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ロンドンに住まう若者たちの肖像 PORTRAIT IN LONDON VOL4.点子 学生

ロンドンに住まう若者たちの肖像 PORTRAIT IN LONDON VOL4.点子 学生

EU離脱に揺れた昨年の英国。その時々の情勢によって多少の違いはあれど、いつの時代にも首都ロンドンにはあらゆる人種が集まり、様々な文化がうごめいています。これより激動の時代に入るだろう英国において、いまロンドンにはどんな人々が住まい、何を思い、どんなことをしているのか? 2016年より現地に滞在しているフォトグラファー、野田祐一郎によるロンドンレポートの第四弾です。

  • Photo & Interview & Text_Yuichiro Noda
  • Edit_Ryo Komuta
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点子

ー自己紹介をお願いします。

点子:点子です。ロンドンに住んでいて大学に行ってます。「Central SaintMartins」の「CULTURE, CRITICISM AND CURATION」っていう長い名前の学部。もともとはベルリンで生まれ育って、高校と中学は東京、そして1年ちょっと前からロンドン。20歳。

ーどんなことを勉強してるんですか?

点子:美術歴史とか美術学、あとキュレーション。新しい学部で、BA(学士課程)では世界に1つしかないの。でも美術歴史だけじゃなくて、哲学者とかに関してのアイディアを深めて、色んなエッセイを書くことも多いかな。ファッションとか、アート、政治、音楽、映画なんかを全部含めて習うから、色んなことがリンクしていてすごく面白い。私は1つのことだけに注目したいわけじゃなくて、全体的にいろいろ好きなので、パーフェクトなコースだなと思って受けたの。

ー1年通ってみてどうですか?

点子:たくさん色々なことを習えてるし、先生もすごくいい人たち。先生はみんなアーティストとかキュレーターで、他の仕事でキャリアがある人たちばかりなのがいい。図書館もすごくいいし、カメラとかコンピューターもすぐに借りられる。あとダークルームも使える。とにかく学生にはとても良く作られてるので、それをちゃんと利用できるように頑張ってる。ただ、学校自体のイメージがすごくいいからか、それだけで通ってる生徒もいるし、なんでこの人たちは通ってるんだろうって子もたくさんいる。イメージがいいのはいいけど、実際に中身が追いついているのかなっていうのは、たまに思う。私のクラスには、面白いなって思う人は誰もいない。なんでかはわからないけど、仲良くなれるなって子はいない。大学に行ったら、みんな同じことが好きで勉強しに来てるわけだから、みんな同じ考えを持ってるんだろうなって期待してたけど、全然違った(笑)。考えも浅いし、好きなものもすごいダサいし、意味不明な人たちがいっぱいいるんだよね(笑)。でも、他の学部の人とミックスするいいチャンスだなとは思う。ファッションもアートもフォトグラフィもあって、面白い人たちは学校の中にはいるから、そういう人たちと出会えるのはいいなって思う。

ー日本で中学・高校に通ってましたが、教育の違いは感じますか?

点子:全然違う。最初にドイツで小学校に行って、次に日本に引っ越したときに違いをすごく感じた。なかでも保健の授業が一番びっくりした(笑)。50年代なのかな?っていうようなテキストで。例えば麻薬の話だと、マリファナもヘロインも全部同じだからって書いてあって。マリファナをやったら死にますっていうふうに書いてあるし、マリファナを吸った人の手紙とかも載ってて、それがすごいバカで。絶対嘘なんだよね(笑)。全部ひらがなで「ぼくはまりふぁなをすってなにもできないんです」って書いてあって、それがすごく面白いなって。あと、保健の男女別々の授業で、女の子は男の子とリレーションシップしたいときに感情的だけど、男の子は女の子とリレーションシップするときは肉体的なんだってことがテキストに書いてあるの。それをテストでも書かないといけないの。肉体的、感情的って書かないといけないの。そんな風に習ったら、もしもっと感情的な男の子だったら、僕は何か間違ってるんじゃないかって思っちゃうし、そんなこと習っちゃいけないと思う。それで、男の子のことを嫌いになっちゃう女の子もいるだろうし。テキストに書いてあったら本当にそれを信じちゃう人もいるし。あと、女の子は結婚の後にしかセックスしたくないけど、男の子はその前にしたいとか。そういうのはステレオタイプだし、テキストに書くようなことじゃないのに、テストにも出るし本当じゃなくてもそうやって答えないといけない。私がそう思ってなくても。すごい変だなって思った。先生もそれは本当じゃないってわかってるんだろうけど、教科書に書いてあるから、テストに出さないといけないってなってて。

