Interview with ZEN いろんなスタイルや場面にアクセスできるデザイン。
ーZENさんは普段どんなバッグを使っていますか?
ZEN:ぼくは基本的に荷物が多いんですよ。普段使うものを全部持ち歩くので、いつも大きなバックパックを背負っています。
ーバックパックの中でも、好みのデザインや、あったらいいなと思う機能性など、こだわりはありますか?
ZEN:頑丈なものがいいですね。というのも、パルクールをしていると、どうしてもバッグを地面に置くことが多いんです。だから、ラフに扱っても気にならないものがいいなと。それでいて上品さやデザイン性もあったら嬉しいですね。
ー今回の〈アニアリ〉のナイロンコレクションは、そうした視点で見て、いかがですか?
ZEN:所々にレザーが使われていてすごくクールだし、しかも丈夫。撮影で動いても緩んだりすることなく、フィット感もいいです。
ー今回のコレクションは、オリジナルのコーデュラツイルを使用していて、摩耗や引き裂きに強いんです。だから先ほど話していたように、地面に置いたりしても大丈夫なんですよ。
ZEN:そうなんですね。ストリートでパルクールをすると、コンクリートの上とかにそのまま置いちゃうので…(苦笑)。磨耗に強いというのはすごく自分に合っています。
ーデザインはいかがですか?
ZEN::普段はストリートっぽい着こなしが多いんですけど、パーティに参加したりとか、きれい目な格好をすることもよくあるんです。そういうときにいちいちカバンの中身を移し替えたりするのが面倒で、できれば両方のシーンを行き来できるものがいいなと。そういった意味で〈アニアリ〉のバッグは、いろんなスタイルや場面にアクセスできるデザインだなと思いました。そこもすごく魅力的なポイントですね。
ーファッションはストリートな着こなしが多いんですね。
ZEN:そうですね。いつでもどこでもパルクールができるような格好をしていたいというのがあって、やっぱり機動性のある服が多いです。だから重い服とか、伸びない服はあまり着ません。
ー今回も撮影中にさまざまな動きをしてもらい、それがすごく素早いし、しなやかで、本当に “華麗” という言葉が合うなと思いました。
ZEN:撮影中にしていた動きはパルクールのほんの一部の動きなんです。自分の中で型みたいなものがあって、普段はそれを場面に合わせて出していく感じです。このスタジオに入ったときも、ここでパルクールをするならどういう動きになるか、限られた空間の中で一連の流れやラインが見えていて、その中の1パートを出したんです。
ーラインが見えるというのは、常に頭の中でそうしたことを考えているんですか?
ZEN:そうですね。その場所にあるものに対して、自分の体をどう動かしてラインを描くかを考えていますね。
ーそれがシミュレーション通りにいかないこともありますよね?
ZEN:もちろんあるんですけど、それが起こったときにどう対処すべきかということまで想定しています。ベストなラインを描けなかったとしても軌道修正をして元に戻していく。そこもパルクールの楽しい部分というか、テクニックを問われる部分なんですよ。だから、ラインにこだわるんですけど固執しないというか。
ー余白を残すことも重要なんですね。
ZEN:そうなんですよ。
ー恐怖心を抱くことはないですか?
ZEN:抱きますよ。ただ、無駄に怖がったりしません。本来なら怖がる必要のないところでそうなってしまって、不要な力みが出てしまったりとか、自分の実力なら絶対にクリアできるパフォーマンスができなくなってしまったりするのはもったいない。自分を守るために恐怖心というものをセンサーにように使うのは大事なんですけど、それが過敏にならないように普段からトレーニングをしています。
ーある意味、日々のトレーニングはメンタルの鍛錬でもあるわけですね。
ZEN:そうですね。恐怖の正体を突き止めるんですよ。「怖くない」って無理やり思い込んで蓋を閉めるよりは、その理由をきちんと検証することが大事で。「高いから怖い」「落ちたときの動きが想像できない」「自分の動きのクセによって成功する絵が見えない」とか、その原因はケースバイケースであって、それに向けてトレーニングを積むんです。
ーそれがつまり “シミュレーションする” ということに繋がるわけですね。
ZEN:正しいデータをどんどん蓄積することによって、自信が恐怖心を上回るんです。
ーある種、ヨガや瞑想に近い感覚なんですか?
ZEN:そうですね。もともとパルクール自体がそうしたカルチャーと近い文脈から生まれているんです。もともとはトレーニングメソッドのひとつで、周りにあるものを使って心と体を機能的にしていくんです。ある意味、障害物が鏡写しになって自分のことを知る。そういうおもしろさがありますね。
ーZENさんはそうしたパルクールの楽しさを伝えるために、伝道師の役割も担っていますよね。
ZEN:パルクールをやる前は自分のことがなにも分かっていませんでした。体の使い方はもちろん、自分の気持ちに関しても鈍感だったと思います。だけど、パルクールによってそうした不明瞭なことに対して光を当てることができた。障害物は動かすことができないから、自分のアプローチで状況を打破するしかない。つまり、なにかのせいにしたり、言い訳ができないんですよね。そういう状況ではじめて自分に対して目が向いたんです。
ーある意味、パルクールによって人としても成長できたと。
ZEN:日々成長し続けている感覚があります。それがすごく楽しいし、毎日新しい何かが発見できる。宝探しみたいな感覚がありますね。
ーパルクールというカルチャーを広めたいという気持ちがモチベーションになって活動をされていると思うんですけど、いまの現状と、これからのことについて最後に教えてください。
ZEN:この活動をはじめてもう14年くらいになるんですけど。はじめた当時はパルクールっていう言葉すらみんな知らないし、映像を見せてもはじめてという人がほとんど。そういう時代からスタートして、地道に活動しながら、ここ最近はようやく認知度も上がってきたように思います。だけど、これはまだまだファーストステップの段階。今日お話ししたことのように、まだまだ知られていないことも多くて、そのほとんどが命知らずな印象で埋められていると思うんです。だからこれからは、本来は心と体を鍛えるものだという正しいパルクールの姿を伝えていきたいですね。
あと自分自身のパフォーマンスに関しては、まだまだピークを迎えていないと思うので、正しい体の使いかたをしながら、どれだけ負担をかけずに自分の動きを開発していけるかがテーマです。そしてどんどん新しい障害物に出会って、ワクワクしていたい。“できない” という壁を壊していきたいですね。