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二人の写真家が切り取るサンフェルナンド・ヴァレーの風景。

Interview with Clint Woodside & Dan Monick「Vineland」.

二人の写真家が切り取るサンフェルナンド・ヴァレーの風景。

LAを拠点に「Deadbeat Club」というスモールパブリッシャーを運営しながら、写真家として活動するクリント・ウッドサイド。そして、「Deadbeat Club」からも作品をリリースしている写真家のダン・モニク。この二人がLA郊外のサンフェルナンド・ヴァレーで撮り下ろした写真を展示するエキシビション「Vineland」を、現在、日本におけるzineカルチャーを先導するショップ兼パブリッシャー「commune」サポートのもと、中目黒「VOILLD」にて開催中。LA特有のカラッとした空気感を漂わせながらも、どこか影のある美しさが特徴的な彼らのスタイルはどうやって生まれたのか。そして、彼らは何故サンフェルナンド・ヴァレーを撮影の地として選んだのか。引いては「Deadbeat Club」のことを、二人にじっくり話を伺いました。

    Photo_Haruki Matsui
    Text_Maruro Yamashita
    Edit_Jun Nakada
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左:ダン・モニク(Dan Monick)右:クリント・ウッドサイド(Clint Woodside)

ーまず最初に、今回のプロジェクトはどのように始まったんですか?

ダン:クリントと俺は似たような撮影のスタイルを持っているんだ。クリントが「Deadbeat Club」から、俺の『Psychic Windows』という作品を出版した後、zineをきちんと製本する際の編集やデザインを彼に手伝ってもらっていたんだ。俺たちは二人とも本やプリントを東京の「commune」で売っていて、反応が良いと感じたから、東京で発表するプロジェクトを企画して、それに二人で取り組んだら楽しいんじゃないかと考えたんだ。そして、ミユキ(commune)にエキシビションをやる手伝いをしてもらえないかって頼んだんだよ。それがそもそもの始まりだね。

ーテーマに「Vineland」を選んだのは何故ですか?

ダン:「Vineland」というのはサンフェルナンド・ヴァレーという街のストリートの名前なんだ。俺は何年もサンフェルナンド・ヴァレーに夢中になっていてさ。常に写真家として取り組みたいと思う土地であり題材だったんだ。けど一方で、クリントはそこまでサンフェルナンド・ヴァレーのことをよく知っている訳ではなかった。こんなにもたくさんの題材が転がった土地を、俺たちの、似ているけれど異なる視点でそれぞれドキュメントしたら面白いんじゃないかと思ったのさ。俺にとってはとても馴染みがあって、クリントにとっては完全にフレッシュな題材になるんだからね。

クリント:とてもエキサイティングな経験になったよ。これまでにも、誰かとコラボレーションしたことはあったけど、今回みたいに深く取り組んだことは無かったからね。誰かと一緒に一連の作品をつくったこともないし。自分の作品は時たま視野が狭くなってしまう可能性があるから、とても良い機会だった。いつもだったら、そのエリアがどんな感じなのかを確かめるために、何度もロケハンに訪れてその場所に自分自身を深く入り込ませてみるんだけど、今回は違った。撮影場所に着いてそのまま撮影を始めるっていう、初めてのスタイルで取り組んだんだ。このプロジェクトの最中で、何度か自分自身が観光客になったような気持ちになったんだけど、それでもサンフェルナンド・ヴァレーにはどこか親しみを感じて、シャッターを止められなかった。そうやって、このプロジェクトは出来上がっていったんだ。

ーダンがサンフェルナンド・ヴァレーに夢中になったキッカケは何だったんですか?

ダン:正直なところあまりよく覚えていないんだ。LAに2001年に引っ越した後、サンフェルナンド・ヴァレーで育った友達ができて、その友達からヴァレーの話を聞くのが好きだった。彼らはLAで育った人たちよりもクレイジーなストーリーをたくさん持っていて、TVや映画から抱いていたふざけた郊外っぽいイメージとは違って、そこに惹きつけられたんだ。郊外のアウトサイダーは、都会の隣人よりも変わった人たちだったってことだね。それから俺はヴァレーの町の歴史を勉強し始めて、より一層魅了されていったんだ。

ー「Vineland」というタイトルになったのは何故ですか?

ダン:二人でこのプロジェクトの名前を考えながらあれこれ言っていた時に、ちょうど高速道路で「Vineland」の降り口の看板を過ぎたんだ。それで“Vinelandはどうだろう?”って俺が提案して、クリントが気に入ってくれて。ヴァレーはとても不思議な場所なんだ。すごく広大で、どこか曖昧で、明白でなく、とても表現し難い強いエネルギーを発しているんだ。俺たちはその一部を捉えようとしたんだけど、同時に、自分たちでも何を見せようとしているのか分かっていなかった。ただ、ヴァレーに行ったときに目の前に広がる瞬間を明らかにするような作業だったんだ。この展示のために書いたステートメントが最も雄弁にこの街について述べているので、それを声明文に代えさせてもらうよ。

