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梶雄太の映画占い 〜MさんとOさんの場合〜
Everybody's weird.

梶雄太の映画占い 〜MさんとOさんの場合〜

スタイリストの梶さんは映画好き、おしゃべり好き、そしてひとに何かをお勧めしたがりのスタイリストです。あるイベントで生まれた「映画占い」は、そんな梶さんが占い師となり、お客さんの悩みを聞いて映画を処方するという、その言葉通りの催し。どんな舵取りで会話を進めて、どんな映画を勧めるのか。7月某日、2人のお客さんを招いておこなった占いの、そのほぼ全貌をここに残します。

  • Fortune Teller(Interviewer)_Yuta Kaji
  • Photo_Harumi Obama
  • Illustration_Naoyuki Yoda
  • Edit_Yuri Sudo

出身:滋賀県

名前:Mさん

職業/年齢:モデル、27歳

結局土台にあるものってそこだよなって。

梶:あ、今日自分のなかでMちゃんに聞きたいことが実はあって…。

梶:改めてよろしくお願いします、梶です。Mちゃんとはインスタも繋がっていたから勝手に知っている気になっていることもあって、でも実はわかっていないこともあって、服とかその周辺のことに興味があるのかなというのが僕の勝手な感想なんですけども、何がいちばん好きなんですか?

M:いちばんは決められないですね~、映画があって、音楽があって、と全部繋がっているので。入り口はたとえば本の一部で、そこで映画について語られていたり、なにか曲の中で映画を語っていたりとか。入り方はばらばらですね。

梶:小さいときは?

M:小さい時は本ですね、本ばっかり読んでいて。

梶:意外だね、ここにきて全部覆された。

M:そして人見知りでした。

梶:元々は雑誌の専属をやっていて、結構ヒエラルキーでいうと上というか。なんとなく活発に青春を過ごしていたらいつの間にかそこにいた、っていう想像を勝手にしていて。

M:徐々に友達は増えてきたんですが、一人遊びだと読書をすることが多いです。

梶:元々モデルになったきっかけは?

M:神戸にたまたま行ったときにスカウトされて、こういう世界があるんだって思って。それが16歳、高校生のとき。

梶:その専属の雑誌が名前を知ってもらうきっかけになった?

M:東京に出た時が18歳だったんですけど、他のモデルさんとはもちろん差をつけたいと思っていたんです。そこでモデル事務所というのがあって、雑誌に所属しているひともいるのを知って、そういう働き方がしたいなと思って。専属だった雑誌のテイスト的には、わたしの普段の生活スタイルから離れています。

梶:専属モデルに抱いてるイメージがあったけど、話を聞いてみたら勘違いしている可能性があるね。

M:逆だからおもしろいこともあるんじゃないかと思っていて。自分のプライベートな面も絡ませれば、両方の表現ができるんじゃないかと。

梶:Mちゃんはモデルという認識はあったんだけど、それ以外のところがおもしろそうだなって勝手に思っていました。でもそれ以外のところってどういう発信をしたら、それが求められるようになったんだろう?

M:わかりやすく好きなものにまっすぐで、それを見てくれているひとは何人かいたんだろうな。ただ、自分で好きなものをプレゼンする場とかは全くなくて、なんならそういうことができなくて。機会をいただいて表現する形のほうが多いんですかね。

梶:Mちゃんのこまかい部分を知るようになってから、マニアックなものが好きだってことに気づいて、かわいらしい子でそこにたどり着くひとってなかなかいないからおもしろいなって。モデルをやってきて、いろんなことに興味があったら、たとえば俳優の方向にシフトしようとは思わなかったの?

M:あったんですが、思ったタイミングで結果が出なくて。居場所を変えるのはいまじゃないのかなとそのときは納得しました。

梶:好きが高じてじゃないけど、もう1歩進もうっていう気持ちにはなったんだ。それも含めて、Mちゃんにとって映画とか本とか音楽って、自分の中でどういう役割なんだろう?

