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PUNPEEが語る “コロナ禍におけるクリエイティビティ” とは。
NEW EP “The Sofakingdom” RELEASE

PUNPEEが語る “コロナ禍におけるクリエイティビティ” とは。

前作『MODERN TIMES』から2年半の歳月を経て、ラッパー/プロデューサーのPUNPEEが待望の最新作『The Sofakingdom』を発表。全5曲の本作は、彼らしいユーモアとポップセンス、そしてヒップホップマインドが結実した快作となっています。この作品が産み落とされるまでの葛藤、とりわけこのコロナ禍での大きな生活や社会の変化は、どのように音楽に影響を与えたのでしょうか。10,000字を超えるロングインタビューで制作工程に迫りました。また、本稿は新しいEPの内容について踏み込んだ記述が多くあるため、『The Sofakingdom』をまだ聴いてないかたはぜひ作品を聴いてからのご閲読をおすすめします。

“こういうときに音楽つくっても意味ねえのかな” っていう。

ー 1曲目は特に迷いや心情の吐露みたいなものが出てるなと。

PUNPEE:一ヵ月ぐらい具合悪くなっちゃって。疲れだと思うんだけど、夜、急に熱が出るようになって “もしかしたらコロナにかかっちゃったのかな?” とか勘ぐっちゃって。でもその時期もつくらなきゃだから、夕方6時ぐらいに起きて朝10時までやるような生活を続けてたんだけど、その生活があんまりよくなかったかもしれない。普段飲まないお酒を飲んだりもしてたし。いまは全然大丈夫なんですけど。まぁ、そのときの気分が曲に出ちゃってるかもしれないなぁ。

ー その一ヵ月間は大体いつぐらい?

PUNPEE:3月の終わりぐらいから4月の終わりまで。モロにコロナの時期ですね。コロナではないんだけど、精神的にも勘ぐりモードになっちゃいましたね。自分の家がスタジオなんで、ひとに全然会わないわけじゃないっすか。それ自体は前と変わらないんだけど、自粛期間のタイミングですごく孤独に感じちゃうようになっちゃって。“ずっとここにしかいれないんじゃ?” みたいに錯覚してたかもしれないですね。ただ、そんななかでも嬉しいこともあって。そういったことがつくる気力にもなったかな。『フォートナイト』にトラヴィス・スコットが出たの観て、すごく元気になりましたし(※マルチプレイゲーム『フォートナイト』のゲーム上でトラヴィス・スコットがバーチャルコンサートを開催。1,230万人がこのイベントを目撃した)。こんなときでも、ああやって楽しむことができるんだって思えた。逆境からの発想的な。もちろん前から企画してたかもしれないけども。

ー 確かにあのイベントは画期的でしたね。楽曲の話に戻ると、1曲目のリリックでは “だれもいなくなったキングダム”、“これが夢だったらいいのに” と現実の状況ともリンクするディストピア情景が描かれています。こういった退廃的なビジョンは「Last Man Standing」(※コンピレーションアルバム『LIFE LOVES THE DISTANCE』収録)などでも歌われていますね。

PUNPEE:ひとりでずっと作業してるんで、あることないこと考えちゃうんです。“こんなにシリアスになることなくない?” とも思うんだけど、そういう妄想が膨らんでいって、結局書いちゃう。

ー ちなみに冒頭に英語のナレーションが入りますね。あれってどんな内容を喋ってるんですか?

PUNPEE:あれはコロナ関連の音声ですね。あとは友達の子供とか自粛だったりのあれこれって感じ。いずれきっとこれがいい経験になるだろう、忘れずにいこうみたいな話。

ー じゃあ、まさにリアルタイムでの記録なわけですね。

PUNPEE:心情として残しておきたいなっていう。残しておきたいっていうのも変なんだけど、自然とそういう気持ちになってました。

ー “余裕あるときしか自分の音楽はフィールできないのかな” ってリリックも、このタイミングでストレートな吐露ですよね。

PUNPEE:そう。でも、これってけっこう思ってるひと多いんじゃないかなと思っちゃって。“こういうときに音楽つくっても意味ねえのかな” っていう、これは永遠の問いでもあると思うんですけど。いきなり政治的な立場をそこまで出してなかったのに考える場面に直面したり、そういう場所に立たされたり。

ー PUNPEEさん自身は他のひとがつくった音楽で救われたと思う瞬間はありますか?

