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刺し子を世界に届ける職人集団。 スタイリスト小沢宏と、サシコギャルズを訪ねて。
WORLD OF SASHIKO

刺し子を世界に届ける職人集団。 スタイリスト小沢宏と、サシコギャルズを訪ねて。

東日本大震災で甚大な被害を受けた、岩手県大槌町。震災後、復興プロジェクトの一環として立ち上がった「大槌復興刺し子プロジェクト」はいま、ファッションブランド〈クオン〉を主宰する藤原新さんディレクションのもと「サシコギャルズ」として生まれ変わりました。そんなGALSが生み出すプロダクトに感銘を受けたのが、スタイリストの小沢宏さん。実際に大槌町を訪ね、藤原さんとの対話によって見えてきた「サシコギャルズ」の本当の魅力とは。

  • Photo_Shingo Goya
  • Video Director_Ryota Kuroki(Rhino Inc.)
  • Cinematographer_Keishi Sawahira
  • Video subtitles_Keiji Sai(Rhino Inc.)
  • Text_Keisuke Kimura
  • Edit_Soma Takeda

40代以上の女性たちによる、サシコギャルズ。

ー改めてお聞きしたいのですが、そもそも藤原さんはどのようにして刺し子に出会ったんですか?

藤原: まず、ぼくは2011年の震災後の復興を、ビジネスの力でどうにかできないかと思って、当時、福島県の南相馬でまったく別のプロジェクトに携わっていたんです。その後、どんどん北上し大槌町にたどり着いて、そこで「サシコギャルズ」の前身でもある「大槌復興刺し子プロジェクト」に出会いました。それがきっかけで〈クオン〉の商品に刺し子をしてもらうという仕事を発注するようになって。当時はあくまでブランド側と、請負先という間柄ですね。

刺し子を施した〈クオン〉のベースボールシャツと開襟シャツ。これも「サシコギャルズ」の手仕事によるもの。

ーそこからなぜ、「サシコギャルズ」を設立することに?

藤原: 2023年に、東京にあるショールームで彼女たちに刺し子のワークショップをやっていただいたんです。そのときに、年月が経つなかでみんなの記憶から震災のことが抜けていく、という話になったんですよね。それが悪いということではなく、仕方のないことなんです。ただ、最初はチャリティーなどもあり「大槌復興刺し子プロジェクト」としてたくさん仕事がありましたけど、やっぱりその数も年々減っていく。そこにコロナも重なったとなると、〈クオン〉からの発注だけだとさすがに続かないんですよ。

一方で、自分としては刺し子に可能性しか感じていなかったんです。〈クオン〉の商品に刺し子をしたものはとにかく売れるし、特に海外に持っていくと反応がすさまじい。だから、やり方や見せ方さえ変えてあげられたら需要は絶対にあると思ったし、なによりぼくらとしては、 刺し子をお願いできなくなってしまうのは逆にすごく困っちゃう。いままでは発注元と請負先という関係でしたけど、だったら一緒に取り組んでいきましょうということで、ぼくが運営する「ムーンショット」がサポートさせてもらう形で「サシコギャルズ」が誕生しました。

藤原さんが考案した「サシコギャルズ」という名前は、事務所に集まって世間話をする職人たちの姿が明るく賑やかなギャルと重なったことから。

刺し子に使う道具は、刺し子糸、刺し子針、指ぬき。スニーカーのソールなどの堅い部分に糸を通すときは、ペンチを使うことも。

身分制度があった江戸時代、木綿の着用を禁止されていた農民たちが寒さをしのぐために麻の生地を縫い合わせていたことが刺し子の起源という説があるそう。

ーそこから刺し子スニーカーなどの斬新なオリジナルアイテムが生まれるようになったんですね。

藤原: 余談ですが、〈クオン〉はメゾンになりたいんです。メゾンをメゾンたらしめてるのはなんなのかを自分なりに考えると、フィロソフィーと、それを体現する職人だなと。いま、〈クオン〉はニューヨークのファッションウィークには出させていただいてるんですが、やっぱり目指すはパリ。そのランウェイで「〈クオン〉の職人です!」って彼女たちを登場させるのが夢なんです。

