CLOSE
FEATURE
サウナが繋いだ熱い縁。ダブレットとオーラリーではなく 井野将之と岩井良太の絆について。
Special Cross Talk

サウナが繋いだ熱い縁。ダブレットとオーラリーではなく 井野将之と岩井良太の絆について。

〈ダブレット(doublet)〉の井野将之さんと〈オーラリー(AURALEE)〉の岩井良太さん。パリコレに参加している日本人デザイナーということ以外は、一見共通点がなさそうな二人。でも、実はサウナ仲間であり、最近一番会っているデザイナーなのです。意外ですよね。けどなんだか楽しそう、話を聞きたい!ということで、パリでコレクションを終えた直後のお二人にお話しを伺いました。

  • Photo_Mari Shinmura
  • Text_Mami Okamoto
  • Edit_Ryo Komuta

PROFILE

井野将之

1979年生まれ。2012年に〈ダブレット〉を創立。2018年6月に「LVMHプライズ」のグランプリを受賞。サウナ好き。愛戦士、哀戦士。

PROFILE

岩井良太

1983年生まれ。2015年春夏シーズンから〈オーラリー〉をスタート。2017年には南青山に路面店をオープン。サウナ好き。意外と低音ボイス。

ー結構意外な組み合わせだと思うんですが、お二人が仲良くなったきっかけを改めて教えてください。

井野:サウナです。岩井さんがサウナ好きということは知っていて、僕もサウナが好きだったので、共通の知り合いを介して、じゃあ3人で行きましょうということになって、初めて会ったんです。そこから月一で集まるサウナ仲間になりました。

岩井:「はじめまして」が裸だったんです(笑)。あそこは井野さんのホームタウンでしたね。

井野:そうそう、超ローカルな。湿度が心地よくてずっと入れる感じのところなんですよ。

岩井:よかったですね、こじんまりしてて。

ーサウナではどんな話するんですか?

岩井:仕事の話はほぼしないですね。どこのサウナがよかったとか、あとは筋トレの話とか。

ー筋トレもしてるんですか?

岩井:そうなんです。初めはサウナだけだったのに、そのうち筋トレも加わって。

井野:カプセルホテルの3Fがジムで4Fがサウナっていうところがあるんです。そこでトレーニングしてからサウナに入るっていう。そこのサウナがめちゃくちゃ熱くていいんですよ。“鬼の整い”ができるんです。朝10時前に集合して、筋トレしてサウナ。それが終わったらごはん食べるんですけど、その飯がうまいんですよ。で、結構飲んじゃうっていう(笑)。

岩井:井野さん、いつも4〜5杯は飲んでますもんね。

井野:最初はサウナだけだったんですが、途中から高橋名人という筋トレの先生も加わって、筋トレ+サウナですごく盛り上がって、月に一回集まるのが楽しみなんです。だから、岩井さんは一番会っているデザイナーだと思います。僕は他に月に一回会うデザイナーなんていないですから。

岩井:僕もです。井野さんと会うときは、最初はトレーニングウエア、そして裸、その後、ご飯食べるときだけちゃんと服着てるっていう関係です(笑)。

ーちなみに、それぞれパリで発表するようになったタイミングっていつでしたっけ?

岩井:19AWからです。

井野:僕は18SS、パッケージみたいになってるアイテムのときからだと思います。

ーともにすでに数年間のパリでの経験があるわけですが、せっかくなのでお互いのショーの感想なんかを伺えればと。まず井野さん、今回のショーはどんな狙いがあったんですか?

井野:今回はあらためて多様性ということを表現したかったんです。遊園地やテーマパークにはキャラクターがいるじゃないですか。ネズミだったりクマだったり。でも、もし180センチのネズミが本当に人間界にいたら絶対嫌われるし、駆逐対象だと思うんですけど、テーマパークとかSF映画とかでは、普通に共存しているわけですよね。

doublet FALL WINTER 2023

ーたしかに当たり前のように存在してますよね。。

井野:去年多様性ってあれだけ叫ばれてたのに、オリンピックが終わったら今そんなに聞かないですよね。ダイバーシティとかインクルージョンもそう。一方で、やっぱり差別ってまだまだあると思うし、そういう現実を多様性っていう言葉で甘く見せてる側面があると思うんです。中和しているというか。そもそも多様性という言葉を使っているのはマジョリティ側だと思っていて、そんななかマイノリティ側が持っているエネルギーをどーんと出したかったんです。

