映画の神様が見に来てる。
ー出演者にヒップホップアーティストがたくさん起用されている他、音楽でもGEZAN、Awichなど一癖二癖もあるアーティストの楽曲が起用されているのが印象的です。
牧:もともとGEZANは好きで、初めて曲を聴いた時は衝撃的でしたね。なんだこのかっこいい音楽は! って。ヒップホップのアーティストをフィーチャーされていたり、ライブでも一緒に出ていたりしていたので、すごいバンドだなって存在は知っていたんです。あとは、歌詞のメッセージ性や社会や人生に対する思いもすごいし、音自体もすごくプリミティブ。それが今回の主人公たちのガサガサした感情とノワールの世界観とマッチするなって。念願叶って、今回受けていただいて、これ以上のテーマソングはないなと。
Awichも大好きで、中でも「GILA GILA」がすごく好きで、今作ではとあるシーンで使わせてもらいました。歌詞とリンクする部分にも注目して、楽しんでもらえたらと。また、Jinmenusagiさんの楽曲も、映画鑑賞後に歌詞までチェックして聴いてもらいたいですね。鑑賞後に、あの曲があの場面で使われていた意味をもう一度味わってもらって、楽曲自体の魅力も感じてもらえたらと思います。
ー今作は、ノワールものであり、タイムサスペンスものであり、社会状況を汲み取ったような同時代性もあります。
牧:タランティーノがすごく好きなんですが、クライムムービーを邦画としてどうかっこよく描くかというテーマが自分の中にあるんです。SABUさんの監督作品が好きで、あの音楽とアクションとストーリー性がうまくミックスした、ある意味日本人らしくない展開やスピード感に惹かれてきました。タランティーノも同じく、軽快さやその裏にメッセージ性や芯があって、まるで文学と音楽と映像がミックスされているような世界観がある。そういうものを作りたいなと。
同時代性については、あまり意識していなかったですね。僕がこの主人公と同世代の40代であり、今を生きている人間なので、その設定が偶然そうなったということだと思います。
ータランティーノ作品の魅力のひとつに、ストーリー上は無駄だけど、会話などが面白いシーンが深い印象を残したりしますよね。それがタランティーナの映画作家としての面白さのひとつなのかなと。
牧:ぼくも長回しでぺちゃくちゃ喋る男たちのあのセリフ回しがすごく好きで、この映画を観ていただくと、その要素が入っていることがわかってもらえるんじゃないかなと。例えば居酒屋のシーンとか。
ー確かにあのシーンはそうですね! それにしてもタクシー運転手というのはどこから着想したんでしょうか?
牧:タランティーノ作品の黒服の男たちが円卓を囲むというあの絵面を邦画で描くにはどうしたらいいかなと考えたら、ぼくが描くのであれば、日常で黒いスーツを着てる人たち…あ、タクシーの運転手さんだと。彼らが何か事件に巻き込まれて、密室で計画を立てたら、絵面としてそれだけでかっこよくなる。あとは、ずっと前に読んだことがある、梁 石日さんの『タクシードライバー日誌』という本に、ご本人がタクシードライバーをしていた頃の乗客などの裏話が書いてあるんですが、めちゃくちゃ面白いんですよ。
ー今回の作品は「シンクロニシティ」がテーマの一つです。プロダクションノートには、撮影中に必然の偶然みたいなことがたくさん起きたと書かれていました。何か具体的なエピソードを一つ教えてください。
牧:撮影用に用意した車のナンバープレートが窪塚さんが以前乗られていた車のナンバープレートの数字を入れ替えたものだったり、窪塚さんの誕生日にまつわるものだったりと色々とありましたね。あとはこれは他では言ってないんですけど、番場役の坂口涼太郎さんが教壇に立っているシーンがあるじゃないですか。撮影用に教室をお借りしたんですが、偶然そこが数学室という部屋で、どなたか先生が忘れた教科書が教卓に置いてあったんです。で、パッとぼくが開いたら、そこに(劇中に出てくる)「フィボナッチ数列とは」って書いてあって、おい! ってなりましたね。そういうことが毎日起きてました。
でも、なんかもうなるべくしてこうなったというか、何かに導かれてここに来たという感じがするんですよね。窪塚さんからも、これはもう映画の神様が見に来てるから、このまままっすぐ進もうと言っていただきました。この作品では、そんな不思議なことが毎日起きまくってましたね。