自分たちが使いたいと思えるアイテムを、少数精鋭で。
ー 根本的なところなのですが、まずはブランド名について教えてください。
ゴンツ:クレッタル=山、ムーセン=ネズミの意です。スウェーデン国内で昔から読み継がれている絵本の主人公の名前から取りました。ただ、壮大なネーミングにして、それに見合うように大きく発展していきたいという類のものではなく、オンリーワンの存在としてあり続けたい、そういう意味が込められています。

Gonz Ferrero:アルゼンチン出身の35歳。 2016年から〈クレッタルムーセン〉のCEOを務める。
前職は音楽メディア関係の会社を香港で設立し、対日、対中市場を担当。
ー スウェーデンといえば、自然もそうですが、さまざまな面において豊かなイメージがあります。
ゴンツ:まず、スウェーデンは 国土がタテに細長くって自然に恵まれている。あと、家族のために仕事とプライベートの時間をしっかりわけるし、ワークライフバランスもちゃんと取れてる。社会保障も手厚いですしね。そして、何かにつけてWHY?と問いかける国民性がある。
製品開発においても常にWHY?があるからこそ、ユニークなギアの開発へと繋げることができます。小さな国の小さな街にある、ごく小さなチームですが、自分たちが心から使いたいと思えるギアを作っています。ちなみにお客さん自身もたくさん質問をぶつけてくるので、その準備が必要なんですけどね(笑)。
ー スウェーデン国内ではメジャーな存在なのでしょうか?
ゴンツ:スウェーデンでもどちらかと言うとニッチなポジションです。いわゆる「ギーク」的な人が着てくださっています。日本風に言えばオタクというか、マニアックな人ですね。私自身がギークな性分ですし、ギークな人たちのことは大好きなので、極めていい状況だと認識しています。日本のマーケットはとりわけ興味深いです。いい意味で、ギークな人がとても多いですから。
サスティナブルの精神は大事だけれど、最優先事項は着る人にとってのセーフティ。


仕事、プライベート問わず自社製品を愛用しているゴンツ氏。
この日は襟元からカラフルなスカーフを覗かせ、お手本のような着こなしで登場した。
ー ゴンツさんが〈クレッタルムーセン〉に参画することになったきっかけを教えてください。
ゴンツ:もともと音楽業界で働いていたんですが、そのビジネスに疲れてしまったタイミングで、アウトドアに出会ったんです。すぐにのめり込みました。いまはアクティビティ自体も好きだし、アウトドアに関わるヒトやコトの精神、ものの考え方まで、すべてを尊敬しています。

ハードなアウトドアマンであるゴンツ氏。スマートフォンには山行記録がたくさん残されている。
ゴンツ:そんな折〈クレッタルムーセン〉を創業したピーターと知り合いました。年齢面の理由からビジネスの世界をリタイアしようとしていて、そこで、自分が引き継ぎたいと申し出たんです。アーティストの担当を引き継ぐ感覚でした。
45年間同じ商品を作り続けて、今もなおそれが生き続けている。そこに魅力を感じたんです。自分が関わることで、よりグローバルな展開ができるんじゃないかと考えています。
ー 環境に配慮したモノ作りをされていますが、スウェーデンには似たようなフィロソフィーのブランドが多いのでしょうか?
ゴンツ:そういった理念を抱いてスタートしたブランドはいくつかありますが、それを続けているのは私たちだけかもしれません。〈クレッタルムーセン〉では創業時から変わらないフィロソフィーを維持しています。商業的な方向に舵を切ったり、事業拡大を優先したことはありません。
私たちのギアは、リサイクル可能な素材や、できるだけオーガニックで、環境負荷の低い製造工程を経て生まれた素材を使うようにしています。今では多くのブランドがサスティナビリティについて語っていますが、私たちは創業当初からその精神を掲げ、それはいまでも変わりません。
ただひとつ、誤解して欲しくないのですが、あくまで最優先は“使う人にとってのセーフティ”。とにかくそれが第一です。そのうえで、自然へのインパクトが最小限で、耐久性が高いギアでなければいけません。とくに安全性が求められるクライミングギアはもちろんですが、普段使いもできるアノラックやゲイターなどのギアでも同じフィロソフィーでモノ作りしています。それができなければ、会社を閉じてしまってもいいとすら考えています。

CEO就任から3年も経たないながら、誰よりも〈クレッタルムーセン〉の哲学を理解し体現している。
ゴンツ:そもそもセーフティで耐久性があるギアは長く使えます。そういうプロダクトこそが真にサスティナブルで、環境へのインパクトもミニマムなのではないでしょうか。
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