若干小さいので、大きめに着られるならそれもありだなと。なんでこのサイズ展開したのですか?

今野:東洋エンタープライズさんのサイズスペックだと40と42、44と46の着丈が同じだったので、このサイズピッチがいいかなあと。

藤原:なるほど、そういうことだったんですね。自分は王道に42か、オーバーサイズで46か、どっちのサイズにしようか未だに悩んでます(笑)

今野:どっちもいいと思うけどね。これに満足して、そのヴィンテージを自分に譲ってください(笑)生地に限りがあるし、次は無いので両サイズともいっちゃいなよ(笑)


おそらく次はない!? デットストックのブラウンツイルをまとったL-2が完成。

NEXUSⅦ. × BUZZ RICKSON’S
L-2 BROWN SPECIAL ¥78,000+TAX

奇跡的に発掘したデッドストックのブラウンツイルを用い、幻のプロトサンプルであるブラウンのL-2を復刻。生産は、ハイクオリティなフライトジャケットをつくる〈バズリクソンズ〉が担当。「ベルベルジン」の藤原氏が所有している貴重なアーカイブをサンプルに、徹底的につくり込んだ1着。生地に限りがあるので数量限定で販売。

INFORMATION

V.E.L.

住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-52-5-1F
時間:12:00〜20:00
電話:03-5771-4774
nexusⅶ.jp

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