すべては生地が教えてくれる。
- —「PC SASHIKO」を発表してから約1年、まずは率直な感想を教えてください。
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「例えるなら、列車が駅をゆっくりと出発した感じですかね。5年の歳月を経て完成した生地ではありますが、長所短所や合う合わないなど、いまも勉強の連続です。もちろんお客様から教わることだってあります。もっともっと勉強しないと形にできない素材だなってつくづく思いますね」
- —刺し子って見た目のインパクトはもちろん、肌触りの気持ち良さや素材の風合いなど、とても奥深い素材だなと思います。
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「歴史がある生地ですからね。例えばお坊さんが生地の端切れを見つけて、それを無駄にしないっていうところから始まった説もありますし。破れちゃったけどお金がないから直して使わないといけない、つまり凌ぐこと、代々その生地を使わなければいけないっていうところから始まったとも言われています。刺し子ってそういう生地なんですよ。日本だけじゃなくてインドでもそう。いろんな国で昔からずっと受け継がれて来たもの。本当に奥深いですよね」
- —ポータークラシックと刺し子の出会いはどうだったのでしょうか?
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「我々の場合は、東北の庄内刺し子が最初です。もう衝撃でしたよ。世界中旅して見つけたんじゃなくて日本にあったんですから。こんなにすごい生地が日本にあるんだって。藍の色の経年変化だったり、誰かが糸と針でそれを後世に受け継いできたっていうその凄さですよね。すべてはそこからです。じゃあどうやってそれを再現して形にしていくかっていう。フレンチジャケットをつくってみたり、チャイナジャケットをつくったらどうなんだろうとか、逆に生地から教わることも多かったですね」
- —そこにブランドらしさを感じます。
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「ポータークラシックのものづくりってファッションじゃないんです。今シーズンはどうとかでもありません。大それた言い方かもしれませんが、ぼくらは文化をつくりたいんです。もちろんそこに歴史や尊敬、職人さんの努力があることを忘れちゃいけないですし、そういうことも引っくるめて、ものづくりの本質をちゃんと伝えていきたいと思っています。ただかっこいいだけじゃダメなんです」
ブラックには足していく良さがある。
- —昨年のインディゴに続いて今回発表される「PC SASHIKO BLACK」。そもそもなぜブラックだったんでしょうか?
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「好奇心、刺し子が黒になったらどうなるんだろうって。それにやっぱり黒ってクラシックだしパンクでもある、すごく可能性を秘めた色。なので難しく考えて辿り着いたわけじゃないんです。黒で表現できる面白いチャンレンジが待ってるんじゃないかっていうワクワク感みたいなのもありましたね」
左:PC SASHIKO STUDDED SINGLE RIDERS JACKET WOLF'S HEAD SPECIAL
右:PC SASHIKO STUDDED DOUBLE RIDERS JACKET WOLF'S HEAD SPECIAL
各¥180,000+TAX
- —やっぱりブラックもインディゴ同様、色が褪せていくことによる経年変化が大きな魅力ですか?
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「はっきり言いますけど、それはインディゴの特徴です。なぜかというと、インディゴの場合、刺し子特有のダイヤ柄に見られる色の濃淡が、奥行きをつくっているんですね。パッと見たときにのめり込んでいくような感覚というか。逆にブラックは、上に足していくんですよ。そうすることでさらに魅力が引き立つキャンバスだと思うんですね。例えば革と一緒に合わせたらどう見えるのかとか、スタッズを打つとどうなるのか、一本の赤い糸が刺したらどうなるのか、プリントしたらどうなるのかとか。生地の上に乗せるところが大きく違いますね。インディゴ生地の経年変化とは違う情緒があるんです。ブラックの場合、その上にあるパーツの経年変化とか楽しめます。今回プラチナのリベットを使用したベストやカバン、レディースジャケットありますが、それは年々輝きが増すでしょうね」
- —そういう意味では新たなチャレンジですね。
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「すごく面白かったですよ。生地のテストも何回もつくりましたし。もちろん色の都合上できないこともあります。逆にその方が学ぶことも多いというか、これがじゃあ黒い革やコーデュロイでも通用するのかと言われたら、決してそうじゃないんです。この黒い刺し子にしかできないことがちゃんとある。とにかく興奮しっぱなしでしたね」
希代のスタッズクラフトマンとつくるライダースジャケット。
- —その「PC SASHIKO BLACK」で今回、「WOLF’S HEAD」の幹田卓司さんと一緒にライダースジャケットをつくられたとか。