PUNPEE:さっき言ったトラヴィス・スコットのイベントとかもそうだし、あとで思い返して結果的に救われてたんだなって思うことはあります。逆に “いまは聴きたくねえな、コレ” みたいな気分もあったりするけど…。普段、ゾンビ映画とか観てたときは “わぁ、マジ最悪だ…。こんな世界になってほしくないなぁ。でもフィクションだし、こっちの世界は大丈夫だから…” 的に少し他人事みたいに観れたんですけど、最近、恋愛の映画を観てたときに “この世界ではみんなめちゃくちゃ会って、めちゃくちゃ近くで会話してる。こっちの世界ではそんなことできないのに” ってなっちゃったことがあって。画面の向こう側とこっち側が逆転しちゃってる感覚。そのときに “うわ、これいま観たくねえわ” っていう…。昔は笑って観れてた映画がちょっと観れなくなったときはあったかも。

ー 2曲目の「GIZMO(Future Foundation)」ですが、これは『グレムリン』に登場するギズモですか?

PUNPEE:そうです。あの曲はちょっと自分でもまだ整理できてなくて。VRの世界に逃げたいと思って逃避するんだけど、結局ここも一緒じゃねぇか、ってことは現実世界もVRみたいなもんか、みたいな話。どこに行っても同じなら変わるしかないのかなっていうことを歌ってるんだけど。

ー 仮想現実とかどこか違う世界への逃避願望も、やはり現在の状況下ならではのテーマだと思います。

PUNPEE:エンターテイメントの世界に現実逃避したいなっていうのは昔からあるんだけど、結局どこに行っても現実世界からは逃げられないし、仮想現実のひとつじゃない。だからそれとどうやって向き合っていこうかなっていうのが全体を通してちょっとあるかもしれないですね。そこに関してはいまだにすごい迷ってますけど。

ー VRのテクノロジーがさらに進化したら、いまより仮想の世界に没頭しちゃう可能性はありますよね。

PUNPEE:自分たちの世代はインターネットがない時代を知ってるけど、若い世代はまた感覚が全然違うと思いますね。これからVRの技術が進歩したら、それ以降に生まれた世代は没頭のしかたとか免疫が少し違う気がします。それはいい意味でも悪い意味でも。

ー 今回のEPのなかにはVRやディープラーニング(※人間の行動をコンピュータに学習させる機械学習の手法)など、いわゆる最新技術の話が出てきますね。

PUNPEE:単純に未来っぽいものが好きっていうのもありますね。最近だとディープフェイクの合成技術(※AIによって可能になった高度な画像合成)とかはマジで危ないなって思って。フェイクニュースだっていくらでも出せちゃうし。2~3年前にはじめて見たときのクオリティーとはもう全然違うもんなぁ。最近見たジム・キャリーとジャック・ニコルソンの顔を入れ替えた映像は全然合成だってわからなかったもん。たかが2年くらいでそうなっちゃう。まぁ、そういった技術もネガティブな部分もあればポジティブな部分もあると思うんで。あと音声版のディープラーニングも見た。オバマさんがジェイ・Zの「99 Problems」を歌ってるやつ。あれとかもう恐怖でしかないというか…。自分も先駆けて “PUNPEEの音声データ売ります! なんでも歌わせよう!” みたいにしたら儲かるかな(笑)。絶対イヤだけど。

