等身大な自分のことを伝えるしかない。それが僕にとってのヒップホップで、リアルだということ。
ー DAICHIくんの存在、知名度を一躍飛躍させたきっかけとなったのが、2019年3月にリリースされたデジタルシングルの「上海バンド」だと記憶しています。同作が与えた影響力は、Lupe Fiascoがシェアしたポストでも顕著ですが、とにかくその映像含む世界観が、国内ヒップホップシーンに新たな可能性と驚きを与えてくれたように思います。この一曲への思い入れはいかがですか?
DAICHI: そうですね。この一曲を作って色々変わりました。僕自身に関して言えば、イギリスにいた時って良くも悪くもリリックにそこまで大きな意味を持たせていなくて、フロウ優先だったんですよね。というのも海外にいたので、リリックの内容を聞いてくれる人がいなかったので。それが日本のヒップホップシーンではリリックの重要性が問われる。ただ僕にはいわゆるストリート的な背景って実はあまりなくて。京都、ジャマイカ、ロンドンには住んでいましたが、ハードな環境で生まれ育ったわけでも、ギャング的なことをしていたわけでもなかったので。そうした背景的な奥行きに関しては結構悩んだんですけど、結果的にこの曲を書くときに辿り着いたのは、等身大な自分のことを伝えるしかない。それが僕にとってのヒップホップで、リアルだということだったんです。

ー 確かに「上海バンド」でのDAICHIくんのリリックからは飾らない言葉選びと日常的な情景に徹した詩律を強く感じました。また個人的にはシンガーとしての素質、バイリンガルを操るメロウなラップの交わりがとても心地よかったです。
DAICHI:元々耳に入ってきた時に気持ちの良いフロウはずっと心掛けていて、そのなかでこの作品では特にどのセンテンスでも刺さるリリックというのを意識しました。あとは普段から歌物を聴くことが多いのと、自分自身も昔からラップだけじゃなく歌うことが好きだったので、リリックの中にもありますけど、やりたいようにやらせてもらった結果でもあるんです。そうした意味では一番自分のスタイルにあった一曲になっていると思います。
ー そして今回リリースされた待望のファーストアルバム『Andless』。豪華な客演陣が脇を固め、話題となったリード曲も収録され、盤石の仕上がりとなった本作。特記すべきはラップや歌に限らずポエトリーやトラックメイクなど、DAICHIくんの武器でもある多様なヒップホップの表現方法が垣間見えますが、まずはご自身が思うその魅力について教えていただけますか?
DAICHI:アルバムを通して最もこだわった部分は楽曲構成ですね。一曲単位で表現するのではなく、アルバム一枚で評価されるものだからこそ起承転結のあるストーリーを意識しました。僕の生い立ちから現在の自分までの心情を時系列で並べることで、僕自身のドキュメンタリーを追いかけているような錯覚も味わえるのかなって。その中でトラックメイキングやポエトリーは衝動的なものだったり、実験的な要素として取り入れています。スキットやイントロ曲を入れていないので、単調にならない効果が出ているんじゃないかなと。
ー そのなかで先行してMVがローンチされたリードナンバーの「She II」は、ロンドン時代にSoundCloudに音源を発表し、憧れのアーティストの一人であったjjjへのオファーから始まった作品の続編的位置付けですよね。そうしたストーリーもあって、思い入れも特に強いのかなと思いますが、ご自身の中でシリーズ前作と比べていかがですか?
DAICHI:僕個人としては前作からの成長が感じられる一曲になっていて今回の方が断然好きですね。前回のものは僕のバースが嫌いすぎて、もう聴きたくないって思うくらい(笑)。リベンジのつもりで挑んでいるので、jjjくんと一緒に作り上げてはいるんですけど、それはあくまで結果論であって、制作の過程の中ではどっちが良いバースを作れるかっていう勝負でもあるのかなって。お互いバースの頭では“安っぽいカーテン”から始めていて、それぞれ同じ場面から見た女性像を描いています。そういった意味で前回よりもjjjくんのクオリティに近づけているかなと思いますし、ようやく納得のいく形で一緒に曲が作れたかなって。