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映画『行き止まりの世界に生まれて』 ビン・リュー監督の言葉に見る、アメリカの現在地とこれから。
Special Interview with Bing Liu.

映画『行き止まりの世界に生まれて』 ビン・リュー監督の言葉に見る、アメリカの現在地とこれから。

経済大国アメリカにも、繁栄から取り残されたエリアがあります。かつて重工業で隆盛を極めたアメリカ北東部、五大湖周辺です。9月4日(金)から公開される映画『行き止まりの世界に生まれて』は、貧困と暴力、差別が横行するその地で、懸命に生きる若者に追ったドキュメンタリー。全米の賞を総なめにし、国内外で称賛の声が上がる作品はいかにして生まれたのか。アメリカにいるビン・リュー監督とzoomで繋ぎ、本作に込めた思いと、そこで描かれる差別や政治のことについて聞きました。

肌の色が違うというだけで、ほかの人種とは比べものにならない不条理に直面する。

ー 映画のなかでは、現在進行形で問題になっている貧困や人種差別などにも触れていましたね。

ビン:特に人種差別に関しては、とても根深い問題だと感じます。1619年に初めてアフリカからアメリカに奴隷が連れてこられて、そこから400年が経ったいまでも続いてる。

ビン:日本では感じづらいかもしれないですけど、黒人の親のしつけは、ほかの人種のそれとはまったく異なるんです。これだけ現実は厳しいんだというのを、どうにかして子供に教えなければならない。「この国では黒人であることが、何らかの理由に紐づけられるかもしれない」と。

単純に肌の色が理由で、彼らは多くの場所で、ほかの人種とは比べものにならない不都合や危険に直面するんです。そんな不条理を教えても、小さい子供には理解することが難しいですよね。でもそれが現実で。

ー いま起きているブラック・ライブズ・マター(以下BLM)は、前回に比べても大きいウネリになっている気がします。

ビン:2014年のBLMもSNSで映像なんかは拡散されていましたけど、今回のジョージ・フロイド事件に関してはもっと大きなムーブメントになっています。若者やアクティビストだけじゃなく、これまで関心がなかった層も、この国で黒人がどう扱われているかに関心を寄せている。ある意味、キアーがいままで体験してきたことと重なっていますよね。

ー 離婚やシングルマザー、家庭内暴力なんかも映画内で描かれています。いまのアメリカが抱える社会問題とリンクしてるんでしょうか?

ビン:虐待なんかは人間が誕生して以来ずっとあったことだから、社会問題どうこうというのはちょっと違うかもしれませんね。

あと、愛情をどう定義するかによる部分も大きいと思うんです。「あなたを傷つけてるけど、それは愛しているから」という考えの人も現にたくさんいる。でも、お互いを信頼して、本当の愛を持って接していく方法を模索しなければいけないですよね。映画のなかに、きっとヒントがあると思います。

ー ときにザックは、誰かが決めた社会通念を押し付けられて、それが生きづらさに繋がっていってるような部分も見てとれました。

ビン:それは往々にしてあると思います。社会が押し付けてくる台本のせいで、映画の登場人物は全員苦しんでいましたからね。いい大学に行って、いい仕事に就いて、結婚して子供をつくって、家を買って。そういう期待って息苦しさしか生まない。

特に現代は、資本家が操る社会構造の中にぼくたちは存在していて、数字や成績、お金や所有品などの物質にとらわれているから、精神的豊かさはどんどん忘れ去られていると思うんです。それもきっと、その豊かさがお金にならないから。GDPに反映されるわけでもないし。それがお金に換えられるようにならない限り、この状況は変わらない気がしています。

INFORMATION

『行き止まりの世界に生まれて』

© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.

2020年9月4日(金)よりシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
bitters.co.jp/ikidomari

出演:キアー・ジョンソン、ザック・マリガン、ビン・リュー、ニナ・ボーグレン、ケント・アバナシー、モンユエ・ボーレン
監督・撮影:ビン・リュー
製作:ダイアン・クォン、ビン・リュー

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