「アメリカで最も惨めな町」と評されるイリノイ州ロックフォードに住むキアー、ザック、ビンの3人。貧しく、そして暴力的な家庭で育ってきた彼らは、その状況から抜け出そうとスケートボードにのめり込んでいく。希望が見えない環境、大人になる痛み、根深い親子の溝…ビンが撮りためたスケートビデオと共に描かれる、小さな街で必死にもがく若者たちの、12年間の軌跡。
PROFILE

1989年生まれ。19歳のとき、撮影補助として働きはじめ、23歳で国際映画撮影監督組合に参加。2018年に本作で監督デビューを果たし、サンダンス映画祭を含む国内外で59の賞を受賞。アカデミー賞、エミー賞にもノミネートされた。
スケボーは単なる遊びじゃなく、もっと家族みたいなもの。
ー 元題の『Minding the Gap』ですが、これって「電車とホームの隙間に注意」という意味ですよね?
ビン:本来だったらそうですよね(笑)。けれど、少し意味合いは違っていて、子供から成長して大人になる境界線とか、隔たりを表したかったんです。あと、詩的な響きも気に入ってたりします。
ー なるほど。納得がいきました。では早速、物語の軸となるキアーとザックとの出会いから教えていただけますか?

左から本作に出演するキアー、監督のビン、ザック。
ビン:本作の前に『Look At Me』というスケートドキュメンタリーを作っていたんです。そのときに、アメリカの各地を訪れてはスケーターたちにインタビューを繰り返していて。そしてぼくの故郷であるイリノイ州ロックフォードに訪れたときに、2人と再会しました。
ー 再会ということは、以前から知り合いだったんですか?
ビン:そうなんです。彼らが小さい頃から面識があって。そこから5年に渡って、彼らを追っかけ続けました。

ー 映画の中の「スケボーは単なる遊びじゃなく、もっと家族みたいなもの」というセリフが、すごく印象に残っています。それほど近い距離にあるものだったんでしょうか?
ビン:ひとって人生の中で、愛し愛される家族の存在が大きいと思うんです。でも多感な時期に親から愛を受けられないひともいる。そして、ある程度大きくなって行動範囲が広がれば、ほかの場所に安心感を求めようとするんです。結果として、そういった若者たちがスケボーのコミュニティに集まっていることが多いと思います。単なる遊びじゃなくて、家族ほどの濃い関係がそこでは築かれるんですよね。
ー 監督本人が出演されていたことにも驚きました。当初からの計画だったんですか?
ビン:最初は全然考えてなかったですけど、ぼく自身、子供の頃は親の暴力に悩まされていたし、ザックやキアーと育った境遇は似ていたんです。だから、自身のことにもしっかり向き合って、その部分をさらけ出そうと。
ー 自分の苦しい過去を観客に見てもらうことは、すごく勇気がいることですよね。
ビン:とても個人的なことだし、さらにセンシティブな話題なので、話をしているときは心が削られてる感じかして苦しかったです。でも、ぼくが育った家庭と個人的に持つ問いを観客に示したかったし、それが映画を理解する手助けになるはずだと思ったんです。