M:気持ち悪いかもしれないしロマンチストなんですけど、自分の日々の生活の中で、いつも歩いている道も違って見えるっていう瞬間がきたんですよ。今日はいつもと匂いが違うなからはじまって、昨日よりこの草が伸びているなとか、小さいことに気づくのが好きなんですよ。映画はそれとはまた違うようで、同じような感覚があるというか、作品の主人公の気持ちになって話を見れる、そういう感覚が好きです。

梶:今までの中で好きな映画はなんですか?って聞かれたら単純になんて答える?単純に。

M:ここ3年ぐらいで小津安二郎にハマって。

梶:行ってたよね、単館の最近のやつも。

M:ポールトーマスアンダーソンとか今も観ていて、そういう変わっていて派手な展開やアクションが好きだったんですけど、小津安二郎を観てから結局こうだよなっていう分かりきった共感を感じられるようになって。いろんなことを求めていろんなことを知りたいって思うけど、結局土台にあるものってそこだよなって、ちょっと悟った気持ちになったんです。それがロマンチックだな。

あと、専属をはじめた頃って20歳とかで、ちょっといまよりもあまのじゃくだったんですよ。その時に観てた映画が伊丹十三とか。

梶:へー!それってけっこう早熟だよね。

M:ちょっとひねくれた目線というか。

梶:それってさ、きっかけがあるじゃん。名前はもしかしたらどっかで聞いてたかもだけど、自分がとっかかるって何かしら理由が必要じゃん。今日も明日も自分と何かが交わるのって理由があるじゃん。知ってても手を出さないこともあって、Mちゃんがその時期に伊丹十三を選んだ基準ってなんなんだろうね。

M:気になったらその場ですぐ調べて観たいってなっちゃうんで、それかなあ。

梶:俺は自分がロマンティックどうかはわからないけど、ロマンティックもいろいろあるじゃん。『トゥルー・ロマンス』もいわゆるロマンティックな話だと思うし、その中に静と動があって、どっちもそれは根源は一緒っていうか。自分のなかでロマンティックな映画の代表って何?

M:なんだろう…そんなに見ないんですよね、うってなっちゃう。あ、でも…あ~…坂本裕二さんの好きなドラマがあって…あ、映画か。

梶:俺が導き出すのは映画なんだけど、これは一つのプロセスだから。材料としてはなんでもいいよ。

M:『人生フルーツ』です。

梶:おじいさんとおばあさんの、長野の?。

M:本もあって、奥さんが書いてて、めっちゃいいです。

梶:どういうロマンティックなの?夫婦?

M:ロマンティックです。めちゃくちゃ理解しあってる夫婦で、ひとに対する視線だけではなくて、モノに対する視線にも愛があるというか。見返りを求めない愛というか。あ、あとケンローチも好きです!

梶:割と力強い作品にロマンティシズムを感じるんだね。ケンローチの作品も映画だけど映画じゃない部分があるじゃん。ケンローチの何が好き?

M:えーもう、家族の話が多いところ。

梶:リアリティがある話のほうが真実味があって、伝わりやすいのかな。

M:でもデヴィッドリンチも好きです。あれは自分では考えられない、想像をもらえる。ちょっと狂ってるじゃないですか。

M:蚊が超いる

梶:蚊が超いる?

M:すごい、見ないあいだに刺されてた…(笑)。

梶:ちなみにさ、いま話したことって、好きなものをお互いさ、ある程度共有しないと話せないことだったりするじゃん。普段ってそんなことを話すひとばっかりじゃないっていうか。突然このひとが映画好き・好きじゃないとかわからないからさ。

梶:なんとなく勝手ながら俺さ、今日何もしないで行こうとも思ったの、対面勝負じゃないけど。それも不安だったの、初めてだったから。だからこういうものを提案したらはまるかなとか、勝手にイメージをしてて。スタイリングで言うと、いま何着かラックに掛かっている状態なの、俺の頭の中で。それをどれにしようかなって、それじゃないのが突然来るかもしれないんだけど。最後にふるいにかけようと思っていて、もうちょっとそこには言葉が必要で。

M:(笑う)

梶:ちなみに去年、2022年に観た中で好きだったのってなに?

M:(スマホを出して考える)

梶:ちゃんとメモってるんだ。

M:ベストか~、でも『秋日和』っていう小津安二郎の映画を、横浜のほうに観に行ったんですよ。美術館みたいなところ。今までテレビでしか観たことがなかったので、劇場で観るとまわりにどんなひとがいるかとか気になるじゃないですか。そのときはほぼほぼおじいちゃんおばあちゃんで、前にいた老夫婦の旦那さんが開始10分くらいで寝てて、奥さんが「あんた、まだはじまってすぐなのに、も~」って、そういう会話のやり取りがあったんですよ。めっちゃいいなと思って。で、わたしが笑うポイントと、その方たちが笑うポイントが違ったりして、同じ映画を観てるのに、同じ環境で観てるのになんだろう。年齢というか世代の違いだなっていうのを感じて、それは今までにない経験でした。いつも映画は一人で行くんですけど、そのときは小津安二郎好きな先輩といっしょに行って、帰り居酒屋で飲んで帰ってきて、その1日の流れが小津安二郎的だったのですごいよかったです。

