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GORP CORE Vol.1 ゴールドウイン ゼロが提唱する究極のモダンウェア。
MONTHLY JOURNAL Sep. 2022

GORP CORE Vol.1
ゴールドウイン ゼロが提唱する究極のモダンウェア。

今年3月18日に行われたRakuten Fashion Week TOKYO 2022AWで突如発表された〈ゴールドウイン ゼロ(Goldwin 0)〉。国内でも指折りの大手スポーツアパレルメーカーが手がけるプロジェクトでありながら、そのクリエイションは驚くほどに先鋭的かつ挑戦的。プロジェクトの発起人でもあり、ゴールドウイン グローバル・クリエイティブ・ディレクターの元田太郎、ジュリア・ロドヴィッチとジャン=リュック・アンブリッジという2名の共同デザイナーのインタビューとともに、“ゴープコア=アウトドアムードをデイリーに落とし込むスタイル”を更なる高みに導く、この次世代テクニカルウェアの全貌に迫ります。

  • Photo_Keita Goto (W)
  • Styling_Yuto Inagaki (TRON)
  • Edit_Kenichiro Tatewaki

―プロジェクト名に冠した“ゼロ”が示す意味を教えてください。

元田太郎(以下元田): まず、関係するすべての人々の循環、自然との調和、終わりのない探究心を表すモチーフとして、正円をこのプロジェクトのシンボルにしています。そこから派生したのが“0(=ゼロ)”。「サステナブルブランドです」というアプローチを押し出しているわけではないのですが、現代のファッションについて考える上でこれは絶対に無視できない価値観。地球環境への負担をなるべく減らすことで、ものを作る側にとっても使う側にとってもより良い未来を描きたいというぼくたちの想いが込められています。

―プロダクトとヴィジュアルの両面において、従来の〈ゴールドウイン〉のイメージを覆す先鋭的なクリエイションを行われています。このプロジェクトを通して、何を表現しようとしているのでしょうか?

元田: ぼくは以前から、テクニカルウェアといえど人々の感情を動かすものであるべきだと考えています。速さを求めるとすべての車がF1のような形になってしまうのと同じで、テクニカルウェアも機能を追求するとどんどん無駄を削ぎ落とす方向に進むじゃないですか? 防水性を高めるならシームはいらないし、ステッチを施すとそこから水も入ってきてしまう。ただそれでは着る人が高揚感を得られない気がしていて。そこから脱却できる新しいキャラクターを〈ゴールドウイン〉の服に与えたかったんです。

―キャラクターとは具体的にどんなものを指すのですか?

元田: グラフィックやロゴがキャラクターになっているブランドもあれば、機能がそれに該当するブランドもある。〈 ゴールドウイン ゼロ〉の場合は、アート、サイエンス、ネイチャーという3つの軸から成るコンセプトです。どこにも負けない技術力はもともと備わっていて、自然との共存については“ゼロ”の由来の通り。じゃあアートはどう補完するのかとなったときに挙がったのが、 ジャン=リュック・アンブリッジというデザイナーでした。

―ジャン=リュック・アンブリッジは、コロナ禍に独学で服作りを始めた人物です。ノンキャリアのデザイナーとしては異例の抜擢だと思いますが、どこに惹かれたのですか?

元田: ネットで彼の作品を見かけて一目惚れしたんです。元々のバックグラウンドがグラフィックとスペキュラティヴデザインということもあって、テクニカルウェアらしからぬパターンメイキング、有機的な曲線と色使いがとにかくおもしろくて。まさにぼくらが求めているアート性でした。デザイナーの候補の中には著名な方もいたものの、〈ゴールドウイン ゼロ〉は誰かの名前を立てたコラボレーションではなく、一緒になって新しいアイデンティティを作るプロジェクト。その点ジャンは一切顔を出さないアノニマスな存在で、モノで人を納得させるタイプ。そんなスタンスが一致したこともあり、「どうしても彼とやりたい」と会社に提案しました。

―独学となると、どうしてもデザインありきの服作りになり、さらにそれを優先すると機能性を犠牲にせざるを得ないケースがあるのでは?とも思えてしまいます。

元田: おっしゃる通りアーティストなので、たまに機能を成していないときもありますが(笑)、まずはクリエイティブを優先し、そこに機能性を乗せるという順序をとっています。彼が用意したデザインに対してグループ全体の技術者が集まり、「このラインを活かすなら角度を少し変えよう」「このシームテープはいる、いらない」など、一品番ごと全ディテールごとについて綿密に話し合いました。彼のデザインを活かしながら〈ゴールドウイン〉が定める品質基準をクリアするのは本当に難しいことで、そういう意味でもとても挑戦的なプロジェクトになっていると思います。

