
これって悪用したら、恐ろしいんですよね。
ー 今回のプロジェクトのきっかけについて教えてください。
森山:とあるダンスパフォーマンスをやったとき、カイト(佐久間)に記録映像を撮ってもらったのが最初の出会いです。その映像がすごくよくて。話していくと、カイトはサウンドデザイナーをやっているって教えてくれて。なんかいっしょにやってみたいねって言いだしたのが…いつやったっけ?
佐久間:今年の3月…2月かな。
森山:そうそう。2月くらいに、別の仕事の打ち合わせがあって、その休憩中にタバコを吸いながら話していたんです。カイトがいま研究している音響技術の話を聞いて、それを新しい形で試してみたくて。
ー 森山さん、佐久間さんの2人の雑談が発端だったんですね。
森山:そうです。イワン(岩本)にはカイトと同じタイミングでパフォーマンスの記録写真を撮ってもらっていたんだけど、カイトとのミーティングのタイミングで改めてプライベートワークを見せてもらって、80年代の技術を使った表現のオーガニックな肌触りがすごくよかったんですよ。
岩本:複数のフィルムを使って、一枚の写真を撮るという技法を使っているんです。それでしか出せない質感というか、重なりあった表現が好きで。
ー VERTIGOというテーマはどのように決定されていったのでしょう。
森山:紆余曲折あるのですが、発端は、骨伝導という技術ですね。
佐久間:通常、音を聴くときは、耳の鼓膜を通して聴覚神経に刺激が届きます。骨伝導は、鼓膜ではなく、骨に振動を伝えることで聴覚神経を刺激し、音を感じるという仕組みです。
森山:骨伝導ならではの特性が、印象的だったんですよ。
ー どのように?
森山:鼓膜で聴くときは、意識的にどの音を聴くかある程度は選べるようなんです。こっちの会話に耳を傾けたり、あっちの水滴の音に集中したり。けれど、骨伝導ではそれができない。絶対に聴こえてしまう。また、骨伝導と鼓膜から聴こえる音は、同時に聴くことができるんです。たとえば、英語のリスニングの勉強をするときには、英語を集中して聞き続けることがより簡単にできる。ただ、これって悪用したら、恐ろしいんですよね。ブルートゥースをハックして骨伝導で政治のプロパガンダのメッセージを聴かせ続ければ、ある種の洗脳ができてしまう。そんな可能性も想像できるわけです。
佐久間:そこから話が発展していきました。3人それぞれが抱いている問題意識について時間をかけて話していって、現代において表現をする上での意義を考えたとき、「ドナルド・トランプの選挙運動」というトピックが、ひとつのわかりやすい例として出てきたのです。
森山:個人情報をSNS経由で不正に収集し、選挙運動に活かしたんですよね。自分の意志だと思って選んだものが、実は選ばされていたという。他にも、自民党の長い政権とか、香港のデモとか、社会に不穏でポリティカルな出来事がいくつも起きていた。骨伝導という技術と、自分の意志とは何か?という問いかけが三者の共通の意識だったんですよね。