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トラディショナルなデザインをベースに、機能美に溢れたディテールワークで男らしくもどこかに遊びの効いたコレクションを展開する〈キャプテン サンシャイン(KAPTAIN SUNSHINE)〉の児島晋輔氏。ハンティングやミリタリーなどのユーティリティウエアに造詣が深い氏がデザインした1着はミリタリーのシャツジャケット。ブランドの背景を視野に入れつつ、異なる角度から〈ビッグヤンク〉の魅力を引き出すことに成功した。
ビッグヤンクの意外なルーツに注目したミリタリーシャツ。
- —まずは〈ビッグヤンク〉というブランドを知ったきっかけを教えてください。
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児島:詳しくは覚えていませんが、その名前を知ったのはネルシャツだったと思います。王道の〈ビッグマック〉に名前が似ていることもあって気になって。それからハーフジップのネルシャツなど、個人的にも色々と〈ビッグヤンク〉のアイテムを手に入れてきました。特に思い入れのあるアイテムは、民間用に作った山ポケットのCPOシャツですね。
- —それはかなり珍しいアイテムですね。〈ビッグヤンク〉といえば、山ポケットやガチャポケットに象徴されるアイコニックなディテールですが、いつ頃から意識しましたか?
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児島:2000年入ってからだったと思います。ただ、詳しい年代や知識などはありませんでしたね。全体の雰囲気や縫製仕様などでなんとなく年代を捉えていた感じです。その後、サーティファイブサマーズさん(編注:今回のプロジェクトを手掛ける〈ビッグヤンク〉の日本代理店)が〈ビッグヤンク〉を実名復刻してから、そのプロダクトを通して色々なことを知ることができました。ですので、欣児さん(編注:サーティーファイブサマーズ代表の寺本欣児氏)の存在が大きいですね。
サーティーファイブサマーズが今も定番モデルとして展開する山ポケットのシャンブレーシャツ
- —今回の企画についてお伺いします。ブランドのルーツを踏まえたデザインに定評のある児島さんですが、作ったものはいわゆるワークウエアではないですよね?
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児島:最初にこのお話を頂いて、改めてサーティーファイブサマーズさんが作っている定番のラインナップを見たんですが、この完成度を見てしまうと、自分がその手のワークシャツを作る意味はないなと。それで担当の淳さん(編注:プレス担当の信岡淳氏)と話していると、〈ビッグヤンク〉の親会社であるリライアンス社が軍への支給品を生産するコントラクターだったという話題になって。ミリタリーウェアは耐久性も考慮するので、当時多くのワークウエアメーカーがコントラクターを務めていたんです。その後、40年代頃の雑誌に掲載されていた〈ビッグヤンク〉のミリタリーウエアの広告を見せてもらい、先ほど言った山ポケのCPOシャツの存在も手伝ってミリタリーの方向性を固めました。
アメリカ陸軍に支給された1940年代製「M−43」シャツに付けられたネーム。コントラクターとしてリライランス社の名前が記載されている
40年代の雑誌に掲載されていたリライアンス社のAD。描かれたイラストから<ビッグヤンク>が当時ミリタリーウエアを作っていたことが確認できる
- —マイナーモデルである「M-43」というのがいいですね。
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児島:この2ポケットのデザインが好きで個人的にも持っていたんですね。実際にリライアンス社製の「M-43」も見せていただきましたが、ワークウエアメーカーということもあり、工場背景も含めてフライトジャケットよりもコットンユーティリティウエアなどをけっこう手掛けていたんでしょうね。
上質な素材をあしらい、リバーシブル仕様にして大胆にアレンジ。
BIG YANK × Shinsuke Kojima(KAPTAIN SUNSHINE) 1943 RIP-SHIRT JACKET ¥87,000+TAX(SUKUMO AI)、¥40,000+TAX(OLIVE、WHITE)
- —シャツジャケットというのが児島さんらしいと思いました。素材も表情があっていいですね。
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児島:気分的にもシャツジャケットが気になっていたのと、シーズン的にも春夏なのでちょうどよいかと思いまして。そこで自分がやるからには生地にこだわろうと思い、元ネタになった「M-43」に使われているヘリンボーン生地よりも薄手にした、弊社オリジナルのリップストップ生地を使いました。
- —世に流通しているリップストップとはどこが違うんですか?
