惹かれるのは手間が見えるもので、その魅力をプロダクトに載せたかった。
ー 今回のアイテムについて詳しく伺っていきたいんですが、デザインは拘束衣をそのままアレンジしたわけではなさそうですね。

NEXUSⅦ. × GENERAL RESEARCH STRAIT MACKINAW COAT ¥85,000+TAX
*10月発売予定

NEXUSⅦ. × GENERAL RESEARCH STRAIT MACKINAW COAT ¥85,000+TAX
*10月発売予定
今野:そうですね、最初からマッキーノタイプのコートをベースにしたいと考えていました。自分は古着が好きでいろいろ集めているなかで、ありきたりなピーコートの襟に飽きはじめていたんです。一方でマッキーノは上品だし、差別化もできるということで、気づいたらたくさん集まっていて。せっかくなら自分の好きな形状でやりたいなと思ったんです。
小林:アウトラインははっきりとあったよね。こういうのは絵型を描いてもあんまり意味がないんです。ベルトの幅とかつける位置をふたりで実際に置いてみながら探って。面倒だったと思うけど、何度もここに来てもらって、鏡を見ながらいろいろ話しましたね。

今野:この生地はウールのメルトンです。この生地に着地するまでに実は何度か変更してるんです。ヴィンテージのデメリットは厚くて重いというのがあって、それをいくらか軽減できないかなと最初に考えていました。それで薄くて軽い生地で最初つくってたんですけど、迫力に欠けてしまって、このベルトに負けてしまったんです。厳密にいうと4回変更してます。
ー いろはもともと2色の予定だったんですか?
今野:生地のスワッチを見てブラックとキャメルの2色にしました。
小林:このキャメルの色とショールカラーの相性がいいね。
今野:ネイビーも好きなんですが、その生地屋さんで扱っているのが青みがかったネイビーだったんです。これはぼく個人の好みなんですが、濃紺というか、黒に近いネイビーが好きなので、今回はこの2色をチョイスしました。
小林:第一次世界大戦あたりでアメリカ軍が使っていたような黒っぽいネイビーはかっこよかったよね。
今野:そうですね。黒なのかネイビーなのか見分けがつかないくらいの。生地屋さんとしてはきちんと棲み分けをするためにあえて青みを強くしていると思うので、それはそれで理解できます。
ー 生地を4回も変えたというのは、今野さんらしいこだわりですね。

今野:やっぱり服はあとに残るものだと思うんです。参考にしたこのコートも40年代頃のもので、着てた人やつくられた方は亡くなってたとしても、ものは残る。そうした責任も感じながらものづくりをするようになりました。この厚みでちゃんとした生地をつくっているところも日本だと限られているんですよ。
小林:生地屋にも変態がいないとできないよね(笑)。ロールだって重いし大変。

ー この生地があるからこそ、ベルトの存在感が強くなりすぎずにバランスよく収まるわけですね。
今野:生地に合わせてベルトの革の厚みやバックルなどを調整していきました。なので、生地を変えたタイミングで革屋さんに都度相談しています。その革屋さんは名古屋にあって、すごく信頼できるところなんです。元ネタの拘束衣はヌメ革を使っているんですけど、それとおなじだと割れやすかったりしてデメリットも大きいみたいで、革の薄さや鞣し方を調整していただいて、最終的にいまの形を提案いただきました。ヌメ革は経年変化が魅力なんですけど、やっぱり残るものがよかったので。
小林:そっくりそのまま同じにすればいいっていうもんじゃなくて、やっぱり全体のバランスを見てきちんと収まっているほうがいい。
ー 一方、このバックルはどういったものなんですか?
今野:これは鋳物で、拘束衣のものに似たバックルを選びました。
小林:この中一(なかいち)の鋳物のバックルは日本には昔からあってすごくポピュラーな金具なんです。内径の差がたくさんあるから、服の上に置いたりして、ベルトの幅を決めるのに都合がいい。おそらく元ネタはイギリスのなにかだと思います。
今野:欲をいえば、アンカーマークを入れたかったんですが鋳物なのでさすがに…。
ー 革を留めているリベットも印象的です。

今野:ここのポストに穴を開けて下からリベットを通すんですけど、出して余ったところをカットして、さらに上から潰して慣らすという作業をしていて、本当に手間がかかっています。
小林:もう最悪の効率(笑)。
今野:自分が工場で働いていたら、これはやりたくないですね(笑)。うちの生産のスタッフががんばっていろんな背景にあたってくれて。なかなかやってくれるところが見つからなかったんですけど、なんとか中国地方で引き受けてくれるところがありました。
小林:へぇ~! すごいね。どんなところ?
今野:カバンなどの資材をやっているところみたいです。服ではあまり知られていないかもしれません。

小林:服づくりの工程だとリベットをかしめる作業はないもんね、ふつう。かしめられる人も少ない。ぼくが〈ジェネラルリサーチ〉でやってたときも、大阪の工場が引き受けてくれて、そのためだけにわざわざ生産ラインを組んでくれた。そういうのはつくってくれる人の柔軟性や、デザイナーに対して入れ込みがないと絶対やってくれないんだよね。高い工賃を払ってもそうそう受けてくれないと思う。
今野:手間も時間もかかるし、工賃に見合わないことが多いですよね。うちの服は本当に面倒くさいことが多くて(笑)。だからこれをやってくれるところが本当に見つかるかずっと懸念していました。うちの生産のスタッフも小林さんのブランドが好きで、なんとかしたかったみたいなんです。
小林:今野くんが話を持ってきてくれたときから、この部分は探すのが大変だっていう話をしてたんですよ。でも、いま仕上がりを見たらもっと手間のかかるやリ方でやってるから、すごいよ!

ー リベットも含めてこのベルトは、このアイテムの顔ですもんね。
今野:自分が惹かれるのはやっぱり手間が見えるもので、なんとかその魅力をプロダクトに載せたいなと思っていて。語弊があるかもしれないんですけど、いまって結構簡単に服がつくれる時代じゃないですか? でも、効率だけを求めていると、むかしできたことがいまできないという事態も起こりえます。だからなおさら自分もギアを上げないといけないし、コラボレーションの重みといいますか、小林さんのものづくりの姿勢も背負ってやらないと失礼だなと思ったので、ここはきちんと着地したかったんです。本当にいろんな方に感謝しないとですね。
小林:いや、ジェネラルのやつよりもこっちのほうが全然迫力があるよ。はっきりと越えている!