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着て楽しむアート。記憶をプリントとして残すコットンパンが、イラストと手刷りに寄せた想い。
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着て楽しむアート。記憶をプリントとして残すコットンパンが、イラストと手刷りに寄せた想い。

アウトラインを引かず、色のみで構成・表現された「あの映画やドラマのワンシーン」や「レコード・CDのジャケット」。フイナム読者の皆さんもSNSなどで一度はご覧になったことがあるのでは? これらは、シルクスクリーンプリントをほどこしたオリジナルウエアをアートとして発信するブランド〈コットンパン(COTTON PAN)〉のアイテム。その核となるアートワークのすべてを手がけるデザイナー・ワタナベヒカリさんと、ディレクター・ワタナベコウジさんの両名に、イラストや手刷りかける想いとこだわり、そしてウエアを通して伝えていきたいことなどを伺いつつ、クリエイションの裏側を覗き見させてもらいました。

PROFILE

イラストレーターとして活躍する妻のワタナベヒカリがデザインを担当し、町田で古着屋「ダンジル(DANJIL)」を営む、夫のワタナベコウジがディレクターを務めるアパレルブランド〈コットンパン(COTTON PAN)〉。愛嬌、抜け感、ゆるさが特徴であり、そしてその作品のすべてには、残すべきカルチャーが投影されている。また、描いたイラストをシルクスクリーンプリントで多色、調色にもこだわりぬいて行い、五感を刺激するような表現=カルチャーを着ることを志している。
cottonpan.net

版ズレや個体ごとのブレ、ボディカラーの影響。そういった“偶然もすべて必然”。

ー フイナムでもたびたび紹介してきた〈コットンパン〉ですが、読者の多くが”謎のブランド”として認知していると思います。今回はまずブランド誕生の経緯から教えてもらえればなと。

ワタナベコウジ(以下、コウジ):キッカケは、デザイナーのヒカリが絵を描いてるのをたまたま知った〈グルメジーンズ(gourmet jeans)〉のディレクターからの「Tシャツを制作してみない?」という提案でした。とはいえ、当時はまだブランド名さえも決まっていなかったんですけどね(笑)

ー ヒカリさんはいつから絵を描いていたんですか?

ワタナベヒカリ(以下、ヒカリ):絵はずっと趣味として描き続けていました。もともと美大のテキスタイル科を卒業し、アパレルブランドのプリント生地を作る工場で調色やプリントなどの職人をしていて。その当時から「いつかは自分で何かやりたいな」とは漠然と考えていたということもあり「じゃあ、やってみようか」って。

ー なぜアートの表現手法として、シルクスクリーンプリントを選んだんでしょうか。

ヒカリ:そもそもシルクスクリーンが好きというのはありますね。いつもタブレットで絵を描くんですが、デジタルで描いた絵を手刷りというアナログな手段で表現することで生じる、ズレやハンドクラフト特有の質感が好きで。

ー 〈コットンパン〉の核となるのがヒカリさんが描くアートーワーク。アウトラインを引かず、色だけで人物や背景を表現するディフォルメ具合が特徴です。そこに対するこだわりを教えてください。

ヒカリ:無意識的にですが、人物の顔といった細かなディテールは描き込まないようにしつつ、背景よりもメインとなる人物が目立つように意識しています。

ー それでも「あ〜これはアレだな」って元ネタが頭に浮かぶのは、ディテールの取捨選択が巧みだからでしょうね。

ヒカリ:ありがとうございます。色に関しては、元ネタから全部を拾ってしまうとシルクスクリーンの版数がすごいことになっちゃうので、画面の中の印象深い色をピックアップして残すようにしています。

ー 今回実際に刷っている様子を見せていただきましたが、あのデザイン(※殺人鬼の魂が子供の人形に乗り移って暴れるという80年代のホラー映画)では6版も使っていました。

コウジ:それで最近の平均くらいですかね。少ない時でも2版とか。

ー それを手刷りしているとなると量産も大変そう。

ヒカリ:子供がいるので、作業できる時間も限られているため平均で1日10枚。がんばって20枚位。そこはマイペースに毎日刷っている感じです。

ー 作業はアトリエ的な場所で?

ヒカリ:普通に家のリビングで作業しています。夜、子供を寝かしつけてからコッソリと(笑)

ー どのデザインも、発色がメチャクチャ鮮やかですよね

ヒカリ:インクをそのまま使うこともありますが、イメージに近づけるため基本的にその都度、自分で色を調合して使っています。

ー その調色のレシピはデータとして残しているんですか?

ヒカリ:いいえ(笑)

コウジ:なので、そのブレをぼくがチェックしてクオリティコントロールをしています。

ヒカリ:ほとんど任せちゃっています。元職場ではちゃんと色の調合データを残していましたが、自分でやっているからそこはちょっと自分に甘くって(笑)

ー でも、個体差も”ならでは”の面白さという捉え方もあります。

ヒカリ:実際ちょっと版ズレしていたりもありますね(笑)。あと手刷りなのでTシャツのボディカラーも影響してくるんですよ。黒など濃い色の場合はちょっとプリントの色が浅く出てくるんですけど、それも手刷りだからこその表現だと思うので、生かしつつアート性を表現したいと常に思っています。

コウジ:男性だと力がありすぎて版が潰れるか、インクがドカっとのっちゃう感じがあるんですが、女性なので力もあんまりないのが逆にちょうど良いバランスになるんです。そういうブレさえもアートというかアジというか。

ヒカリ:格好良く言うなら”偶然もすべて必然”みたいな。

ー グラフィック自体は引き算だけど、シルクスクリーンでのプリントは足し算。さらにそこから導き出される答えが毎回違うからこそ、量産品ではなく、1枚1枚がオンリーワンのアート作品として成立していると。これまでに使ってきたネタの数って覚えていますか?

ヒカリ:毎シーズン10型前後なので…。

コウジ:年間にすると約20〜50型はあるんじゃないですかね。

ー ヒカリさんに対してコウジさんからのリクエストや注文ってあったりしますか?

コウジ:ないですね。ぼく自身が彼女の作品のファンなので、むしろ毎回仕上がりを見て「お〜イイじゃん!」ってテンションが上がっちゃって(笑)。まぁ、あえて問題点を指摘するなら、使った道具を片付けない所ぐらい。過去にはスキージーが洗濯機に入ってたなんてこともあったりしましたし。

ヒカリ:洗濯機の上で干していたら、たまたま落ちて入っちゃっただけでしょ(苦笑)

ー まさに家庭内手工業のノリですね。

コウジ:そうそう、こうして2人で一緒にモノ作りができて、子供にそれを見せられる環境がすごくイイなって思ったんです。それで自分も関わるようになりました。それまで古着屋が1番強いと思っていたんで「結局オマージュじゃん!」って思う部分もあったんですが、彼女の作品はオマージュではなく、やってることもポップアートに近いというか、いい意味でふざけていてイイなぁって。

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