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藤原 :
最後は前回の『ザ・サードエディション』にも参加した、ヴィンテージショップ「ベルベルジン(BERBERJIN)」のディレクター藤原裕氏の登場です。今回企画したのは、氏も普段からよく着るというベスト。ヴィンテージの意匠に敬意を払いつつ、しかしただのリプロダクトではないこだわりの一着が完成しました。様々な要素をミックスさせた識者ならではの発想や、ディテール一つひとつに隠されたストーリーをお伺いしました。
コンセプトは、ビッグヤンクのシャツに合わせられるデニムベスト
ーまずはじめに藤原さんと〈ビッグヤンク〉の出会いを教えてください。
藤原 :ちょうど18年くらい前でしょうか、お客さんとして「ベルベルジン」に通っていたころ、山田さん(編注:「ベルベルジン」のオーナー、山田和俊氏)がガチャポケのシャンブレーシャツを着ていて、店頭にも同じものが1枚掛かっていたんです。確か当時で7~8万円だったでしょうか。その時「なんだこれっ!」と思ったのが最初ですね。それから気になって古着屋を回っていたら山ポケのシャンブレーシャツに出会ったんです。しかも値段が1万2800円!自分には小さいサイズだったけど、安かったのでとりあえず買ったのがファーストビックヤンクでした。
ーそれは当時としてもかなりお買い得ですね。
藤原 :ただその後すぐ山田さんに見せに行ったら「とりあえず脱げっ」と言われ、同等のアイテムと物々交換をして手放しましたけどね(笑)。その後はネルシャツの山ポケをはじめ、シャンブレーシャツなど色々と手に入れてきましたよ。
BIG YANK × Yutaka Fujihara(BERBERJIN) T-BACK VEST(DENIM×GOLD、DENIM×BLACK) ¥25,000+TAX
ーそんな〈ビックヤンク〉に縁がある藤原さんですが、前回の『ザ・サードエディション』とは打って変わり、今回はベストを企画しましたね。
藤原 :〈ビッグヤンク〉=シャツというイメージがあったので、そのシャツに何を合わせるのかを考えたときにベストが浮かんだんです。ベストは自分も好きなアイテムですし、発売時期も春先なのでちょうど良いかと。それと〈ビッグヤンク〉ではオリジナルのベストが存在しないという点も自分には好都合でした。ヴィンテージウェアを扱う身として、リプロダクトは作れませんので。
ー藤原さんといえばデニムのイメージがあります。今回の企画でもやはりデニムを使っていますが、何か狙いはあるのでしょうか。
藤原 :デニムは個人的にも好きな素材ですし、前回の『ザ・サードエディション』でもデニムの山ポケのシャツを作らせてもらったので、今回も引き続きデニムで作ろうというのはありました。そこでベストの企画をと考えたときに思い出しのたが、以前「ベルベルジン」で仕入れた30年代のデニム製ハンティングベストだったんです。僕自身、ここまで古いデニムベストは見たことなかったので、漠然とデニムのベスト格好良いなぁと頭の中に残っていたんですね。その思いが今回の企画と合致して決め手となり、デニムでベストを作るという最終的な道筋が出来上がりましりました。あとはジーパンとデニムのセットアップで着るのも新鮮かなと思って。
前回の『ザ・サードエディション』で製作したデニム製のワークシャツ。山ポケットに配した赤いボタンが印象的
幻のアイテム、30年代のビッグヤンク製オーバーオールからヒントを得たポケットデザイン
ーフロントのポケットデザインはどのようにして生まれたんですか?