点子:教育のシステムに先生の意見を取り入れられないってすごいなって思う。政治が教科書を作って、それに沿っていかないといけないっていう。ナンセンスだと思う。一人歴史の先生でクールな先生がいて、日本が中国に対してやったこととか、満州でやったこととか全然テキストには書いてないんだけど、彼はそれを教えてくれた。ちゃんとしてる先生だった。でも自分でも「日本の教育システムのなかで、僕みたいな人間が教えるのはすごく難しい」ってよく言ってた。そういうプロパガンダみたいなものは、どの国でもあると思うし、本当のことは全部習えないと思う。とにかくどれだけ偉大なことをやったんだってことばかり習うの。でも、ドイツの教育システムのなかでは、ヒトラーのこととかユダヤ人に対してやったことは、本当にすごくすごく悪いことだったんだって、みんな習うの。ドイツのすごいところは、おじいちゃんやおばあちゃんがしてきたことでも、すごく悪いことをしてしまったんだなってちゃんと認めてて、みんなわかってること。なぜなら教育でそれをちゃんと学ぶから。ドイツでも全部がそういう感じではないと思うけど、ユダヤ人のことに関しては「ごめんねごめんねごめんね」ってことしか習わない。

ードイツ、東京、ロンドンと住んでみて、自分のホームはどこにあるような感覚ですか?

点子:うーん、すごく難しい質問だけど、意外とロンドンかも。ロンドンはホームだって感じる。なぜかというと、まずロンドンって誰がどこから来ても、ロンドンに住んでたらあなたはロンドン人だってなるの。日本に住んでたときは、いつも外人扱いされた。そのことでいいこともあったけど、日本人だけど、ドイツ人とのハーフだからハーフだよねって。ドイツでもドイツ人じゃなくて、あなたは日本人だねっていつも思われてた。でもロンドンに来たら、長い移民の歴史がある国だからそういうことがなくて、外人扱いされない。それはすごいなって思った。だからそういう意味では、初めて自分が外国人んじゃないなって感じるのはここかな。あとは、親と離れて自分で住んでるからっていうのもある。初めて自分がやりたいように家を作れるっていうのは、ホームだなというのもある。

ー初めて親元を離れて1年間暮らしてみて、どうですか?

点子:楽だなって思う。もちろんお母さんをすごく恋しいと思うけど、ずっと狭い家に一緒に住んでて、19歳とかになると結構辛いんだよね。だから楽だし、こっちに来てお母さんと離れた方が関係性もよくなった。前はいっぱい喧嘩してたから。今はすごい普通に話せるのがいいなって思う。でも、何か早かったなとか、もう戻らないんだなとかいうのを考えると哀しいよね、センチメンタル。あと、もっと前の方が自分自身のことができたかもしれない。前は全部お母さんがやってくれてたし、ご飯作ったり。でも、今は色々同時に考えないといけないから、意外と疲れる。考える暇がないんだなって思う。多分慣れたら楽になるんだろうけど、まだこっちに来てそんなに経ってないから。

ー日本の同世代についてどう思う?

