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厳寒のクラフトマンとソレルのきわめてよい関係。

Wild Life with SOREL

厳寒のクラフトマンとソレルのきわめてよい関係。

冬では、日中でさえ氷点下を下回る十勝という極寒の地。この地にはエゾジカの角(ホーン)を1本1本組み上げて、クラフトマンシップに溢れた「ディアホーン・シャンデリア」を生み出す森井英敏という男がいる。冬季でさえも野外で作業することを余儀なくされる森井氏は、カナダを代表するシューズブランド〈ソレル(SOREL)〉を長年使う愛用者だ。雪とともに生き、“面白いものでお金を稼ぎたかった”と語るクラフトマンの目に、あたらしい「カリブー」はどう映るのか。

  • Photo_Takuma Kunieda
  • Text_Satoru Kanai
  • Edit_Shinri Kobayashi
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アメリカと十勝をエゾジカが繋げる。

雑然とした雰囲気ながら、居心地のよいアトリエ。書棚には、インディアンやカウボーイ関連の書籍が詰まっていた。

 

札幌から車で約4時間。何度目かの積雪で凍てついた高速道路には速度制限がかかり、車はゆっくりと目的の場所にたどり着いた。季節は、厳寒期に入り始めた12月中旬。北海道・十勝の小高い丘に建つ〈ディアホーン・スミス(DEER HORN SMITH’S)〉を率いる代表・森井英敏の自宅とアトリエの周りには数十センチの雪が積り、辺りには雪を踏みしめる音とかすかな機械音だけが響く。

エゾジカの角を組み上げた「ディアホーン・シャンデリア」は、1年のうち4ヶ月が雪に埋まり、ときにはマイナス20℃を記録することもある厳しい環境のなか、徹底したオールハンドメイドでつくられている。その陣頭指揮を取る森井氏は、長年の〈ソレル〉愛用者だ。

「ディアホーン・シャンデリア」の立ち上げから、今日にいたるまでの歩みや想いを振り返ってもらいながら、なぜ〈ソレル〉を履き続けるのかを語ってもらった。

森井氏が人生を通じて追いかけてきたかけがえのないもの。そのいくつかの点が連なり、いつしか線となり、「ディアホーン・シャンデリア」を生み出すこととなった。白い雪の上に残された〈ソレル〉の足跡もまた点として、その軌跡を繋いでいる。

雪上を歩く森井さんが履くのは、かなり年季の入った〈ソレル〉のシューズ。エゾシカの角を買い付けてきて縛り込んだり、仕分けたり。冬の方が屋外での作業は多い。

—(アトリエに掲げられた看板を見て)〈ディアホーン・スミス〉は「since2003」とありますね。

森井:13年前は構想段階。最初はボタンなどの小物からはじめて、シャンデリアのアイデアは7年間くらい温めていました。その当時、メキシコから輸入したイミテーションのシャンデリアを取り扱っていたんですが、20万円強で3台売れたんですよ。これは需要もあるし、エゾジカで再現できると思って、毎日のように売り場で研究していました。

—誰に教わったわけでもなく、イミテーションから着想を得て作り上げた完全なるオリジナルである、と。なぜ、エゾジカで再現しようと考えたのですか?

森井:突飛かもしれませんが「アラブの石油王」に近づきたいという思いがあったんです。というのも、彼らは何であんなに金持ちなのかを考えたら、天然資源を扱っているからなんですよね。ここで “エゾジカの角”は天然資源だと気がつく。周りにはハンターも多いし、角は燃えないゴミに出してもお金がかかる。物置を見たら処分に困った角がたくさんあったんです。

ハントのピークは11月〜12月末。角は10人の契約ハンターから年間で1000本ほど購入する。

—東京からきたぼくらにとってエゾシカは圧倒的に遠く離れた存在で、これで何かつくろうとは思わない。この土地で生まれ、生活されているからこその発想ですね。

森井:それまでに僕はアパレルのお店をやっていたんですが、古着だけでなくウエスタンだとかインディアンの世界観を扱ってきたことも大きい。古着の買い付けはロサンゼルスがメインですけど、ぼくはアリゾナ、コロラド、ワイオミングにも足を運んでいた。そこで見つけてくるインディアン・カルチャーには、ボーンビーズのような天然資源をつかった小物があるわけですよ。

ロスなどの華やかな側面だけでなく、広くアメリカの文化を見ていたこと、エゾジカに対しそうしたカルチャーをリンクさせられる環境に偶然にもいたこと…。

—今振り返ると、そうして点と点が繋がっていったわけですね。

森井:ただ、商売をやっていると余分なお金も時間もありません。ここでキッカケとなったのが、市のものづくり補助金を受けられたことです。プロトタイプをつくるのに270万円かかっているんですが、その半分を補助金でまかなえた。それで、思い切って時間を割いて作り込むことができたんです。

ただ、出来上がったシャンデリアを見たお客さんや友人は、口を揃えて「素晴らしいね。でもその値段で誰が買うの? これを飾れる家を建てられる人は、なかなか少ないよ!」って言いましたよ。

角の切断部をサンダーで丁寧に整える、時間と根気のいる作業。辺りには、角に残った毛が焼け焦げる甘い匂いが立ち込めていた。

—それでも商売にしようと思ったのは、必ず売れるという勝算があったからですか?

