池袋ウエストゲートパークとエミール・クストリッツァ。

仲野:〈サウザンズ〉シャツジャケット ¥49,500(サウザンズ 03-3487-5040)、そのほかスタイリスト私物
渡辺:〈ニードルズ〉ジャケット ¥31,700(ネペンテス 03-3400-7227)、そのほかスタイリスト私物
ーでは改めて、この3人で共演されるのは今作品が初めてということですが、どうやってコミュニケーションを深めていったのかお伺いできたらと。個別では、池松さんと渡辺さんが初共演になるんでしょうか?
渡辺:池松くん主演の映画主題歌をやらせてもらったことがあって関係性はあるにはありましたが、こうやってがっつり仕事をするのは初めてだったから、ワクワクしながら撮影に臨みました。
ー池松さんと太賀さんのご関係は?
池松:古いですね、10代からの付き合いなのでもう15年以上ですかね。
仲野:しかも近年共演する機会も結構多くて。僕と大知くんは、なんだかんだで10年くらいの付き合いです。プライベートでもどちらとも会うので、真ん中に僕がいて…みたいな感じなのかな。
ーどんな話をすることが多いですか? 音楽好きの太賀さんとミュージシャンの渡辺さんだから音楽の話をすることが多いんでしょうか?
仲野:最近観た映画の話が多いですね。

ー作品のなかで、お三方は青年部のメンバーというメインキャラクターの3人でしたが、演じるにあたり、どんなことを考え、作品に臨みましたか? どこか無気力で飄々としながらも、街に暮らし始めたことで自分の人生を取り戻していく半助役の池松さんは、どうでしたか?
池松:沢山のことを考えていましたが、半助に関しては、物語のガイド役として、観客に一番近い目線として、この街をどう客観的に見つめていくのか、あるいはこの街をどう体感していくのかが物語の縦軸になれると思っていました。
中立的でいて、痛みを知りながらも痛みを忘れていたような、アンバランスで、迷子でありながら、そのことにも慣れきってしまったようなキャラクターでした。その辺りをチューニングしていきました。
青年部としては物語を引っ張っていくような役割があったので、大事なことを手離さずにどれくらい遊ぶことができるか、各シーンを豊かにすることで見る人達を巻き込んでいけるかが重要だったように思います。この街の痛みがあるからこそ、ネオ友情のようなものを目指してみたいと思っていました。
ー終始誰に対しても優しくて、どこか頼りなさげなオカベ役の渡辺さんは?
渡辺:自分の役は街の住人とはちがい、災害によって避難してきたというわけではない唯一の人物です。でも、あの街の住人たちが好きで、いつもその輪の中に入っているけど、ひょっとしたら被害を受けてないことがコンプレックスになっているかもしれないということが頭に浮かびました。ただ単に馬鹿をやっているだけじゃなくて、ちょっとだけそんなところを薫らせられたらいいなと。

ー太賀さんのタツヤ役は、基本的には明るく熱いキャラクターですが、家族と問題を抱えて可哀想な状況に置かれたりします。ある意味感情の起伏がいちばん激しいキャラクターだと思うんですが、何を大事だと考えて演じましたか?
仲野:タツヤはナニの被害によって、お父さんを亡くしてしまうほか、家族との問題がいろいろと複雑で、痛みや悲しみを抱えています。でも、前を向いて、気のいい若者としてこの街を愛してより良くしていきたいと、青年部として盛り上げていこうとするんですが、なぜかよからぬ方向に巻き込まれてしまう。物語のなかでは、かわいそうな目に合うことがすごく多いんですが、それでもとにかく前を向いていこうという姿勢が大事だと思って演じました。
ー脇を固めるキャストも三浦透子さん、濱田岳さん、片桐はいりさん、ベンガルさん、荒川良々さんほか、いい意味で癖の強い俳優さんがたくさん出ていましたが、現場もさぞかし面白かったんじゃないですか?
仲野:えーと、寒かったですね、とにかく気候が(笑)。茨城県行方市の廃校をロケ地にしていたのですが、とにかく寒くて。いかに暖を取るか、この寒さを紛らわすかという…。
ー(笑)。何か撮影中に印象に残っていることはありますか?
池松:青年部としてはとにかくできる限り多くの時間を過ごすようにしていたと思います。2ヶ月半、都会から離れて、一緒にご飯を食べて。寒かったので撮影後はほぼ毎日近くの銭湯に行って、サウナに入って外気浴しながら星を見て、ビールを一杯飲んで帰るのが青年部の日課でした。そういえば、太賀の30歳になる瞬間もこの3人で過ごしました。
仲野:そうだ! あれは自分の中でもかなりメモリアルでした。

渡辺:池松くんがそうやって引っ張って行ってくれて、撮影後にご飯行こうとことあるごとに誘ってくれました。とくに印象的で覚えているのは初日のことです。ご飯を食べながら、この作品について、ああでもないこうでもないと話していたんですが…、僕は撮影が始まる前に(宮藤脚本の)『池袋ウエストゲートパーク』を改めて見直したり、エミール・クストリッツァ作品が好きだったので、『ジプシーのとき』という作品を観てから現場に入ったんですが…そのご飯の場で、池松くんがこの作品に対して、エミール・クストリッツァの町の雰囲気とか、現代なりの「池袋ウエストゲートパーク」のノリも入れられたら面白いんじゃないか、という話をしていて、そこでうわっ! となんだか向かうべきところが見えた気がしたんですよ。