「THE NORTH FACE globe walker」ディレクター 藤野元気
ー「THE NORTH FACE globe walker」という業態は、ここ福岡で何店舗目になるんですか?
藤野 :5店舗目です。
ー最初にオープンしたのは?
藤野 :5年前に京都の「藤井大丸」にオープンしたのが最初ですね。その後、北海道(札幌)、東京(世田谷)、神奈川(藤沢)と続くんですが、2年くらい経ったタイミングで、いったん〈ザ・ノース・フェイス〉のロゴを外したんです。
ーそれはまたなぜ?
藤野 :〈ザ・ノース・フェイス〉の冠が付くと、どうしてもいろいろな制限がありまして。もっと自由にお店作りを進めたかったんです。
ーそれがまたひとつになったということですか?
藤野 :そうなんです。このお店を皮切りに、新しいロゴで全国のショップも展開しています。
Photo_ THE NORTH FACE official
ーこのショップのコンセプトは、藤野さんが作っていったんですよね?
藤野 :そうですね。
ーそれまでは何をされてたんですか?
藤野 :僕はずっと直営店のVMDをずっとやっていました。「THE NORTH FACE globe walker」を始めて2年半くらいは、両方の業務をやってました。
ー今はこっち一本で。
藤野 :そうですね。
ー5年前にスタートさせてどうでしょう、手応えはありますか?
藤野 :徐々にですかね。あんまりどんどんやる感じでもないので。まずは好きな人が来てくればいいかなと。基本的には京都にお店を出したら、京都の人たちと組んでお仕事をしたいんです。札幌なら札幌の人。今回は福岡なので、福岡の人と組んで何かをしたいと思っています。そうやって地場の人と組んでものづくりをすることは、すごく大切だと思っています。
ー“旅”をテーマにしたというのは、藤野さん自身が旅好きだったということですか?
藤野 :はい。20代のときは、海外によく行ってましたけど、最近楽しいのは国内ですね。日本の古い道を歩くという旅を毎年年末にしているんです。
ーそれはどれくらいの期間ですか?
藤野 :2~3週間(笑)。1年間の反省行事じゃないですけど、歩いて今年1年間どうだったとか、来年どんな仕事していこうかなっていうのを考えながら、何人かでいつも歩いてます。「ランドスケーププロダクツ」の中原さんとか、「PAPERSKY」のルーカスとか、結構面白いメンバーですよ。
ーなるほど。そうした日常的な“旅”があって、それをお店に落とし込んだんですね。
藤野 :はい。あとは、“アウトドア”という看板を掲げていると、もちろんアウトドア好きな方は来てくれるんですが、ある意味偏っていくんですよね。そんななか、新しいお客様に来てもらうためには?と考えていたときに、“旅”というキーワードが出てきたんです。
ー普通の〈ザ・ノース・フェイス〉のショップと一番違うのはどのあたりですか?
藤野 :商品が全然違います。〈ザ・ノース・フェイス〉のなかに、「アンリミテッド(unlimited)」という“旅”をテーマにしたラインがあるんですが、それが軸になっています。いかにもアウトドアっぽかったり、山登り用みたいな商品は一切置いていません。
ー「アンリミテッド」自体は、「THE NORTH FACE globe walker」が出来る前からありましたよね?
藤野 :はい。もともと存在していたラインだったんですが、“旅”というところに集約させたのは、ここ2シーズンくらいですね。その前は“境界線を引かない=アンリミテッド”というコンセプトでした。遊びと仕事の境界線を引かずに、どちらのシーンでも着られるという。〈ザ・ノース・フェイス〉にはどうしたってストイックなアウトドアのイメージがあると思うんです。そうではなくて、ビジネス、出張、観光とかそれぐらいの感じの“旅”をイメージしています。
ーそれは例えばどんな機能に落としこまれるんですか?
藤野 :シワになりにくいとか、すぐ乾くとか。ビジネストリップだったけど、そのままそれを着て、履いて、山に行けるくらいの気軽さを想定しています。
ーいわゆるビジネスマンみたいなお客さんにも来て欲しいということですね。
藤野 :そうですね。実際来てもらっています。
ーそうなると、普通の〈ザ・ノース・フェイス〉のお店と客層は変わってきますね。店内を見渡しても、まず色がかなり絞られている印象です。
藤野 :そうですね。毎シーズン、あまりたくさんの色はやらないようにしています。仕入れも基本的には黒・白・赤ぐらいにとどめています。
ーメンズとウィメンズは半々くらいですか?
藤野 :メンズが6、ウィメンズが4くらいですかね。そのなかで、仕入れの商品が大体2割くらいです。
ー仕入れの商品はどんなものを?