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児島:まずはエジプトの超長綿を使っていることですね。よく〈キャプテンサンシャイン〉でも使っているフィンクスという糸で100/2の細番手を出来るだけ高密度に打ち込んでいます。本来のアメリカンなゴワゴワとした生地感も好きなんですが、あえて逆のアプローチで作った生地です。
- —100/2というとワークやミリタリーではあまり使わない、ハイグレードな糸ですよね。
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児島:そうですね。このフィンクス原料を使うと光沢感と独特のぬめりと艶やかな光沢感が出ます。薄いんですけど打ち込み本数が多いのでハリ感もあり、個人的に好きな生地なんです。
- —デザインのポイントは何ですか?
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児島:リバーシブル仕様にした点です。もともとは製品染めのミリタリージャケットをやろうと思っていたのですが、ウチのリップストップに太番手を使ったワークシャツの縫製仕様と製品染めの相性が思ったよりもよかったんです。ファーストサンプルを見た時に、裏側の雰囲気がよくて、歴史的にも袖高のユーティリティシャツが存在するし、これならリバーシブルでもやれるなと、理屈を結びつけ(笑)仕様変更してもらいました。表はミリタリーの2ポケットですが、リクエストされていた〈ビッグヤンク〉らしさを意識して内ポケットを〈ビッグヤンク〉ポケットに変更したお遊びが、さらにはリバーシブルに昇華してしまったという感じでしょうか。同ブランドののアイコンである山ポケットを使っています。僕はワークウエアのコレクターでもありませんし、正統なことをやっても仕方ないなと思って。
比翼仕立てで表情豊かになった裏面の襟元。ステッチ周りに出たパッカリングが味わい深い雰囲気を醸し出している
裏面の胸元に施された〈ビッグヤンク〉のアイコニックな意匠。左には山ポケットを、右にはペン刺し付きポケットをそれぞれ配した
- —これはおもしろい発想ですね。シャツジャケットでリバーシブルって珍しいですよね。
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児島:なかなか作らないと思いますよ(笑)。運針も少し大きめの巻き縫い裏チェーンステッチの縫製だから、染める事でパッカリングして、裏で着ても絵になるんですよ。裏の山ポケットは、表のポケットが大きいので縫製が見えないですし、一見わからないのもポイントです。着地点は意識しながらも気分を盛り込ませていただきました。
日本の伝統的な染織・藍を施して和洋折衷のワークウエアを表現。
- —カラー展開も興味深いですね。オリーブドラブ、ホワイトのほかにネイビーでしょうか?
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児島:ネイビーではなくて、実は本藍染めなんですよ。徳島を拠点に藍染め活動を行う〈ブアイソウ(BUAISOU)〉さんにお願いして染めてもらいました。この〈ブアイソウ〉さんは若い方々が集まったユニットなのですが、自分たちで藍の栽培から収穫、乾燥、すくも(蒅)作りから、藍染めまでを一貫して行うという活動をしていて、ニューヨークにもショールームを持っているんです。自分も現場にお邪魔してその工程を見てきましたが、実に丁寧な仕事をされていました。お陰さまで良い本藍染の風合いが表現できましたね。
一際目を引く色鮮やかな本藍染は、いま注目のユニット〈ブアイソウ〉が手掛けている
- —藍染めは洗濯すると激しく色落ちするイメージがありますが…
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児島:本藍染めって本来はそんなに色移りするものではないんですよ。特に〈ブアイソウ〉さんは仕上げの洗い込みにこだわりをもっていて。それこそ1週間程かけて洗っているので、色落ちの心配はさほどありません。本藍は着込むほど、洗い込むほどにどんどん色が鮮やかになっていくのも魅力です。合成インディゴとは異なるその味わい深い表情は新鮮でおもしろいですよ。
- —そもそもなんでまた今回の企画で藍染めに挑戦されたんですか?
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児島:〈ビッグヤンク〉がアメリカのワークウエアブランドということもあり、同じワークつながりで作務衣などの日本古来の作業着に親しまれてきた藍を一つの要素として入れたかったんですよね。それと、このオリジナルのリップストップと藍の相性がいいことはわかっていたのでトライしてみました。結果としては大成功ですね、その出来には満足しています。インディゴやデニムとはまた違った、アメリカにはない日本ならではのブルーですよね。
- —今回企画したアイテムですが、児島さんならどのようにコーディネートしますか?
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児島:個人的には裏をメインに着ますね。作っているうちにどんどんと盛り上がって、裏が主役にみたいな感覚になってきまして(笑)。スプリングジャケットとして着られるように、ほどよくゆとりのあるサイジングにしているので重ね着も楽しめます。
- —最後に、今回の企画に参加した感想をお聞かせください。
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児島:今回の企画は当初の予定からサンプルを追うごとに変化してゆき、どんどんと偶然と歴史や背景が結びついて新しいデザインに生まれ変わりました。結果としてこういったアイテムが出来上がったのが面白かったですね。