クリント:ヴァレーはとても面白いところだったよ。何故なら、深くロサンゼルスと繋がっているにも関わらず、同時にまったく関わりたくないとも思っているから。地理的にはロサンゼルスとサンフェルナンド・ヴァレーはロサンゼルスと頭を付けながら反対側に位置していて、ヴァレー自体にはいまでもとても大きな街がある。そして、ヴァレーはたくさんの異なる側面を持っている。経済的にも多様だし、ブロックごとにさまざまな生活クラスの人たちがいるのがおもしろかった。そもそも、街としてはロサンゼルスから離れた郊外を求めて引っ越してきた人々によってスタートしているんだけど、いまでは延々と屋外型のモールとドーナッツショップが続いているよ。

ーお二人の作品は常にリリカルで、背後にあるいろんな意味やイメージを連想させます。美しいだけでなく、どこかに憂いを感じさせるような。どうやって自身のスタンスを確立させたんですか?

ダン:俺は常に、たとえ写真の中にほとんど人が写っていないとしても、それらの写真はすべて"人々”について語っているのだと考えている。写真に映し出されたイメージはその背後にある大きなストーリーへの手がかりでしかない。もしくは、そのイメージがストーリーへの補足になるようにと考えている。そして俺は、人を笑わせることが出来る写真というのが、いい写真だと考えているんだ。同時に、俺はブラックユーモア的なセンスもあるから、悲しい雰囲気の写真からも常に幾ばくかのユーモアを感じている。けど、この質問への答えは、ほぼ質問のなかにあるね。俺はただ、見てくれた人が大きなストーリーを想像出来るようなイメージを作り上げるようにトライしているだけなんだ。

クリント:俺の仕事は、すべて自分が撮った対象の周りの人々の“生”についてなんだ。つまり、作品を見る人に解釈の余地を残したいと思っているのさ。そうすることで、見る人たちは、自分自身を作品に対して結びつけることが出来る。例えば、グリルドチーズサンドウィッチの写真であれば、ダイナーでそのサンドウィッチを食べている人の人生も伝えたい。そこには他の人のお皿がないから、きっと一人で食べているんだろう…、何故彼は友達といないんだろう…とかね。同時に、その写真は見る人たちに対して、若い頃に夜遊びした後にダイナーで友達と過ごした時間を思い出させるかもしれない。それ以外にも、見る人たちそれぞれが持っている、数え切れないくらいの思い出が蘇るかもしれない。俺の作品の大半は自叙的だけど、皆誰もが自身の内面を作品と繋げることが出来ると思うんだ。

ー写真にのめり込んでいったのは、いつどのようなキッカケでしたか?

ダン:18歳の時に美術館のカフェテリアで働いていたんだけど、当時、仕事をサボっている時に、『Balled of Sexual Dependency』という写真集を本屋で見つけて。その本を買う余裕は無かったんだけど、その写真集のことを忘れることができなくて。1年後、学校でライティングの授業を追い出されて、その日のうちに写真の授業を受けることになったんだ。それから自分にとって、写真だけがずっと止めずに続けていることになったのさ。

クリント:俺は高校生の時だね。高校時代のほとんどの時間を、高校の暗室で過ごしたんだ。ビートニック・カルチャーにのめり込んでいてさ。ジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグなんかに。ギンズバーグは僕にとって最初のフェイバリットフォトグラファーだよ。バンドと一緒に旅に出て、その道中を撮影したりっていうことを何度もやっていたんだけど、俺はケルアックが書いたストーリーを模しているだけなんじゃないかと考えるようになったんだ。そして、結果的に長年写真を撮ることから離れることになったんだ。20代前半に写真から離れて、30代半ばからまた写真を撮り始めたんだ。それからもう10年くらい経つかな。

ーまた写真を撮るようになったのは何故ですか?

クリント:元々はデザインの仕事をしていたんだけど、ストレスが原因で精神的に落ちていたんだ。そのうちに、デザインの仕事もそれまでみたいにできなくなってきて、潜在的に仕事を避けてしまうようになったんだ。それが結局なんだったのか、よく分からないんだけど、仕事のために席に座るとそれだけで強烈な不安に襲われるようになってしまって、完全に仕事をストップさせることになったんだよね。それから1年ぐらい写真とペインティングを同時にやってみたんだけど、また写真を撮るっていうのが自然で良いような気がしてさ。その時は、写真の方がペインティングよりも意味があるように感じたんだよね。多分、俺がフォトグラファーとして仕事をしていることは、自分の内面的な意味でとても役立っていると思うんだ。たくさんの感情を作品に込めているから、精神衛生的にとても良いしね。もし写真に戻らなかったら、自分がいまどうなっていたか分からないよ。

ー子供の頃はどんなカルチャーに興味を持っていましたか?

