FACETASM AOYAMA
落合宏理とDOGS、東京の新たな震源にて。

再延長された3度目の緊急事態宣言がようやく解除されて数日が経ったある日、東京・青山の路地裏にひとつのショップがオープンした。

いまや新世代のモードシーンを牽引するレーベルとなった〈ファセッタズム〉の本店、「ファセッタズム 青山」だ。このブランドがオンリーショップをつくるのは初めてのことではなく、オフィスもある神宮前に最初の旗艦店をオープンしたのが2015年のこと。その後、2019年に物件の事情によって閉店して以来の再始動というワケ。

しかし、多くの人たちの行動が制限されるこの時代に、なぜそこへと踏み切ったのだろうか？

「ブランドをやっている以上、お店はすごく大事な場所だし、やっぱりあった方がいいという考えはずっとありました。移転場所を探している最中でコロナ禍になってしまって、ズレ込んでしまったというのが正直なところです」

デザイナーの落合さんはちょっとバツが悪そうにそう言って笑う。謙遜しがちな彼の人柄がよく表れた物言いだが、実際のショップはと言えば、それとは対称的に巨大なガラス張りの洗練された空間で、閑静な青山の奥に突然現れるその姿に圧倒される人も少なくない。

「来年、2022年がブランドの設立15周年なので、完成は1年後でいいと思っています。だから、オープン時のコンセプトは“０（ゼロ）ストア”。思いっきり力を込めてっていうよりは、今回はゆっくりできればいいかな、って」

無機質なガラスと、美術館のホワイトキューブを思わせる白い壁と床、そしてそこに添えられた大きなグリーンを背にして、落合さんは言う。

できたばかりのこのショップには〈ファセッタズム〉のコレクションだけでなく、いくつかのアート作品が据えてあって、床に置かれた〈ラソニック〉のクラシックなラジカセはただのインテリアではなく、実際にサウンドシステムとして機能している。ここで落合さんと話していると、彼の頭の中を覗いているかのような気分になってくる。

パリ・ファッションウィークへの参加辞退をコロナによって余儀なくされ、自身やブランドの現状にも少なからず影響があるものかと思いきや、彼はあくまでいつも通りの自然体のままだ。

その傍、ショップと向かい合った場所にはもうひとつの空間があり、そちらも〈ファセッタズム〉がディレクションするスペースなのだという。「ラボ（LAB）」と名付けられたこの場所は、ギャラリーのように不定期でイベントや実験的な試みを行なっていく、より自由度の高い場所。

その初手となるのが、落合さんの地元、板橋区のすぐ隣、王子を拠点に活動し、彼が「ご近所付き合いのようなもの」と話す気鋭クルーでありショップ、「ドッグス（DOGS）」のポップアップストアだ。

「俺が原宿に来ると、よく落合さんに連絡するんすよ。『何してんですか？』って。で、会って喋ってってなるんですけど、その延長って感じです」

今回の試みの発端について訊くと、KOHHさんはそう教えてくれた。当初は始動から少し時間を置いてのポップアップ開催となる予定だったそうだが、先の落合さんの言葉通り、オープンが遅れた都合もあり、〈ファセッタズム〉の本店とラボは図らずも同時に始まることとなった。