ー「サシコギャルズ」のインスタグラムを見てみても英語や中国語のコメントが多く、海外での評価の高さも感じます。

藤原: 2024年に韓国と香港でポップアップを行ったときも、どちらも若い子がたくさんが足を運んでくれて、とくに香港はスニーカー熱が高いということもあり熱狂の渦でしたね。 350人ぐらいの方が初日に来てくださいました。

香港のストリートブランド〈ラク(LAKH)〉とタッグを組んで開催されたイベントでは、〈ニューバランス〉公認で9足の刺し子スニーカーを展示。チャリティとして1足約30万円で販売もされ、すべて完売した。

ー実際に「サシコギャルズ」への仕事の問い合わせも増えているのでしょうか?

藤原: そうですね。ある日突然〈Hidden NY〉がSNSに載せてくれたんですが、それがきっかけのひとつだと思います。次の日から世界中のインフルエンサーたちも取り上げてくれて、問い合わせも急増していった感じです。いまは、ありがたいことに収拾がつかないくらいで。相談レベルであれば、毎日のように連絡が来ます。

ーだから、もっと担い手が増えてくれたらうれしいと。

藤原: もちろんです。単純に人が増えればつくれるものは増えていくし、いまはお断りしなきゃいけない案件も、受けられるかもしれないですからね。

ー「サシコギャルズ」の時給は大槌町にある一般的な仕事よりも高いとお聞きしましたが、そういう背景もあるわけですよね。

藤原: 伝統産業においては後継者の育成も大事です。刺し子もそのひとつで、担い手はどんどん減っていますが、正しくお金がもらえればやりたい人はたくさんいると思うんですよ。そんな思いがあって、いまは時給で言うと2000円お支払いすることにしています。

小沢: 80歳手前の人たちも時給2000円もらえるってすごいですね。

岩手県の沿岸部に位置し、美しい海と山に囲まれる自然豊かな大槌町。震災後は人口流出が進み、住人の数が大きく減少している。

藤原: 岩手は特に時給が低い街なので、そうなると、まわりでアルバイトをしている人たちの倍はもらえるし、やりたいと思う人も増えると思うんです。かつ、小沢さんのようなファッションの第一人者の人たちからも認められて、海外からも評価される。とてもワクワクする仕事になると思うんですよね。

小沢: ぼくがやってる「エディストリアルストア」や「ライブストック」という考え方は、1を10とか100にしていく作業。それももちろん難しいんですけど、藤原さんたちは0から1。しかも町や雇用のことも考えていて、本当にすごいと思います。最初はね、全然深く考えてなくて、出し物としておもしろそうだし、ファッションアイテムとしてセンスいいなと思ってたくらいだったんです。

藤原: でも小沢さんが言う通りで、背景は関係なく、ものとしてかっこいいと思えるかどうかが、すべてだと思うんです。その評価がいちばんうれしいですし。

ーいまは高校でも刺し子の授業をされているそうですが、その高校生たちが卒業して、次の担い手になっていくストーリーができると、より素敵ですよね。

藤原: そう思います。さらに給料もしっかりもらえて、半年に一度は海外へ一緒に行って。そうなったら、もっとおもしろくなっていくし街も盛り上がっていくと思います。

小沢: 将来は、高校を卒業した本物のギャルとかがいてもおもしろいね(笑)。

藤原: 爪が長くて、全然刺せないみたいな(笑)。

小沢: そうそう(笑)。

INFORMATION

サシコギャルズ

Instagram:@sashiko_gals

サシコギャルズ ワークショップ@東京クリエイティブサロン

YouTubeにも登場した「サシコギャルズ」の中心メンバー2名が大槌町から丸の内へ。
刺し子の技術を缶バッジづくりで学べます。世界でたったひとつの缶バッジづくりを体験してみませんか。

日程:3月22日(土)、3月23日(日)
時間:両日ともに①13:00〜②16:00〜の2部制
場所:丸ビルマルキューブ(東京都千代田区丸の内2-4-1 丸ビル1F)
参加費:¥6,600
参加人数:1回のセッションで最大8名まで
所要時間:約90分
応募方法:各日11:00より丸ビル1階マルキューブ、ライブストックマーケット会場にて受付先行順に申し込み