ー ハハハ! 3曲目の「夢追人 feat. KREVA」はアーティストとしての矜持を歌っている曲ですね。客演にはKREVA氏が参加しています。

PUNPEE:この曲は割とストレートっすね。しかもKREVAさんもビートとラップが両方できて、自分の世代で意識してないひとがいないような先輩だったので、真正面で。KREVAさんは自分にとっては避けて通れないひとですね。そもそも2003年にはじめてレギュラーで参加したイベントにKREVAさんも出演してて。そのイベント、いま考えるといろんなひとが出てたんですよね。自分たちは「板橋録音クラブ」って名前で出てて、その他にもSONOMIさんや熊井吾郎氏、DORIANくんとかも出てた。その頃のKREVAさんはもうメジャーでカマしてる時期。そこから時を経て、って感じですね。前々からどっかのタイミングでリンクするのかなと思ってたんだけど、それがいまかなと。最初にケツを叩いてくれたのは5lackで。去年くらいかな、“いまやるのがいいんじゃない?” みたいに言ってくれて。

ー で、それをきっかけにPUNPEEさんからオファーをしたと。

PUNPEE:そう。曲を作る前にKREVAさんのスタジオに話をしに行ったんですけど、そのときは最近聴いてるヒップホップの話とかこれまで使ったサンプリングネタの話、機材の話で4時間くらい喋りました。たぶんずっとこんな感じで音楽と機材のこと考えてるひとなんだなぁって。いい意味でミュータント感がありますよね。そして仕事もめちゃくちゃ早い。ラフのトラックを送って、その2日後くらいにはラフを返してくれてたもんな。しかもそれがすでにバッチリだったっていう。

ー STUTSさんとの「夜を使い果たして」は、比喩は通してるけど、ストレートなヒップホップシーンに向けての歌ですよね。この曲からも近いニュアンスを感じたんですよ。直球投げてきたなと。

PUNPEE:確かにこの曲単体で聴いたらストレートかも。EPの流れで聴くとちょっと中和されると思うんだけど。とはいえ、いつもより少しだけ気合いが入ってます。

ー “太鼓持ちに叩かすドラムはない” っていう一節はEP随一のパンチラインですよね。

PUNPEE:あれはまさにふたりで話してて、“ドラムがダメだとダメ” って話を。2000年代初頭のR&Bのクラップとかの感じがあるじゃないですか。乾いてる感じ。やっぱりあの感じが好きで。トラップのスネアとはまた違うんですよね。そういう話をして盛り上がったので、ドラムに関して言及した歌詞が書ければなって。

ー そしてNottz作のビートも歌詞のニュアンスとしっかり呼応してるという。

PUNPEE:昔懐かしき感じ。結局こういうビートはいつまでも好きですね。

ー 4曲目の「Operation : Doomsday Love」は先に話したディストピア的な世界観を踏まえたラブソングです。

PUNPEE:歌詞に関してはいまの状況になる前からできてて。“これ、いまこんなこと言っちゃって大丈夫かな?” とも思ったんですけど、最終的には書き替えずそのままにしました。

ー 反面、だからこそフィクションではなくリアルに響いてくる感じがありますね。世界観もそうですが、途中に別のビートが挿入される仕組みも含めて、ラブソングを書くにしても一筋縄でいかないなと思って。

PUNPEE:ハハハ。前に “なにを書くにも設定が複雑だよね” みたいなことを言われたことがあって。それはクセかもしれないけど、それはそれで自分なのかなと。ラブソングの歌詞に関しても、視点の角度が新鮮なものにヤられる気がしますね。

ー 5曲目、EPのラストを飾る「Wonder Wall feat. 5lack」ですが、タイトルの言葉に関してはPSGの「いいんじゃない」でもリリックに登場してますね。

PUNPEE:もちろんオアシスの「Wonderwall」から来てるんですが、これって表情のことをいってるんですよね。自分の曲では単純に壁って意味ですね。これは兄弟の歌で、実家に住んでたころは隣の部屋が弟のだったんで。薄い壁の「Wonderwall」。これ、オレだけかもしれないですけど、エロいこと考えるとくしゃみが出るんですよ。

ー ハハハハハハ! 唐突に!

