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映画『行き止まりの世界に生まれて』 ビン・リュー監督の言葉に見る、アメリカの現在地とこれから。
Special Interview with Bing Liu.

映画『行き止まりの世界に生まれて』 ビン・リュー監督の言葉に見る、アメリカの現在地とこれから。

経済大国アメリカにも、繁栄から取り残されたエリアがあります。かつて重工業で隆盛を極めたアメリカ北東部、五大湖周辺です。9月4日(金)から公開される映画『行き止まりの世界に生まれて』は、貧困と暴力、差別が横行するその地で、懸命に生きる若者に追ったドキュメンタリー。全米の賞を総なめにし、国内外で称賛の声が上がる作品はいかにして生まれたのか。アメリカにいるビン・リュー監督とzoomで繋ぎ、本作に込めた思いと、そこで描かれる差別や政治のことについて聞きました。

壊れたアメリカを立て直す、次の大統領選。

ー 映画の舞台となった場所について少し聞かせてください。

ビン:ロケ地はシカゴから西へ2時間ほどの場所。第二次世界大戦後に発展した街のひとつで、かつては製造業や重工業で栄えていた場所です。人口は15万人くらいの中規模都市。もともとはスカンジナビアとジャーマン系が多く定住した地域でした。白人のブルーカラーも多いエリアです。

ー ラストベルトというのは、どの辺を指すものなんでしょうか?

ビン:舞台となっているイリノイもそうですし、オハイオ、ミシガン、インディアナ、ウィスコンシンあたりのことを指します。

ー そのエリアはスイングステート(大統領選挙を左右する州)がいくつかあります。今年の11月に行われる大統領選はどう見ていますか?

ビン:昔のラストベルトはミドルクラスが多く住むエリアで、アメリカの象徴的な都市が多くありました。そこからグローバリゼーションやテクノロジーが急速に進んで、工場もどんどん閉鎖に追い込まれて、貧富の差が拡大していった。だから、この辺に住む多くの人たちは社会から取り残されたように感じているんです。そして怒ってもいるし、困惑もしている。

ビン:そうした不満を抱える人たちは、権威主義的なリーダーに利用されやすいです。トランプの「Make America Great Again(アメリカをもう一度偉大に)」もそうだし、ほかにも「それはあなたのせいじゃなく奴らのせいだ」とか「私に投票してくれたら、すべて解決しよう」という言葉にのってしまう。今回もラストベルトの結果が、大きく戦局を左右すると思います。

ー SNSの力も感じていますか?

ビン:感じますね。5年、10年前にはツイッターなんかのSNSが戦局を左右するなんて想像もできなかったですからね。

あと感じるのがリベラルの基盤が失われていること。それによって、若い人たちはどんどん政治に無関心になっているように感じます。そこに与えられた選択肢が民主党大統領候補のジョー・バイデン。次の選挙では、ぼくはバイデンに投票すると思います。コロナもある状況だから、次の大統領選はとても注目していますね。次世代のキアーやザックが、未来を決めると言ってもいいかもしれません。

ー 最後に、読者に向けてメッセージがあればお願いします。

ビン:90分というわずかな時間で、癒しとか変化を与えることは難しいかもしれませんが、本作の登場人物たちを通して、同じようなことで苦労している若い人たちが勇気をもらって、その状況を切り抜けられて、自分たちの力で人生を作っていけるようになってくれたら、うれしいですね。

INFORMATION

『行き止まりの世界に生まれて』

© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.

2020年9月4日(金)よりシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
bitters.co.jp/ikidomari

出演:キアー・ジョンソン、ザック・マリガン、ビン・リュー、ニナ・ボーグレン、ケント・アバナシー、モンユエ・ボーレン
監督・撮影:ビン・リュー
製作:ダイアン・クォン、ビン・リュー

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