ーなるほど。

井野:そんなふうに、人間も動物も怪物も、多様性のあるマイノリティが一生懸命パワフルに生きているということを表現したかったんです。最後はみんなが手を繋いで生きていけたらいいなって。それを一番わかりやすく表現するためのイメージがテーマパークだったんです。

ーたしかに色々な意味でカラフルなコレクションでしたね。それは実際の色味もそうだし、さまざまな人種、サイズのモデルが登場するという意味でも。いつも以上にそういう感じがしました。あとはどれなら着られるかなっていう目で見てました(笑)。やっぱりワニのフードがついてるダウンかなーとか(笑)。

井野:意外とちゃんと着られるアイテムも多いですよ(笑)。

ーあと、最初ウサギの着ぐるみが勢いよく歩き出して、音楽がバーンって鳴ったとき、ちょっとブルっときました。

井野:よかったですよね、あれ。自分でも映像見返してあそこはよかったなって思います。

岩井:たしかに最初からパンチがありましたよね。その後のランウェイは井野さんらしい奥行きのある、色々な手法の服が出てきて。今までのものをブラッシュアップした手法と、プラス新しいアイデアがどんどん積み重なっていって、迫力がありました。あと見ていてめちゃくちゃ楽しかったです。そして面白かったです。寒かったですけど。。

井野:寒かったですよね。。今回、結果的に屋外でショーをやったんですが、実は急遽変更になった場所だったんです。しかもショー当日が雨予報だったりして、ここで本当にやるのかって言われたりして。でも「外でやる!」って(笑)。うちの奥さんがいると晴れるんですよ。松岡修造か、ウチの奥さんかっていうくらいの晴れ女なので(笑)。そしたら雨降らなかったんです。

岩井:すごい判断ですね、それ。怖い(笑)。

井野:まぁ良かったですね(笑)。

岩井:お客さんにブランケット配ってましたよね。あれは日本から持ってきたんですか?

井野:そう。本当はアミューズメントパークでパレードを見るときに使うようなレジャーシートを使いたかったんだけど、フランスではパレードのときは誰も地面に座らないらしくて。Youtubeで見てみたら確かにみんな立ってました(笑)。で、結局持ってきたシートとかブランケットは、ホームレスの人たちに寄付されることになりました。いろんな意味で、キレイにまとまったなぁと。

岩井:子犬柄のやつとか最高でしたね。

井野:そうそう、次はパリの街のどこかで子犬柄のブランケットが見られるかもしれません(笑)。

ー〈オーラリー〉のプレゼンテーションはいつも以上に美しいコレクションだったと思います。

岩井:ありがとうございます。でもまだまだです、はい。

井野:僕には絶対にできないコレクションだなって、いやこれ変な意味じゃなくて(笑)。

岩井:差がすごいですよね。

井野:誰かが言ってたんですけど、岩井さんのは正統派な貝出汁ラーメンみたいな感じで、自分のは(ラーメン)二郎のマシマシみたいな感じだと。もうちょっと上手く例えてよ、って思ったんですけど(笑)。

岩井:わかりやすい(笑)。

井野:あと、僕が思ったのは、すごくいい朝を過ごせそうな服だなって(笑)。

ーあれ、もしかしてすでにこの記事読みました? 同じこと言ってますけど。

井野:いや、見てないですよ(笑)。朝、カフェテラスの白い丸テーブルでコーヒーを飲みながら〈オーラリー〉のショーを見たら、すごく幸せだろうなって思ったんです。うちのブランドだと寝起きが悪くなりそうですけど(笑)。