梶:俺、自分の親の別荘が長野の蓼科っていうところにあって、小津安二郎の別荘の「無藝荘」が近くにあって。東京で生まれてしかも目黒だったから、自然を知っておいたほうがいいみたいな感じで、夏と冬のあいだだけ別荘に行ってて、けっこういいところなんだけど。小津も同じ環境で脚本を書いてたらしくて、俺自身はその風景は観たことがあるからそこまで珍しい気持ちにはならないんだけど、Mちゃんの去年いちばんの思い出は小津の映画だったんだ。

M:映画が良かったのはもちろんなんですけど、前後が良くて、記憶に残っています。

梶:映画は映画であって、映画じゃない部分だと思うんですけど、Mさんの中で、さっきは漠然と今後のこととか勝手に聞いちゃったんだけど、逆にもっとくだらない部分で、日々のちっちゃなどうしようもないストレスとか、嫌なこととか、ひとに話すほどでもない大したことない悩みってあったりするの?

M:最近自分がおかしいことに気づいたんですけど、ずっと会話するんですよ、頭の中で。わたしの声だったり、わたしじゃない声だったり、悩みとか考え事がずっとぐるぐるまわっていて、悩んで落ち込んでネガティブになる、ってところまでいかないんですよ。

梶:空想も楽しいも悩みも全部落ちてこないから、悩みに分解されていないのかな。映画を観てストンと腑に落ちることはあったりする? この時代にこの映画を観たからターニングポイントになったとか。

M:ジブリですかね。小学校の時からすごい好きで、家にビデオもあるし、絵本とかもあって、当時なんで好きだったかがわからなくて、キャラクターがかわいいわけでもないのに。子供には理解できないような世界観がたぶん目で見て楽しかったんじゃないかなって。今になってジブリを観てもすごい、宮崎駿が。同じ映画を何十年通していいと思えるのはロマンチックだなって。

梶:ジブリに出会ったのって小学校ぐらいってこと?

M:そうです。金曜ロードショーとかお父ちゃんがビデオで焼いてて。

梶:洋服とかファッションと紐づく映画ってあったりする?

M:(考える)

M:なんだろうな…

梶:あんまりない?これっていうものがすぐに出てこない?

M:伊丹十三は好きですけど…。あ、この『SURVIVE STYLE5+』っていう浅野忠信とかきょんきょんとかが出てるオムニバスの映画があるんですけど、これが美術系では超よかったですね。めっちゃ変です。美術とか衣装にお金をかけてて、スタイリストが奇才なのか、映像で見ていておもしろいなっていう。

梶:どこか角があるようなものが、作品として記憶に残りやすいのかな…いや小津も好きだから、ベーシックなのも変なのもどっちも好きなんだ。どれぐらいのペースで見てるの?

M:1日1本は観るようにしてますけど、今日みたいな終日撮影のときは観れない日もあったり、1日2,3本観る日もある。

梶:劇場に行くのも好き?

M:劇場に行くのが、好きです。

梶:好きな映画館は?

M:目黒シネマとか。最近は大友克洋の『MEMORIES』を観に行きました。週ごとに映画が変わるので週初めに確認して、今週はだれだれだから観に行こうって。

梶:Mちゃんのなかの、次の道しるべはなんかある? 専属から卒業して、もうちょっと自由度があがった気がするんだけど、自分の仕事とかプライベートとか、よりこうしていきたいなっていう意思ってあったりするの?

M:意思…

梶:目的というとたいそうなものになっちゃうけど。

M:映画館に行くときって、前日に予約ができたらネットでチケットを取っちゃうんですよ。そうすると絶対に行かなきゃいけない環境になる。そういう場をつくるんですけど、このあいだ明日休みだから何か観に行こうと思って予約をとって。いざ次の日行こうと道を調べていたら、二子玉川の映画館を取ったものだと思っていたら立川だったんですね。間違えちゃって。あと5分で家を出なきゃっていう状況になって……映画観るためだけに立川に行って、一人で飲んで帰ってきました。でも1日こんなことがあったけどなんか楽しかったな、ってずっと思えるようになりたい。鈍臭い自分もそれはそれでそういう教えなんだろうな、そう思えるきっかけなんだろうなって。

梶:いまの話に詰まってるね、いままでのことが要約されているというか。Mちゃんのなかの幸福度というか、生活の比重がわかる。こんなふうに生活を楽しんでるんだろうなっていうことがわかった。

M:自分で起こした行動は自分で責任をとるしかないんだなって。

梶:俺いま超悩んでて、一方ではいまのMちゃんの答えに寄り添いたいんだけど、たぶんそれはMちゃんがキャッチできると思う。俺が提案しようと思っているものって、いずれたどり着く気がするの。同時にちょっと予習をしてきてこれを言おうと思ってた1個があって、若干それが頭の中に残っているんだけど、やっぱりそれを最終おすすめしたいの。いい?

