人生も半ばを過ぎて紡がれる、失ったものへの追憶と未来への肯定。
—サブスクで楽曲単位で聴くことが増えてアルバム単位で聴く機会が減ったのですが、今回の取材の前にやはり1枚のアルバムを頭から最後まで聴くと「これぞ音楽鑑賞だな」という深みがありました。
アルバムとしての完成度が高けりゃ、ね。自分がつくったのはどれも最初から最後まで聴けるとは思っとるけど。そうでもないか、昔の曲は一曲がめちゃくちゃ長かったりするので、一回聴くと頭がいっぱいになっちゃってしばらく聞かなくても大丈夫。なんてアルバムもあったかもしれませんね。自分の考えとしては。どんなふうに自分たちの音楽を聴いてもらっても嬉しいと思いますね。
『SAME』は去年から今年にかけてつくってたんだけど、そのときに浮かんで来た「これいいな」って思う曲を20曲ほどつくりまして、最後にチョイスして並べた感じかな。
—『SAME』に込めたテーマは何かありますか?
テーマはその時自分の中から出てくるものでいいかな、って思ってるね。日頃から色々なものを見て感じてるから。30代の時に感じたことが30代につくったアルバムになっとるし、いまは人生もだいぶ後半になりかかって来た57歳の人間の発する言葉が自然にアルバムになっとるから。もしテーマがあるとしたら、自分の気持ちに素直なまんま作品にしてるってことかな。毎回そうだけど。
—『Happy Everyday』のようにSHERBETSらしいストレートな楽曲もありつつ『おフランス』のような曲もあったりと、年齢を重ねたからこそのバリエーションがあるように思いました。
『おフランス』ね。一番気に入ってるんだよね(笑)。
—パリの街角を散歩している情景が目に浮かぶようで、ぼくも好きな楽曲です。簡単に海外旅行が出来ないご時世の中で聞くと……。
懐かしさ? あの時は良かったなぁ、みたいな。
—はい。失った世界への憧憬があるように思いました。
そう。この歳でつくると、自然とそうなっちゃうんだよね。「さあ行くぞ」みたいな曲にはならないんだわ。そういうのを無視して作詞することもできるけど、20代の子がつくる曲とは全然違うよ。『おフランス』にしても、昔の思い出話だからね。補足しておくと、飴玉だけじゃなかったから。一番最初に入ったのが飴玉3つで、その後にちゃんと小銭を入れてくれた人がおって、最終的に48フランぐらい貰えた。その時まだカメラはフィルムだったから、フィルムケースに入れて飴玉と小銭をまだ取ってあるんだよね。
—歌詞に書いてあることはモロに実際の体験なんですね。
うん。フォークダンスはしとらんけどね。
—今回の新譜で『おフランス』以外に気に入っている曲は?
『Grantham』。この曲はAJICOの『接続』の姉妹曲と言うか……。AJICOでもこの歌詞で提案したんだけど、UAが「歌詞は自分でつくるよ」ってことだったから、それも嬉しいから任せたんだよね。でも俺はこの歌詞がすごく好きだったんで「このかたちでいつかやるよ」とは言ってあって。『接続』とサビのコードは違うけど、Aメロは同じでキーが違うだけ。そのまま眠らせるのはもったいないなって思ったんで、かたちにしておいた。
—バンド違いで対になる曲があるのは、浅井さんのプロジェクトの楽しみ方かもですね。それから、初回限定盤のボーナスディスクも聞き応えがありました。
ボーナスディスクはルームレコーディングとリハーサルの風景をハンディレコーダーで録ったものだけど、すごくレアだと思う。中でも『LIP CREAM』って曲がすごく良いし、曲に合わせて個展会場の物販用にリップクリームもつくったんだわ。
—ツアータイトルにもなった『欲望の種類』に込められた意味とは、どんなものでしょうか?
みんな自分が幸せになりたいってのが根本にあって、そのためにお金を稼いだり家庭を築いたりして頑張っとるでしょう。それは良いことだし当たり前のこと。だけど、自分が幸せだったとしても隣には不幸せな家庭があったとするじゃん。「自分だけが良ければとりあえず良いや」ってなるのは生き物の本性で否定なんかはしないし、それがひとつの欲望だと思う。だけど、周りの人も楽しくないと心のどっかが苦しい。だから周りの人もなるべく多くの人が笑い合えるような社会とか国でありたい、って言うかさ。それは少し種類が違う欲望でしょ?
もう一段高見というかさ、崇高というか。自分たちだけがうまい具合にやっていればそれで満足だっていう欲望と、それからもう一段階進んだ「みんなも嬉しくなくちゃ気持ちよくなれないよ。だからそこに向かうんだ!」っていう欲望って種類が違うじゃん。そのこと。
自分はたくさんの人を傷つけてきたと思っていまして、利己主義な所もあるのは知っていて。だから歌は綺麗でいたい。なんて勝手なことを思っているんです。