その道の識者9名が表現する、新しいビッグヤンクのかたち。 CASE6_長谷川 進(吉田カバン 企画)

BIG YANK The Third Edition 2nd Collection

その道の識者9名が表現する、新しいビッグヤンクのかたち。 CASE6_長谷川 進(吉田カバン 企画)

2016年の春夏よりスタートした〈ビッグヤンク(BIG YANK)〉の『ザ・サードエディション』のセカンドコレクションが発表された。これは2011年に実名復刻を果たした〈ビッグヤンク〉が、様々なジャンルのクリエーターたちとコラボレーションしたコレクションで、洋服のデザイナーはもちろんのこと、ミュージシャン、理容師、古着屋オーナーなど、バラエティに富んでいる。前回は5人であったが、今回は9人にスケールアップ。各々が感じる〈ビッグヤンク〉の魅力を引き出したプロダクトは、インラインのワークウエアにはないものばかりだ。その全貌を参加したクリエーターのインタビューを通して解析していこう。

  • Photo_Toyoaki Masuda
  • Text_Shuhei Sato
  • Edit_Yosuke Ishii
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長谷川

今回の『ザ・サードエディション』では、カバン業界の実力派デザイナーも参戦。長谷川さんは、日本を代表するバッグメーカー「吉田カバン」の企画部でディレクターを務める人物。自社レーベル〈ポーター(PORTER)〉の定番モデルをはじめ、数々の有名ブランドとのコラボレーションも手掛けています。そんな長谷川さんが今回提案したのは、シンプルながらも機能美に溢れたシャツです。バッグデザイナーならではの視点に注目し、そのこだわりを伺いました。

写真集を通して知った、ワークウエアの魅力

ーまず始めに〈ビッグヤンク〉を知ったきっかけを教えてください

長谷川:自分が「吉田」に入社した当時、先輩方から資料としていろいろな写真集を教えてもらったんです。そこでウォーカー・エヴァンスの写真集に出会って、ワークウエアのかっこよさに改めて気付きました。世界恐慌時のドキュメンタリー写真なので、決してハッピーな感じではないのですが、ワークウエアの着こなしが本当にかっこいいんですよ。じっくりと見ていくと、チンストラップのワークシャツなんかをリアルに着ているんです。そこで戦前のワークウエアの意匠が個性的であることがわかって。その延長線上に〈ビッグヤンク〉があったという感じですかね。当時は古着屋さんに行くと、まだその手のチャンジボタンのカバーオールやチンストラップ付きのワークシャツなんかが安く手に入ったんです。

アメリカの写真家、ウォーカー・エヴァンスの写真集『The Museum of Modern Art』。1971年にニューヨーク近代美術館(MOMA)で開催された回顧展に合わせて刊行されたもの

ー情報が少なかった時代だからこその恩恵ですね。どれくらい前の話ですか?

長谷川:自分が入社したのが19歳の時で、80年代中盤くらいですね。でも安く買えたのは数年でしたよ。その後はいつの間にか古着屋さんのショーケースに入っていました。カバンだけでなく、洋服もサンプルとしていろいろと買っていたんですが、戦前のワークウエアは作りが本当に丁寧ですよね。〈ビッグヤンク〉がやっていることは、本当に大変なことだと思いますよ。生産効率なんかを考えたら、こんな細かいことは普通しませんから。

ーものを知っている長谷川さんが言うと説得力がありますね。〈ビッグヤンク〉の特にどの辺に惹かれましたか?

長谷川:この話を頂いた後に、打ち合わせで〈ビッグヤンク〉のアイコンになっているシガレットポケット(山ポケ)の当時のデザイン画を見せてもらったんです。我々が通常書いている指示書よりも細かくて驚きました。実際に人が指を入れて使うことをイメージしたデッサンが細かく描かれていて、本当に感心しましたね。ファッション性も大切ですが、ワークウエアは道具としての強度や使い勝手などの機能性の方が断然重要です。だから当時のワークウエアは道具のひとつとして考え抜いてデザインしている。そこの部分はカバンに通じることで非常に共感できましたし、刺激をもらいましたね。

考え抜かれたディテールを、さらに現代的にアップデイトさせた”ビッグポケット”。

BIG YANK × Susumu Hasegawa(YOSHIDA & CO.,LTD.) 1942 BIG POCKET ¥20,000+TAX

ーそこから今回の企画に反映された部分などはありますか?