M:教えてください、ぜひ!

梶:それが…沖縄って興味ある?

M:あります、行きたいです。

梶:ここ最近行った?

M:去年行きました、遊びに。 

梶:『夏の妹』っていう映画なんだけど。兄妹いる?

M:あ、いない……いや、弟とお兄ちゃんがいます。いない風にしてしまった(笑)。

梶:弟とお兄ちゃん!

M:(スマホで調べながら)大島渚。

梶:大島渚は観たことある?

M:大島渚は『ベルリン』と『戦場のメリークリスマス』を。

梶:俺も先月大島渚の特集を、京橋にあるフィルムセンターで観て。たまたま1ヶ月ぐらい特集をやってて、そこで観たのが『夏の妹』なんだけど、それこそ行ったらおじいちゃんおばあちゃんだらけで、しかも映像が思ったよりエロかったの。エロいっていうのは具体的に行為がじゃなくて、緊張感がエロかった。

M:間とか?

梶:間もそうだし、スカートの丈とか。見えてるわけじゃなかったんだけど。

M:考え方によっては色っぽく見えるかもみたいな?

梶:行為そのものがリアルなんじゃなくて、その前の行動が生々しく見えるというか、たぶん脱いでるシーンもあったと思うんだけど、ヌードがどうこうじゃなくて。しかもけっこうお客さんがいて、映画の中にエロいシーンがあると、自分がそう感じていることが恥ずかしいんじゃないかって。

M:そわそわしちゃう感じ。

梶:そう、自分がエロいと思っていることを思われたくないみたいな。

M:(笑)。 

梶:それぐらい生生しいのよ、性行為とかじゃなくて、女の人の生足が。単純な日常のシーンなんだけど、妙なリアルさがあって、それをこっちが生々しく受け取っちゃうっていうか。

M:いい生生しさですね。

梶:やってるだけじゃエロさもなにもないけど、湿度みたいなものを感じて、それがたまたま1972年で沖縄がアメリカから日本に返還された年で、この年に沖縄でおこった男女の物語っていうか、それを淡々と撮ってるだけなんだけど、それが普通で普通じゃないみたいな。ちょっとへんてこな映画だなって。日常みたいな非日常の映画が、1972年の日本にとって大事な年に撮られていたっていう事実。それを時を経て観るおもしろさ。

そこに出てくる女の子が妙に生々しくて。で、俺、女優さんとか俳優さんの上手さがわからないのよ。演技が上手いってことがわからないのよ。

M:それはそれでいいと思います、観れなくなっちゃうから。

梶:大島渚が使うキャストって、予算の都合なのか、どこのだれなんだよっていうひとも出てくる。その映画においては主演の女の子2人なんだけど、それが妙にプロの手前だからリアリティを感じていて、そこがMちゃんとリンクしたんだよね。媒体の中でおさまってるようで、おさまっていない感じ、それでこれからもどこに行きたいんだろうっていう。

M:葛藤がね。

梶:どこにたどり着くんだろうっていうエネルギーを感じて、それを世の中におすすめしたいっていう気持ちと、俺が仮にそういうものを撮る機会があったら出てもらいたいのはMちゃんみたいなひとだろうなって。それが当初から頭にあって、もしそれを観てもらえたらいいかも。

特に何の役に立つということじゃないと思うんだけど、今後活動していくうえでなにかになればいいなって、俺もその映画を観て何がたのしかったとかないんだけど、そういう映画こそがあとになって意味があるというか、それをぜひ。

梶:もうひとつ反則だけどおすすめさせて。『地球交響曲』っていう。これベタなんだけど、おまけね。ドキュメントなんだけど、シリーズもので、それの3か4の、写真家・星野道夫の回。それの影響で俺アラスカ行ったんだけど。

M:いいなー!

梶:それもいい映画だから観てみて。奥さんの言葉だったり、生前の彼の言葉とか、ずっと撮ってるから。4か5だと思う。去年監督がなくなっちゃったんだけど、最初は映画館とかじゃなくて公民館でやってて、好きなひとがキャッチして行ってて。俺もそれで知ったんだけど。

M:動物系すごい好きで。

梶:熊も出てくる、あとアラスカの山。山登り好きだもんね?

