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小商いの時代。 〜その店主がいるから訪れる〜 第一回:Tweed Books (古書店)

小商いの時代。 〜その店主がいるから訪れる〜 第一回:Tweed Books (古書店)

インターネット上で誰でも手軽にモノが買えるようになった昨今。そんな時代における実店舗の意義を探るべく、新たな企画をスタートさせます。名付けて「小商いの時代」。近頃よく聞くようになった言葉、“小商い”。規模は小さくとも、一貫したこだわりのもとにコアなモノを取り揃え、名物的な店主がいるようなお店が、最近どうにも気になるわけです。こうしたお店に共通する魅力を探るべく、全国を練り歩いていきます。第一回は横浜の古書店「Tweed Books」です。

  • Photo_Yutaka Kono
  • Text_Gyota Tanaka
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洋服を飾る古本屋。お宝が眠る、ファッション本のワンダーランド。

 

横浜市神奈川区にある東急東横線の白楽駅周辺は、駅前の六角橋商店街をメインに、エリアごとに小さな商店街が形成されている。改札を抜けて右折したエリアにある白幡商店会を歩くと、3分ほどのところに今回のお目当てである、古書店「Tweed Books」が姿を現す。表にはワゴン陳列された古書があり一目で本屋だと分かるのだが、店内を覗くと、正面には70〜80年代らしき古めのファッション本が並び、奥には洋服を着せたトルソーがあるなど、一風変わった佇まい。実にファッショナブルな、店主・細川克己さんに話を伺った。

—まずは、お店についてご紹介いただけますか?

細川:「Tweed Books」は、ファッション、文学、音楽の本がメインの、私の趣味部屋のような古本屋です。なかでも私は大のファッション好きでして、私が洋服を着るにあたって得た、装いやファッションの本がたくさんあります。洋服屋へ行くのではなく、それらの情報をこの店で手に入れてもらえたら嬉しいです。エンターテイメント、時代小説、食・暮らし、流行りものといった町の古本屋としての機能も取り揃えていますよ。そういったものも好きなのです。

—素敵な装いでお仕事されていますが、そもそも古本屋を開業されたきっかけは?

細川:大学から社会人の頃は長年都内の会社まで通っていました。ずっと本に携わる仕事に就いてはきたのですが、そろそろ好きなことを仕事にしたいなと考え初め、本か洋服かで悩んだ結果、好きな洋服が毎日着られるし、やっぱり本、それも古い本が好きだから古本屋にしようと、2年前に地元の横浜で開業しました。古本屋は全て陳列できないのですが、仕舞ってある本もリクエストされるという、とてもエキサイティングな商売なんです。私はブリティッシュトラッドのスタイルが好きです。仕事では動き辛くないのか、なんてよく言われますけど、仕事も毎日の洋服選びも楽しんでいます。

—本棚を見るだけでも、細川さんの人となりが如実に現れていますね。

細川:古本屋には店主の色が現れるんです。それと、古本にはパッと目にとまるオーラみたいなものがあるんです。待ち焦がれたその人を呼んでいるかのような。そういった魅力を生かしたお店にしていきたいですね。

—どんなお客さんがいらっしゃるのですか?

細川:私のお店は70〜80年代ものの本が多いので、30代半ば〜50代の、若くして本を読んでいた方たちが中心ですね。私は“古本屋は宝探しの場”というのが常に念頭にあるんです。編集陳列には気をつかっていますが、探す楽しみを知る人にとってはまだまだ物足りないはず。編集しつつ隙も必要かなと、毎日仕掛けのアイデアを探っています。

—ファッション好きが集ってほしいという点では、トルソーで洋服を飾っているとてもシンボリックな本屋ですよね。

細川:以前、革靴を飾っていたところ、洋服の本を扱っていることが分かるし、すごく私の熱が伝わり易かったみたいです。「洋服を飾った古本屋があったらいいな」という、常識を覆した私なりの表現です。このスーツは、サラリーマン時代に購入した、今は閉業になったイギリスのファクトリーブランドのものです。

—ファッションは、いつ頃から興味を持ち始めたのですか?

細川:中学時代から雑誌などをよく見ていて、そこに載っていたヨーロッパやブリティッシュのスタイルが大好きでした。ですが、社会人になってからは一度離れていたんです。そんな折り、書店から出版社へ転職するとスーツを着る毎日になったんです。そこで再び洋服心に火が付いて。どうせ着るなら格好いいスーツを着たいなと。けど、どうやって着ればいいのか、どこから手をつければいいのか全く分からない。そこで神田の古本屋へ向かい、穂積和夫さんの本『IVY ILLUSTRATED』に出会いました。この穂積さんをきっかけに、ファッションに書籍が入ってきました。33歳でした。

—その後は、どんな書籍を読まれたのですか?

