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“フットウェア業界のジョブズ”の頭の中。

Interview with Rory Fuerst Jr. of KEEN

“フットウェア業界のジョブズ”の頭の中。

2003年の創業以来、”創造すること”、”楽しむこと”、”気遣うこと”という3つのキーワードを組み合わせた“ハイブリッドライフ”というブランドコンセプトのもとにフットウェアを展開。画期的なアイディアを具体化したコレクションを展開し、幅広いユーザーから支持を集めてきたアメリカ・ポートランドを拠点とするフットウェアメーカー〈キーン(KEEN)〉。ブランドの代表作として昨年から話題の「ユニーク(UNEEK)」と今年その新型モデルとして誕生したばかりの「ユニーク オーツー(UNEEK O2)」のデザイナーであるローリー・ファースト・ジュニアにスペシャルインタビューを敢行。”フットウェア業界のジョブズ”と呼ばれる彼のフィロソフィーとは。

  • Photo_Tetsuo Kashiwada
  • Interview&Text_Yuho Nomura
  • Edit_Hiroshi Yamamoto
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ローリー・ファースト・ジュニア

2003年にアメリカ西海岸で誕生し、現在はポートランドに本拠を構えるフットウェアブランド〈KEEN〉創業者の息子でありながら、昨年革新的シューズとして誕生し、瞬く間に世の中へと浸透していった“UNEEK”シリーズの産みの親でもあるシューズデザイナー。巷では「フットウェア業界のジョブズ」と形容されるなど、イノベーターとしての才能にも注目が集まる。

ーはじめに〈キーン〉の創業者の息子として、どんな幼少期を過ごしてきたのか教えてください。

ローリー:創業者であった父はもちろん、母と自分を含めた4人の兄弟がいたので、とても賑やかな家庭でしたね。だから幼少期はとても楽しく過ごせました。小さい頃には、父の仕事の関係で頻繁に海外旅行へ連れて行ってもらっていて、現地の靴工場や父のブランドのイベントなどに行くことも多かったので、今思えば刺激の多い時間を多く過ごせていたと思います。日本には16歳の時に初めて訪れました。今回が6回目かな? 過ごしやすい街が多くて、好きな国の1つですね。

ー幼少の頃は、どんな仕事に就きたいと思っていたのですか?

ローリー:誰もがそうだと思うけれど、小さい頃はたくさんの夢がありました。ただ、靴のデザイナーになりたいと思ったことは一度もありませんでした。僕ら兄弟が小さい頃は、家の近くに父の会社の工場があって、そこは僕らにとって数少ない遊び場でもありました。子供にとってワクワクするような道具やツールが沢山あったからね。その遊び場でもあった工場で父は仕事をしていたんだけど、重要なのは父がそこで靴づくりというよりは”ものづくり”をしていたことだったんだと思います。だからこそ、僕ら兄弟は皆、靴作りという限定された世界ではなく、広義的な意味合いでの”ものづくり”に携わりたいと感じていたんだと思いますね。

ー仕事熱心なお父様だったとは思いますが、やはり自宅にいる時間よりも仕事場にいる時間が多かったですか?

ローリー:家にいないことの方が多かったですね。でも昔と比べて今のほうが家にいないことの方が多いです。昔からとにかく仕事一筋な父親だったのですが、やっぱり僕らが小さい頃は少しでも家にいようと努力してくれていたんだと思いますね。

デザインを通してイノベーションを起こしたい。

ー実際に仕事を始めてみて、慣れ親しんだ〈キーン〉という会社の印象に変化はありましたか?

ローリー:今の仕事に就いたのは、扱う商品よりもブランドに対する魅力を幼い頃から知っていたからだと思っています。小さい頃から他ブランドとの違いを認識していましたから。だからブランドに対する印象というのは昔と大きくは変わっていないかもしれないですね。

ーちなみに他に就職先の選択肢はあったのですか?

ローリー:もちろん、選択肢は色々とありましたよ。ただ高校から大学へと進学し、周りと同じように大学生活を満喫していたんですが、将来に明確なイメージが持てず空白な時間をただ過ごしていました。まさにあの頃はモラトリアムな時間だったように思います(笑)。そしてその後、結局大学は中退してしまいました。それからすることのなくなった僕に父が自分の会社で働くことを勧めたんです。しばらくは生産の業務を学ぶために中国の工場へ行き、研修を受けていました。結果的には学校へ行くことよりも実際に現場で働きながら学べることの方が僕にとっては有益だったと、今になって思いますね。

ー働き始めてから父親との関係に変化はあったのですか?

