Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE / 東京・蔵前
蔵前駅から徒歩5分、隅田川の一本手前の道沿いにある「Nui.」。以前このビルは、江戸時代から続く、蔵前の老舗おもちゃ屋の倉庫だった。
歴史ある街に新たに加わる人々。歩けば発見のある街、蔵前。
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東京の東、昭和通りと隅田川に挟まれたエリアにある台東区。なかでも、浅草方面から江戸通りを抜けたところにあるのが蔵前だ。あたりを見渡すとそこかしこにビルが建ち並んでいるけれど、道幅は広く実に開放的な雰囲気。人通りはそこまで多くないので、ゆっくりと街歩きをしていると、ときおり新しい雑貨屋、洋服屋、コーヒースタンドなどがポツリと現れる。それぞれが隣接しているわけではなく絶妙な間隔で存在している。それに釣られて、ついつい「もっと先まで…」と長散歩してしまうのだ。
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そんな蔵前に、古い倉庫ビルをリノベーションしたゲストハウス「Nui.」はある。「Nui.」を運営する「Backpackers’ Japan」は、2010年入谷(同じく台東区)にゲストハウス「toco.」を、その2年後に「Nui.」をオープン。ゲストハウスに新たな文化を根付かせた先駆けのひとつである。
正面のガラス張りの入り口をくぐると、ウッドとスチールを中心としたセンスのいいアイテムが散りばめられた、多国籍な雰囲気の空間が広がる。1階はエントランスとバー。手前から奥のキッチンスペースまで、天然の一枚板が3種連なっているバーカウンターは圧巻の出来栄えだ。2〜5階が宿泊施設となっており、各フロアにツイン、ダブル、8名ドミトリータイプの客室があり、計100名を収容する。
築50年という建物はどこか古びた雰囲気ながら、必要最低限なアレンジを施すことで、レトロでありモダンに。味のある壁や床とも調和した、居心地のいい宿泊スペースとなっている。
1F手前はスタンディング中心のバースペース。奥はソファやイスで構成されたリラックスできるスペースと、ワンフロアで別の世界感を演出している。ライヴやワークショップのイベントも頻繁に開催され、宿泊ゲスト以外も訪れる。
東側の角部屋では隅田川の向こうに陽の光が入る。運良く泊まれた宿泊ゲストはラッキーだ。宿泊ゲストの専用階段は写真ギャラリーとして利用されている。
職人さんと協力して作られた空間。
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「工事には僕たちも積極的に参加しました。当時は今よりも会社が小さく資金にも限りがありました」。館内を案内してくれたのはスタッフの清水翔太郎さん。
“建物が大きいためクリアすべきハードルが多い。しかしこの魅力的な物件を逃したくない”
施行の中心となったのは以前より親交のあったデザイナーや大工チーム。彼らが思いに共感してくれ、現場に泊まり込みながら連日の作業を行ったそう。つくりたい空間のイメージを擦り合わせ、清水さんらスタッフも加わることで適宣問題を共有して、課題を解決していく。そうして、大工さんにお願いしなくてもできる作業は自分たちで行ったという。具体的には客室のドアの塗装や仕上げ、二段ベッドの組み立てや壁の左官など。自分たちで行うことで費用面での節約にも繋がった。
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「全てのディテールは、友人のデザイナーが提案してくれたものにアイデアを持ち寄ってブラッシュアップしていきました。改装中はもちろん大変なことも多かったですが、とても楽しい経験をさせてもらいました」。
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客室はもちろん、ゲスト用キッチン、ランドリー、ライブラリー、一から手作りの家具からカスタムした中古家具の全てに、自分たちの「こうしたい」という意思が詰まっている。迫力あるソファの革は浅草橋の卸店で直に交渉したそうで、近隣ならではコミュニケーションも。自分たちで直接ものを選んだり作ったりしたのは、単にコストを抑えるためだけではなく、全体の調和をも考えてのことだった。
共有スペースのライトを囲うドライフラワーのシェードも手作り。
迫力あるバーカウンターは、ニセコから運んできたイシナラ、キハダ、タモの木が奥のキッチンカウンターまで連なる。あえて枝の一部を残し、もたれかけられるようにしたのもポイント。
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「改装をともに行った大工さんたちのなかには、溶接、木工、左官など、異なる分野を得意とする様々な方がいます。それぞれが持つ違った視点のアイデアを、ジャズのセッションのように掛け合わせていった過程が、他所にはあまりない空間を生んでいるのだと思います。デザインも大切ですが、機能面についても考え抜かれたものが『Nui.』にはたくさんあります」。
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バーで提供するコーヒーは、東京で2店舗を構え“原産地仕入れと自家焙煎の豆”がウリの 「オニバスコーヒー(onibus coffee)」によるもの。「Nui.」を運営するBackpackers’ Japan代表取締役の本間貴裕氏と「オニバスコーヒー」の坂尾氏は開業以前からの友人で、オープンのタイミングで依頼をしたとのこと。ルームキーは、蔵前で空間とプロダクトをデザインする〈アロイ(ALLOY)〉の山崎氏が手掛けている。
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「『Nui.』のオープンと同じ頃、この街にアトリエを構えた山崎さんも同世代です。今ではアイデアを持ち寄る仲間ですね」。
〈アロイ〉の山崎氏が手掛けた「Nui.」のルームキー。受け取るエントランスにバーがあるので「栓抜き」のデザインに。表のサイクルスタンドも山崎氏が手掛けている。
「オニバスコーヒー」中目黒店の看板も、〈アロイ〉の山崎氏が製作。蔵前をきっかけに出会った仲間は、外へも広がっている。
バックパッカー向けの価格を維持しつつも、クオリティには変化を。
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宿泊ゲストは外国人7割に対して、日本人3割。年齢層は20代〜30代が中心だ。2名組が多いが、年々、若年層の一人旅需要も増え、客層にも変化が生まれてきている。逆に70代の方が利用されることも。
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「自分たちも年齢とともに、求めるものが成長してきていることを実感します。ファシリティも、ドリンクやフードも、サービスクオリティは徐々に上げていきたいです。そうやって少しずつ変化していくことをゲストもスタッフも、ここを訪れるみんなで楽しんでいきたいですね」。
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時代とともに変化していくなか、利用者が増え、外にも中にも仲間たちが増えていく。工事をしていたときのように、持ち寄ったアイデアを掛け合わせて進化し続ける「Nui.」には、今日も誰かがやってくる。そこはまるで未来をつくる、街のアンテナのような存在なのだ。
「Nui.」のすぐ近く、隅田川に掛かる「厩橋(うまやばし)」からは、スカイツリーが見える。隅田川テラスを散歩するのも心地よい。