―一方で、主にニットウェアを担当するジュリア・ロドヴィッチは〈バレンシアガ〉や〈ルメール〉でデザイナーのキャリアを積んできた人物。彼女を起用した理由も教えてください。

元田: スキーウェアをベースにしているため、ニットも絶対に欠かせない要素のひとつ。ただニットは感覚だけで作ることができず、しっかりとした知識と経験が必要なんです。そこでプロジェクトのメンバーが連れてきたのが、これまでラグジュアリーブランドでニットデザイナーを務めてきた ジュリア・ロドヴィッチでした。あとジャンが企業のなかで働くという経験が全くなかったので、そういった環境下でクリエイティブをコントロールするリードデザイナーとして、確かなキャリアを持っている彼女は適任でした。

―今回のコレクションでは、シェルとニットという〈ゴールドウイン〉のルーツを再解釈したアイテムで構成されます。それぞれどんな点を踏襲し、どんな点をアップデートしたのかをお教えください。

ジュリア・ロドヴィッチ(以下ジュリア): 当時としては非常にモダンだった1960年代のスタイルからインスピレーションを受け、伝統的なノルディックジャカードを思わせるテクスチャー柄のスキーセーター、エンジニアードレイヤーのトップスやパンツを作りました。特に日本で開発されたホールガーメントというゼロ・ウェイストを目指す最先端技術は私のお気に入りで、昔の人々が風雨から身を守るために着ていた服の特徴を残しながら、シームレスな縫製によりカットソー以上に快適で自由な動きを実現してくれます。

ジャン=リュック・アンブリッジ(以下ジャン): アウターウェアの分野においても、〈ゴールドウイン〉には信じられないほど豊かな歴史があります。ラッキーなことに膨大なアーカイブに目を通すことができ、いくつかのメモやデザインも参考にできました。それらを元にぼくのフィルターを通して、アイコニックなアリスジャケットを進化させたり、サイドシームが付いた「ゴアテックス®︎」の3レイヤーパンツを制作しました。

―近年のテクニカルウェアでは当たり前にあった、ロゴが一切プリントされていないことも特徴のひとつです。

元田: 服にアイデンティティを与えるのがロゴの役割だと僕は考えているんですけど、〈ゴールドウイン ゼロ〉においてはデザインそのものであってほしい。だから、何かをマーキングする必要がないんです。内側の織りネームにもブランド名は一切出していなくて、プリントされているのはファーストコレクションのテーマである“FINDING FORM”をイメージした円のグラフィックのみ。リバーシブルで着られるアイテムが多いから、ネームが表に出たときでさえ、ひとつのグラフィックエレメントとしてすっと溶け込むよう意識しました。このグラフィックは今後シーズンごとに変わっていきます。

ー冒頭で「サステナブルブランドという打ち出しはしていない」と語っていましたが、最近は多くのブランドが“サステナブル”という言葉をブランドの価値をアピールするためのマーケティング用語として扱っているような印象を受けます。そういった現状に対してどうお考えですか?

元田: 個人的な意見としては、必ずしもサステナブルファーストである必要はないと考えています。ホールガーメントニットやスパイバーのように、〈ゴールドウイン〉だからこそ実現できるアプローチはもちろんありますが、大切なのは正しい判断を下すこと。「環境配慮を謳いながら、結局はケミカルな素材を使うんでしょ」とよく言われるんですけど、サステナブル素材を使っていながら1シーズンしか着られない服より、今後10年着られる「ゴアテックス®️」の服の方が選択肢として正しい場合もあるかもしれない。チェックリストに書かれた定義をただクリアするのではなく、僕たちなりの解釈と判断で適切な服作りを行うだけですね。ちなみに〈ゴールドウイン ゼロ〉では今冬から、〈ゴールドウイン〉のインラインのアイテムでは来年から無償リペアサービスを始める予定です。

―スパイバー社の新素材を積極的に取り入れている点も、〈ゴールドウイン ゼロ〉の強みのひとつだと思います。従来の素材と何が違うのでしょうか?

