ファッションから焼肉の世界へ。
ー お二人は昔からのご友人ということですが。
藤井: 大学一年生くらいの頃からの仲ですね。当時僕は「ビームス」で働いていたんですけど、そのとき取材されて雑誌に掲載されたものを見て、お店に来たお客さんの第一号です。
栗田: そうだね。
藤井: そこから遊ぶようになって。それが1998年とかなので、もう随分昔ですね。
栗田: 年齢は僕がひとつ下なんですが、ほぼ同年代ですね。「うし松」は去年の1月10日にオープンしたので、もう1年以上経ちました。
ー 改めて、焼肉の道に進むことになった経緯を教えていただけますか?
栗田: もともと自分の祖父母が淡路島で牛飼いをやっていたんです。

〈ノンネイティブ〉デザイナー、藤井隆行氏。
藤井: そうなんだ。全然知らなかった。
栗田: 神戸牛、但馬牛の繁殖農家をやっていたので、小さい頃から休みのたびに手伝いに行ってたんです。朝早く起きて牧場に行って、餌をあげて掃除してという感じで牛と戯れていました。なので、いつか和牛に関わることがやりたいなとは思ってたんです。
ー そうしたルーツがあったわけなんですね。

手前が「うし松」ディレクター、栗田裕一氏。そして奥が総料理長の平久保辰郎氏。
栗田: ちなみに今日の取材にも同席させている平久保は、焼肉の有名店で修行をしていた経歴を持っています。ですが、僕は40歳を超えて初めて焼肉業界に足を踏み入れたわけで、お店に肉を仕入れるためのルートをつくったり、牛を目利きできるようになるために、いまもお付き合いさせてもらっている仲卸業者さんに履歴書を持って行ったんです。大昔に、10代のころ「ビームス」にアルバイトの履歴書を持っていったとき以来でしたね(笑)。
藤井: そう、栗田くんは「ビームス」でも働いてたので。
栗田: 当然、初めは僕のこれまでの経歴を見ても?という感じだったんですが、1年くらいは無我夢中で修行していました。毎朝始発で東京食肉市場に行って、午前中は競りを見ます。午後は買った牛が解体される現場を体験しました。その後は、肉を生業にすると決めたなかで知り合った師匠がいるんですけど、その方と毎日肉を食べに行ってましたね。
ー 毎日ですか?
栗田: はい。その師匠は、年間で300日以上は肉を食べている方だったんです。その方にくっついて、全国津々浦々、肉を扱う料理屋さんを回らせてもらって。
ー そうした途中経過は、藤井さんは聞いていたんですか?

藤井: 焼肉をやるって聞いて、いいんじゃないかなって思いました。ただ、修行をしていた1年間はまったく遊んだりしなかったですね。おそらく生活スタイルとかも変わったでしょうから。
栗田: そのときは本当に誰とも会わなかったですね。会わないように決めてました。肉に賭けていたので。お鮨屋さんも一緒だと思うんですけど、焼肉屋って仲卸業者から肉を買うわけですよね。なので、そういう業者さんと契約をすれば、必要な分ある程度のものは手に入るんです。けど「うし松」ではある程度のものではダメだということを決めていたので、自分でもきちんとした知識を蓄えて、目を養う必要がありました。あとはコミュニケーションですよね。お店を始めるときにお金をとにかく払えば、いい肉を卸してもらえるかっていうと、そういうことではないんですよね。そこはやっぱり仲卸業者さん、生産者の方々との信頼関係があってこそというか。

お店のスペシャリテ「縛りタン」
ー それはそうですよね。ファッションでいえば、工場・職人さんとの関係性とも似ている気がします。
栗田: 焼肉屋って日本全国に約2万店舗くらいあるって言われてるんです。そのなかでも名門とされる仲卸業者がいます。まずそことお付き合いできなければいけません。そのうえで和牛には銘柄や格付けがあるんですけど、そのなかでも自分たちが思う一番いいものが欲しいと思っていたので、まずは勉強ですよね。とくに僕は肉業界に新参者として入るわけなので、その熱意というか姿勢をわかってもらう必要がありました。

ー 平久保さんの経歴も教えてください。
平久保: 僕も元々お肉がすごく好きだったんですが、最初に(栗田)裕一さんに出会ったときに、いろんなお話を聞くなかで「日本一の焼肉屋になりたい」っていう思いにすごく共感したんです。なので、僕も外のお店で0から修行させてもらいました。さっき話にあがっていた食べ歩きにも同行させてもらいました。
ー 「うし松」がオープンしてから、どんな日々でしたか?
平久保: やっぱり最初はかなりバタバタしましたね。お肉のクオリティは最初から最高だったんですけど、僕たちのオペレーション部分で、いろいろ改善しなければいけないところがあって。毎日少しずつアップデートしながらやらせていただいています。
ー 平久保さんの、お店での立ち位置としてはどんなものになるんですか?
栗田: 総料理長になります。お店の看板ですね!
ー ということは厨房にいるんですね。
栗田: もちろん厨房にもいるんですが、営業がスタートしてからはお客様と直接コミュニケーションを取らせていただいたりと、店内を動き回っている感じですかね。
平久保: あとはレシピの開発とかですね。

ー いまおいくつなんですか?
平久保: 32歳です。
栗田: その歳でこのポジションというのは、業界のなかでもかなり若い方だと思います。
ー お店のスタッフさんもみんな若いですよね。
平久保: そうですね。20代がほとんどです。焼肉屋で働くのが初めてのスタッフもいますが、厨房に入っているスタッフは、やっぱり本当に焼肉が好きなスタッフが多いので、経験者が多いですね。