KNOWLEDGE IS KING
ー〈バウルズ〉でつくっているものはストリート寄りの服だと思いますが、八木さんはモードからも影響を受けているんですね。尊敬するアーティストやデザイナーはいますか。
八木:たくさんいます。ヴィオネ、シャネル、川久保玲さん、三宅一生さん、山本寛斎さん、北村信彦さん。上手く導線を引いて、服づくりとビジネスを両立する方々です。ぼくにとってデザインって結局お金なんです。
あと、一番リスペクトしているのは周りのひとたち。〈バウルズ〉のスタッフにはぼくよりもキャリアのある方がいて、彼らから学ぶことがたくさんあります。ニットづくりに長けた方とか、生地に精通する方とか、分からないことは彼らに全部聞きます。家族みたいな存在だし、彼らがいるからぼくも頑張らなきゃいけない。


シルクスカーフをバンダナのように巻いたモデルたち。
ーブランドに携わるスタッフは何人いますか。
八木:外注やフリーの方も入れて15人くらいです。フランス、イタリア、アメリカ、日本、韓国、台湾など、いろいろな国にいます。
ーブランドのスタートと同時に開いた、ニューヨークのストアでは八木さんが蒐集した雑誌や写真集、デザイン資料など、約2,000点を公開しているとか。
八木:そうですね。もう全部、そこで見せています。

プレゼンテーションでは会場に置かれたモニターで服づくりの参考資料を紹介。
ー普通、デザイナーは服づくりのイメージソース、元ネタを事細かく明かすことをしないと思うんです。しかも自ら率先して見せるひとを聞いたことがありません。
八木:もう1970年じゃないし、2024年です。インスタとかSNSですぐ分かるじゃないですか。何でもネットで分かる時代、自分が参考にしたものを曝け出した方が気持ちいいじゃないですか。
ぼくがそれで伝えたいのは、重みのあるエビデンス。例えば、このVステッチが安藤忠雄さん設計の教会のライティングからインスパイアされましたとか。そういう細々とした重要点を重ねていくと、クリエーションに厚みが出ると思うんです。それをブランドとして証明したい。
ーその考えの原点にあるのは。
八木:15、16歳ではじめた古着のバイヤーです。例えば〈ナイキ〉の “芸者Tシャツ” っていますごい値段が付いていますけど、当時見つけたら、何だコレって思いつつネットで調べるしかないんですよ。芸者からはじまって、花魁、花街、吉原って繋がって掘り下げていく。すると、どんどん情報が溜まってウィキペディアみたいになるんです。
英語でいうと “KNOWLEDGE IS KING”。情報があればあるほど、ひととして優れていると思うんです。もちろん、知りすぎて大変なことになる場合もあると思うけど、知り過ぎて悪いことはいまのところはない。こうやって、ひととの会話にも繋がりますし。それで、その情報を明かすことでユニークなことをやってますよって伝えたいんです。


胸元のワンポイントがきいたTシャツとスエット。
ー〈バウルズ〉をローンチするとき、ホンマタカシさんがビジュアルを撮影したり、ニューヨークにストアを出したり。そんなことをするインディペンデントなブランドは見たことがありません。その狙いもファッションを面白くしたい、ブランドをアピールしたいという部分に繋がりますか。
八木:厳しい時代の中で、他と同じことをやっていてもダメだし、そもそもユニークなことをするひとっていないとダメだと思うんです。それにはもちろん周りの力もお金もネットワークも必要。なぜここまでやるかっていったら、少しでもファッションで希望を与えるため、次世代のために何かを残さないといけないっていう思いです。
極端な考えですけど、貧富の差が広がれば、ファッションが資産上位1%のひとたちしか買えないようなラグジュアリーブランドと、その他の99%のひとたちが買う安価なブランドみたいな世界になるかもしれない。
そんなしょうもなくて、寂しい世の中にしたくないし、川久保玲さんや山本耀司さん、高橋盾さん…日本の偉大なデザイナーの方々が残してきたものをぼくの世代でストップしたくない。もちろんまだまだです。でも積み重ねれば、少しでも近づけると思っています。
ー今後、〈バウルズ〉の目指すところは。
八木:まずは売り上げをつくること。そして、パリのファッションウィークのオフィシャルカレンダーに入ってショーをすること。これは目標なので、達成したいですね。

舞台正面の巨大パネルに施されたブランド名。