元田: これまで多くのアウトドアスポーツウェアに使われていたポリエステルやナイロンの原料である石油は、今後50年ほどで枯渇する可能性があると言われています。それに比べてスパイバー社のBrewed Protein™素材は植物由来のタンパク質の粉が原料。わずか1、2%だとしても、限りある資源と置き換わるのは地球にとってはすごくポジティブなことですよね。

ジュリア: 紡ぎ方次第でアウターウェアにも素肌に着用できるような繊細な服にも変化します。今回のコレクションでは、大自然の厳しい環境下で着ている人を保護するためにボンディング加工されたシェルジャケットと、肌に吸い付くような柔らかさと高級感を持つフリースニットに姿を変えました。

ジャン: ジュリアが言う通り、素材としての汎用性が圧倒的に違いますね。丈夫な3層構造の布に織ったりニットウェア用の糸に紡いだりすることができる柔軟な性質は、本当にユニークだと思います。

―クリエイティブディレクションを担当しているのは、ヴァージル・アブローの展覧会図録を手がけたことでも知られるロンドンのデザインスタジオ「OK-RM」。彼らが参画することになったきっかけは?

元田: 「OK-RM」はグラフィックを主軸にしたクリエイティブディレクションを得意としていて、ブックデザインとタイポグラフィにいつも感銘を受けていました。偶然にも前職時代の親友が彼らと繋がっていて、「太郎に会ってほしい」と一筆書いてくれて(笑)。それで電話で「アート+ネイチャー+サイエンスをコンセプトにした新しいプロジェクトを立ち上げるから力を貸してください」と頼んだところ、二つ返事でOKをくれたんです。〈ゴールドウイン〉のことはおそらく知らなかったはずなのに、純粋に興味を持ってくれたことがうれしかったですね。

―「OK-RM」からの提案で、いちばん印象に残っているものはなんですか?

元田: 織りネームのアイデアには本当に驚きました。ブランドロゴを入れないのもシーズンごとにシンボルを変えるのも彼らからの提案なんです。通常のブランドビジネスではあり得ないじゃないですか? でも〈ストーンアイランド〉の腕章にしても〈メゾン マルジェラ〉のステッチにしても、それまで誰もやらなかったからこそ確固たるアイデンティティになった。そうやっていろいろと突き詰めていくと、あって当然だと思っていたものが〈ゴールドウイン ゼロ〉においては結構必要なかったり。とても勉強になりましたね。

ー彼らと制作したルックムービーも印象的でした。

元田: 身体の動きに合わせて見せた方が、ぼくたちのプロダクトの魅力が伝わりやすいのかなと。プリーツの奥が黄色になっている赤いニットは広がることでオレンジに見えたり、シェルはサイドシームを開けることで中のニットが見えたり。今回起用したパフォーマーたちは、3月のRakuten Fashion Week TOKYO 2022AWで公開したムービーにも出演していたんです。あれは、詩人が書いたポエムの朗読と音楽に合わせて振付師がパフォーマーにレクチャーしているリハーサルの現場を収めたもの。普通ならプロダクトを前提にしてどう見せるかを組み立てていくんですが、実はあの時点ではまだサンプルは完成していなくて。服を見せるのではなく、アート+サイエンス+ネイチャーをコンセプトにしたひとつのプロジェクトを表現する上でどういう詩と音楽と振り付けが必要かをゼロから考えました。それがようやく形になったのが、このルックムービーなんです。

―リハーサルからの本番ということですね。

元田: はい。さらにフィナーレも用意しているんです。コレクションローンチの前日に当たる10月27日(木)の公開を予定しているので、楽しみにしていてください。

―最後に、記念すべきファーストコレクションのなかで、元田さんが最も気に入っているアイテムを教えてください。

元田: パッカブルパーカです。ジュリアが資料館で見つけた1950年代のウィメンズスキーウェアが着想源で、「当時すでにこんなコンテンポラリーなスポーツウェアを作っていたのか」とみんなで驚いたのを覚えています。提案したのはジュリアで、デザインしたのはジャン。今回のコレクションで唯一2人が一緒に作ったプロダクトとして、特に思い入れが強いですね。

INFORMATION

ゴールドウイン カスタマーサービスセンター

0120-307-560

ティーンエイジャー

03-6804-7390

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