PROFILE
1982年生まれ、東京都出身。ファッションの勉強をするために21歳でニューヨークへ渡米した後、8年後に帰国。その後国内のアパレル企業にてブランドのPRや営業を担当し、アジア市場の開拓に力を入れる。その中でとある企業の社長との出会いをきっかけに農業の世界へ足を踏み入れる。2014年に東京都青梅市で「T.Y.FARM」を設立するが、親会社の事業撤退に伴って独立し、2017年に「Ome Farm」を立ち上げ再スタートを切った。
30代のすべてを農業にかけてやろうという気持ちがあった。
2020年6月末、早朝の東京。梅雨に入ってはっきりしない天気が続き、朝でさえ気だるい空気が漂う季節であっても、足取りを確かに凛とした表情で〈ルノー〉の「カングー」に乗り込む人物がいます。車体に乗りながら「『カングー』は農業に向いたクルマですよね」と語るのは、東京都青梅市にて「Ome Farm」という名の農場を営む太田 太さんです。
「ぼくは20代の多くをニューヨークで過ごしていました。服やファッションショーに関わる仕事の基礎を築くのが目的だったんですが、そこでニューヨーカーの暮らしに刺激を受けたんです。都市部での生活はもちろんですが、彼らは週末や行楽シーズンがやってくると郊外へ足を運んで農業をしたり、ワインをつくったりしていた。仕事に追われるような感じはなく、イキイキと生活を送っていて、そうした暮らしに惹かれていました」
若かりし頃を振り返りながらそう語る太田さん。帰国後はアパレル企業に就職。その仕事を通して出会ったとある人物の誘いを受けて、「Ome Farm」の前身にあたる「T.Y.Farm」を設立したと話します。
「アパレル時代は国内外ブランドのPRや輸出入の補助をしていました。一度台湾で大規模な展示会のイベントを主催したことがあって、大成功したんです。その仕事を見てくれたとある企業の社長さんが『一緒に仕事がしたい』と言ってくれて、いろいろ提案してくれた中に“農業”があり、スーッと心を持っていかれる感覚がありました。やってみたいと思っていたし、自然に興味があって、アパレルの仕事をやめて農場を設立したんです。はじめはその社長さんの会社の資本でやっていましたが、2017年に農業を撤退するということで、ぼくらが事業買取する形で『Ome Farm』として再スタートを切りました」
太田さんが農業に惹かれたのは、きちんとした理由があります。その頃に生まれた娘さんの存在も大きかったのだとか。
「農業の話をいただいた頃に娘が生まれたんです。彼女は甲状腺ホルモン機能に先天性の疾患を持っていて、薬の投与以外に治療方法はないかと模索していた時期でした。農業といえば食の源流ですよね。だから、健康的な野菜を食べさせ続ければなんとかなるんじゃないかという思いがあったのも事実です。当時のぼくは31歳。30代の残りを農業にかけてやろうという気持ちがありました。たとえアパレルの世界でどんなに成功したとしても、娘が幸せにならないのなら意味がない。ひとりの娘の親として、彼女と向き合いながら仕事をしていくことを選択したんです」