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「卓司くんとは長い付き合いで、ぼくがサンフランシスコの大学に通ってたときに、父と一緒に家へ遊びに来たことがあって。初対面だったんですけど、お土産にシルバーバックルのベルトをくれたんです。今も彼のお店に行くとあるんですけど、シンプルで品のある黒い革ベルト。とにかく嬉しくて、その出会いがものすごく印象的で。それから数年経ってからでしょうか、コムデギャルソンのファッションショーのスタッズベルトを彼が手掛けたっていうのを聞いたのは。そのスタッズを初めて見たときは感動しましたね。ちなみに今日ぼくがしているベルト、これ一個一個彼がスタッズを打っているんです。一本作るのに3ヶ月。彼はそれを20何年やっているんです。だからその凄みとか、ものに対する思い入れとか、仕事に乗っかるエネルギーとか、理屈じゃないです」
- —幹田さんとのものづくりは今回が初めてだそうですね。
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「彼とは飲み仲間でもあるし、一緒に遊ぶメンバーでもあるんですけど、何か一緒にものづくりをするっていうのは、パンドラの箱じゃないけど、完全にハマったときじゃないと彼に対して失礼だなと思いました。それでここまで日が経ったのかな。でも、ちょうど去年の年末、PC SASHIKOのお披露目の日に、卓司くんのお店で父とぼくの写真を撮ってもらったんです。奥山くんが撮ってくれたんですけど、それがつい先日写真集になって。そのお披露目の時に、ライダースジャケットのファーストサンプルを持っていって二人で打ち合わせして。その場では、こうしようああしようってあったけど、出来上がりは......こんなの見たことないっていう感動でした」
- —実際に出来上がったアイテムについて教えてください。
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「昔父に、紫ほど難しい色はない、ただ上品にハマった時は最高にかっこいいぞって言われたことがありました。今回ライダースのスタッズ見て、父の言葉を思い出しましたね。まさにハマってる。卓司くんのセンスに敬意を表し、ウルフズヘッドのネーム四隅に紫の刺し子糸使いました。スタッズの種類、色、打つ場所や間隔、何億通りとパターンあるなかで、何万通りとスタッズを打ってきた男が、これを選んだわけです。もう彼のセンスがね、何年も使ってないスタッズを入れたりとか、コンビネーションとか、表現の仕方やなんかが、この人スタッズで詩を書いてるなと思いました。品があってハデじゃないし子供っぽくない。彼がこれまで歩んできたものが表れてる気がして嬉しいですし、とにかく理屈じゃないなって思います」
- —少なくても多くてもいけないっていう。そのバランスはとても難しいですよね。
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「仮にスタッズを全体に入れていたら、いろんなお客さんが楽しめないですよ。それこそ一人しか買えないみたいなことになってしまう。でもこれだったらいろんな人の手に渡るというか楽しんでもらえる、そういう可能性を秘めているなって思うんです。さっき話していた、刺し子でチャイナジャケットつくれるとかフレンチジャケットつくれるとか、そこにつながってくると思うんです。スタッズではそういう表現するんだっていう。古着の文化、バイカー文化、革ジャン文化を熟知している卓司くんの、知識と経験と研ぎ澄まされたセンスが現れている気がするんです。もう綱渡りと同じですよ。一歩間違えると落っこちちゃう。このスタッズの打ち方はそういう感じです。そこしかないよねっていうのをしっかり歩いてくれてるというか。いろんな表現ができるんでしょうけど、この短期間でこれを見出したっていうのは、やっぱり彼が日本に誇るスタッズクラフトマンだからなんだろうなって思います」
ポータークラシックがいよいよパリへ進出!
- —そんな「PC SASHIKO」が、ついに2017年、日本を超えてパリに進出されるそうですね。
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「PC SASHIKOができたときに、単純にパリでこれ着て歩きたいよなって父と話していて。去年、実際に着てパリの蚤の市行ったんですよ。その時に周りの方にたくさん声をかけていただいて。我々がつくるものも、フランスの影響がすごくあります。そんな折、伊勢丹さんっていう最高のパートナーと出会って、PC SASHIKOをパリで展開するっていうのが決まって。もう感謝の一言に尽きますね。ぼくとしては、父が生きてる間にPC SASHIKOをパリで表現してあげるのが役目。打ち上げ花火じゃなく、ちゃんと向こうの方々に受け入れられるように完成度をあげて。日々勉強です。これは1年前も今も変わりませんね」
- —パリの人たちがどんな反応を示すのか、とても楽しみですね!
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「刺し子をエスプリでいじくった感じ。そこをしっかりと表現していきたいと思っています」
- —克幸さんの最後のライフワークとして打ち出した「PC SASHIKO」。インディゴ、ブラックに次いで、また来年以降も何かやらかしてくれるんじゃないかなって、個人的にはすごくワクワクしているんですが。
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「刺し子っていうのは次の世代、そのまた次の世代に受け継いでいくものなので常に考えています」