〜STORY〜
しがない内職で日々を繋ぐ貧しいキム一家。彼らは、窓を開ければ目の前に地面、日の光もほとんど入らず、水圧が低いために家の一番高い位置にトイレが鎮座する“半地下”の家での生活から抜け出せずにいる。そんな生活は、豪邸に住む裕福なパク社長一家との出会いで、果たしてどのように変化していくのか——。
実は僕も大学の時に家庭教師をしていた。

濱口:プロモーションでお疲れではないですか?
ポン:(口に手を添えて内緒話をするように)スケジュールは厳しいですが……ハハハハハ! 楽しんでやらせていただいていますよ。もうこれまで『パラサイト』の話はし過ぎてきましたから(笑)、ぜひ『寝ても覚めても』(2018年)について語りましょう。とても面白かったんです。韓国では2019年に公開されて、映画雑誌の年間トップテンでは僕はいつも『寝ても覚めても』の名前を挙げてきました。
濱口:いやいや……僕は『カイエ・デュ・シネマ』誌の2010年代のベストテンで、『パラサイト』を挙げています。2019年のナンバーワンでもあります。ですので、やはり『パラサイト』の話をお聞かせいただいてもいいですか?
ポン:もちろんです(笑)。

ポン・ジュノ監督(左)と濱口竜介監督(右)の対面は初となる。
濱口:最初にソウルで英語字幕付きの上映で観て、震えるほど感動しました。これまで3回観ていて、今日もいろいろな質問を考えてきたのですが、どんな質問をしても太刀打ちできないような気持ちでいます。まずは、いったいどんな原動力によってこの映画をつくろうと思い立ったのか、アイデアの核から伺わせてください。
ポン:最初から「貧しい家族/裕福な家族」というテーマで出発したわけではないですし、具体的な人物が頭に浮かんでいたわけでもありません。“状況”から——潜入という状況、潜入の快感からスタートしているんです。
といいますのも、実は僕も大学の時に、お金持ちの家の中学生の男の子を、家庭教師として教えていたんです。当時、僕の彼女が国語の家庭教師をしていて、数学の先生が必要だということで紹介してくれて、その家に行きました。僕も同じ学科の友人を紹介しよう——まさに『パラサイト』のように連鎖的に紹介していこうと思っていたんですが、2カ月でクビになってしまい、その先に行くことはありませんでした(笑)。それでも、大金持ちの家の中に、ひとりずつ潜入して入っていくという、不思議な感覚を抱きました。他人の私生活を覗き見るという経験をしたわけですね。その中学生が、親がいないときに2階に連れて行ってくれて、サウナを見せてくれました。1990年代半ばのことですが、家の中にサウナがあるなんて、と驚いたことを覚えています。
その“状況”が出発点となり、『パラサイト』へと発展していきました。家庭教師が家に入り、ドライバーが家に入り、挙句の果ては家族全員がその家の中に入っていくというのは、どれだけ面白いだろうと思ったのです。