点子:難しいよね…。私が日本に住んでたときは、高校の友達はあんまりいなかった。いても、私が合わせないとあんまり会話ができないというか。大人の友達がほとんどだった。それは私がちゃんとシーンを見つけられなかったからかもしれないし…なんだろうね。でもベルリンにいたときも、すごく仲のいい友達というのは少なかった。多分、私の教育とか私の育ってきた環境が、他の友達とちょっと違ったから。だから日本の同世代がどうっていうよりも、そもそも環境が違いすぎて友達を作るのが難しかった。日本にいたときは自分がいたシーンがファッションシーンだったから、そのなかで友達を作ってた。ロンドンの方が友達はできたね。こっちも年上がほとんどだけど。ロンドンはもっとアート寄りというか。ファッションの友達もアート寄りのファッションだから話が合って嬉しい。あとこっちに来てる日本人の人達も、変わった人が多くて面白い。ロンドンにグラマラスなイメージを持ってる人もいるかもしれないけど、実際は逆。すごいアングラだと思うんだよね。友達じゃなくてもロンドンに住んでるだけで、なんとなく同じこと考えてるよねっていう親近感がある。

ーイギリスのEU離脱はどう思いますか?

点子:決まったときは、これは全部ドミノ倒しみたいになるなって。でも、メイクセンスというか、ショックではなかった。今ヨーロッパで起こってることは全部そっち方向だし。あんまりまだ実感できないけど、2年で本当にそうなって、あと1年半で卒業したあと、ここに住めなくなるなら別に住みたくない。住んでほしくないなら…。ただすごく悲しいとは思う。そういう風に考える人がたくさんいて、そっちが勝つなら。でもそう考える人たちは、多くが老人だったりもするし、いつか自分たちのジェネレーションが大きくなったらまた変化すると思うし、そういう考えがなくなっていくとは思う。今は私の人生にあんまり関わりがないから、私自身が悲しいとかはないけど、他の人たちが可哀想だなとは思う。ロンドンに仕事するために来て、お金を家に送ってる人とか、その方法しかないのにキックアウトされるのは、なんでそこまでいかないといけないのかなって思う。私自身は東京にもベルリンにも住めるし、ヨーロッパの他の国にも住めるから甘やかされてるけど。イギリスはすごくミックスされてる国だから、それがなくなるっていうのは考えもつかない。

ー卒業後のことは考えてますか?

点子:まだ全然考えてない。考えても意味ないと思う、どうせ変わるから(笑)。

ー休みの日は何してますか?

点子:ロンドンは毎日のように何かしらあるから、たまには今日は何もしないでいようって日を考えないと疲れちゃう。オープニングイベント、友達のパフォーマンス、映画、ライブ、あとはクラブとか。とにかくすごいいっぱいある。やっと好きなシーンが見つかったから楽しい。金額もフリーとか£2ぐらい。学生のために作ってたりするから、そういうのはすごく楽しい。

ーロンドンの好きなところは?

点子:いつもつねに面白いことが起こってること。あと、外人扱いされないのは初めてだから、すっきりする。人種がミックスされてることにみんな慣れてるなって思う。ベルリンもミックスされてると思ってたけど、ロンドンに来たらベルリンは全然されてないなって思った。あとはスーパーに行くと、色んな国のものが買える。お料理好きだから、なんでも買えてなんでも作れるから、それはすごく好き。日本のスーパーも素晴らしいと思うけど、外国のものを買おうとするとちょっと高いよね。あと、ロンドンはフリーのミュージアムがいっぱいあって素晴らしいと思う。みんなに見せたいなって気持ちがすごくあるんだなって思う。

ー反対にロンドンの嫌いなところは?

点子:物価が高いなと思うことは、よくある。家賃とか電車とか。もっと安くてい いのにって思うものが、すごく高かったりする。あと、もっと大人なことをやりたいなってときは、すごく高いなって思う。例えば「ロイヤルアカデミー」でコンサートを観るとか。それと、私が知らないだけなのかもしれないけど、美味しいレストランがあんまり無いような気がする。あと、すごい嫌なのは、医療がちゃんとしてないこと。基本的に無料なんだけど、その代わりちゃんとしてない。だったら少し払うから、ちゃんとして欲しいなって思う。

ー日本の好きなところは?