M:はい、アラスカ行きたい! 最近ともだちが行ったんですよ、アラスカ。

梶:ソウル経由だったら9時間とか。

M:あれってガイドさんつけないとだめなんですよね?

梶:山とかはそうかもしれないけど、俺は首都におりて、星野さんが生活してたヘアバンクスに行って。『spectator』っていう雑誌わかる?それでアラスカの特集をしてて、それもいいよ。

M:メルカリで探そ。

梶:俺もそのときそれ持ってったし。あとは映画を観てもらって。ありがとね、長々と。

M:こちらこそ!

【今回の占い時間:46:45】

Mさんは、モデルのmiuさんでした!
instagram:@_miugram_

映画『夏の妹』(1972)

監督:大島渚
出演:栗田ひろみ、石橋正次、りりィほか

『夏の妹』を鑑賞して…

「梶さんがおっしゃっていた通り色っぽい温度を引き寄せるものがありました。それはきっと純粋な姿勢から現れる生々しさなのかなと。登場人物だけでなく撮る側による手持ち撮影の仕方も。 沖縄が日本に返還された直後であって洋服や街並み、目に見えるように文化が混ざっていました。同じように対立する人々の関係性。引っかかりと重なりを見つけられる作品でした。」(miu)

出身:埼玉県

名前:Oさん

職業/年齢:スタイリスト、37歳

実際に街にいなさそうででもいそうな感じがいい。

梶:久しぶりだね、映画祭以来。

O:そうですね。

梶:なんか俺とOくんって意外と紐づいてるっていうか、俺は勝手にシンパシーをもってて。ちゃんと話してみたかったので、呼ばせてもらいました。事前にDMもくれて、Oくんの律儀さとか、あたたかさを感じました。

O:梶さんの文章とかをよく見ていたので、その登場人物になるのかっていう(笑)。ある意味勝手に想像して。

梶:なにげに見てくれてるんですね、スタイリスト同士ってそんなに話さないっていうか。Oくんは同業とはどうなの?

O:話したいけど機会がない、本当は話したいですけど。中高時代から梶さんが『smart』で仕事しているのとか見てて、あるとき『ハニカム』で自分のページの隣に梶さんのページがあってうれしかったですし。そういうことは話したかったです!

梶:Oくんは物心ついたときから、スタイリストというものをちゃんと見てたんだね。中高のときのファッション誌って、多くのひとの目に留まるのがブランドだったりモデルとか大きなトピックだと思う。スタイリストって裏方だし、クレジットで言うとちょっとしか出ないし、あくまでモデル、俳優とかのあとじゃん。意識的に見ないとたどり着かないじゃん。そのへんOくんはスタイリストっていうことに意識があったのかな?

O:もともとスナップのページが好きで見てたらこの写真かっこいいなと思って、クレジットを見て、このひとがつくってるんだって思ったり。その当時webもなかったのでけっこう読み込んでましたね。

梶:特に読んでた雑誌とかあるの?

O:『smart』とか『Boon』とか、そういうメンズのストリート誌ですね。

梶:いっかい長畑さんとOくんとぼくでトークショーやったじゃん。勝手にそのあとのイメージで、Oくんって『FRUiTS』とかああいう雑誌って出てたと思うんだけど、あのへんが背景にあるように見えたというか。Oくんがこういう仕事に携わるひとつの大きなきっかけだったりするの?

O:そうですね。今の自分のスタイルはドキュメンタリーぽい、つくり込んだ写真よりは実際に街にいなさそうで、でもいそうな感じがよくて。それこそ梶さんにも同じようなことを感じたので。

梶:すごくファッショナブル過ぎず、どこまで線引きをするかだよね。

O:外国人モデルじゃなくて友達を連れてきて、写真もいわゆるファッションフォトグラファーというか作家とか、そういうところに影響を受けましたね。

梶:すごいうれしいな。最近はスタンダードになりつつあると言ったらあれだけど、なかなかああいうものって提案して前例があるかないかってところだから、最初認識してもらうのに、あとから思えば体力を使ったなあって思ってて。それのおかげで力がついたけど、あれは自分のためにやっていたけど結果的にOくんのなにかのきっかけになっていたとしたらすごい嬉しい話。

梶:さっきも言っていたけど『ハニカム』が僕とOくんが交わるきっかけになって、そのとき何歳くらい?

O:10年前とか、26,7歳。

梶:いま何歳だっけ?

O:37歳です。

梶:どう37は?

