PROFILE

1980年生まれ。愛知県出身。大手セレクトショップにてバイヤーを務めたのち、数々のブランドの立ち上げに携わる。その後、2015年よりヤング氏とオルセンさんが世界のどこかで営む小さなショップをコンセプトとした〈ヤングアンドオルセン ザ ドライグッズストア〉を手掛ける。一方では〈アウトドアプロダクツ〉のデザインディレクターも務め、自身のブランドでも数多くの別注アイテムを手がけてきた。
なんやかんやでぼくの人生につきまとっているんです(笑)。
ー 尾崎さんは〈アウトドアプロダクツ〉のデザインディレクターを務めていらっしゃるんですよね。まずはどのような経緯で担当することになったのか教えてください。
尾崎:もともとはアメリカにある〈アウトドアプロダクツ〉の本社からのオファーがきっかけでした。当時は下火の時代で、日本におけるブランド価値があまりよろしくなかった頃だったんです。それをどうにか立て直したいということで、ぼくと〈アウトドアプロダクツ〉が一緒になってカプセルコレクションのようなものを作っていました。以前からアメリカに親しくしているショールームがあって、その会社との付き合いがあったからお声がけいただいたんです。
ー なるほど。もともとは本国の〈アウトドアプロダクツ〉とのやりとりだったわけですね。
尾崎:そうですね。現在は日本の企業が〈アウトドアプロダクツ〉として、国内外に向けて製品をつくっています。ぼくはそこでディレクションのようなことを任されていますね。ブランドの方向性を逸脱せずに、いかにかっこいいアイテムをつくるか。その舵取りをしています。

ー 尾崎さんがはじめて〈アウトドアプロダクツ〉のアイテムに触れたのはいつ頃のことですか?
尾崎:学生の頃からぼくはこのブランドのデイパックを使っていましたね、中学か高校くらい。当時は「MADE IN USA」という価値観がすごく大きくて、「これもMADE IN USAだし、かっこいいっしょ」っていう時代で、アメリカのアイテムに対する強い憧れがあったんです。
ー 90年代初頭くらいのことですね。
尾崎:そうです。その当時はアメリカ製の希少なブランドという立ち位置で、限られたお店でないと買うことができませんでした。いまはどんなお店でも手に入れることができるじゃないですか? 当時の価値観からすれば、それはすごい異常なんですよ(笑)。

尾崎:それからしばらくしてぼくは「エディフィス」に入るんですけど、あのお店はフレンチをひとつのキーワードにしていて、〈エルベシャプリエ〉とかも扱っていたんです。
ー 〈エルベシャプリエ〉のバックパックも名品として知られていますよね。
尾崎:いまは違いますが、そのバックパックの生産を請け負っていたのが〈アウトドアプロダクツ〉だったりして、なんやかんやでぼくの人生につきまとっているんです(笑)。
ぼくはこの「452U」の形が好きですね。いわゆるデイパックの基本形。これを世に送り出したのが〈アウトドアプロダクツ〉で、いわば元祖なんです。
力の抜け具合がすごくおしゃれなブランド。

ー とんでもない量のアイテムや別注ものを破綻しないようにコントロールするというお仕事は、〈アウトドアプロダクツ〉のことをよく理解していないとできない役割だと思います。このブランドに対してどんなイメージを持っていますか?
尾崎:むかしのカタログを眺めていると、モデルたちがバックパックを背負って「山、登ろうぜ」みたいな雰囲気で写真にうつってるんです。とはいえ、いわゆるガチガチの登山かといえばそうでもない。ようはハイキング程度なんですよ。服装もだいぶカジュアルだし、ちょっと自然に触れてみようかっていう温度感。そうしたアメリカ人の手軽なレジャー感がぼくは好きなんですよ。これくらいのマインドがちょうどいいなって。
ー 80年代、90年代流のライフスタイルの提案みたいなノリというか。