ローリー:僕と父はお互い仕事に対してとても情熱的なうえ、自分自身の意見に強い意志のある人間でもあるんです。なので色々と衝突も当然あるのですが、若い頃は父から僕へ一方通行だったものが、今は自分の意思をきちんと伝えられるようになりました。時にはしっかりと”NO”と答えていますからね(笑)。そうすることによって昔以上に健全な関係性が築けていると思っています。自分の父親と仕事をしている人って限られてると思うので、父と仕事で共にする時間があることはとても貴重な経験だと感じています。

実現に至るまでの工程が一番の難関だった。

ー〈キーン〉では、具体的にどんなお仕事に携わって来られたのですか?

ローリー:最初はもちろん研修期間があるので、様々な工場に行き、そこで色んな人の話を聞きながら学んでいました。その後、ヨーロッパや日本を訪れ、実際にどんな人がどんなシューズを買っているのかなどのマーケットを知るようになりました。そうした生産・製造を学びながら、社内のデザイナーのアシスタントをしながら、徐々にデザインを学んでいくようになりました。しかし次第にその当時のデザイン業務が退屈に感じていくようになったんです。僕はデザインを通してイノベーションを起こしたいと考えるようになりました。その時に既存モデルの新作とかではなく、全く新しいものを作ろうと決めたんです。イノベーションといっても突飛的なものではなく、しっかりと地に足のついたビジネスとして機能するもので、かつ長期的なビジョンのものでなければならないとは思っていました。

ーそうした革新的なものを生み出すための創意が〈キーン〉の新たな代表モデルともなった”ユニーク”誕生のきっかけとなったとも思うのですが、そのアイディアはどこから生まれてきたのですか?

ローリー:当時、会社にはイノベーションに特化した業務を行う小規模の部署があったんです。そこでたくさんの仮説を立てては、いくつものシューズアイディアを提案して話し合うということをひたすら繰り返していました。そこでデザインではなく、靴づくりの方法をまるっきり変えてみたらどうだろうと思ったんです。そこで生まれたビッグアイディアがストリングス(紐)とソールを組み合わせるという考えでした。例えば、物体に対して平面のもので包もうとするとうまくいかないんです。それは足も同じで、人によって形や大きさの異なる多様な足に対して平らな面で包み込むのは不自然だと思ったんです。そこで平らな面を規則的に切り刻む事で綺麗に包み込むことが可能になると気づき、そこから試行錯誤を重ね、徐々に初代”ユニーク”の原型となる形に近づいていったんです。

ー最初の”ユニーク”が完成するまでに一番の難関だったポイントはどこだったのですか?

ローリー:難関というよりも一番の大きな進歩だったのが、「ツーコードコンストラクション」と呼んでいる二本の紐を使用するという考えに辿り着いたことです。3次元で足を包み込む構造としたことで、自由な足の動きが可能となり、ようやく1つのゴールが見えてきました。でも実はそこから先が長かったんです。明確なアイディアが生まれた後からの実現に至るまでの工程が一番の難関だっと言えますね。

ー実際の開発期間はどのくらいだったのですか?

ローリー:およそ3年です。これまでの靴づくりとまったく異なるプロセスだったため、生産へと辿り着くのに想像以上の時間を費やしました。

ー自身がデザインした”ユニーク”のモデル名の由来はなんだったのですか?

ローリー:友人のマイクが名付けました。ブランド名の〈キーン(KEEN)〉を逆さまに読んで、頭文字に”U”をつけると”ユニーク(UNEEK)”になるんです。あとはいわゆる独特という意味合いのユニークと掛けています。それまでの制作期間中は”ストリングシューズ(紐の靴)”と呼んでいました。

消費者の意見を反映させたのが”ユニーク オーツー”。

ー多くの障害や苦労を乗り越えて製品化が叶い、待望の発売となった後の反響はいかがでしたか?

ローリー:まず社内での反応は散々でしたね(笑)。会議などで完成品を見せても、『クレイジー』って声がほとんどで、なかなか賛同は得られなかったですね。紐が切れてしまうのではという欠陥性や量産するのが不可能だという忠告も多かったのですが、そうした声も僕らは計算済みでした。欠陥性については科学的な根拠をもとに製品としての耐久性も証明していましたし、実際に発売してみたら、彼らの考えが間違っていたことがすぐに分かりました。そして社外、つまりは消費者の反応は、というと好きか嫌いかのどちらかでした。それについてはどんな商品も良いものには好きか嫌いかの意見が分かれるものだと思っていたので、全く気になりませんでした。

ー最初の”ユニーク”をリリースしてから改良を加えた部分などはありますか?

ローリー:細かい部分で沢山の改良を加えていますが、大きくは素材を変えました。特に現行モデルは足に馴染みやすい柔らかいものを使用しています。はじめの頃は紐を問屋さんなどから既製品を購入して使用していたのですが、街の反応や我々自身も実際に色々なシーンで履いてみることで、ストレッチ性や弾力などを加えるべき部分などが徐々に分かってきたんです。そしてあらゆる角度から紐というプロダクトに掘り下げていったことで、いつの間にか紐のスペシャリストと自負できるほど知見が深まっていました(笑)。

ーそんな”ユニーク”と、今回新たに発表された進化型モデルとなる”ユニーク オーツー”の大きな違いはなんでしょうか?

