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生み出すひとたちとKOMONO。 Vol.2 浜名一憲

生み出すひとたちとKOMONO。 Vol.2 浜名一憲

ベルギーはアントワープを拠点に、時計やサングラスなど洗練されたプロダクトを中心に展開するアクセサリーブランド〈コモノ(KOMONO)〉。以前、アート界隈にも造詣の深いデザイナーにこんなインタビューをしましたが、シンプルでユニセックスなデザインはもとより、ポエティックなビジュアルによってここ日本でもその知名度を着実に広めてきています。今回、そのブランドの新作モデルをアートやカルチャーに精通した4人のクリエイターのフィルターを通してご紹介していきます。第二回目は、千葉県いすみ市で作陶に勤しむ浜名一憲さんです。

  • Photo_Aya Tonosaki
  • Text_Satoru Kanai
  • Edit_Shinri Kobayashi
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浜名一憲

高校卒業後、アメリカ合衆国カリフォルニア州にあるサンディエゴへ留学。帰国後、フリーマーケットでヴィンテージデニムや時計を販売し、本格的に個人バイヤーとして活動を始める。1994年、原宿にスニーカーショップ「blues」を開業し、90年代のスニーカーブームの終焉とともに閉店。その後、千葉県いすみ市に移住し、そこが日本一のいわし産地であることを知り、古い魚醤技術を改良したアンチョビソース「セグロのクサレ」を完成させる。現在は、陶芸活動とアンチョビづくりのほか、古民家を改修し、ギャラリーづくりに勤しむ。ランドスケーププロダクツの中原慎一郎や現代アーティストの村上隆に縁のあるお店で取り扱うなど陶芸作品への注目度は高く、十和田市現代美術館で開催中の「村上隆のスーパーフラット現代陶芸考」(2017年05月28日まで)にも、村上隆のコレクションとして展示されている。

「Walther Tobacco」¥22,000+TAX
シンプルなデザインにスモールセコンドを搭載した、ブランドの代表モデル。ドーム型のガラスで存在感あるフォルムに仕上がっている。

すべて変動するもので、カテゴライズはしない。

ーまず浜名さんの職業について伺いたいのですが、ご自身では陶芸家と名乗らないとおっしゃっていましたね。あえて、肩書きをつけるとしたら何になるのでしょう。

浜名:すごく困るんですよ。決まっちゃうと、それしかできないので。別にそんなことないんだけど、アンチョビもつくっていれば、海岸で拾ったゴミで作品もつくりますから。ただ、陶芸家とはやっぱり違うかなと思いますね。

2階部分のデッキに置かれた浜名さんの作品。悠然とした佇まいは、周りの環境と共鳴しているかのよう。

ー2014年に「Hidari Zingaro」(村上隆氏率いるカイカイキキがプロデュースするギャラリー)で行われた個展の際、「浜名一憲個展開催にあたり」という文章で波乱万丈な半生が紹介されていました。フリマからスタートし、自身のスニーカーショップを立ち上げ、紆余曲折を経て、いすみ市に移住。陶芸とアンチョビづくりを手がけるようになり、現在に至る、と。

浜名:たしかにカテゴライズすると陶芸家のようにも見えるんだけど、ぼくのなかでは、これまでやってきたことと何も変わっていないんですよ。スニーカーを売ることもそうだし、アンチョビをつくることも同じ。ぼくのつくる「セグロのクサレ」はその日獲れたイワシだけを使い、半年以上かけて完全発酵させているので、アンチョビという種を駆逐するようなやり方とは完全に別モノ。世の中にないからやってやろうっていう、カウンターの姿勢なんですよね。

雑然としながらも統一感のある作品群。自身の作品はもちろん、骨董や友人の作品、海の漂流物などが、部屋のそこかしこに置かれている。

ーほかにないという意味で言えば、作品の“大きさ”に圧倒される人も多いように思います。

浜名:職業をカテゴライズしたくないのと同じで、「このサイズが浜名さんだよね」とイメージありきになってしまうのも困るし、それは、たまたまその瞬間そうなだけであって、もし社会が動いてこっち側に来たら、ぼくは違う方向に行くことになるんですよ。

なぜこの大きさかっていうのはよく聞かれるんですが、非日常的なサイズ感の作品を置くと空間がどう変わるのか、自分や他人にどう影響を与えるのかというのが目的だから。もちろん、つくって売るんですけど、そっちがファーストプライオリティではないんですよ。

