CLOSE
FEATURE | TIE UP
PUNPEEが語る “コロナ禍におけるクリエイティビティ” とは。
NEW EP “The Sofakingdom” RELEASE

PUNPEEが語る “コロナ禍におけるクリエイティビティ” とは。

前作『MODERN TIMES』から2年半の歳月を経て、ラッパー/プロデューサーのPUNPEEが待望の最新作『The Sofakingdom』を発表。全5曲の本作は、彼らしいユーモアとポップセンス、そしてヒップホップマインドが結実した快作となっています。この作品が産み落とされるまでの葛藤、とりわけこのコロナ禍での大きな生活や社会の変化は、どのように音楽に影響を与えたのでしょうか。10,000字を超えるロングインタビューで制作工程に迫りました。また、本稿は新しいEPの内容について踏み込んだ記述が多くあるため、『The Sofakingdom』をまだ聴いてないかたはぜひ作品を聴いてからのご閲読をおすすめします。

PROFILE

PUNPEE

東京・板橋出身のラッパー/プロデューサー。2017年に初のソロアルバム『MODERN TIMES』を発表した。ソロ以外にも、実弟5lackとGAPPERとの3人組グループであるPSG、原島 “ど真ん中” 宙芳とのDJユニット「板橋兄弟」などでも活動。また、さまざまなアーティストの客演やリミックスに加え、TVCMやTV番組の音楽制作なども手掛ける。今年6月には女優・秋元才加との結婚を発表し、大きな話題を集めた。

EP『The Sofakingdom』
前作から2年半の歳月を経て発表された5曲入りEP。ツアーに向けて制作したという当初のコンセプトをベースにしながら、制作期間に直面した社会全体の変化への戸惑いを含んだ楽曲なども収められており、ポップな聴き心地ながら “現在” を映す作品となっている。自身が制作した4曲のほか、USのプロデューサーNottzがビートを提供。客演にはKREVAと5lackが参加している。作品のページはコチラ

ツアーに向けて気軽に聴ける作品ができればってプランだったけど…。

ー 今回のEPの話に入る前に前作『MODERN TIMES』の後日談みたいなところから伺っていこうと思います。前作は2017年のリリースでしたが、ご自身では作品の手応えや反響についてどのように受け止めていますか?

PUNPEE:もう2年半ぐらい前なんだ…。『MODERN TIMES』を出して、まず、アルバムというものを発表することによって活動の幅が増えたことにびっくりしましたね。それまでは個人の作品がないまま、グループ(※5lackとGAPPERとのグループ「PSG」)や客演ばかりやってたんで。自分の名刺になるものができて、そこからMVの制作や、リリースにまつわる全国ツアー、そのライブを収めたブルーレイ作品『Seasons Greetings’18』のリリースとはじめて経験することばかり。言ってしまえば『MODERN TIMES』の世界観をベースにして、いろいろなひとに関わってもらいながら、アルバムの世界を補強するのにかけた2年半って感じですね。この期間、いろいろ時間はかかったけど、作品を通じて自分が思ったことを具現化してくれる友達が増えたのは成果かもしれないっすね。

ー アルバム、MV、ライブツアー、ブルーレイ作品という流れで『MODERN TIMES』にまつわるストーリーラインは一旦完結、という形?

PUNPEE:いや、これは永遠に続く気がするっすね。自分のイメージとして『MODERN TIMES』はいろんなところにいろんな時系列で存在してるアメコミのキャラクターみたいな感じ。だから他のひとの作品に未来から来た自分がフィーチャリングで参加、みたいなこともできるっていう。自分の曲に自分を客演に呼んでもいいし。他にもマンガだったり音楽以外のものとかにも使ってもらいたいっすね。“未来にラッパーがいて…” みたいな。勝手にマンガとかに使われたりするのはおもしろそう。めちゃくちゃな設定にしなければ(笑)。

ー タイムリープというコンセプトならではの派生のおもしろみですよね。

PUNPEE:そうそう。まぁ、アルバムの制作方法として、そういうコンセプトを決めてつくるやり方みたいなのは前作で結構できた気がするっすね。でも、逆にコンセプトができないとつくれないっていうのが自分のなかでハードルになっちゃった気もしてて。それを毎回超えていかなきゃというのが大変だなっていうのもあり。全然何も考えないでつくりたいなっていうのも思ってるんですけどね。感覚のみ、みたいな。

ー なるほど。そしてアルバム発表後はご自身のラジオ番組(※J-WAVEにて毎週金曜深夜に放送された30分番組。今年3月末に惜しくも終了)もはじまっています。今回のEPのタイトル『The Sofakingdom』は番組タイトルの『SOFA KING FRIDAY』とも関連してると思うんですが、本作と番組はどういった関係性にあるんでしょうか。