ローリー:”ユニーク”に関しては革新的なアイディアからスタートし、僕自身が履くことを想定して作り始めたモデルと言えます。しかし、新型の”ユニーク オーツー”は街の反応を反映した、消費者の皆さんのために作り上げたモデルなんです。元々の”ユニーク”が幅広なのに対し、さらに作り方に改良を加えたことでよりシャープなシルエットを実現しています。あとは”ユニーク”のデザインがオープンヒールなため、サンダルとして認識されることが多かったんです。なので”ユニーク オーツー”は、よりシューズ感を持たせるためにヒールを包みこんだデザインへと改良を加えました。また最大の改善点としては履き比べると歴然とする軽量化ですね。実際に履いていただければ、驚くほど軽くなっていることを体感してもらえるはずです。これらは全て消費者によるインサイト視点での改善なので、きっと満足してもらえるはずです。

ー”ユニーク オーツー”の開発前は、ここまでの出来栄えをイメージできていたのですか?

ローリー:全く思い描いていなかったわけではなく、ぼんやりとイメージはしていました。”ユニーク”に比べて、マーケットや消費者にとって最良のものを提供したいという思いは開発当初から抱いていました。

ー今後は、ご自身がデザインした”ユニーク”、”ユニーク オーツー”の両モデルをどう育てていく予定ですか?

ローリー:どちらのモデルにも言えますが、両輪を上手く稼働させながら展開できれば良いなと思っています。両輪というのは常に進化させていくということと、全く新しいものというアイディアも模索していきたいなと思っています。

ーでは、今もこの2モデルの改良を考えながら、全く新しいモデルの構想もあったりするのですか?

ローリー:会社組織にいる以上は、既存のものを進化させることと、新しいことを模索することは両立させなければならないと思っています。そしてそれ以上に私自身がひとつのものだけに携わっていると飽きてしまうんです(笑)。

ーところで〈キーン〉で仕事していくなかで、創業者の息子というプレッシャーはあったのでしょうか?

ローリー:若い頃は多少あったかなとも思うのですが、今はほとんど感じていません。別に父親のようになりたいと思ってもいなかったですし、僕自身もそれなりに自信を持っていたので。父は父、僕は僕というスタンスは変わっていません。小さい頃から両親に『自分の得意なものを伸ばし、その分野で世界一になれ』と教育されてきました。そうした環境もあって、特にプレッシャーを感じなかったのかもしれませんね。

人が驚くようなものを作り続けて、ポジティブなインパクトを与えたい。

ーちなみに〈キーン〉のなかでもデザイナーの名前を公表しているモデルは無いと思うのですが、なにか意図はあるのですか?

ローリー:それに関してはマーケティングの部署の人間に聞いてもらうしかないですね(笑)。僕個人としては、自分の名前を打ち出すという意図はなく、あくまでも商品が主役という認識です。ただおそらくは、この”ユニーク”を開発するまでのストーリー性がしっかりとあったからなのかなと思います。この数年間は”ユニーク”と共に歩み、今後も共に成長していくことになると思うので。

靴のデザイナーになりたいと思ったことは一度もなかった。

ーまたご自身は巷で「フットウェア界のジョブズ」と呼ばれていることについてはご存知でしたか?

ローリー:それは知らなかったです(笑)。スティーブ・ジョブズは雲の上のような存在なので、とても比較できるような人ではないです。でも同時に僕のヒーローでもあるので大変光栄ではあります。彼の本を読んだことで僕の人生が変わったと言っても過言ではないので。将来的にそういった存在になれたらいいなとは思っていますけどね。

ースティーブ・ジョブズ氏のように、他にもご自身と異なる分野の人から影響を受けることもあるのですか?

ローリー:むしろ靴業界だけではなく他の世界の人から影響を受けることの方が多いですね。例えば歴史上の人物であったり、医学や科学の分野の人などから学ぶことの方が多かったりしますね。なので競合となるブランドのこともそこまで意識することもないんですよね。

ー最後にブランドとご自身のそれぞれの今後の展望を教えてください。

ローリー:まず〈キーン〉の未来は明るいと思っています。素晴らしい企業というのはどこもそうですが、〈キーン〉には素晴らしい人材がたくさんいます。会社のDNAとしてスタッフみんながイノベーションと自由なマインドを持っていますし、世の中を変えていきたいという熱い思いで溢れています。僕自身に関しては、今後もデザイナーとして皆が驚くようなものを作り続け、ポジティブなインパクトを与えていきたいですね。それは靴に限らず形にとらわれることのない影響として与えていけたらいいなと思っています。

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