尾崎:そうそう。他のアウトドアブランドみたいにガチガチなことは一切やってなくて。この写真(上記)とか、ポンチョ着て海で釣りしてますけど、「こういうの簡単に作れるし、うちでもやっちゃおうか」くらいのテンションで商品を作ってると思うんですよね。そういう頑張りすぎない温度感を知れば知るほど好きになっていったんです。
ー なるほど。
尾崎:いまだと本気のアウトドアギアを街でファッションとして着るのがかっこいい、みたいな潮流があるじゃないですか。でも、当時〈アウトドアプロダクツ〉が提案していたのは、ある意味ではファッション的な意味合いも含まれていたわけです。本気のやつはできないけど、これくらいならできるよ、みたいな(笑)。その力の抜け具合がすごいおしゃれだなと思って。
ー デザインディレクターとして仕事をする際もそうしたことを念頭に置いていると。
尾崎:そうですね。時代を超えるシンプルさというか、それが〈アウトドアプロダクツ〉の本質だと思うし、ぼくが言い続けないとみんな忘れてしまう。それをいまの時代にどうやってフィットさせるのか、そのアイデアを出すのがぼくの役割だと思ってます。
哲学をきちんと理解してブランドを自分に憑依させてつくる。
ー 〈アウトドアプロダクツ〉といえば、いま話にあった「452U」を真っ先に思い浮かべるんですが、カタログを見ていると本当にたくさんのバッグを作っているんですね。

右が〈ヤングアンドオルセン ザ ドライグッズストア〉で別注したファニーパック。
わざわざミリタリーのパーツを使用するこだわりよう。左はランチケースで、後ろはウエスタンブーツ用のバッグ。
尾崎:そうですね。“ファニーパック”と呼ばれるウエストポーチも名品として知られているし、“ロールボストン”というボストンバッグもおなじく。でも、ほとんどがデイパックです。ぼくもよくこんなにたくさんのバリエーションを思いつくなと思います。
ー 〈ヤングアンドオルセン ザ ドライグッズストア〉の別注アイテムもデイパックに限らずさまざまなアイテムが作られていますが、なにをベースにしているんですか?

先ほど紹介したウエスタンブーツ用のバッグは1981年のカタログから。
原型はスキーブーツ用だけど、ウエスタンブーツ仕様としたのは、〈ヤング&オルセン〉ならでは。
尾崎:アメリカで作られてきたカタログをアーカイブとして持っているんです。この中から時代の空気に合いそうなモデルをピックアップして、アーカイブに忠実に作ってます。とはいえそのまま復刻しても意味ないので、〈ヤング&オルセン〉のクリーンでニュートラルなデザインというのは意識してますね。
〈ヤング&オルセン〉のブランドコンセプトの中に「作るのがむずしい物は、近所の手先が器用な友だちに作ってもらったりもします」という文があって、バッグは〈アウトドアプロダクツ〉という友達に作ってもらってるという感じです。さっきお話しした温度感は、〈ヤング&オルセン〉の持つ世界観とかなり高い親和性があると思っていて。
ー 90年代のカタログからピックアップすることが多いですか?
尾崎:まぁそのときの気分によってもっと古いモデルを使うこともあります。でもいまは90年代がファッションのトピックになることも多いので、そういう意味では90年代のモデルを使うことで説得力がでるかなと思ってますね。
ー 一方ではイチからデザインを考えることもあるんですか?

レザーのバックパック(右)はストラップにチェーンを用いた現代的なひと品で、いわゆる「わがまま別注」だ。
左のメッシュのアイテムは80年代のカタログからサンプリングしたもの。
尾崎:あります。わがまま別注ですね(笑)。言ってしまうと世の中には有名なブランドの看板を借りて知名度を伸ばすために別注をしているケースも少なくないですが、ぼくの場合は〈アウトドアプロダクツ〉の魅力をファッションが好きな人たちへちゃんと届けたいという気持ちがあります。

こちらもいわゆる「わがまま別注」。「結構前に作ったものなのにいまだに使ってくれている人がいる」とうれしそうに語る
尾崎さん。それは〈アウトドアプロダクツ〉の本質を理解した上で作っているからこそ。
尾崎:だから、気持ちとしては〈アウトドアプロダクツ〉のデザイナーだったらこういうものを作るだろうというのを考えて、そのときの時代感を加味しながら〈ヤング&オルセン〉流に味付けして表現してますね。哲学をきちんと理解してブランドを自分に憑依させて物を作るというか。
これは自分がセレクトショップのバイヤーだった頃から大事にしていることです。相手のブランドの歴史を重んじて、そのブランドのなにがいいの? っていうところをちゃんと理解するようにしています。
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