ここは、あまりにも正統な場所。
今回展示される「インク ギャラリー」には、吉村順三の設計による建物と、日本を代表する数奇屋大工・中村外二の茶室がある。そして奇しくも、そのチームは、220点以上の〈ジョージ・ナカシマ〉の家具が配置されたロックフェラー邸と全く同じ編成だ。そんな数奇な運命にシンパシーを感じて今回の展示も決まったそうだ。
「先ほども言いましたが、海外のデザイナーたちはちゃんと評価して、愛用している人が多いんですよね。トム・フォードの映画『シングルマン』に登場する、フランク・ロイド・ライトに師事していたジョン・ロートナーの建物”ガラスハウス”に入っている家具はほとんど〈ジョージ・ナカシマ〉のものだし、マイケル・コースもコレクションしているという記事を読んだこともあります。かたや日本だと上の世代のその中でも一部の方々にしか知られていないので、自分が関わっている同時代のデザイナーさんたちが〈ジョージ・ナカシマ〉の哲学や家具を体験してくださったら、また何か物作りにも影響するのかなとか、僭越ながら思いました」(水澗)
海外と日本でのジョージ・ナカシマの知名度の差。それはどこから来るのだろうか。言い変えれば、なぜ海外では地位と評価を確立しているのだろうか。
「1952年の建築家協会のクラフトマンシップメダルを受賞するなどすでに評価はされていましたが、おそらく、ロックフェラー邸を手がけたという実績が一種のステータスになったのかなと思います。当時MoMAの会長を務めていたアートにも造詣の深いネルソン・ロックフェラーが、自邸に置く家具として最終的に選んだのが〈ジョージ・ナカシマ〉だった。この事実は、なかなかすごい評価のされ方なんでしょう」(水澗)
そして、ジョージ・ナカシマは日本とも積極的に交流を重ねた。例えば、1960〜80年代にかけて、「小田急ハルク」で「ジョージ・ナカシマ展」が行われたが、その影響は小さくないと水澗さんは語る。
「初期の展示では、(書家、美術家、版画家、エッセイスト)の篠田桃紅さんをはじめ著名な方たちが買われたそうですが、その時に駆けつけて展示を見たのが、剣持勇さんや渡辺力さん(ともにインテリア・プロダクトデザイナー)。ある雑誌で渡辺力さんが、〈ジョージ・ナカシマ〉のストレートバックチェアを評して、これを超えるウィンザーチェアはないと。そして、その何十年か後ぐらいに、リキウィンザーを作ったんです。剣持さんも、ナカシマさんの影響で日本のモダニズムが30年早まったということをおっしゃっていたとか。同時代のいろいろなクリエイターに影響を与えているのも、面白いなと」(水澗)
その影響の大きさに比して、日本での知名度は落ち着きすぎているくらいだ。それは、世界中でも、アメリカのニューホープ、銀座、高松という3ヶ所でしか買えないことも影響しているはず。水澗さん曰く「よっぽどの家具好きや建築好きでないと、たどり着けないような家具に、今の〈ジョージ・ナカシマ〉はなっている」と。
今の時代は、ひとたび一人のデザイナーズ家具に脚光が当たれば、一気に流行る、流行り過ぎるくらいだ。それとは一線を画す存在である、〈ジョージ・ナカシマ〉の家具。今回の展示では、触って座って体験できる、またとない機会となる。鎌倉・湘南の海を一望できる、見晴らしの良い「インク ギャラリー」の空間と合わせて、その思想ごと味わってほしい。