藤原 :デニムベストを作ると決めたあと、ディテールデザインについて悩んでいたところ欣児さん(編注:<ビッグヤンク>を有するサーティファイブサマーズの代表、寺本欣児氏)が所有する<ビッグヤンク>のデニム製オーバーオールを思い出したんです。
ーそんなアイテムがあるんですか、見たことありません。凄いですね…
藤原 :僕もその1個しか見たことありませんが、実際に30年代製のガチャポケのオーバーオールが存在するんです。そこで、これをそのままベストに落とし込んだら面白いと思って拝借させてもらいました。ですので、ポケットデザインはオーバーオールの型をそのまま踏襲しています。シャツの場合だと左右のポケットバランスが上下しますが、オーバーオールは高さが面一なのがポイントですね。不思議とベストにも違和感なく収まりました。
ーボタンやネームなど、その他のディテールも見所ですね
藤原 :このボタンも実際にその30年代製のオーバーオールに使われていたものです。それまでサーティファイブサマーズさんでも使ったことが無いボタンだったので、この企画のためにわざわざ作ってもらいました。嬉しいですね。ネームも同じくオーバーオールに付けられた「デラックスタグ」です。付け位置ももちろん同じところです。
30年代製のオーバーオールに使われていたポケットデザインに加え、付属のボタンとネームもそのまま踏襲
あらゆるディテールをミックスした唯一無二のデザイン
ーそしてなんと言っても後ろ姿が印象的です。
藤原 :まずは自分の代名詞にもなっているTバック(編注:2枚接ぎになった背面の見た目が“T”であることから付けられた通称で、大きいサイズに適用されているディテール。〈リーバイス〉の「506XX」が有名)を今回もあしらいました。モデル名も「T-BACK VEST」です。
Tバッグやバックルバックなど、様々なディテールを備えたインパクトのあるバックビュー
ー襟の下に付いたリングはなんでしょうか?
藤原 :これは僕の持っているベストの中でも恐らく一番珍しいものになりますが、WWⅡ時に着用されたU.S.ARMYの「アサルトベスト」が元ネタになっています。当時の写真などを見るとナイロン系のジャケットの上に羽織っているのが確認できます。背中にリュックが付いていたり、ポケットも沢山付いていたりと、とにかくデザイン性が高くディテールも満載。このベストから何か生かせないかなと思ったときに、襟の下に付いたリングに注目したんです。おそらく何かに引っ掛けるためのハンガーループ的な役割を担っていたと思うのですが、デザインのアクセントとして採用しました。もちろん実用としても使えるので、居酒屋で脱いだときにでも引っ掛けてください。
40年代製、US ARMYの「アサルトベスト」。見ての通り前後に多数設けたポケットや、脱着が容易なポケットのタブストラップなど、ミリタリーアイテムらしいディテールを多数備えている
ーディテール一つひとつに対するこだわりが感じられます。
藤原 :そうですね、この他にも例えばバックルバックは〈JCペニー〉のファーストに付けられた大きめのものを採用しています。これによってGジャンのような後ろ姿になるし、Tバックとの相性も良いですよね。それとウエストポケットは30年代製のショップコートから取っています。内側の角が削れた五角形の型が面白くて気に入っています。前開きの裾がV字に削れているのは〈リー〉のエンジニアジャケットから。全てのディテールは実際に存在するもので、それをバランスよく配置しました。
〈JCペニー〉をGジャンからサンプリングした大きめのバックルバック。金具は扱いやすさを考慮して針無しのものをセレクト
カッティングが特徴的なポケットとフロントの裾部分。ポケットにはキーカラーとして赤いカンヌキがあしらわれる
ー豊富なヴィンテージの知識を持つ藤原さんらしいベストですね。展開色がステッチ違いの2色というのも面白いですね。
藤原 : 黒ステッチのヒントは30年代のデニム製ハンティングベストからです。洗い込むと色が抜けるデニムに対して、黒ステッチは色が浮き出てきてコントラストが生まれるんです。その雰囲気が好きで、元々はこの1色のみで考えていたんですが、ワークテイストの強いベストだったのでオーバーオールに使われた白ステッチも展開してみました。デニム自体は同じものを使っていますが、ステッチの色1つで見た目がはっきり違う。黒ステッチは綺麗めに、白ステッチはカジュアルにといった具合です。
ーそれでは最後に、このベストをどのように楽しんでもらいたいですか?
藤原 :自分なら白のB.D.シャツの上に羽織りたいですね。色合わせは特に気にせず、パンツはジーパンでデニムのセットアップをお勧めしたいですね。カジュアルならシャンブレーシャツやサーマルも良いかと思います。薄手のデニム生地を使っているので、暑くなったらTシャツの上に着てもちょうどいいですよ。