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トラウマへ光を射して窪塚洋介は前へ進む。 映画『Sin Clock』主演・窪塚洋介と牧監督インタビュー。
Synchronicity and Inevitability

トラウマへ光を射して窪塚洋介は前へ進む。
映画『Sin Clock』主演・窪塚洋介と牧監督インタビュー。

2月10日公開の映画『Sin Clock』は、この時代には珍しい、完全オリジナル脚本のもと、商業映画として作られました。うだつの上がらない若いタクシードライバー3人が、数奇な運命に導かれ結託し、一発逆転の壮大な計画を練ります。果たして最後に待つどんでん返しは、喜劇か悲劇か…。この作品の主演を務めたのは、ここ数年俳優活動が活発な窪塚洋介さん。“空気が淀んだ”と称する今回のキャラクターを演じるにあたり、振り返ったのはあの転落事故。それはトラウマとの対峙でもあります。そこから導き出した役者の特性とは? そしてそこまでして挑んだ作品を生み出した、牧賢治監督とはどんな人物なのでしょう?

  • Photo_Masashi Ura
  • Texit_Shinri Kobayashi
  • Edit_Yosuke Ishii

映画の神様が見に来てる。

ー出演者にヒップホップアーティストがたくさん起用されている他、音楽でもGEZAN、Awichなど一癖二癖もあるアーティストの楽曲が起用されているのが印象的です。

牧:もともとGEZANは好きで、初めて曲を聴いた時は衝撃的でしたね。なんだこのかっこいい音楽は! って。ヒップホップのアーティストをフィーチャーされていたり、ライブでも一緒に出ていたりしていたので、すごいバンドだなって存在は知っていたんです。あとは、歌詞のメッセージ性や社会や人生に対する思いもすごいし、音自体もすごくプリミティブ。それが今回の主人公たちのガサガサした感情とノワールの世界観とマッチするなって。念願叶って、今回受けていただいて、これ以上のテーマソングはないなと。

Awichも大好きで、中でも「GILA GILA」がすごく好きで、今作ではとあるシーンで使わせてもらいました。歌詞とリンクする部分にも注目して、楽しんでもらえたらと。また、Jinmenusagiさんの楽曲も、映画鑑賞後に歌詞までチェックして聴いてもらいたいですね。鑑賞後に、あの曲があの場面で使われていた意味をもう一度味わってもらって、楽曲自体の魅力も感じてもらえたらと思います。

ー今作は、ノワールものであり、タイムサスペンスものであり、社会状況を汲み取ったような同時代性もあります。

牧:タランティーノがすごく好きなんですが、クライムムービーを邦画としてどうかっこよく描くかというテーマが自分の中にあるんです。SABUさんの監督作品が好きで、あの音楽とアクションとストーリー性がうまくミックスした、ある意味日本人らしくない展開やスピード感に惹かれてきました。タランティーノも同じく、軽快さやその裏にメッセージ性や芯があって、まるで文学と音楽と映像がミックスされているような世界観がある。そういうものを作りたいなと。

同時代性については、あまり意識していなかったですね。僕がこの主人公と同世代の40代であり、今を生きている人間なので、その設定が偶然そうなったということだと思います。

ータランティーノ作品の魅力のひとつに、ストーリー上は無駄だけど、会話などが面白いシーンが深い印象を残したりしますよね。それがタランティーナの映画作家としての面白さのひとつなのかなと。

牧:ぼくも長回しでぺちゃくちゃ喋る男たちのあのセリフ回しがすごく好きで、この映画を観ていただくと、その要素が入っていることがわかってもらえるんじゃないかなと。例えば居酒屋のシーンとか。

ー確かにあのシーンはそうですね! それにしてもタクシー運転手というのはどこから着想したんでしょうか?

牧:タランティーノ作品の黒服の男たちが円卓を囲むというあの絵面を邦画で描くにはどうしたらいいかなと考えたら、ぼくが描くのであれば、日常で黒いスーツを着てる人たち…あ、タクシーの運転手さんだと。彼らが何か事件に巻き込まれて、密室で計画を立てたら、絵面としてそれだけでかっこよくなる。あとは、ずっと前に読んだことがある、梁 石日さんの『タクシードライバー日誌』という本に、ご本人がタクシードライバーをしていた頃の乗客などの裏話が書いてあるんですが、めちゃくちゃ面白いんですよ。

ー今回の作品は「シンクロニシティ」がテーマの一つです。プロダクションノートには、撮影中に必然の偶然みたいなことがたくさん起きたと書かれていました。何か具体的なエピソードを一つ教えてください。

牧:撮影用に用意した車のナンバープレートが窪塚さんが以前乗られていた車のナンバープレートの数字を入れ替えたものだったり、窪塚さんの誕生日にまつわるものだったりと色々とありましたね。あとはこれは他では言ってないんですけど、番場役の坂口涼太郎さんが教壇に立っているシーンがあるじゃないですか。撮影用に教室をお借りしたんですが、偶然そこが数学室という部屋で、どなたか先生が忘れた教科書が教卓に置いてあったんです。で、パッとぼくが開いたら、そこに(劇中に出てくる)「フィボナッチ数列とは」って書いてあって、おい! ってなりましたね。そういうことが毎日起きてました。

でも、なんかもうなるべくしてこうなったというか、何かに導かれてここに来たという感じがするんですよね。窪塚さんからも、これはもう映画の神様が見に来てるから、このまままっすぐ進もうと言っていただきました。この作品では、そんな不思議なことが毎日起きまくってましたね。

INFORMATION

映画『Sin Clock』

劇場公開:2023年2月10日(金)
監督・脚本:牧賢治
エグゼクティブ・プロデューサー:藤田晋
キャスト:窪塚洋介、坂口涼太郎、葵 揚、橋本マナミ、田丸麻紀、Jin Dogg、長田庄平、般若、藤井誠士、風太郎、螢雪次朗
劇中曲:「GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR」Awich(Universal Music LLC) 「Metchalo」Jinmenusagi
テーマソング:「赤曜日」「BODY ODD」GEZAN
配給:アスミック・エース ©2022 映画「Sin Clock」製作委員会
公式HP: SinClock.asmik-ace.co.jp
公式Twitter:@
SinClock_movie
公式Instagram:@sinclock_movie

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