O:20代の頃はとにかく仕事があんまりなかったので、アシスタントもすぐにやめちゃったんですけど、苦しかったですね。お金もなくて友達に借りたりしてて、そういう苦しい時期でした。30代に入って、ようやく自分が言いたいことが言えるようになって、いっしょに下積みしてきた子もあがってきて、同世代で仕事もまわせるようになって、いまは上の世代も下の世代のひともいっしょにやるしで。

それこそぼく、もともとは映画のスタイリストをやりたくて、コロナで畑がちょっと変わってきたというか、ファッション誌ではなくて映像が増えてきて、そのなかで映画やドラマの仕事も入ってきていい意味でたどり着けたなっていう。

梶:ちゃんと自分が延長線上に置いていたところに、コロナがきっかけでたどりつけたっていうか。映画って現実ではないし、どこまでもフィクションでありノンフィクションだから、Oくんのファッションのフィールドとしてちょうどいい塩梅なのかな。気持ちに変化はあったりする?

O:違いますね。ぼくがやってるファッション誌だと、ファッションマター。でも、やっぱり映画は設定から入るので、まだオリジナルのストーリーの映画しかやったことがないんですけど、やってみて思ったのはすごく自由。監督も自由に任せてくれるし。ただ時代や設定がこまかくあるものもあって、そこに向かってつくらなきゃいけなくて、それはまだなかなかできないな。勉強になりますね。

梶:俺、勉強が苦手で、ファッションも勉強という勉強はしてなくて、別に不真面目にここまできたわけじゃないんだけど、勉強しなきゃと思うとできないタイプで。だから勉強以外のことを勉強しちゃうっていう。ファッションでいうと、勉強が大事な部分はけっこうあるけど、勉強じゃない部分も大事で、そのバランスはひとそれぞれだけど、Oくんの感覚でファッションと勉強ってどういう関係性だった?

O:俳優さんの舞台挨拶とかはルールがあるじゃないですか。知らなくてぶつかることはありますね。自分が社会と交わる場面で、急にそこがはっきりする。

梶:自我を抑えたり、遠慮がでてくるってことだよね? なにを目的にしたスタイリングかってことを考えたら、基準は自分じゃないもんね。歳をとったから言えることかもしれないけど、バランスを取ることも楽しめるようになってきたのかな。

O:ずっと無視してきたところが、それじゃ済まされなくなってきて、ポジティブに捉えられるようになってきました。

梶:年齢の問題なのか、視野の問題なのか。

O:視野の方だと思います。

梶:そうなってくるともともとファッションだったものが、いろんな場所が変わって新しいスタンダードができてるわけじゃん。Oくんのセカンドシーズンみたいな。でもまた最初にやってた頃のファッションとしてのオリジナルの表現も、またサードシーズンじゃないけど、最初の頃と変わってくるっていうか、ハイブリッドみたいな。1と2をあわせた3みたいな。勉強が勉強でおわらないのがいいことだなって思った。勉強して点数でておわりじゃないじゃん、この仕事って。知らないところで、どこかで自分の栄養にまわってくるっていうか。全然話変わるけど、いま俺料理学校に通ってて。

O:インスタグラムでみました!

梶:いろんなことをやっていると、別のところで作用したりするじゃん。48歳になってお金払って先生に習うって、こんなに楽しいことなんだって、若返った気持ちになったし。

O:僕、時間かけてごはんをつくっても、めっちゃ食べるのですぐに無くなっちゃいます…(笑)。でもそういう時間も楽しめるようになったらいいですよね。

梶:じぶんのなかでは好き嫌いがはっきりしてて、そんななかでも同業だしそれぞれ無意識な影響って受けてると思うんだけど、そう簡単に好きって言えない気がしてて、恋愛もそうだけど。こだわりがあるものが好きにたどり着くのって時間がかかる。そんななかでもOくんって、好きなスタイリストのなかに入ってるから。そういう意味で、飯の食い方も含めて、Oくんって本当にファッションが好きだね。

梶:俺、昔言ったけど、Oくんのスタイリングって打算がないって。普通は、スタイリングの表現のなかに、あいだになにかが入ったりする。何のためにこのスタイリングを組んでいるんだろうとか、そういう目線で見ることがあるんだけど。Oくんと自分が相性いいなと思ったのは、打算がないようにしたいっていうか、いろいろ考えるんだけど最後そこを削りたいと思っちゃう。モテたいとか稼ぎたいとかはあるんだけど、スタイリングを組んでる時点で無になるというか、かっこよく言うとスタイリングに力が宿るというか、そういうことをなるべく失わないようにしたいなと思っていて。

Oくんはいい意味でスタイリング以外のところが見えないっていうか、何が好きなのかって。明かすつもりもないだろうけど、でもスタイリングのOくんを知っていれば俺はいいやって。ちなみに仕事以外のときはなにをやってるの?