点子:いっぱいある。まず美味しいものが多い。それにみんなすごく親切で、つねにリラックスできる。あと安全な感じがする。家族もいるしそれもほっとする。あと、温泉とか日本のお水の感じがすごく好き。ロンドンだと髪の毛とかすごくパサパサして。日本のクオリティオブライフはすごくいいと思う。

ー日本の嫌いなところは?

点子:政治はすごく悪いなって思う。さっきの教科書の話にしてもすごくルールされてるし、政治も人をルールするのが好きだから、人を馬鹿にしてしまうじゃないけど、シャットオフして、こう考えなさいってなってる国だと思う。日本ってメディアで色々書きたいとか言いたいってことも、言っちゃいけないってルールがたくさんあってカットされるし。安全なのはいいけど、人に嘘ついたり、騙したり、パニックになるから言っちゃダメみたいなことがいっぱいあってびっくりする。福島のことだって、本当のことが言われてなかったし。それはみんなのせいじゃないじゃん、みんな考えることはできるのに。みんなを政治の方に向けさせないようにしてるよね、わざと。

ー今、自分自身で何かやってるプロジェクトはありますか?

点子:ロンドンに来て、何かを作るっていうのが難しかった。ずっと家を作ってる感じがして。でも、イベントをやりたいなとはいつも言ってる。ロンドンに来て色んな面白いアーティストとかパフォーマーと出会ったから、オーガナイズしてスペースを見つけて、人を呼んで、何かやりたいと思ってる。人と人を繋げたり、それを見せる場を作ったりしていきたいなって。日本でも友達とお正月にイベントをやる。カラオケのルームを借りて、そこを使ってやろうって。

ーオーガナイズしてて、何が楽しい?

点子:自分が好きなアーティストを見つけて、見せられるから。例えば、エキシビジョンとかに行って、これ嫌いだなって思うときがあるけど、自分が全部やったらいい感じになるから。あと前からそうだったけど、人と人を繋げるのがすごい好きで。関係ない友達を会わせて、みんなで何かやるのが私はすごい好き。私がこの人いいと思うなら、友達もみんないいと思うでしょって。

ー留学したいなと思ってる子達にメッセージをお願いします。

点子:ロンドンに来たらいいと思う。全然怖がらなくていいと思う。ロンドンはみんな色んな国から来てるから、別に「日本から来たんだ、大丈夫?」なんて誰も思わないし、逆に興味持たれる。日本から出るのがすごい難しいと思うのは、ご飯が美味しいとか、いいところがいっぱいあるから。そういうことに甘やかされてるから、ロンドンに来たら悲しくなっちゃうのはすごいあると思うな。それは心配。全然外国を知らない人で、ずっと日本で住んでて、急にロンドン来て、この寒くて暗い冬で、ビーンズとか食べないといけないのはすごく落ち込むんだろうなと思う。でも、楽しいこともある。

ー未来については、どんなことを考えてますか?

点子:このままじゃいけないって考えてる。どうやってそれを変えていくのかなって考える日が多いよね。社会的にいえば、今はいい方向に行ってないのはわかるし。でもそれは、私の周りの人はみんなわかってる。だから安心だし、そういう私達みたいな人がいっぱいいて、どんどんみんなこっちに来なさいってなるのかなって。人は悪い方向に行かないと、何かやるぞ!ってならないから、面白いことはこれからいっぱい生み出されると思うんだよね。日本もそうだと思う。今まではすごい平和だったから、みんなぼんやりしてきたのかもしれないけど、これからはもっと政治に興味持つ人がいっぱい出てくると思うんだよね。

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