受け継がれていく芸人の美学。

ー こうしてお話を伺ったことで、作品から非常に深い、ビートたけし愛、深見千三郎愛、そして芸人愛を感じる理由が分かってきました。
劇団ひとり:それはもう本当に嬉しい言葉ですね。ぼくの中で深見師匠はヒーローみたいな人ですから。その人をずっと思い描いていたので、“シビれるねぇ”っていう深見さんの姿をどれだけ撮れるかという点には相当こだわりました。それこそ衣装合わせもかなり細かくやって、スーツのパンツの太さまで全部こだわったし、帽子のツバの角度を1°刻みで調節するなんてことも常にやっていましたね。タケシの髪型も随分テストしましたよ。ぼくがすごい気にしたのが、“良いか・悪いか”っていうところなんです。例えばウィッグ。「当時のたけしさんはこういう髪型でした」って持ってこられるんですが、それを柳楽さんが被った時にハマっていなかったら違うんですよ。だって良くないから。そこからディスカッションが始まるんです。当時のたけしさん感はあるけど、今の柳楽さんに似合う髪型にしなければ意味がない。全部がそうですね。重要なのはリアルに再現することではなく、登場人物を魅力的に描けるかどうか。映画制作の現場では、カメラや音響やセットなどそれぞれの役割があるわけですが、どうすれ登場人物がもっと輝くのかを考えるのが、ぼくの1番の仕事なので。
ー 今回、ご自身にとって神様やヒーローと呼べる方々を映画として描いたわけですが、その中で改めて気付かされた、たけしさんの魅力を教えてください。
劇団ひとり:たけしさんの魅力を語るというのは、イコール深見師匠の魅力を語ることなんです。ネットで“たけし良い話”で調べると山ほど粋な話が見つかるわけじゃないですか。その根底にあるのって、深見師匠から受け継がれた芸人としての美学なんですよね。なので、ずっとたけしさんに憧れ続けているぼく自身にも、そのイズムが受け継がれているわけで。実際、ぼくもさっきの深見師匠の話じゃないですけど、借金して後輩にメシを奢ったりしていましたよ。それをされた後輩が、この感じが好きだなぁと思えば、受け継いでいくでしょうしね。たけしさんがそうであったように、深見師匠もきっと誰かから受け継いできたんだろうなぁと思いました。

ー 受け継がれていく芸人の美学ですね。ラストもシビレるものでしたし、ぜひツービート以降のたけしさんの姿も、劇団ひとり監督に描いてもらえたらなと。
劇団ひとり:いやぁ~でも、全然違う映画になりそうですからね。フライデー襲撃事件とかあったりして(笑)。下手なものを作って泥を塗ると、たけし軍団さんにボコボコにされちゃいますし(笑)。
ー (笑)。今作は多くの若者に影響を与えると思いますし、これをキッカケに芸人を目指すなんて後進たちも出てくるのではないでしょうか。
劇団ひとり:そうなったら嬉しいですよね。「あの映画を観て、芸人を目指しました」なんて言ってくれたら、たまらないですね。

- 1
- 2