細川:植草甚一さん、林勝太郎さん、星野醍醐郎さん、雑誌ではメンクラ(メンズクラブ)ですね。全て古本から情報を得ました。そこからツイード素材にハマって、ブリティッシュのスタイルへと戻ったんです。そこで私は“アメリカのフィルターを通ったトラッドが好き”ということに気が付きました。なんでも本から入っていく性格なものでして。雑誌しかり、まず読んでどんなものか知りたいんです。

—お店の一番奥に、オススメコーナーがあります。左棚はファッション。中央棚は東京から宇宙や天国まで並ぶ評論。右棚は哲学。なんとも珍しい並びの小部屋ですね。

細川:ジャンルごとに分けて紹介するのが一般的な本屋の陳列なのですが、ここはとにかく雑多で私の家みたいですね。凝縮されすぎで、ある意味私の頭とも言えます。変な人ですよね。

—店先に文学ものが陳列されているのも珍しいのではないでしょうか? 細川さんにとって文学の魅力とは?

細川:ぼくにとって文学は読書が好きになるきっかけでした。私小説というのも大好物なのですが、どうしてもノンフィクションよりフィクションの世界が書かれた読み物から入ったという影響が大きいからだと思います。本=小説という回路がどこか身体の奥底に染みついているようです。

—古本屋といえばお客さんからのリクエストがありますよね。どのように“オススメ”されているのですか?

細川:リクエストに応えるのはいつになっても難しいですね。“オススメ”は最初が肝心なので、その人にとって “アタリ”の本を提案しなきゃというプレッシャーもあります。お客さんの期待を背負って選ぶわけですから。最終的には活字本でもビジュアル本でも、あの店主が扱う本だからきっと面白いんだろうなって思える古本屋でありたいと思っています。

—古本屋としての継続性、そして未来の古本屋のカタチをどのように考えていますか?

細川:本の発行部数は年々減っていますが、古本屋は続いていくはずです。個人的に思うことですが、古本は骨董的価値へ移行していくのかなと思っています。すでにやっているお店もありますし、提案の仕方、編集の仕方で自分のスタイルを確立できたらいいなと思います。洋服を飾って、それを信じて、私の選んだ古本を買ってくれる人がいたら幸せだなと思っています。


細川さんが愛用する私物。

 

ここからは、細川さんが愛用している品々を少しだけご紹介していきます。

 

店番のスタイルは、30着!も所有するツイードジャケット、〈ブラック フリース(BLACK FLEECE)〉のボウタイ。足元は〈オールデン(ALDEN)〉か、写真の〈ロイド フットウェア(Lloyd Footwear)〉のストレートチップが定番。

 

人生で初めて購入したツイードジャケットは、山下公園近くにあるブリティッシュ古着屋の「ライジング サン(RUISING SUN)」だったそう。古着に興味を持ち始めたのはこれがきっかけ。「ツイードは一家代々で着まわして、三世代にまで愛されていることを知りました。ツイードのように長く親しまれる本っていいなと、店名にしました」

 

基本は短靴でウィングチップのようにコンビものが好みですが、この〈トリッカーズ(Tricker’s)〉のルームシューズも楽なので、よく履いています。

 

細川さんに影響を与えた10冊の本を選んでいただきました。

 

穂積和夫『着るか着られるか』
「絶版中の絶版。もったいなくて、実はまだ半分も読んでいないんです」

穂積和夫『IVY ILLUSTRATED 絵本アイビーボーイ図鑑』
「神田の古本屋で立ち読みして購入。ベストを着て格好いいなと。今のスタイルのきっかけ。私のファッションバイブルです」

山下洋輔『ピアニストを笑え!』
「山下洋輔のエッセイは正直で嘘がないところが好きです」

筒井康隆『俗物図鑑』、町田康「つるつるの壺」
「筒井康隆、町田康の大ファンで、ほぼ全冊読んできました。これからも新刊が出る度に追い続けていきたいです」

W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』
「山本耀司を着こなすお客様に勧められて購入。建築の見方が変わりました」

植草甚一『マイルスとコルトレーンの日々』
「洋服本探しの古本屋巡りのときに、ジャズ本に出会いました」

山田登世子『バルザック 風俗のパトロジー』
「フランスのダンディズム、ブランメル、邪道など一見ファッションのことではないことが書かれているようで、『ステッキの握り方にその人の精神が現れる』なんていいですよね」

中山康樹「新マイルスを聴け!!」
「マイルス・デイビスの本はよく読んでいましたね」

AUGUST SANDER『Menschen des 20. Jahrhunderts(20世紀の人々)』
「この写真集と出会って私なりに写真の見方を知りました。職人、家族、肖像などの記念写真からは当時の町の姿勢がみえてきます。古着が好きだから見たことのないディテールが気になるんです」

Tweed Books

住所:神奈川県横浜市港北区篠原町4-6 サージュ白楽107
営業:11:00~19:00 月曜定休
www.tweedbooks.com
アクセスは東急東横線・白楽駅から徒歩3分。装い・スタイル・文藝・人文・音楽・デザイン・アートなどの古書店。買取も歓迎。
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