森井:いや、ビジネス的なことは考えてなかったかもしれません。ここから先、自分は何をやりたいのか? 再度、自分と自分のやってきたことと向き合い、まっすぐな気持ちで考えました。

周りは懐疑的な意見が多かったんですが、素の自分と向き合い、出した答えだったので迷いはありません。お金がなくなれば少し立ち止まるだけのこと、そしてまた進んで行く。「やる」ということは決めていましたから。

そこから全国紙に高額な広告を出したことで奇跡が起きるんです!

アトリエの外壁に飾られたシカの剥製が、日々の作業を見守っている。

森井:それまでたまに出していたアパレルの自店の4万円ほどの広告でさえも、みんなで話し合って、費用対効果が悪いからやめようなんて言っていたのに、「どうなるか分からないものに広告なんて...」と言う声は身近なところからも出ていました。

ただ、当時はファッション業界も冷え込んでいたので、その分が売り上げになって返ってくるとは経営者としても思えなかったわけですよ。それであれば、新しいチャレンジに投資した方がよいのでは? うまく転んだら新境地が開けるかもしれないと考えました。

—結果は見えないが作り上げたものは、手元にある。かなりの賭けですね。

森井:一か八かで出した全国紙の広告を見てくれたアパレル関係の方が、最初のオーダーをくれたんです。理由を聞いたら「アメリカでもこれだけきれいに組み込む職人は見たことがない。輸入するにも規制があって、おそらくその金額以上にかかるだろうし、仕上がりももっと悪いだろう」と。

そこからは、少しずつ新たなオーダーが入るようになり、こちらからはアポを入れられないような顧客様からも、次々とお声がけ頂きました。

完成し、ライトを付ける。「この瞬間がいちばん感動するんですよ」と森井さん。

森井:実は、ワイオミング州でもディアホーン・シャンデリアのような文化を見たことがあったんです。雪の降る地域で、街の雰囲気も十勝との近しさを感じました。それもひとつの点ですよね。

完成して光が灯った瞬間を求めて。

「カリブー」¥20,000+TAX
ビニールハウス内にシャンデリアを吊るし最終調整を行う。足首までが柔らかなレザーのため、こうした作業も容易に行えるのが〈ソレル〉の特徴だ。

—雪国の生活と愛用されている〈ソレル〉との関係についても聞かせてください。12月から4月くらいまで雪が残るとのことですが、作業を間近に見ると、屋外でしかできないことが多いですね。ぼくら取材班は、昼から夕方までの数時間だけでしたが、これから夜が深くなるに連れて更に冷え込む。そんな環境で作業していると、足元の冷えは仕事にも影響があるのではないでしょうか。

森井:それはもう寒いですよ。長靴だとムレが早いので、長時間外にいると足先からの冷えがすごいんです。でもね、作業に夢中になって気がつくと深夜2時まで作業しているときもありますよ(笑)。

オイルを入れ、長年かけて育てた一足。クラフトマンが履き込むことでしか生みだせない美しさがある。

—森井さんが愛用しているのは以前のモデルですね。履き比べてみていかがでしたか?

森井:ライニングの仕様が進化していますよね。インナーブーツのフェルトとウールの間にアルミフィルムが入ったことで、保温効果と防水性が高まっている。こういった機能が進化しているのには感心しました。

角を数センチ幅に切り出した後、サンダーで整え、穴を開ける。そうして、モカシンのボタンとして納品されていく。

森井:このシャンデリアはどこまでも手づくりなので、どうしても完成までに1ヶ月~1ヶ月半という時間がかかります。それがまた、時代と逆行した魅力なのかなと。ぼくは、〈ソレル〉にも、そうしたアナログの良さを感じるんです。機能はハイテクだけど、全体にはローテクの匂いがあります。この匂いがファッションでは重要だと思いますね。

—さきほど幾つかの作業を体験させていただきましたが、角を脚で押さえるなど、足首の可動性やグリップ力も重要だと感じました。レザーとゴムの切り返し部分など、作業的な視点ではどうでしょう?

森井:いいですね。足首周りにレザーを用いることで、使うほどにやわらかくなり、しゃがむような動きにもよくマッチします。快適に作業ができることも愛用する理由です。ソールのグリップ力もよくて雪の中でもすべらないし、スノーブーツとしてかなり優秀だと思います。

—札幌では、スニーカーやヒールのある靴を履いている女性もいることに少々驚きました。このあたりの方は、スノーブーツを履かれる人が多いのでしょうか?

森井:多いですね。僕らみたいな用途はちょっとマニアックですけど、一般の方が防寒対策で履いて、且つおしゃれに見える。そういう面でも〈ソレル〉は、かなり人気があると思います。都会からスノーボードで来るときなんか、ボード用のシューズ以外の履物としてもいいでしょうしね。ファーの出具合や重量感は、女の子にもすごく合いそうですよね。

角の色に近づけるため、LED電球の金口をゴールドに塗った別注品を使用している。消灯時のビジュアルまで考えたこだわりだ。

—レザーゆえの履き込む楽しみもありますね。森井さんが履かれているブーツも相当使い込まれて、愛着が感じられます。時間をかける楽しみで言えば、とことん手をかけてつくるシャンデリアにも通じるように思います。

森井:ジーンズや革製品といった使い込むほどに味の出るアイテムにハマりだしたのが、高校生の後半くらい。そこから気がつけば、お店を始めてもう28年。ずっとアメリカン・カルチャーを伝え続けてきました。

シャンデリアも、十勝の環境やハンターの存在、そして、これまでに扱ってきたカルチャーという点と点が線になり、完成して光が灯った瞬間がいちばん感動する。まあ、単純にそういう文化が好きな人間なんでしょうね。

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