PROFILE
小学生の頃に油絵を学ぶ。近世近代の絵画から影響を受けており、現代における物事や感情、ストーリーを、膨張表現やオマージュを用い、油絵で描く。Sablo氏の描く人物の顔身体には、グロテスクなエフェクトがかけられており、現存する人間とは 違うキャラクター性、内面性、シルエットが強調され描かれている。これらの効果はSablo氏が敬愛する西洋絵画、映画、音楽、漫画などから着想を得ていることに由来し、現代に生き、目に映るものや感情を表現するためにサンプリングされ、作品に落とし込まれている。
@sablomikawa1987
描くことで救われた10年の集大成。
– まずは、画家としてのキャリアの始まりについて教えてください。
もともと小学生の頃に絵画教室で大人が描いていた油絵に憧れて、習い始めました。6年生までずっと絵ばかり描いていましたね。でも、その後は中高6年間、部活で剣道に夢中になって、しばらく絵から離れてしまっていました。いま思えば、美大を受験したり、画家として食べていく自信がなかったんでしょうね。
– 当時は、まだ迷いがあったんですね。
悩みながらもデザインを勉強して、デザイン会社に就職しました。でも、自分には合わなくて1年足らずで辞めてしまい、しばらくニートみたいな状態で。せっかく上京したのに何もなくなっちゃったなと塞ぎ込んでいました。もう自分には、絵が好きってことぐらいしか残ってなくて、ふと思い立って、キャンバスを立てて久しぶりに絵を描いてみたんです。そしたら、今までにないぐらい筆がよく走って、純粋にすごく楽しかったんですよね。その時体感した感覚が忘れられなくて、自分には絵を描くことが必要なんだと気がついたんです。
– その時は、どんな絵を描かれたんですか?
ザ・クラッシュってパンクバンドのベーシスト、ポール・シムノンの肖像画を白黒で描きました。なぜかと言うと、彼は画家もやっていて、風景画や静物画がすごく良かったんです。ゴッホのような力強いタッチで、あの人らしいなという絵で。歳を取っていまさら画家なんて、と思っていた自分の背中を押してくれた存在で、自分のルーツになっています。
– アート・スクールを中退してバンドを結成したポール・シムノンと重なる想いがあったんですね。素敵なエピソードです。Mikawaさんの作品は、どこかカルチャーの匂いを感じるように思います。音楽で言えば、過去には田我流さんのシングルのアートワークも担当されていますよね。
ヒップホップも好きでよく聴くんですよ。サンプリングで音を作る文化じゃないですか。他のジャンルから引用されていたりもするから、ソウルの古いアルバムを掘っていたら、自分が好きなラッパーのトラックの元ネタが分かって嬉しくなったりとか。知識を得ることでより楽しめるという点で、アートにも通じるところがあると思います。
– なるほど。そう聞くと、より親しみを持ってアートを見ることができそうです。今回展示される代表作「ファイヤーマン」、「ドーベルマン」シリーズのコンセプトについて教えてください。
「ファイヤーマン」は一言で表すと”心の救済”がテーマになっています。自分は制作の中で焦りやプレッシャーを感じるタイプで、そんな邪念の火を消してくれるポジティブシンキングの擬人像として描き始めたシリーズです。
– 「ファイヤーマン」は、表情の見えない小さな顔と、大きく独特なフォルムに引き込まれます。
これは西洋絵画の歴史の中で、多用されてきた表現の一種なんです。かつてはピカソやエル・グレコがアンバランスな形で人体のダイナミズムを表したように、自分もその手法を使っています。最初に描いていた「ファイヤーマン」は男らしい肩を持つ巨人でしたが、ポジティブシンキングの擬人像なので、優しさや穏やかさといった感情をイメージしていくうちに撫で肩になっていって。あんまり強そうではないけど、大きくて安心感のあるフォルムに変化していきました。
– その一方「ドーベルマン」は、絵によってさまざまな表情をしているように見えます。
「ドーベルマン」は、もともとボディーガードにするため人の手によって強そうな見た目に作り変えられた犬種で、人間の虚勢やエゴの歴史でもあります。悪そうな見た目に反して警察犬でもあったり、曖昧な善悪の概念の象徴として描き続けています。ゴルゴ13みたいな顔をしていたり、アホっぽかったり。いろんなドーベルマンを描き、犬を擬人化することで、人間の多面性やその時の自分の感情を反映しています。
– そんな代表作が並ぶ今回の個展ですが、ご自身の集大成だとお話しされていましたよね。
今年で活動10周年の節目なんですよ。これまで多岐に渡って表現してきたものを、ここで多くの方へ見せられたらなと思って、このような展示構成になっています。
– 〈ビームスT〉という場所については、どんな印象がありますか?
さまざまなアーティストの展示や音楽イベントなど、カルチャーが交わる場所というイメージですね。今回の展示も、アートに興味がある人もそうでない人も、それぞれの人がそれぞれの解釈で想像を膨らませてもらって、僕の絵を楽しんでもらえたら良いなと思います。
– 製作されたTシャツの仕上がりはいかがですか?
自分を代表する作品をTシャツに落とし込んでもらいました。綺麗な色の仕上がりに満足しています。夏に向けて爽やかな青も選びました。絵画作品って値段が高いものだから、ある程度お金の余裕があったり、相当好きでお金を貯めないと買えないじゃないですか。それがTシャツになることで手に取ってもらいやすくなったり、新しく知ってもらう機会が増えるのは、やっぱり嬉しいですね。是非、これを着て街に出かけてほしいなと思います。