O:ひとりでいることが多くて、サウナが好きなのでサウナですかね。

梶:俺嬉しかったのがさ、このまえ深夜の映画祭に来てくれたじゃん。あれは上下関係のしがらみで?(笑)。

O:いやいやいや(笑)、結構オールナイトの映画に行ってて。

梶:Oくんのスタイリングってさ、なにかをそのまま反映することはないじゃん。紐づいているだろうことも、ダイレクトに表に出さないじゃん。でも実はこまかいところで、栄養としてインプットしたりしてたりするの?

O:いろいろ見るようにはしてますね。ひとから勧められたものはなるべく見ようと思う。とくに信頼してるひとのやつは、見て損することはないので。

梶:Oくんのパーソナルってピュアっていうか、不器用? それ以外は知る必要ないんだけど、このままでもおもしろいから。でもなんとなく映画を提案するうえで、そこは関わってくる部分だと思うから。個人的にOくんのまわりのことを知りたいと思ってるんだけど、ちなみに、Oくんがここに来るまでに、あのとき観たあの作品が色濃く残ってるとか、そういう体験はある?

O:具体的になにっていうのはないんですけど、いろいろ観ているうちに、この衣装すげえなとか思ったりして。それでスタイリストの仕事が好きだなと思ったり。梶さんが映画の衣装の仕事をやってると知った上で、映画を観てすごいなって。北村道子さんのお仕事を見てこんなのもあるんだって。

O:最近気づいたことなんですけど、梶さんのイベント行ったときに、1本目2本目みて、3本目は正直ぜんぜんわからなかったんですよ。若干眠さもあって、そのなかで急に俯瞰しちゃって、みんながこの映像を見てる感じすげえなって。それで、梶さんの立場になって、自分が好きな映画をみんなに観てもらってるっていう状況って、すごい照れる。何だろこの感じって。

別のカメラマンとそれを話してるときに、自分のプレイリストを流されるのといっしょじゃないってなって。映画ってすごくそれが出るというか、ダダ漏れする感じがあるんだなって思って、順番もあるんですけど。1本目は見た目がおもしろそう、2本目は梶さんよくフランス映画をみてる印象だったので観てて好きで、3本目はよくわからなかった。映画ってあらためて力があるというか、キュレーションしているひとの色が見えるっていうか。

梶:プレイリストが恥ずかしいっていうの聞いて思ったのが、俺はあんまりそれがなくって。自分が良いと思って聴いているものとかは教えたいひとなのよ。同業のスタイリストとして全く違う性質だよね、それが俺とOくんのおもしろさかな。スタイリングと同様に、映画もそうで、俺は浴びせたいのよ。さっきの打算がないっていう発言と整合性があるのかわからないんだけど、スタイリングに対する強度を高めたいっていうのは、それだけ多くのひとに感じてもらいたいと思うわけ、せっかく自分でつくるし。俺とOくんが組むスタイリングの前提って違うよね。

O:もちろんおいしいものを食ったら、ひとに勧めたくなりますよ!

梶:スタイリングは別なのかな、聖域というか。

O:出てくるものに自信がないというか。

梶:今度8月に、2019年からつくりつづけてたスタイリング集を発売するわけじゃん。それといまの話はどう紐づくの?

O:それはもうめちゃくちゃやりたかったことなんで。でもこれ一発でもしかしたらそういうのは終わりかもしれない。

梶:スタイリング集のなかのものは、なにか届けたいと思って組んでないよね?

O:本当に自分のためだけです。

梶:それが本になるってどういうことなんだろう?

O:残したいっていうのはあって、特に今回のは若いひとに見てもらいたいなって。この本を若い子がみて、この影響でなにかができたらおもしろいなって、それだけは想像しました。

梶:自分がスタイリストになるうえで入り口があって、プロセスがあって、いまみたいなことを次の世代とやってみたいし、作品としても残したい。その2つが大きいんだ。

O:最初は自分のためだったんですけど、自分のことおもしろがってくれるひとって若いひとが多いので。20代なかばとか。

梶:どういうときに感じることが多い?

O:それこそトークショーとかやったときに声かけてくれるひともいるし、20代の編集が仕事をくれたりとか、いろいろ話聞いたらけっこう掘ってくれてるなって。そういうときに思いますね。

梶:映画の話に戻すんだけど、出てくる衣装に目が行くって言ってたけど、映画の物語そのものよりも視覚の部分が大事なのかな?

O:いやそこだけではないですね。

梶:近年でじぶんのなかでヒットした映画はありますか?

