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Tシャツブランド〈C〉が10週年を迎えて加賀美健がいま思うこと。

Look back on the decade of C.

Tシャツブランド〈C〉が10週年を迎えて加賀美健がいま思うこと。

現代美術家である加賀美健さんのTシャツブランド〈C(シー)〉が、今年で設立10周年。加賀美さんらしいユーモラスなグラフィックが描かれたTシャツの数々は、どのようにして生まれ、どんな想いを込めて制作されているのか? 決して短くはない10年という歳月を振り返りながら、ブランドのことについて、珍しく(?)真面目に語ってもらいました。

  • Photo_Taro Hirayama
  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Hiroshi Yamamoto
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自分の絵がTシャツになったらいいな、くらいのライトな気持ちではじめた。

ー〈C〉というブランドのコンセプトを教えてください。

加賀美:ぼくの書き下ろしのグラフィックをTシャツに載せているブランドです。他の企業には提供できないようなモチーフを落とし込んでいて、唯一自分の好き放題できる“アパレルライン”ですね。

ーつまり、個人的なブランドであると。

加賀美:うん、個人的かつ超インディペンデントなブランド。自分の描いた絵をTシャツにプリントしているだけなんですけど(笑)

ーどうして“Tシャツブランド”という形を選んだんですか?

加賀美:アパレルのブランドといえば、パターンを引いたり、加工したりとか、そういうことをしなければいけないと思うんですけど、Tシャツなら自分で絵を描いてそれをプリントしちゃえばできあがるから手っ取り早い。簡単にできるから、はじめは軽い気持ちではじめたんです。ブランドっていうと大袈裟に聞こえちゃうかもしれないけど、とりあえずやってみようと。

ーそれがブランドをスタートした10年前の話で、当時はすでにアーティストとして活動をはじめていましたよね。

加賀美:そうですね、地道にだけど(笑)。いまみたいに他のブランドにグラフィックを提供したりしているわけではありませんでした。だから、自分の絵がTシャツにプリントされてたらいいな、くらいの本当にライトな気持ちではじめたんです。

左から、「はたらきたくない」、「なし」、「otsubone」 各¥6,000+TAX

左から、「Chini ashiga tsuitenai」、「↑ Kubino kawa ichimai」、「JIDAN」各¥6,000+TAX

ー〈C〉というブランド名には、どんな意味があるんですか?

加賀美:昔、男女の営みを「A・B・C」で例えてたじゃないですか。それの「C」です。でも、いまの若い子はこの例えを知らないんだよなぁ~。取引先にも「どんな意味なんですか?」って聞かれて答えるけど、「はい?」って顔される(笑)

ーそもそも、どうしてその「C」を選んだんですか?

加賀美:あまり意味を持たせたくなかったんです。洗練されたコンセプトとか〈C〉には必要ないなって(笑)。あと読みやすいじゃないですか、アルファベット一文字って。でもこのブランド名、実はあんまり浸透してないような気がします(笑)。みんな「加賀美さんのTシャツブランド」っていう認識でいると思うから。

お客さんに届けること、着れるものをつくること、この2つを意識しています。

ー冒頭で「他のブランドに提供できないようなモチーフを書き下ろしている」と話されていましたが、クライアントワークと〈C〉とでは、ハッキリと違いがあるんですね。

加賀美:お客さんからすれば分かりづらいと思うんですけど、自分のなかでは線を引いています。お客さんに届けようという気持ちが強いですね、クライアントワークの場合は。〈C〉にもその気持ちは当然あるんだけど、もっとパーソナルな部分をさらけ出しているというか。

ーおしゃれかどうか? かっこいいかどうか? というベクトルでは測れないグラフィックだと思うんですが、〈C〉の場合はどんな気持ちで制作しているんですか?

加賀美:おしゃれでかっこいいものは他の人たちがたくさんつくっているから、ぼくの役割ではない。だからといってまったく売れなくても困っちゃうんだけど。お客さんに届けること、着れるものをつくること、そこらへんは意識してます。下品すぎても着れないですから(笑)。あとは、部屋に置いてもおもしろそうなもの。友達が遊びに来たときに、クスっと笑いながら「なにコレ?」って反応するようなやつ。でもね、究極は無地のTシャツだけで展示会をしたいですけどね。

ー無地だけなんて、加賀美さんのグラフィックを期待しているバイヤーは拍子抜けしますね。

加賀美:「とうとう無地きたか!」みたいなね(笑)。そういうクレイジーなことを〈C〉ではやっていきたい。でも振り切りすぎると頭がおかしいと思われるから…。

ープリントされているグラフィックは日常的に考えているんですか? それとも、展示会が近づいてから描くんですか?