長谷川:細かく描かれたデザイン画を見て、シガレットポケットの魅力に気付きました。だからこのポケットは絶対に生かしたいなと。使ってみるとよく解りますが、ポケットの中にものが入るようにマチが採られていたり、またそのマチを下から押し上げると中のものが取り出しやすくなっていたり。山ポケットの形状も、実は片手でボタンの開け閉めがしやすいように工夫されたものなんですよね。アメリカって大雑把なイメージがありますが、実はビックリするくらい考えて作っているんです。

ー山ポケットの意匠はデザイン的なイメージが先行しますが、ちゃんと実用に基づいたデザインだったんでね。今回長谷川さんが作ったシャツは、ポケットのサイズが通常と違いますよね?

長谷川:それが今回の企画の最大のポイントですね。これだけ素晴らしい機能美に溢れたポケットを自身のライフスタイルに合うようにモディファイさせてもらいました。まずは自分がメガネを掛けているので、それがすっぽりと入る深さ、幅は愛用している「吉田」の手帳に合わせています。またペンを使うことが多いので、ペン挿しも付けています。iPhoneも入れることができますよ。

実際に愛用しているメガネと手帳がポケットに収まるように、ミリ単位で寸法を合わせている

片手で簡単にボタンの開け閉めができる山ポケット。大きめに設計されているので、メガネも優に収納できる

ー少し話が脱線しますが、長谷川さんが用意した指示書に驚きました。丁寧に細かく書き込まれていて…

長谷川:お恥ずかしいのであまり見せれませんが、これはバッグのパターンを引くときに使う方眼用紙です。いつもこの方眼用紙を使って企画を進めるので、今回のシャツの仕様もこれに書いて指示させていただきました。特にポケットのサイズには注意しましたね。

方眼用紙に描いたポケットのパターン図。まるで設計図のように細かく指示されている

ーところで、今日持ってきて頂いたジャケットはなんでしょうか?

長谷川:これはシャツを作る時に生地サンプルとして用意したUSネイビーのサマーフライトジャケットですね。1940年代に支給されていた「M-421A」になります。

第二次世界大戦当時、USネイビーに支給された「M-421A」。夏向けに開発されたコットン製のフライトジャケットで、通称”サマーフライト”と呼ばれる

ーまた通な飛行服ですね。これは私物ですか?

長谷川:そうですね。ただ、洗濯したらバラバラになりそうなので怖くて着ていませんが(笑)。今回の企画では生地の見本として使っています。シャツにはこれだと生地厚なので、もう少し薄くして光沢感のあるものを選びました。

機能美を体現したシンプルなシャツ

ーどのようなシーンでこのシャツを着ることを想定しますか?

長谷川:日常に着ることを意識したので、いわゆるワークウエアよりも着丈は短めにしてもらっています。あと台襟を少し低くして、自分の好みに仕上げました。ちょうどいい薄さの生地なので、暖かい時期は1枚でいいですし、冬はインナーにしてもいいと思います。ポケットはメガネに限らず、ゴツめのサングラスなども入るように設計していますから、クルマを運転する時も便利かなと思います。手帳のほかにパスポートも入るので、海外に行くときも便利かもしれません。

ー他にポイントはありますか?

長谷川:感心したのがストームカフスですね。仕事中に腕まくりをするので、このディテールは非常に便利ですね。〈ビッグヤンク〉は、本当に細かいところまでこだわってデザインしていることがわかります。こういった機能的でシンプルなことって、なかなかできませんよ。

袖口に開きがないストームカフス。カフスを短めに採っているので、袖を捲り上げたときに綺麗に収まる

ー機能美を追求する長谷川さんだからこそ、産みの苦しみもわかると。

長谷川:〈ビッグヤンク〉の山ポケやガチャポケ、ストームカフスなどは、見れば見るほど、使えば使うほど、本当に考えられているディテールだと感心します。どれも片手でクイックに操作できるように配慮されていますし、取り出しやすさも計算している。ひとつカバンと違うのは、人体に身につけるものなので、内側にへこむことも考えている点ですかね。カバンにそういう前提はないので、また考えるアプローチが違うんです。そこも含めて、今回はいろいろな発見ができて、楽しい仕事でした。

長谷川進

「吉田カバン」企画。専門学校生の頃から〈吉田カバン〉でアルバイトとして働き、1984年に正式入社。現在は企画部のディレクターとして〈ポーター(PORTER)〉などのデザインを統括する傍ら、様々な企業やブランドとのコラボレーションも担当。90年代からその人脈を活かし、様々なヒット作を生み出してきた、カバン業界のヒットメーカー

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