O:『DUNE』は世界観もおもしろかったです。あと去年か一昨年に、池袋の文芸坐で北野武のオールナイトを観て、『その男、凶暴につき』『3-4X10月』と、『ソナチネ』の3本で。『その男、凶暴につき』がいちばん好きで、初めてスーツを着てみようと思いました。映画が自分の格好に影響を及ぼしたことがなかったので

梶:自分の信念が揺らぐぐらいの作品だったんですね、生き様とか。視覚部分以外で、勇気づけられたというか。あとは感情が動かされた体験ってあったりする?

O:今年『新仮面ライダー』を観て、庵野さんはいろいろ言われているけど、俺はかっこいいなと思いました。仮面ライダーやりたいんだろうけど、全然自分を捨てきれていない。それがかっこいい。

梶:ドキュメンタリーしか俺は観てないんだけどさ、あれも映画として成立してておもしろいよね。勧められたものは観るって言ってたけど、逆に自分から観るものってどういう映画なんだろう? 人間ドラマで言うと『スタンド・バイ・ミー』とかは一般的な評価が高いものだけど、Oくんの中であわなかった映画ってある?

O:生死が関わっているような、重たいもののほうが好きです。食らったって思えるものとか。『アメリカン・ヒストリーX』とか。

梶:似てるもんね、主人公に(笑)。生臭さみたいなものが好きなのかな。激情っていうのかな。聞いてると、ほんわかな日々とか幸福感に満ちた映画はそんなにって感じなんだね、泣けるやつとか。生死の捉え方だよね、平凡な中にも死はあるし。Oくんのなかでは、映像に関してはそういうものが好きなんだね。

いま提案する映画をそれに沿った映画にするのか、反するものにするのか迷ってる。スタイリングで言うと、大枠は決まってて、あと帽子をあわせるのか靴をあわせるのかみたいなところ。その帽子はどこのなの?

O:これは、新宿の「THE FOUR-EYED」で買いました。

梶:そういえばOくんと帽子って切っても切り離せないよね、俺もだけど。帽子ってどういう意味合い?

O:スタイリングで帽子から決めたりすることもありますね。

梶:帽子から決めることあるんだ! 服と平等なんだね。

O:帽子のこと好きなのが、夏とか被ってて、汗かいて、こうやって中の匂い嗅ぐのが好きなんですよ(笑)。

梶:あるあるだよね、俺もやっちゃう。俺はOくんと反対なのかな、洋服を気分で決めて、靴を履いて、特にルールないんだけど、帽子を最後被ったら完成っていうか。ただそれだけの意味。別に何の意図もなくて、最後に被って落ち着くみたいな。なきゃ落ち着かないみたいな。

梶:いまのも踏まえて提案させてもらいたいのが、竹中直人の作品観たことある?

O:最近実は気になってて。

梶:『三文役者』っていう映画。Oくんのお話を聞いてて、この作品はOくんがこれから先交わることがないだろうなと思って出してみた。単純に竹中直人が殿山泰司っていう本当の役者さんを演じているの。名脇役と言われてた殿山さんってひとが亡くなっちゃって、彼をすごく起用していた新藤兼人監督が死んだ彼のために、お前は最後は主役だったんだよっていうのを竹中直人を使って演じさせたの。その殿山泰司とOくんが似てるっていう。

O:(笑)。

梶:似てるっていうのには理由があって、俺もOくんも器用じゃない気がしてて、殿山泰司ってそれを体現しているというか、好きを充実させてずっと貫いているひとだなと思っていて、それを竹中さんが主演で映画にしたっていう。実話なんだけど実話じゃない、それもOくんのなかで観てもらえるジャンルなのかなって。それをぜひ。

O:ありがとうございます。U-NEXTで観れそうです。

梶:うん、それがいいかな。暑い中来てくれてありがとう。

【今回の占い時間:46分52秒】

Oさんは、スタイリストの小山田孝司さんでした!
Instagram:@oyamadakoji

映画『三文役者』(2000)

監督:新藤兼人 出演:竹中直人、荻野目慶子、吉田日出子ほか

『三文役者』を鑑賞して…

「僕は映画作品を知るきっかけとして友人や先輩から薦められた作品は必ず観るようにしています。梶さんはスタイリスト同士ということもありながら男同士でもあり、僕にとって人生の大先輩です。『三文役者』を観ていて男ってなんでこんなに自分勝手でどうしようもないのにロマンチックなんだろうと思いました。女性の強さも相まって。一時間ほどの占いで梶さんは、きっと僕の原風景を感じてくれてこの映画を薦めてくれた。男に生まれてよかった。スタイリストをやっていてよかった。」(小山田孝司)

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