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- —石井裕也監督といえば『船を編む』『バンクーバーの朝日』などここ最近では規模の大きいメジャー作品も手がけています。今回は、それと真逆をいくような低予算のゲリラ的作品。さらに、原作は詩集であり、その詩集の言葉がそのまま登場人物たちのセリフやモノローグとしても登場します。これは、あまり普通ではないことだと思います。想像力や理解がとても必要で、演じる俳優陣にとっては難しくあり、その一方でこういった挑戦はとても刺激的なことだったのでないかと思うのですがいかがでしょうか。
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石橋:私はそもそも脚本というものを読んだ経験が圧倒的に少ないんです。だから、今回の作品がどういう規模であるとか、おもしろいか、おもしろくないかという判断は、最初まったくできなくて。でも、台本をいただいて読んだ時に、自分が言葉にできないような、なんだかもやもやとしたもの、その感覚が描かれているなと思ったんです。
そこに、とても興味を惹かれました。ただ、それを演じるとなると話は別で…。この役を私はできるのだろうか、という不安が湧きました。まだ主役を演じるには時期が早いんじゃないかな、とも思いました。だけど、今ここで諦めたら後悔するとも同時に強く感じて。それなら、しがみついてでもやってやろうと。なので変わっていることに挑戦してみよう、みたいな余裕は全然なくて、とにかく崖っぷちにずっと立たされているような感覚でした。
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池松:今回のお話をいただいて、いちばん驚いたのは最果さんの詩集が若者にすごく受けているという事実です。最果さんの詩を読むと、そこに並べられた言葉だけじゃなくて、その奥にいるだろう作家の生きている物語がみえてくる。それが、多くの人の心に響いているということが素敵だなって。で、さらにそれを映画にして、表現として提示できるっていうのはすごいことだとも思いました。
僕が、俳優であるということはひとまず置いておいて、ひとりの観客としてよく思うことなんですけど、同時代を生きている気分を映画で観ることってなかなかないんですよ。いま流行っているからとか、これがウケるからとか、そういうものじゃなくて。普段、僕たちが抱えているものだったり、感じていることだったり。それを映画に投影して届けるって、なかなかできないことだと思うんです。それをこの作品では、しっかり描いてくれていると感じました。そこにすごく惹かれました。
- —石橋さんは、10代からコンテンポラリーダンサーとして活躍。2015年より舞台や映画、TVCMなど活動の場を広げられています。さきほど、崖っぷちに立たされてるようだったとおしゃってましたが、初主演とは思えない堂々とした佇まいが印象的でした。
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石橋:全然、そんなことないです。ずっと不安でいっぱいでした。私が演じた美香は、社会に馴染めない不器用な人です。笑いたい時にうまく笑えないタイプだけど、でもずっと不機嫌なわけでもない。もちろん、ずっとハッピーなわけでもない。言いたいこともうまく言えないし、逆に言いたくないことを言ってしまうような子で、すごくつかみどころがない。どうつかんでいいのか、本当に悩みました。
- —その悩む姿は池松さんにはどう映っていましたか?
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池松:本人は謙遜していますけど、たいしたものでしたよ。石井監督の要求から逃げずに、真正面から毎日立ち向かう姿は美しかったです。それによって、美香というすごい意味のあるキャラクターが生まれたと思うし。
- —監督の要求は厳しかった?
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石橋:そうですね。演じてみて「ちがう、もう1度!」の繰り返しみたいな感じで。漠然と「全然足りない」とずっと言われていました。美香はギリギリのところにいつも立っているような子なので、たぶん監督は私を追い込むことで、彼女の持つ焦燥感みたいなところへ持って行きたかったんだと思います。
- —でも、その状況に置かれることってキツイですよね。
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池松:ぼくの役もそうなんですが、演者としてのテクニックうんぬんの前に、今回の役はとても難しいんだと思います。まず、ひとりの人間として世の中とどう向き合っているかということを問われるようなところがある。僕たち、いまの20代っていろんなことに馴染むことをすごく大事にして育ってきたところがありますよね? でも、この映画はそれとまったく逆のことを言っていて。どれだけ馴染めない、馴染まないことを貫けるかっていう。まず、それを飲み込んで役と向き合わないといけない。
- —池松さんの演じた慎二も、池松さんがこれまで演じてきたタイプにないようなキャラクターです。まったくしゃべらないかと思えば、堰を切ったようにしゃべりだしたり、空虚なようで、情熱的なところもあったり。
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池松:いつもどこか含みをもった役を演じることが多いので、今回はアウトプットの仕方を変えたかったというのがあります。必死に生きる人を真正面から演じたいと思ったというか。慎二は左目がほとんど見えないんですよね。だからこそ、世界を懸命にみつめようとするし、みえないからこそ、そこにある不安を埋めたいと思う。だから、隙間を埋めていくように、勢いよくしゃべりだすんです。僕の中では街頭演説をしている人みたいなイメージでした。
- —石橋さんからみて、そんな池松さんの役柄へのアプローチはどう映りましたか?
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石橋:勉強にしかならなかったです(笑)。いちばん、すごいなと思ったのは現場での身の置き方、距離感です。池松さんは、役柄上、ずっと隣にいてくれるんですけど、余計なことは言わないんです。遠すぎず、近すぎずでいてくれることがすごくありがたかったというか、嬉しかったです。映画にかける思いとか、監督への信頼感とか、そういうものも多くは言葉にはされないんですけど、すごく伝わってきて。ああ、こういう信頼関係で作品はできていくんだと、すごく印象に残っています。
- —池松さんがおしゃっていたように、本作は、とてもリアルに都市で生きる若者の皮膚感覚みたいなものが語られています。とても東京らしい映画、というか。おふたりにも共感する部分はありましたか?
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池松:物語の冒頭に美香のナレーションで「きみがかわいそうだと思っているきみ自身を誰も愛さない間、きみはきっと世界を嫌いでいい。そしてだからこそ、この星に恋愛なんてものはない。」って入るんです。これは最果さんの詩から抜粋したものです。ありきたりの愛とか恋愛を否定している。これはすごく共感できたというか、そのままそうだなって思います。
あと、映画の中でたびたびストリートミュージシャンが登場するんですけど、何度も何度も「がんばれ」って言っている。でも、全然、周囲の人には響いてないんですよね。何回も、何回も繰り返し言われて、最後、やっと気づいてもらえる。そうだよな、いまってそういう時代だなって思いました。
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石橋:美香と慎二は同志みたいな関係で、全然東京の流れに乗れてないし、乗ろうともしてない。たぶん、普通のカップルだったら、それがかっこ悪い、ださいってなると思うんです。みんなが行くデートスポットに行きたいし、メールで好きだよって送りあいたい。でも、それをしない、できない関係もあるんだなって思いました。
隣にいて、互いにわからないって思いながら、わかろうと必死になれる。そうやって人と関われたら幸せだろうなと思いました。あとは、宮下公園の階段のシーンが好きでした。美香と慎二が夜、はじめて会って話す場面です。わくわくするし、ネオンや信号の明かりがきれいで。すごく東京にいるって感じがします。
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池松:この映画ではいまの東京で、世界で、生きることの意味みたいなものが描かれていると思います。いまをみつめたあとに、2人がどういう未来を見出すのか。どういう未来にむかっていくのか、ということをこの映画では描いていると思う。最後、2人がどんな選択をするのか、そのラストシーンを楽しんでもらえたらと思います。