ダン:子供の頃はホッケーをやっていた。10代前半はゴスやパンクにハマっていたね。パンクのライブに溢れたミネアポリスで育ったんだよ。音楽がすべてだったね。実際のところ、俺にとって写真よりも音楽の方が力強い存在だったんだ。バンドも組んでいたし、真剣に取り組んでいたからね。けど、ある時から距離を取るようになって。写真は自分で選んだ時から現在まで一貫してやり続けていることなんだ。

クリント:ほとんど同じような感じだよ。俺はバッファローの郊外で育って、NYのパンクやハードコアのシーンにのめり込んでいたんだ。20代のほとんどは、深夜のダイナーで過ごしたよ。お酒を飲まなかったからね(いまでも飲まないよ)。バーにも行かないで、ダイナーで友達と夜通し連んでいたのさ。パンクやDIYは俺が成長する上でとても大切なものだったし、いまでも大切なんだ。それとスケートボードがいまの俺をつくり上げたんだよ。

ー現在はどんな毎日を過ごしているんですか?

ダン:朝起きて、エスプレッソを3杯飲んでからスタジオに行って、集中して仕事に取り組むんだ。俺はこういうプロジェクトと同様に、コマーシャルワークも受けているから、時には仕事を調整しながらやっているよ。こういう仕事を毎日出来ていることをとても光栄に思ってる。自分にとってはとても自然なことだから、時々これが仕事だっていうことを忘れてしまうくらいさ。もし誰かが俺に、どうやって写真で生計を立てれるようになったんですか? と聞いてきたら、「止めないことだ」としか言えないよ。俺のスタジオはアットウォーター・ヴィレッジという素晴らしいエリアにあるんだけど、まだ昔ながらの良い感じのものが残っている場所でさ。日本から戻ったらすぐに、スタジオでガールフレンドのモニカ・レイズとNowspaceというギャラリーとのPop Upを開催するよ。短編のムービーの編集、他のフォトグラファーの写真集のエディット作業、CASH MACHINEからの本の出版、この「Vineland」プロジェクトでの引き続きの撮影とか、とにかくやることがたくさんあって、常にたくさんのお皿が回っている感じだね。常に変わりないのは、エスプレッソだけさ(笑)。

クリント:俺は常に「Deadbeat Club」と、フリーランスとして受けている他のパブリッシャーから出る本のデザインの仕事をやりくりするのに奮闘している。なかなか自分自身のプロジェクトのための時間をつくるのが難しいけど、ちょっとは確保できているかな。毎日の大半は、起きて、コーヒーを淹れて、ニュースを見て、ほとんどが「Deadbeat Club」に関するメールを返信して、郵便局で通販の発送手続きをして、それからオフィスへフリーランスの仕事をしに行くか、取り組んでいる仕事の撮影に行くかって感じ。帰宅したらフィアンセと夕飯を食べて、その時にデザインをしている「Deadbeat Club」の本の編集をして、ベッドに就く。この繰り返しだよ。

ー「Deadbeat Club」はいつスタートしたんですか? また、名前はどうやって決めたんですか?

クリント:「Deadbeat Club」っていうのは写真集をリリースする小さな出版社のことで、5年前に俺が始めたんだ。ほとんどは、自分のzineだったり、俺が大好きな友達のzineをつくっているよ。時々「Deadbeat Club」の名前でアートショウをキュレーションすることもあるんだ。僕が信頼している友人や、一緒に仕事をしたいと思う人たちの作品を集めてね。とても楽しいプロジェクトだから、それを受け入れてくれる人たちにとても感謝している。「Deadbeat Club」という名前は、大人になるにつれて、周りの人たちは、俺や俺の友人のことを、何もしない怠け者で、ただスケートをしたり、トラブルを起こしてばかりいると見なす様になってきたから名付けたんだ。いまでこそ俺たちは皆プロのアーティストだけど、アートで食べていくっていうことは本当に大変だっていうことを伝えたいね。自分の名前を打ち出して、たくさんの仕事の足がかりにしないといけないし、何よりいつも仕事していないといけない。だから、ジョークとして、会社、グループ? なんでもいいけど、呼び名として「Deadbeat Club(怠け者クラブ)」って名付けたんだ。

ー「Deadbeat Club」から作品をリリースする際の、基準みたいなものはありますか?

クリント:特にないよ。ほとんど自分が知っていて信頼しているアーティストと仕事をするしね。こんなにも才能豊かなフォトグラファーの友人がいて幸せだよ。俺たちの家族は常に成長して拡大しているんだ。俺はただ作品を愛するだけさ。何が作品のために正しいかを見極めること。本にするのがいいのか? ポストカードのパックか? どれくらいの数をつくるか? なんていう風にね。それぞれのプロジェクトで異なってくるから、それがまた楽しいんだ!

ーこの「Vineland」のプロジェクトはこれからも続いていくんですか?

ダン:もちろん、続いていくよ! この土地のすべてのストーリーを伝えることが可能だとは思わないけど、ここが止めどきだって思うまで続けていくつもりさ。でも、個人的には、その後も俺は常にサンフェルナンド・ヴァレーを探求していくと思う。

クリント:そうだね。まだたくさんやり残したことがあるし。これは本当に第1ラウンドって感じ。もっと深く取り組んでいきたいと思っているよ。

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