ー以前に、安土桃山時代など古いモノの美に共感すると発言されていました。それは、現代のモノよりも、悠久の時を経たモノの美しさに惹かれるからでしょうか。

浜名:古田織部なんて、むちゃくちゃ“いやらしい”。それが400年経つと“いやらしさ”が消えて、人間のパッションだけがちょっと残っているという状態になって、ぐっとくる。あんなの、出来たてだったら蹴飛ばしているかもしれない(笑)。いらんわ、こんなのって。

現代アートに美しくないモノが多いと言われるのも、“自己顕示”ばかりが目立って、地球への尊敬だとか、人類史を背負っていないモノになっちゃうからだと思うんです。だけど、時間が経つとその表情とともに変わってくる。いまは、その辺のバランスにすごい興味があります。

浜名:たとえば、これ(上記写真のボトル)は岸で拾ったんですが、元は洗剤の貧相なプラスチックボトルだったと思います。でも海で漂う間に、こうやって茶色のものが付着したいまの姿は、いいなと思うんです。

安土桃山を例に出したのも、そういうことなんですよ。歴史的にも混沌とした時期ゆえにあたらしいものが出てきて、なおかつ、それから400年経っているという二重のフィルターがかかっている。だから、あの時代のモノが傑作だと言われるんです。

覚悟を決めて、使い続ける。

ー今日お持ちした〈コモノ〉の「Walther」コレクションの中の文字盤がブラックでベルトは濃いブラウンと、文字盤がホワイトでベルトが薄いブラウンというタイプがありましたが、後者を選ばれました。デザインとしては、どう感じますか?

浜名:シンプルという一言に尽きますね。過度に作りこまれておらず、記号性がありません。時計もひとつのラグジュアリーとすると、そのブランドとわかるような記号的なデザインもあり得ると思うんですが、この時計にはそれがない。クセがないとも言えるでしょうね。

ーどんなひとがつけるイメージでしょうか?

浜名:オーソドックスなデザインなので、つけるひとを選ばないというか、丁寧なコトやモノが好きなひとがつけるイメージですね。

2万円ちょっとというのはとても現実的な価格だと思います。たとえば若い子が初任給でも十分買えますよね。時計の入門編としては十分だと思いますし、シンプルなのでずっと長く使ってほしいと思いますね。

ギャラリーへと改装中の古民家のなかに置かれた、浜名さんの作品。

ーデザインや価格以外で、浜名さんがモノを選ぶ基準は何ですか?

浜名:この「Walther」に関して言えば、もうひとつの黒の文字盤は、ヴィンテージだと好きなんですけど、新品だとぼくの好みとちょっと違うんですよね。ただし、さっきの話に繋がりますが、覚悟を決めて長く使えば確実に変わってきます。

モノは買って終わりじゃなくて、たとえばどこかにぶつけた跡や経年変化など、自分“だけ”の痕跡や個人史のようなものが宿っていくとおもしろいと思うんです。

浜名:ぼく自身、時計商になろうと思っていたくらいのコレクターだったんですよ。こういう暮らしになってからは1日の流れがほぼ太陽と一緒なので、時計はつけなくなりましたけど、ずっと好きで集めていたし、プロダクトとしてあるべきだと思います。
ただ、90年台のスニーカーブームの終焉を経験したこともあって、流行は廃れることを経験則で知っている。だからこそ、モノを選ぶには覚悟が必要なんだと言いたいんです。

古民家のなかの作品。割れた陶器は通常では用を成さないが、浜名さんは“用の美”ではない美しさを感じ取っている。

ー言われてみると、覚悟を決めた買い物というのは、していないかもしれないですね。

浜名:あまりにも二次情報とモノ自体が多すぎるんですよね。でも、昔に付き合っていた彼女から貰ってずっと付けていたら、そこで自分個人の人類史が刻まれていく。そして、そのストーリーが他人にも影響を与えてくるわけですよ。

なので、この時計にする! と決めたら、ずっとしておくのがいいってこと。夏でも使うからレザーのベルトは臭くなるかもしれないけど(笑)、むしろそれがいいんです。そっちの方がインパクトありますよね。

そこで「そうなんだよ。実は19のとき、付き合ってた彼女からプレゼントされて、それ以来ずっと使ってる」とか言われたら、こっちもガーンと感動しますよ。ベルトが切れてきて自分で縫ったり、途中を布切れでつぎはぎしたりとか、ぼくはそういうのを見たいですね。

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