PUNPEE:ラジオは毎週なんとなくのテーマを考えて、曲のチュートリアルだったり、友達の紹介だったり、自分がつくったガイドブック的なものを小出しにしていったという感じで。で、番組を2年間やって終わったんだけど、その流れでソファーに座ってゆったり楽しめるようなツアーをやれたらなっていうのが最初にあった。ツアーは5月にやろうとしてて、そこに向けて気軽に聴けるアンソロジーみたいな作品ができればってプランだったんだけど…まぁ、コロナのせいで状況が変わってきちゃったという感じですね。

ー ラジオでつくったコンセプトからそのまま地続きでツアーやEPの構想もあったと。そもそもこの “SOFA KING” って言葉は元々あるものなんでしょうか?

PUNPEE:海外の一部でスラングみたいに使われてる言葉っすね。“So F**king” をもじったギャグみたいな感じ。向こうは “F**k” って言えないときとか場所があるので。それは日本もですけど。だから “SOFA KING FRIDAY” だと “すげえクソ楽しい金曜日” みたいな意味。あと、普段も『シンプソンズ』のホーマーみたいにソファーに座ってずっとテレビ観るのも好きだし。そのイメージも込めてますね。

ー 実作業として今回のEPに着手しだしたのはいつごろでしたか?

PUNPEE:今年の1月とか2月くらいかな。ビート選び自体はもう少し前から探してたりもしてたけど、自分のビートは全部そのくらいの時期からつくりました。アルバムを出してからは客演での参加だったり、毎週のラジオばかりで、それ以外は基本的にはインプットの時期だった。あんまりアウトプットしようって考えはなかったんだけど、今年になっていろいろな予定が決まって、また “よっしゃ! 作ろう!” ってマインドになった感じです。

ー 制作にあたっては今回どんなアップデートがあったと思いますか?

PUNPEE:音楽的な部分では機材ぐらいですかね。わかりやすいとこでいえばマイクを変えたり、ボーカル録音用のちゃんとしたブースを部屋につくったり。あとは「UNIVERSAL AUDIO」(UAD)っていうメーカーの実機をモデリングしたプラグインがあるんだけど、それを使用したりとか。大きな変化が得られるエフェクターはいままでも使ってたけど、「UAD」は少しまぶした塩みたいな、薄味っぽいよさが得られたりするんです。わからないぐらい少し歪ませるサチュレーション的な効果だったり、そういう面を前より意識した気はします。リリックの内容、言いたいことに関しては前作の延長線上な感じだったんだけど、制作中に自粛期間がはじまっちゃったので、結果的にそういったことに食らってしまった作品みたいに見えちゃうかもしれないなぁ。でもつくりはじめた段階ではそういう意図は無かったんですよ。

ー 今回はEPという形ですが、最初から5曲というボリューム感で?

PUNPEE:最初は2曲とかって感じだったような。シングルを出そうって話はなんとなくしてて。結局、「PSG」のインスト盤(※2010年発売の『DAVID インスト』)を出したときも、「Without You」と「いいんじゃない」と「寝れない!!!」の3曲をボーナストラックで入れたんだけど、最初は「寝れない!!!」も入れない予定で。途中でおもしろいことできてないんじゃないかなと思ってバランス取っちゃうんですよ。だから今回もシングルで2曲つくっても “もっと爆発できる曲がほしい” とか “しんみりしたやつもほしい” ってなって。それで最終的に5曲。

ー 先程も『MODERN TIMES』のコンセプトへのこだわりを話していましたが、今回の作品におけるコンセプトはどう考えてましたか? 個人的には前作と比べてだいぶシリアスな印象を受けたのですが、それに関しては現在の状況も関係したと思いますか?

PUNPEE:当初はソファーに座ってゆったりした空気感のアンソロジーをつくろうと思ってたんですけどね。フランスのアーティストのStéphane Oiryが描いてくれたジャケットは先にできてて、自分が部屋にいて、後ろに王冠を持った亀がこっちを見てるっていう絵なんだけど、いま考えると亀に見張られてるような感じになっちゃいました。結果的にずっと家のなかにいなきゃいけない状態になって、そのときの心情を書いてたら勝手にコンセプトが変わってきちゃって。悩んでるのがそのまま出ちゃいました。ちなみに亀は実家で飼ってるやつですね。『MODERN TIMES』のジャケにもいます。25年ぐらい生きてる。

このエントリーをはてなブックマークに追加