藤野 :基本、自分が使って見てよかったものとか、あとは作ってる人の想いが伝わりやすいものですね。
ーそれが今回、お店のオープニングに来ていた尾崎雄飛さんの〈ヤング&オルセン〉や、大貫達成さんの〈ウエストオーバーオールズ〉というわけですね。
藤野 :まさに。
ーそうなると、「THE NORTH FACE globe walker」で彼らのブランドを知るお客さんとかもいるでしょう。
藤野 :いますね。
ーそういう“入り方”ってなんかいいですよね。
藤野 :そうなんです。逆に〈ザ・ノース・フェイス〉のことをあまり知らなくて、仕入れているブランドのファンの方がお店に来てくれるっていう流れでもいいわけです。そうするとやっぱり常に新しいお客様が入って来てくれるんですよね。元々〈ザ・ノース・フェイス〉が好きだっていう人には、少し物足りないかもしれませんね。
ーなるほど。
藤野 :そういう方は普通の大きいお店で買ったほうがいいと思うんです。当然、アイテムもたくさん揃ってますし。僕はどちらかというと〈ザ・ノース・フェイス〉を知らない人がなにかをきっかけにしてお店に入って来て「すごくいいもの作ってるじゃん」ってなってくれた方が楽しいんです。
ーそういう戦略だと、人の流れが多いところにお店を出した方がよさそうですね。できるだけ、色々な趣味嗜好を持った人が多く通る場所に。
藤野 :そうですね。このお店のターゲットは、下は高校生、上はどこまでも、っていう感じです(笑)。仕入れ商品も毎シーズン同じものではなく、色々変えていって、新鮮さを出すようにしています。
ーいままでVMDをやっていたということは、内装は本業ですが、お店によって仕様は違うんですか?
藤野 :違います。とくにこの福岡のお店は、細かいところまで僕がディレクションしています。
ー少し具体的に教えてください。
藤野 :基本的には、木とモルタルと黒い鉄という3つで作っています。〈ザ・ノース・フェイス〉のロゴがつくお店としては、そこはまず守りましょうと。その上で、その3種をどのように組み合わせるかで、どんなジョイントが生まれるか、というところに気を配っています。
ーショップを見渡すと、やはりカウンターが特徴的です。
藤野 :カウンターはこのお店の一番のポイントですね。とにかくお客様と“話す”店にしたかったんです。お寿司屋さんとかバー、カフェ、喫茶店とか、大体カウンターがあって中にご主人がいるじゃないですか。そこに一人でフラっと入って一人でご主人と喋ったりできるし、たまたま隣に来てる人と喋ったり。それを洋服屋さんの中でできないかなと思って。
ーそういう意図なんですね。
藤野 :うちのお店のスタッフが大将、ご主人としてカウンターの中にいて、「福岡に遊びに来たんですけど、どこかいいとこ知りませんか?」みたいな。
藤野 :そうそう。そういうのもありかもなって。お客様が椅子に座ってそこで喋って、結果「なにか探してるんですか?」っていう会話になったらいいなって。
ーとても素敵だと思います、そういうコミュニケーション。
藤野 :とにかく“話す”ということをとても大切に考えています。路面店とか、オンリーショップだと、お店の前でみんなでたまって話したりしていると思うんですけど、〈ザ・ノース・フェイス〉みたいに大きいブランドだとなかなかそういう光景ってないなって。あとはこうしたテナントモールに入っていて、そういうスタンスのお店ってあんまり見かけないですよね。だからこそやってみたかったんです。
ーカウンターには本がありますね。
藤野 :これ、図書館みたいに貸し出ししようと思ってるんです。正直、戻ってくるかわからないですけどね。出張前とか遊びに行く前にここに寄って、今から新幹線とか飛行機に乗らなきゃいけないっていう人たちに貸して。で、帰ってきたときにまた返してくれればいいかなって。
ーこうした小さい取り組みを〈ザ・ノース・フェイス〉がやるのが面白いですよね。
藤野 :あと考えてるのは、荷物の預かりサービスです。実はロッカーも作ってるんです。色々と試しながら、少しづつ始めていきたいなと思っています。
ー来てくれた人と、必然的に交流も生まれますね。変な話、預けるだけ預けて「じゃっ」っていう人もそんなにいないと思いますし。
藤野 :だといいんですけど(笑)。本当は僕がカウンターのなかにいたいです。でもまぁ、それはできないので。この福岡店には、「博多大好き!」っていう店長がおりますので、なんでも聞いてください。
ー出張とか観光で来た方から、おいしいご飯屋さんの話とか聞かれそうですね。
藤野 :そうですね。とにかくいろんなことをやりながら、お店の可能性を広げていきたいなと思っています。
Photo_ THE NORTH FACE official