加賀美:5月と11月に展示会をやっていて、だいたいその2ヶ月前くらいにスイッチが入るんです。「そろそろかな」って。アイデアは日常から生まれることが多いですね。気になる言葉が頭のなかに残っていたりして、それをグラフィックに落し込む感じ。ラフを描いてどんどん仕上げて行くこともあれば、一発で描いちゃうこともあります。

ー毎シーズン、リリースされているのは7型ですよね。

加賀美:うん、そうですね。とりあえずたくさん描いて、今度はそれを振るいにかけるんです。うちの家のリビングに本棚があるんですけど、そこにグラフィックを全部貼って、一ヶ月くらい眺める。それで全体のバランスを見るようにしています。この作業が大事で、家のなかだからイヤでも目に入ってくるでしょう? そうすると意識が自然と〈C〉の方へ向いていくんです。

ーバランスを見るというのは、具体的にどんな調整をしているんですか?

加賀美:全体的にちょっと遊びすぎかな? とか、日本語使いすぎてるかな? とか、そうゆう細かなところ。日本語をローマ字表記に変えたりしてバランスを取るんです。

ー振るいにかけられた結果、お蔵入りしてしまったグラフィックは、もう使われることはないんですか?

加賀美:たまに違うタイミングでリリースしたりすることもあるけど、滅多にないですね。毎シーズン、だいたい新しいものを制作してます。

今回は売れそうな要素を削ぎ落としました。

ーアイデアは日常から生まれることが多いと話されていましたが、グラフィックを制作するときに大事にしていることはありますか?

加賀美:ぼくの場合、デザインするっていう意識はあまりないんです。時事ネタとか、日々の生活のなかにあるユニークだと思う事象を取り上げて絵を起こしてます。流行っているからとか、カッコいいからとか、そういう考えだと嘘っぽくなっちゃうから。ぼくがTシャツにするグラフィックは流行ってないし、おしゃれでもないですからね。

左から、「バスガスバクハツ」、「今度一緒に何かカッコいい事やりましょう」、「ご飯 味噌汁 キャベツのおかわりはご自由にお申しつけ下さい。」 各¥6,000+TAX

ー流行って欲しいっていう気持ちはないんですか?

加賀美:そりゃあ…、売れたらうれしいけど…(笑)。でも、〈C〉が流行ることなんて絶対ないって思ってます。ぼくは天邪鬼だから。

ーでも、最近は日本語をモチーフにしたTシャツをよくみかけます。

加賀美:昔は日本語が書いてあるTシャツなんか恥ずかしくて着れなかったのに、いまはわりとよく見かけますね。次は何語のTシャツにしようかな(笑)?

ー「ストレンジストア」では、展示会では発表されなかったTシャツを突発的にリリースされてますよね。いわゆる“ホリデーライン”のようなアイテムを。

加賀美:そうですね。パロディとか、ちょっと毒ッ気が強いやつとか。そういうのは卸せないから、自分で刷って、自分のお店で販売してます。いわばレアアイテムですね(笑)。もしかしたら、コッチのほうがぼくの素を表現しているかもしれない。アートに近いというか。〈C〉では昔、キャラクターのTシャツとかをつくっていて、すごい人気があったんですが、だんだんそういうのが売りに走っているように思えてきて、自分でつまらなくなってしまった。だから、そういうのはやめたんです。

左から、「THANK YOU FOR VISITTING PLEASE COME AGAIN」(2017 A/W)、「MONJA YAKI」(2017 A/W) 今後リリース予定。

左から、「GIN&TONIC」(2017 A/W)、「MAKURA EIGYOU」(2017 A/W)

左から、「OMOTE NO KAO URA NO KAO」(2017A/W)、「べんけい」(2017 A/W)、「コンクリート打ちっぱなし」(2017 A/W) 今後リリース予定。

ーつまり〈C〉のアイテムには、そのときの加賀美さんの気分が反映されていると。5月の展示会で発表された新作は、10周年ということを意識したんですか?