岩井:いや、めっちゃ嬉しいです。

AURALEE AUTUMN WINTER 2023

井野:あと、スタイリングも面白かったですね。靴下が片方だけ色が違うとか、手袋を腰のあたりに挟んだりとか。アートみたいというか。

ースタイリング、本当に素敵ですよね。とくにパリで発表されるようになってからはすごくいいなって思います。

岩井:ありがとうございます。まだまだ頑張ります。まだまだです。

井野:本当に美の巨匠、って感じがします。上質さがわかるというか。

ーでも上質さでいったら〈ダブレット〉も昔から上質な素材を使ってますよね。

井野:けど、あのショーからは誰もわからないという(笑)。

岩井:いやでも、よく見ればわかりますよ。

岩井:〈オーラリー〉っていつもはっきりとした言葉にできるようなシーズンのテーマは特に設けず、ふんわりしてるんですけど、今回は珍しくこういう雰囲気で、っていうのが出てきたんです。といっても作りながら、そういうムードだったんだな、あとから自分で気づいていく感じなんですけど。

ーそれが朝起きて、そのまま家から出てきたような無造作なイメージなんですね。

岩井:そうです。だからさっき井野さんが同じようなこと言ってくれてすごく嬉しかったです。

ーあとはグリーンの差し色がすごく印象的でした。

岩井:いつものミュートトーンに、赤とか青とかグリーンとかビビッドな強い色を差していったんですが、全体的にはソフトに見せたいというのがあって。グリーンカラーは、そんないくつか見せたい色の一つです。素材ではあえて毛玉を作って気に入った毛布のような素材など、着古したようなラフな感じの素材が多いです。

井野:ウィメンズもすごいたくさんありますよね。よくこんなに作れるなって。

ーなにかのインタビューで見ましたが、ウィメンズの方が作るのが大変だとか。

岩井:そうですね。どちらかというと。

井野:僕はもう絶対できないですね。今回もスカート作ろうとしたら人魚になってましたから(笑)。

岩井:(笑)。

ー〈オーラリー〉はメンズとウィメンズが割合同じくらいという印象ですが、そこは変わらずですか?

岩井:そうですね。海外は少しメンズの方が強い気がしますけど。

ーやっててどっちが面白いとかあるんですか?

岩井:さっきも言いましたけど、大変なのはウィメンズなんですが、着せたときにテンション上がるのはウィメンズですね。

井野:あ、それはなんかわかる気がする。あと、自分にはない感覚なんですけど、岩井さん、服の写真はピンボケでもいいって言うんですよね。はっきり見えてなくても霧雨のように醸せる。雰囲気で伝えられるというのは羨ましく思いますね。

岩井:嬉しいこと言ってくれますね。まだまだ頑張ります。

ーお二人はクリエイションの方向性は全然違いますけど、サウナを通じて人間としての信頼関係があっていいですね。普段は仕事の話は全然しないんですか?

岩井:基本ほとんどしないんですけど、たまにサウナでふとした会話から「井野さん、次のコレクションのことがきちんと見えてるんだ」って思うことがあったりはします。自分が全く見えてないときは、焦りますね(笑)。「いいなぁ、、そこまでいってるんだ」みたいな(笑)。

ーけど、お二人の作り方はおそらく全然違いますよね。

井野:岩井さんのやりかたは超ストイックだと思いますよ。

ーやっぱり素材から始める感じですか?

岩井:そうですね。一人で悶々と思い浮かばないまま進むというか。

井野:それを毎回一人で集中してやるわけですもんね。

ー井野さんはどんな感じで作っていくんですか?

井野:僕はチームで制作しています。奥さんに「最近、何が面白い? ネタちょうだい」とか聞いてます。自分が面白いなって思う発見が欲しいんです。そこから思考が広がっていくこともあるので。お酒を飲んで会話からアイデアが生まれることもありますけど、何も思いつかずに日が暮れてしまって、帰るとき今日一日なんだったんだ、って落ち込むこともよくあって。

岩井:わかります。僕なんて毎日そうです。苦しいですよね。

井野:リフレッシュすればいいんでしょうけど、休むことすらできないんですよね。何か思いつくかもしれないから、ずっと考えてないとダメだっていう強迫観念にかられてしまって。でも結局思いつかなくて、次の日にパッと思い浮かんだり。

岩井:井野さんもそんな感じだったんですね。。

ーそれぞれ違う産みの苦しみがありますよね。それとは別に、海外で発表することのプレッシャーってあると思うんですけど、お二人がパリで挑戦し続ける理由を教えてください。

岩井:「FASHION PRIZE OF TOKYO」を受賞したことをきっかけに、2019年にパリでコレクションを2回発表したんですけど、まだスタート地点にも立ててないなって思ったんです。まだまだだな、もうちょっと頑張るぞ、もうちょっと続けてみよう、っていう気持ちでずっといる感じです。

ー〈オーラリー〉は本当にパリの街に合う服だなって思うんです。それこそパリの朝みたいな。パリのショップで販売されているのを見かけることもありますし。パリの街は〈オーラリー〉を受け入れてるなって思うんですけど、そのあたりはいかがですか?