PUNPEE:壁を隔てた向こう側でくしゃみが聞こえると “ん?” とか思われてないだろうか…みたいな。薄い壁の思い出。

ー ハハハ。不思議な兄弟ですねぇ。兄弟ふたりでの楽曲は『Movie On The Sunday』収録の「EGYPT」以来となるわけですが、このタイミングで共演することになった経緯は?

PUNPEE:うーん…そもそもこれまでも一緒に曲をやるってことを考えてもいなかったんで。でも音楽がやっぱりそうさせるっていうか、できあがったビートを聴いて自然にそうなった気もするな。なるべくしてなったという感じもあるし。

ー この曲の内容も兄弟の美談的な話だけじゃないのがリアルだなって思ってて。5lackさんのリリックで “君がすり替えちまうストーリー” とか “手柄は君の懐に” ってラインを聴いて、お兄さんとしてはどんな気持ちでしたか?

PUNPEE:弟がこの曲について最初に話してたのは “キレイな思い出話の歌にすんな” ってことで。弟から “おまえは話盛りすぎなとこあるから” ってよく言われるし。

ー フフフ…。まぁ立場が違えば受け取り方も違うだろうし。

PUNPEE:でも実際にそう見えてるんだからそうなんでしょうね。まったく異論はございませんね。

ー そういった兄弟のファニーな感じも含みながら、ヴァース最後の “Million Jewelryは買えたけどもよ/この関係は買えません” というラインでしっかりまとめるあたりにもグッときましたね。さて、今回の作品では5曲中4曲はPUNPEEさん自身によるトラックですが、ここ最近のトラックメイカーとしてのモードに関しても伺いたいと思ってて。

PUNPEE:この作品に関してはライブが前提にあったので、ライブでどういう風になるかなっていうのを想定してつくった感じがするっすね。意外とそういう、自分のなかのオーダーみたいなものを決めてトラックをつくるってことをしてこなかったから新鮮でした。今回、著作権フリーのサンプルパックをはじめて使いましたね。たまに他の有名なアーティストとサンプルのネタが被るときもあるっぽいけど、いまんところ誰も使ってないものを使ってると思いますね。あとはインスタグラム経由でタイプビートつくってるひとや、ギター弾いてるひとに連絡して表に出てないループをつくってもらえないか頼んだりもしました。少し値段はするけど、できるだけ他と被ってないものがいいし。そのへんは今回の挑戦かもしれない。

少し前から海外のコミックスを読んだりするために英語を勉強しているんだけど、日本で未訳の機材のプラグインを使ったり、サンプルやジャケットについてのやりとりを英語でするとか、思わぬところで役に立ってるっすね。今回の自分のビートに関して、細かいミックスやデバイスはアップデートしたけど、“新しいジャンルを取り入れてみよう” みたいな感じはなかったかも。古いタイプのビートでもMVだったり、そのあとの動きの連動でおもしろく見せるのがいまっぽいのかなって気もします。誰かがミームをつくったりね。それ自体に良し悪しはもちろんあるんだけども。

ー そして今回はEP全体のミキシングに渡辺省二郎さんが参加されてますね。これは星野源さんとの共演曲「さらしもの」でのご縁ですか?

PUNPEE:そうですね。星野さんのアルバム『POP VIRUS』でもエンジニアを務めてて、その声の質感もすごく好きだったので今回お願いしました。声がおもしろく聴こえる感じって言えばいいのかな。声の表情の付け方が生っぽいんですよね。分離してて、優しく聴ける感じというか。さっきも話したけど、薄味のスープのよさみたいなものも最近わかってきたので。そこのダシ本来のよさみたいな部分を省二郎さんに感じていたので、そのあたりも上手く作用した気もします。

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