加賀美:10周年だから、っていうのは全然考えてないです。それとは関係なく、今回は売れそうな要素を削ぎ落とそうと思って描きました。案の定、バイヤーさんから「これ売れるかな?」っていう言葉をもらったりして。狙った通りの反応だったから自分としては大成功でした。

ー10年間ブランドを続けるなかで、印象に残っているTシャツはありますか?

加賀美:ブランドをスタートして3か4シーズン目くらいかな。一回だけ絵を描かなかったことがあるんです。そのときは、サンフランシスコでみつけた古本の猫のキャラクターをプリントしたんです。60年代くらいのぬり絵なんですけど、その猫がすごくかわいくて。お客さんからは「加賀美さん、絵のタッチが変わりましたね」なんて言われて(笑)

ーご自身で描かれたもので印象に残っているものはありますか?

加賀美:手でレモンを絞っているグラフィックに「KOTOWARE」って書いてあるやつかな。それは好きですね。鶏の唐揚げに勝手にレモン絞ってかけるやついるでしょう?

ーレモン、ダメ派ですか?

加賀美:ダメ(笑)。だから、レモンかけるなら断りを入れろよっていう意味を込めてつくりました。みんなで居酒屋に行ったときにパッとひらめいて。あとは、足の小指をどこかにぶつけた絵に「HELL」って書いてあるやつも好きですね。まとまりがよかった。

自分でつくったTシャツを着るのはなんだか恥ずかしい。

ー〈C〉でTシャツをつくることが、本業であるアーティストとしての活動に影響を与えることはあるんですか?

加賀美:それはまったくないなぁ。〈C〉とアート活動は別物で、そもそもの考え方が違うんです。アートは、頭のなかに自然に湧いてきたものを現代美術として瞬発的にリリースするように意識しているんです。でも〈C〉の場合はアートではないし、アパレルの仕事でもなくて、唯一自分が好き勝手できるもの。

ー特別なゾーンなんですね。

加賀美:そう、〈C〉は特別です。といっても、そこまで自分にとって重要というわけではないんだけど。

左から、「ボン キュ ボン」、「ちかい」 各¥6,000+TAX

ー〈C〉のTシャツを自分で着たりはしないんですか?

加賀美:ぼくは照れくさくて着れない。街のなかで着てる人を見かけても、なんだか照れちゃいます(笑)。もちろんうれしい気持ちもあるんだけど、やっぱり〈C〉は絵ありきだから、着たときにどうこうっていうのはあまり考えてないですね。

ーなるほど。

加賀美:個人的にはもっとストレンジなものをつくりたいですけどね。今度やってみようかな(笑)。100パーセントの力を振り絞っているんだけど、一枚もオーダーがつかないような展示会。

ーそれこそアートに近いような気もします。

加賀美:うん、そう思います。アートに関しては、ぼくがつくるすべての作品は100パーセント出しているから。でも、売れないものは売れないですし、だからといって落ち込んだりもしない。〈C〉もアート寄りの考えでつくったらどうなるんだろう? 考えたらおもしろいけど、卸先のこともあるし、やっぱり多少は売れそうなものをつくらないとダメなのかもしれませんね。

いまは〈C〉をやっていてすごく楽しいから、やめるつもりはない。

ー10年間ブランドを続けて、なにか思うことはありますか?

加賀美:10年経ったんだなぁ、くらい(笑)。あっという間でした。あまり感慨深さはないですね、10年も続くとは思わなかったけど。

ーいまは続けようという意志が強いですか?

加賀美:そうゆうわけでもないんです。10年続けたんだからいつやめてもいいかな、と思ってます。いますぐやめるというわけではなくて、無理して続けようとは思ってない、ということです。なんか10年やってたら、それなりに説得力が出てくるでしょう? 2、3年しかやってないのにやめますっていうのは諦めが早いけど、10年ならまぁいいかな、みたいな。

ーTシャツで表現したいことがなくなればもうやめてもいいかな、という気持ちだと。

加賀美:うん、そんな感じです。いまは〈C〉をやっていてすごく楽しいから、やめるつもりはないけど。

ー最後に、〈C〉の活動として、今後やってみたいことなどがあれば教えてください。

加賀美:さっき話したように無地のTシャツだけの展示会ですね。あと、昔インスタグラムにアップしたことがあるんですけど、いろんなTシャツメーカーのタグを20枚くらい集めてTシャツに縫い付けたりとか。「どこのメーカーだよ!」っていうようなアイテムを〈C〉でつくりたいですね(笑)。

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