岩井:いや、自分ではまだまだそんな感じはしないです。どちらかというとわかりづらい服だと思っているので、「もっとわかりやすい服がいい」と言われたり、一方で「このままでいい。こういうのが好きな人もいっぱいいる」っていう意見があったりもして。でも、ちょっとづつ知ってくれている人が増えてきていて、とにかく一歩ずつですね。

ー海外はヨーロッパが多いんですか?

岩井:そうですね。あとは最近アメリカも少しつづ増えてきて。

ー〈オーラリー〉は「ネクストドア(nextdoor)」でけっこう取り扱ってますよね。

岩井:そうですね、結構買ってくれてます。

ー〈ダブレット〉は海外の取引先はどこが多いんですか?

井野:アメリカとアジアが多くて、ヨーロッパは少ないですね。アメリカはラッパーの方とかがよく着てくれたりするので。パリでショーと展示会をしばらくやってますけど、パリのお店の取り扱いは「コレット(Colette)」が閉店してから今はないですね。

ー〈ダブレット〉はパリに殴り込みに来ているって感じがするんです。

井野:気持ち的にはそれぐらいのつもりでいますね。

ーそれがしっかり響いているのがすごいなって。やっぱり戦ってる感覚っていうのがあるんですか?

井野:戦うというよりも、やるからにはパリで一番になりたいって思ってます。

ーいいですね。海外で発表するってことは、本当に“わざわざ”なことですからね。人も物もお金も大きく動かすわけですし

岩井:本当そうですよね。だから海外でやってるブランドはやっぱり尊敬します。

井野:最近は若いブランドも増えてきましたよね。20代とか。すごいなって思います。

ー今回ダブレットのショーには、何人か別のブランドのデザイナーさんが見に来られてましたけど、〈オーラリー〉のミニショー(1日に3回開催)はどなたかいらっしゃってるんですかね?

岩井:どうなんでしょうか。。僕、横のつながりがないんです。閉じてるわけじゃないのにデザイナーの友達いないんですよ(笑)。飲みに行ったり、遊びに行かないからかもしれないですけど。だから井野さんと繋がれてることは本当励みになります。それ以前に人として普通に好きなんです。井野さんは人を惹きつける魅力のある人ですよね。

井野:今度サウナ奢ります(笑)。基本的に第一日曜日にサウナに行くんですけど、ショーの前の3ヶ月くらいは、みんな忙しくて行けないこともあって、何度かスキップしていたんです。日本に戻ったら、久しぶりに行けるのでそれが楽しみですね。

岩井:僕らのこの集まりも1年以上はやってると思うので、そろそろ筋トレの面でも成長してる姿を見せないとなって思ってます。

ーそうなんですか!?(笑)肉体に変化はありましたか?

井野:前に比べたら全然違いますよ。

岩井:はい、ちょっとづつですけど(ダンベルを)持ち上げられるようになりました。

ー体を鍛えたことでマインドが変わって、作る服にも変化が起こったりはあるんですかね?

岩井:まさに筋トレ始めた当初は、その話ばっかりしていたんです。もしマッチョになったら筋肉を見せる服とか、作りたくなるのかなって(笑)。ピチピチのTシャツとか、タンクトップのバリエーションすごいな!みたいなこととか。

井野:あんなにフワッとしてたのに、ゴリゴリのショーになったりとか…。そういう〈オーラリー〉ちょっと見たいなって思いますけどね(笑)。

岩井:ピチッとしたリブのTシャツばっかり作ったりして。

このエントリーをはてなブックマークに追加
a.c-link { text-decoration: underline; }